99話 戦慄のセレスティナ
船室に案内されてから一時間後、武装した船員が入室してきた。
「金を出してもらおうか?」
船員が俺に剣を向けた。
「運賃の事か? そういえば払ってなかったな」
「なにとぼけてんだよ! 有り金全部出しやがれ!」
「断る」
「どうやら痛い目に遭いたいみたいだな」
「そんな趣味はないさ」
「舐めるな!」
船員が剣で切り掛かってきた。
軽く叩きのめしておくか。
怪我をさせたら船を動かす人員がいなくなるからな。
俺は次々に襲ってくる船員を殴り倒した。
「バカな! 丸腰だから余裕だって聞いてたのに……」
「武器を持ってるだけで戦いに勝てるをは限らんさ。さて、黒幕に会いに行こうか?」
「了解だアニキ。さっさと全員ぶっ倒してやろうぜ!」
「そうね。早くゆっくりしたいからね。セレスティナも大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。転生者で聖女として認められてる実力者だからさ」
「胡散くせぇ奴だけどブタリウスがついてっから安心だぜ」
「そうよね。私より劣ると思うけど、一応聖女だからね」
俺達は立ち塞がる船員を殴り倒しながら甲板に出た。
「ほう、俺の部下を倒してここまでやってくるとはね。冒険者とういうのは侮れんものなのだな」
甲板では船長のジャブが待ち構えていた。
隣にはセレスティナを拘束したフードを被った男がいる。
セレスティナの頭上にブタリウスが乗っているのが気になるが……
ブタリウスにセレスティナの見張をしろと言ったが、これは想定外の状況だ。
セレスティナは首がこらないのだろうか?
色々気になるが、今は敵と戦いに集中しよう。
セレスティナ達の状況は謎だが、フードの男達の方は想像通りだな。
ブリージラリアス大陸に渡りたい金持ちを誘い出して金品を巻き上げていたのだろう。
当然だがフードの男の正体にも気づいている。
コイツはブリージラリアス大陸への定期便を運行している会社の社員だ。
クラーケンが出るというのも嘘だろう。
「定期便の運行を止めて海賊行為で荒稼ぎか。海賊の方が儲かるのか? 運行会社の社員なのだろ?」
「気づいていながら誘いに乗ったのか。腕に自信があるようだが私たちに逆らって良いのか? この女が傷物になるぞ」
フードの男がナイフをセレスティナの頬に突きつけた。
「女ではないし、仲間ではないから大丈夫だ」
「酷いですよラウルさん。ナイフでは傷つかないけど、心は傷ついちゃいますよ」
「何余裕ぶってんだ!」
フードの男が激昂しているが、セレスティナは余裕な表情だ。
どうやら黙って捕まっているだけではないようだ。
万が一無策だとしてもアリスが防御魔法で守るだろう。
そういうところは信用出来るんだよね。
「そいつは人質として役に立たないから諦めろ」
「構わん! コイツが凄い収納魔法の使い手だという事は分かっている。金になれば何でもいい!」
「そういう事だ。足場が悪い船の上で陸と同じように戦えると思うなよ。部下は倒せても俺は簡単に倒せないぞ」
ジャブ船長がフードの男を庇うように前に出た。
どうやら船長が俺と戦うみたいだ。
無知とは怖いものだ。
慣れているとか足場が悪いとかその程度で覆るような実力差ではないのにな。
コイツ程度が相手ならエナドリは必要ないだろう。
「さて、フックとアッパーどっちが好みだ? それとも名前の通りジャブで倒そうか?」
「舐めるな! お前は死ねぇえええ!」
ジャブ船長が切り掛かってきたので拳を振り上げて剣を打ち上げた。
「バカな! 素手で剣を弾き返しただと?!」
「予想より弱そうだから名前の通りジャブで倒す」
「待て! 人質が……」
「知らん!」
ボゴッ!
ジャブ船長の顔面に拳をめり込ませた。
あっさり倒れるジャブ船長。
少し強すぎたか。
手加減したのにな。
あとはフードの男だけ。
「消えた? どこに行った?」
フードの男が狼狽えている。
セレスティナとブタリウスがいない!
どこへ消えた?
ジャブ船長と戦っていたとはいえ、俺までセレスティナが消えた事に気づけなかったのはおかしい。
「き、消えた?!」
「ゆ。幽霊?」
どうやらフェードとアリスはセレスティナが消えた瞬間を目撃したようだ。
だが、この怯えようはなんだ?
ズッ。
フードの男の背後の地面に漆黒の円が現れた。
そしてブタリウスがヌッと出てきた。
ブタリウス?!
驚いて見ていると、そのままブタリウスの下からセレスティナが漆黒の穴から出てきた。
そして、そっとフードの男の背中に手を当てた。
「内臓を異空間に飛ばすとどうなるか知ってますかぁ? 痛みはないので安心して下さい。まぁ、痛くないのは最初の一瞬だけですけどねぇ。どこがいいですか? 心臓ですか、肝臓ですか? 答えがないですけど、もしかして内臓について詳しくないですか?」
「あっ、あ……」
フードの男が恐怖で引きつっている。
いや、フードの男だけでなく、フェードとアリスも引きつっている。
コイツ本当に聖女やってたのか?
能力が邪悪じゃないか。
これがセレスティナのチート能力か。
ただのアイテムボックスだと思っていたが、異空間に物を送る能力だったのだな。
ヴィクターや十賢人がバンダニギ聖王国を警戒していた理由が分かったよ。
どうやら俺は危険な相手を招き入れてしまったようだな。




