95話 本物の聖女?!
少し可哀そうだったが、アリスとフェードによって袋叩きにされた賢者ランドルフをおいてダルダルシアの町へ向かう街道を進んだ。
しばらく街道を進んでいると賢者ランドルフの情報通り、前方からピンク色の髪の女性が歩いて来ているのが見えた。
あれがバンダニギの聖女か。
俺は遠ざかっていく聖女を見送った。
俺たちが乗っているメガブタリウスの速度は早いのだ。
歩いている相手など一気に追い越してしまう。
「ちょっと待ちなさいよ!」
聖女が必至に追いかけてくる。
「可哀そうだから止まってやったらどうだ?」
「必要ないと思うわよ。毎回敵と戦う必要はないでしょ?」
「オレはぶっ飛ばしてやっても構わないぜ。ひ弱な聖女ごときに負けやしねぇからさ!」
「物騒な事を言うなよ二人共。まだ敵と決まった訳ではないだろ?」
「敵よ! 私より美人で本物の聖女なんだから!」
「だよな! 本物がいたら偽物の存在価値がなくなるからさ。消えてもらった方が都合がいいぜ!」
何を言っているのだフェードとアリスは。
これでは俺たちの方が悪党みたいではないか。
このまま逃げても構わないが、後で奇襲される方が面倒だ。
敵か味方かどうかだけでも確定させておきたい。
「ブタリウス、止めてくれ」
「ブッ!」
メガブタリウスが停止したので、俺は街道に降り立った。
「仕方がないわね。フェード、戦闘準備よ」
「腕がなるぜぇ!」
アリスとフェードもメガブタリウスから降りた。
ピンク髪の美女が必至に走ってきたが、突然止まった。
「や、盗賊だ!」
「誰が盗賊だ!」
「だって、どう見ても野党でしょ!」
ピンク髪の美女が俺たちを指差した。
ドルミニ帝国で手に入れたギンビルンデザインの服を愛用していたのを忘れていたよ。
これでは盗賊にしか見えないよな……
余計な誤解を生みたくないから、ブリージラリアス大陸に渡る前に着替えよう!
「そうよ! 私たちは盗賊なのよ!」
「逃げんなら今のうちだぜぇ」
フェードがナイフを舐めてピンク髪の美女を威嚇した。
これでは交渉が出来ないではないか。
俺はアリスとフェードの前に出て、二人が余計な事をしないようにした。
「俺たちは盗賊ではない。何の用だ? バンダニギの聖女」
「えっ?! 私は近くの村に住んでいる村娘ですよ」
「村娘は村娘とは名乗らない。誤魔化すなバンダニギの聖女」
「僕はバンダニギの聖女ではないのだけど……」
「だったら何者なんだ? ドルミニ帝国の賢者ランドルフはお前の事をバンダニギの聖女って言っていたぞ」
「そうですか……僕はバンダニギの聖女セレスティナをやっている者です」
やっている?
どういう事だ?
言い方が変な気がするのだけど……
「やっているってどういう事? バンダニギの聖女は神託で決まるから? 聖女になって贅沢をしているくせに!」
「そうだぜ! その顔で何人の男をたぶらかしてきたんだ?」
「落ち着けアリス、フェード。聖女セレスティナ、何で俺たちを追いかけて来た?」
「聖女がいると聞いたからです」
「ほらっ! こいつは偽物の私を殺しに来たんだわ!」
「バレる前にやっちまおうぜアニキ!」
「待て! まだ敵と決まった訳ではないだろ! セレスティナは何で聖女に会おうとしたんだ?」
「本物の聖女に聖女をやって欲しかったからです!」
本物の聖女に聖女をやって欲しかった?
何を言っているのだ?
本物の聖女はセレスティナではないのか?
「言っている意味が分からない。分かる様に言ってくれ」
「ダルマシニウム神国に聖女が現れたと風の噂で聞きました。だから偽物の僕の代わりに聖女になってもらおうと捜していたんです」
「偽物? セレスティナは偽物なのか? 神託で聖女に選ばれたのではないのか?」
「バンダニギの神託で選ばれたのは事実です。でも僕は聖女ではないのです」
「だったらなんなんだ?」
「僕は転生者で、本当の名前は健太郎なんです!」
健太郎……けんたろう……ケンタロウ……
どう解釈しても男の名前だよな。
まさかとは思うけど……聖女セレスティナは男?!
「てんせいしゃ?! ケンタロウって何?」
「まさかアニキと同じ?!」
アリスは良く分かっていないようだが、事情を知っているフェードは気付いたようだ。
「あのさ……転生して性別は変わったか?」
「変わっていないです! 転生者を知っているって事は、貴方も転生者なんですね!」
聖女セレスティナ……いや、健太郎が俺の手を握って喜んでいる。
「この女! 馴れ馴れしいのよ!」
「待てアリス! もういいんだ……」
フェードがアリスを止めた。
「フェード! 何で止めるのよ!」
「アリス……落ち着いて聞けよ」
「何よもったいぶって! 早く言いなさいよ!」
「コイツは……男だ……」
「えっ?!」
フェードの言葉を聞いたアリスが固まった。
そうなるよな。
聖女だって聞いていたから驚くよな。
「そうなんですよ。僕は男だから本物の聖女さんに役目を変わってもらいたかったんです!」
健太郎が無邪気に喜んでいる。
ふぅ、これは一波乱ありそうだな……




