92話 紫電姫
「ドルミニ流剣技、豪斬!」
ウィルフレッドが剣を上段から振り下ろした。
フェードは攻撃を受け止める事は出来ず、攻撃を避けながら後退した。
ナイフの間合いは短い。
攻撃するにはウィルフレッドの攻撃を受け流して接近するか、スピードで攪乱して背後を取るしかない。
だがフェードの実力ではウィルフレッドの攻撃を受け流せず、ライジングハーブで強化した速度でも背後を取る事が出来ていない。
アリスはトルディエの治療に専念しているから、魔法障壁を足場にしてウィルフレッドの頭上から攻撃する事も出来ない。
今の戦い方を続けていれば、いずれフェードが敗北するだろう。
「どうしたんだい? 大口を叩いておきながら逃げてばかりではないか」
「うるせぇ! くそっ! 気に入らねぇがコイツを使うしかねぇか」
「やっと本気を出す気になったかい。見せてごらんよ。紫電姫の力を」
「きしょい呼び方すんなよ! くたばれ! 雷鳴疾走!」
バリバリッ、バーン!
帝王の間に雷鳴が鳴り響いたと同時に、フェードがウィルフレッドの背後に立っていた。
電撃魔法による超加速。
ついに背後を取ったが、フェードのナイフはギリギリのところで止められていた。
「今のは危なかったよ。でも昔の癖が抜けていないね。狙いが分かっていたから、ギリギだけど鞘で防げたよ」
「雷撃通電」
「おっと! それも読み通りだよ」
ウィルフレッドが鞘を捨てた。
床に落ちた鞘が紫の電光を放ち轟音を立てた。
フェードがウィルフレッドの鞘に魔法で電気を流したようだな。
封じていた魔法を使い始めた事で、一見フェードが押している様にも見える。
だが全てウィルフレッドに先読みされては攻撃を当てる事が出来ない。
ウィルフレッドがここまで戦えるとは予想外だったな。
俺が戦った騎士団長のラインハルトより強いかもしれない。
「ドルミニ流剣技、豪斬!」
「そんなナイフで使う技じゃないよ。ほらっ簡単に打ち払える。豪斬は相手を叩き伏せる剣技だって教えたよね?」
「くっ……うぜぇんだよ」
「そんなに嫌がらないでよ。フェリシアが大好きなウィルフレッドお兄さんのアドバイスですよ。素直な妹に戻ってよ」
「プライドを捨ててでもテメェを倒す! アニキ! ライジングハーブとシャープネスファイバー! 早く!」
「お、おう。ブタリウス! おかわりだ!」
「ブッ!」
急にフェードからエナドリを要求されて焦ったが、俺はブタリウスの水魔法でライジングハーブとシャープネスファイバーを作ってフェードに投げた。
俺が投げたエナドリをフェードがキャッチした。
「それはトルディエさんを回復させた回復薬だね。ケガもしていないのに二本も受け取ってどうするの? 今の僕の実力を知って、ケガが怖くなっちゃったのかな?」
「コイツは回復薬じゃねぇんだよ」
フェードがライジングハーブ飲んで、シャープネスファイバーをナイフに塗った。
ライジングハーブの重ね飲み。
それでもウィルフレッドを越えられないと思う。
ライジングハーブを重ね飲みすれば更に身体能力が強化されるが、スピーディー・ケンタウロスを使った時より強化度合いは劣る。
どうするつもりなんだフェード?
「ケガをしていないのに回復薬を飲んだ?! しかも片方はナイフに塗ったか……なるほど。身体強化と切れ味強化の効果があるのかな」
回復薬だと思っていたのに、フェードのライジングハーブとシャープネスファイバーの使い方を見ただけでラインハルトはエナドリの効果を見抜いた。
力押しだけではない洞察力がある相手は手強いな。
「良く分かったな。教えてやるよ。アニキのエナドリの力を!」
「無駄だよ。僕とフェリシアには圧倒的な腕力の差がある。戦闘経験も僕の方が豊富だ。それとも特殊能力でもあるのかい?」
「ない。圧倒的な力を打ち破るのは特殊能力じゃねぇ。更に圧倒的なスピードだ!」
ふぁさっ。
フェードの髪が力を失なったように垂れた。
そして紫の稲妻がフェードの全身を駆け巡った。
フェードが自慢のトンガリ頭を維持するのを止めた?!
髪を降ろしたフェードは中性的な美男子……いや美女の様だった。
「懐かしい姿だね。昔を思い出すよ」
「思い出すんじゃねぇ。思い知るんだよ。エナドリ流剣技、ラウル・スラスト!」
バシュン!
空気を斬り裂く音がしたが、フェードは同じ位置に立っていた。
「なんだい。驚かせないでくれよ。大きな音を立てただけで何もしていないじゃないか」
「終わったぜアニキ」
フェードがウィルフレッドに背を向けた。
すげぇなフェード。
謎のエナドリ流剣技とか、技の名前に俺の名を入れた事とか、色々ツッコミどころが多いけどな。
髪型の維持の為に使っていた魔力の全てを身体強化に使っただけで、ここまでの速さを生み出せるとはね。
「よくやったフェード。あとはヴィクターとの決着をつけよう」
「ちょっと待ってよ。僕との戦いはどうするんだい?」
「痛みはないんだな。その状態で」
「その状態? なんだ?! 何で僕の腕がないんだ!」
ウィルフレッドの両腕はフェードの攻撃で切り落とされていたのだ。
出血が無いのはフェードが雷撃魔法で傷口を焼いて塞いだからだろうか。
今まで行ってきた悪行を考えると殺されても当然だと思うが、実の兄の命を奪う事はためらわれたのだろう。
これでウィルフレッドは無害になった。
今度こそヴィクターと決着をつける番だ。




