93話 報酬
「ヴィクター、話の続きを始めようか?」
「これ以上何の話があるというのだ? もう俺たちの事情は分かったと思うが?」
「何故フェードを狙ったのか言っていないだろ?」
「そんな事か。我らドルミニ帝国皇族はマルバダスの使徒の侵略を受けている。他国であるギリス王国にいるフェリシアも例外ではあるまい。ドルミニ帝国にいた頃から奇行が目立っていたからな」
「そんな理由で軍を派遣したのか?」
「そんな理由ではない。一応皇族だからな。ドルミニ帝国を支配する資格はある。マルバダスの使徒に狙われてもおかしくはない。他国で身を守る護衛もいないフェリシアがマルバダスの使徒を退ける事は不可能だと判断した。だから先手を打って捕縛しようとした」
「命を奪ってでもか?」
「そうだ。国を守る為の判断だ」
「信じようとは思わなかったのか?」
「一応調べはしたさ。でも聖女まで傍にいると知った。聖女は聖王国バンダニギの象徴。マルバダスとバンダニギの両勢力と同時に戦う事は不可能だ。見ての通りドルミニ帝国は俺を支持する魔法師団とウィルフレッドを支持する騎士団が対立していたからな」
そういう事か。
国の為に不安要素であるフェードを捕縛又は殺害しようとしたのか。
自分の妹なのにな。
皇族の責任って奴か。
俺には関係ない話だけどな。
「なぁフェード。コイツどうする?」
「別に。オレには関係ねぇよ。ここにオレの家族はいねぇから。どうするかはアニキに任せるぜ」
フェードはヴィクターもドルミニ帝国にも興味はないようだな。
だったら俺の好きにさせてもらう。
ボスッ!
俺はヴィクターの腹に拳をめり込ませた。
「グハッ! な、何をする?!」
「お前を殴るんだよ!」
更に顔面を殴りつけた。
そして倒れたヴィクターの胸を踏みつけた。
「お、俺を殺すのか?」
「二度とフェードに手を出すんじゃねぇ! 今度舐めた真似しやがったらぶっ殺すぞ!」
「や、約束する。二度とフェリシアに敵対する命令は出さぬ」
俺はヴィクターを踏みつける足に力を入れた。
「おえっ……」
「俺の話を聞いていなかったのか? 俺は二度とフェードに手を出すなと言ったんだ。フェリシアではないだろ?」
「あ、ああ。フェードに手を出さないと誓う」
「そうか。分かったならいい」
俺はヴィクターから足をどけた。
「良いのか? 私を見逃しても? 何の得もないのに?」
「得か……そうだな。折角新しい皇帝様にご挨拶出来たんだ。手土産をやろう」
俺はアリスが回復魔法で治癒していたトルディエを見た。
まだ完調ではないようだが、傷は塞がっているから大丈夫だろう。
俺はトルディエを掴んでヴィクターの足元に連れて来た。
「こいつが俺の手土産だ。今日からコイツがお前の教育係だ」
「どういう事だ? 賢者トルディエを俺の教育係にして何の得がある?」
「俺たちがトルディエと会わなくて済む。二度とドルミニ帝国からコイツを出すな」
「どういう事ですかラウル殿?! そんなにワシと会いたくないのですか!」
「当然だ! ここでお前との因縁を断つ」
「そ、そんなぁ~」
トルディエが嘆いているがどうでもいい。
これで行く先々でトルディエが現れる事はなくなる。
あとは反乱軍のリーダーであるマルキスに事情を話そう。
マルバダスの使徒であるウィルフレッドを皇帝にされても困るからな。
「ヴィクター、ついてこい。戦いを終わらせるぞ」
「分かった」
帝国軍と反乱軍の戦いを止める為、俺はヴィクターを連れて城内を回った。
少し時間がかかったが、無事に反乱軍の戦いを終わらせる事が出来た。
ウィルフレッドは拘束され、今後の事は新皇帝ヴィクターと冒険者ギルドのマスターマルキスで話し合う事になった。
ここから先はドルミニ帝国の内部の問題だ。
興味がないので見届けようとは思わない。
俺達はギリス王国に帰る事にした。
メガブタリウスに乗り込みギリス王国へ向かう街道を走った。
「ねぇ、ラウル。結局この戦いは何だったの? 味方だと思っていた第一皇子のウィルフレッドも気持ち悪かったし」
アリスが不思議そうな顔をしている。
そういえばアリスだけ詳しい事情を知らないままだったな。
状況からウィルフレッドが真の敵だったって事は分かったとは思うけど、フェードがヴィクターとウィルフレッドの妹だという事に気付いていないようだ。
結構鈍いな……
「気持ち悪い? マルバダスの使徒だからじゃないか?」
「フェードにお兄さんだよとか語り掛けているの凄く気持ち悪かったわよ。凄く楽しそうだったけど、他人の兄を名乗るのって楽しいのかな?」
「楽しいかもしれないな。俺は他人だけどフェードにアニキって呼ばれて嫌ではないからさ」
「でもそれってフェードがアニキって言っているからでしょ。逆は気持ち悪いわよ。それにフェリシアって誰なの?」
「ヴィクターの妹だよ。マルバダスの使徒との戦いで疲れていたみたいだから、もう存在しないフェリシアの幻影でも見たのだろう」
「ふ~ん。色々大変なのね」
アリスが景色を眺め始めた。
もうドルミニ帝国での出来事に興味を失ったようだ。
今はフェードの事情を詳しく話す必要はないかな。
フェード自身が話すまで待てばいいさ。
「フェードは聞きたい事はないよな?」
「当然だよアニキ。これからもよろしくな」
フェードが爽やかに言った。
過去の因縁を断ち切ってスッキリしたのだろう。
何か忘れている様な気がするが、これで一件落着だ。




