73話 シンシア姫に報告する
翌日、俺は一人で王城へ向かった。
フェード達を連れて行くと、トルディエに出会った時にもめると思ったからだ。
いつも通り応接室に案内され待っているとシンシア姫とローレインがやってきた。
「昨日はすまなかったな。今日はトラブルが起きないように一人で来た」
「ラウルさん達が急に戦おうとしたので驚きましたよ」
「私もだよ。どうやってラウル殿を反逆罪で捕まえようか悩んでしまったくらいだ」
シンシア姫とローレインは笑顔で話している。
どうやら昨日の事を怒ってはいない様だな。
「トルディエから話を聞いた。俺たちはこれからドルミニ帝国に行こうと思っている」
「わざわざ伝えに来てくれたのかい。魔王討伐の依頼をした時とは違って報告は必要ないと思うけどな」
「ラウルさん、お気遣いは不要ですよ。ギリス王国は主権を脅かすドルミニ帝国と戦いますから」
「姫?!」
ローレインは俺が報告に来た理由に気付いていないようだ。
ドルミニ帝国は既にギリス王国へ敵対を表明している。
当然の事だが国境は封鎖されているだろう。
それでもドルミニ帝国へ向かうという事は、国境を破って侵入するという事だ。
ギリス王国の正規軍ではないとはいえ、ギリス王国の国民である俺たちがドルミニ帝国の国境警備を蹴散らして侵入する事は開戦する事に等しい。
シンシア姫にはその事が分かっているようだ。
「理解が早くて助かるよ。姫はフェードの事に気付いていたのか?」
「気付いていましたよ。以前、フェードさんが上級騎士かどうか問われた時に。最初は昔とお姿が違い過ぎていたので気付かなかったですけどね」
「そうか。そんなに違うのか? 俺は今のフェードしか知らない」
「前にも言ったでしょ。フェードさんは私と同じだって。昔のフェードさんはこんな感じですよ」
シンシア姫が華麗に会釈した。
やっぱり想像出来ないな。
中腰でナイフを抜いて舐める姿しか思い浮かばない。
ドレス姿で会釈する姿なんて似合わないよな。
「どういう事なんだ? ラウル殿は姫が言っている事が分かるのか?」
事情を知らないローレインが困惑している。
「気になるなら後で姫に教えてもらえ。説明するのが面倒だからな」
「そんなに込み入った話なのか。後で聞いてみるよ」
「そうしてくれ。シンシア姫、出来るだけギリス王国に迷惑がかからない様にしておくよ」
「お気になさらないで下さい。ラウルさん達には魔王と四天王からギリス王国を守って頂いた恩があります。女王即位前ですが、ギリス王国の代表として支援しますから」
「そうか。随分時間がかかったが女王に即位する日が決まったんだな」
「えぇ。おかげさまでね」
シンシア姫が優しい眼差しでローレインを見ている。
ユウマにやられたローレインを庇っていたのを見た時から何となく気になっていたが、そういう事なんだな。
恐らく、シンシア姫の女王即位と同時にローレインとの結婚が公表されるのだろう。
ギリス王国ナンバーワン冒険者だとはいえ、一般人との結婚には根回しに時間がかかったのだろうな。
四天王襲撃から姫を守るって理由が無くなった後も、ローレインが王城に居続けた理由が分かってスッキリしたよ。
「そうか。その時が来たら祝わせてもらうよ」
「ラウルさんの時が来たら私も祝いますよ。お二人のどちらを選ぶのか楽しみにしてますね」
「ラウル殿も王族だったのですか?! ギリス王国の国民だと思っていたよ」
ローレインが盛大な勘違いをしているが、面倒だからそのままにしておくか。
「俺には早いよ。それに選ぶとかいう立場でもないしな」
「そうですか。私は二人共チャンスがあると思いますよ」
「何でそう思う?」
「勘ですよ」
「勘なら仕方がないな。それじゃ俺は戻って旅立つ事にするよ。途中でネイラシアの村に立ち寄るからドルミニ帝国に侵入するのは1週間後になると思う」
「結構早いですね。2週間はかかると思ってましたけど」
「俺たちの馬車は特別なのさ。じゃあなシンシア姫、ローレイン。行ってくるぜ」
「気を付けて下さいね」
「ご武運を!」
俺はシンシア姫とローレインに別れを告げて王城を後にした。
宿に戻った後、フェード達と旅の準備を終え、王都から旅立った。
ドルミニ帝国に行く前に故郷のネイラシアの村に向かう予定だが、途中にあるロレイスの村にも寄っておこう。
ロレイスの村には名産品の牛乳がある。
普通に飲んでも美味しいらしいが、エナドリの材料として使える可能性があるから手に入れておきたい。
ライジングハーブは万能だが、今後何が起きるか分からない。
備えは出来るだけしておいた方がよいだろう。




