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05 暴漢

 



 1週間後。私は無事に王都にたどり着いていた。ここまで乗せてくれた商人にお礼を知って縦横無尽に歩く人の隙間を縫って歩く。

 将来的にはリヒトを見つけたいものの生きていることが分かるだけ。だけど彼の容姿は目立つからきっと誰かに尋ねれば分かるはずだ。それに、あの場所にいたということは騎士か傭兵のどちらか。とりあえず、騎士団に行ってそこでもいなかった傭兵のたまり場を尋ねよう。

 その前にまずはパテル様の用事を済ませないと。

 地図を開いて今いる場所を確認する。邪魔になっても仕方ないので少し道の端によった。


 にしても本当にすごい人の数だ。

 今、入ってきた門が多分これだから、目的地は……っと。確かヴォレガードだっけ?多分、どこかのお店だと思うんだけど。まぁ、わからなかったら周りの人に訊けばいいか。


 そう思って歩き出そうとしたら誰かにぶつかった。

 とりあえず、こういう場合は謝ったほうがいいとNo.2から言われていたので相手を見る。するといかにもヤバそうな傷を背負った大男が立っていた。その周りには細身だけどニヤニヤとこちらを眺めてくる変態と、太っちょさんがいた。彼ら3人は私を囲うようにして言った。



「痛てぇな、嬢ちゃん。この状況、どういうつもりだ」


「兄貴が怪我をしてたらどうするんだ!」


「あぁ~! 腕が痛いな!」


「大丈夫ですか! 兄貴! ……おい! ついてきてもらおうか!?」



 えっと……、こういう時は声をあげればいいんですか?


 パテル様が言ったことを思い出して周りを見る。すると私が見えていないように目線をそらして進む通行人がたくさんいた。ほんの数人は目が合うがあった瞬間に勢いよく逸らされ走っていく。

 

 こういう時の対処法は教わっていなかったからどうすればいいのだろうか?


 困惑してしまったが大体こういう時は戦闘不能にすればいいと決まっている。力加減を間違えて殺さないように注意を払って弱めに拳を握る。そして大男の弱点であるを狙ったその時。



「俺の女になんのようだ?」



 握った拳を抑え込むように握られ、反対側の手で肩を支えられた。

 その男性は戦場で見た時よりも生き生きとしていて元気そうだった。傷があったら怖いな、と思っていたけれど、見る限りでは彼の体に何の怪我もなかった。太陽の下で見る夜の黒色と昼の銀色は美しく光り輝いていて、太陽の光を反射している紺色の目は生命に満ち溢れていた。



「お前の彼女?」


「そうだ」



 男性は私のほうをちらっと見た。


 なるほど、きっと私にも演技を求められているのだろう。



「……ハイ。ルーチェ、ハ、アナタノ、オンナ、デス」



 ふむ、なかなかの演技力では?No.2に訓練されたかいはあった気がする。

 

 何か視線を感じた。ふと顔をあげてみると大男たち含めてリヒトも私のほうを見ていた。そして男性は吹き出しそうなのをこらえるように口を覆ったあと、頭を私のほうに傾ける。



「というわけで、失礼すんぞ」


「あ?どう考えても嘘だろ!?」


「あ、兄貴! あの男の剣を見てくだせぇ!」


「……あれは。騎士団!?」



 目線をリヒトの腰に落とす。

 するとそこには剣の鞘に特徴的な紋章が刺繍されていた。騎士団の紋章なんかわざわざ覚えていないがここに住む大男が言うならきっとそうなんだろう。

 やっぱり、リヒトは騎士になったのだ。



「二度と近づくな」



 リヒトは私の手をぎゅっと握ると走り出した。


 久しぶりに握ったリヒトの手のひらは完全に男の人になっていて子供の柔らかいプニプニではなく、剣ダコもできて指が長かった。足も長いから走るのも早くて、いつもの私ならまだしも義足でついていくのは難しい。若干、転けそうになった。

 しばらく入って3人が追いかけて来ないか後ろを確認してリヒトは立ち止った。



「……あの、ありがとうございました」


「ああ」



 リヒトは曖昧な返事をした。

 両手を握られているから拘束されている気がする。リヒトは私を凝視していた。いや、正確にはイヤリングをだろうか。リヒトはイヤリングのことを覚えているのだろうか。

 私は別れた時と全く変わっていないリヒトのイヤリングを見た。綺麗な状態を保つために宝石を手入れしているのか傷1つなかった。それに比べて私は全くやる暇がなかったから所々、傷がついている。



「……どうして逃げたのですか? ……あの男たちを捕まえてもよかったはずです」


「どうせまた同じ事を繰り返して捕まるだろ」



 リヒトはそう投げ捨てるように言った。そして私の目を見る。



「なぁ、気の所為だったらわりぃけど、……俺と何処かで会ったか?」



 リヒトはナンパじゃなくてだな、と言い訳をしているが私の耳に届かなかった。なぜなら私の頭はそれよりもリヒトが私のことを覚えていないという事実を処理するのに精一杯だったからだ。私を決して逃がさないためだろうか、しっかり握られている手に目を落とす。

 

 私はリヒトが元気にいる姿を見られればそれで良かった。

 それならば、真実を伝える必要はない。まだ幼いリヒトにとってあの時の記憶は酷だろう。

 もしも、リヒトが私のことを忘れても私がリヒトのことを覚えているから。リヒトに会えたということだけで御の字なのだ。これ以上望むと罰が下りそうだ。

 そう、自分を納得させた。考えがまとまり、私はリヒトに伝えるため口を開く。


 その刹那、爆発音が響き渡った。


 爆発音という名の、戦場で聞きなれた地獄への招待状は何度も届いているようだ。リヒトは私を守るように抱え込み、頭を守るようにしゃがむ。その反射神経と言ったら光のようだった。音は届くが風圧、破片が届かないということが分かるとリヒトは立ち上がって聞こえた方向へ首を回す。

 まだ距離は遠いが私の高精度の耳は人々の悲鳴が届いていた。そして何か大きいものが歩き回っている足音。糧となる人々が大勢いるところへ向かっているようだ。

 

 リヒトは私を立ち上がらせ、人がたくさんいる大通りに避難させる。そして抜刀する。その姿は泣き叫んでいた小さな子供に見えなくて安心した。



「テメェはそこにいろ……!!」



 リヒトは一刻でも早く現場に向かうため直線的に駆け出した。家々を飛び越え、屋根の上を走り、空中ではねる姿はまるで兎のようだった。一瞬で見えなくなった、リヒトの背中を見送り私もエメラルドの宝石を噛み砕く。エメラルドは【身体強化】だ。ペリドットの【飛翔】で移動してもよかったが人にバレてしまう。リヒトと同じように大地を蹴る。力が漲り、慣れた感覚でリヒトを追う。

 5分ほどすると黒煙が舞い上がり人々の逃げる様子がありありと分かった。



「……あれは……、魔物、ですか?」



 そこにいたのは一頭のドラゴンだった。




頑張って更新するので面白いと思ってくだされば評価やブックマーク等、お願い致します

m(._.)m

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