7話 新しい仲間
勇者ユウマを再び退けた俺たちは再び旅を続けた。
今歩いているギリス王国南部のぺプリカ地方は田園地帯だ。
見渡す限り田畑が広がっている。
こうしてノンビリ歩くのも悪くはないな。
でも次の町にはいつ着くのだろう。
夕方までにはついて欲しいのだけど。
「なぁ、フェード。次の町まではどれくらいの距離がある?」
「残念ながら分かりませんよ。王都を出るのは初めてなんでさ」
「フェードは冒険者なのだろう? なんで王都を出た事がないんだ?」
「冒険者登録は出来たんすけどね、一緒に旅するダチがいなかったんすよ」
「なんかごめん」
「なんでアニキが謝るんすか?」
「いや、友達いないのは可哀そうだと思ってね」
「ダチくらいいますよ。一緒に旅をしてくれるダチがいなかっただけですぜ」
「なるほどね」
「そういうラウルは友達いるの?」
アリスに問われて思い返す。
そういえば俺には友達はいない。
ラウルとして生まれてから3年しか生きていないし、転生前の意識が戻ってから1か月しか経っていないからな。
この流れで友達がいないとは言いづらいな。
そうだコイツ等を友達って事にしよう。
「お前たちが俺の友達……だろ?」
「うぉおおおおっ! ありがとうアニキぃいいい!」
「私には適当に誤魔化してだけに聞こえるけどね」
フェードは喜んでいるが、アリスは誤魔化せないようだ。
でも気にする事はない。
フェード一人でも納得すれば友達ゼロ人は回避出来るからな。
「フェードは冒険に出た事はないみたいだけど、アリスはぺプリカ地方で冒険した事はあるのか?」
「ないわよ。でも私は王都から出た事はあるわよ。王都西のコウチキカ地方なら、よく知ってるけどね」
「なら、次の町に着くまでどれだけ時間がかかるか分からないか?」
「ぺプリカ地方の大きな町までは馬車で一週間かかるわよ。一番近い村なら二日もあれば着くかな」
「なんだって?! 次の村に着くまで二日かかるなんて聞いていないぞ!」
「ラウルは旅の準備をしてないの? 食料とかどうするのよ」
「俺はエナドリしか出せないぞ。フェードは食料を持っているか?」
「オレが持っているのはコイツだけですぜ」
フェードがナイフを舐めた。
「どうするのよ! このままだと食事なしで野宿する事になるわよ」
「旅の準備は仲間が準備するものだと思っていたよ」
「ラウルはアイテムボックスみたいな物は持ってないの?」
「そんな便利な物は持っていない。見ての通り手ぶらだ」
「もおおおっ。なんでこうなるのよ!」
面倒な事になったな。
折角の旅が台無しだ。
しかたがない、エナドリを使おう!
俺は集中力と俊敏さを生み出すエナドリ、スピーディー・ケンタウロスを3本生み出した。
「これを飲め」
「新しいエナドリですか。早速頂きますぜ。ペロッ」
フェードがエナドリをナイフに塗った後に舐めた。
なんでナイフに塗った後に舐めるのだろう?
普通に飲めばよいのにな。
「飲んだけどどうするの? 何もないよりマシだけど、食事が無いとキツイわよ」
「走るんだよアリス。ついてこい」
俺は一気に走りだした。
スピーディー・ケンタウロスを飲んだ俺の速さは尋常ではない。
加速による圧力を感じながら次の村に向かって走り続ける。
そして4時間走り続けて次の村に辿り着いた。
「すげぇぜアニキ。こんなに早く走れたのは初めてですぜ」
「何なのよエナドリって! 人間じゃ無くなったみたいな気分よ!」
「当然だ。エナドリを飲めば人間の能力の先を目指せるのさ!」
フェードとアリスも俺について来れて良かったよ。
さて、今日の宿を探すとするか。
ん、なんだアレは?
近づいて見ると村人が豚に向かって石を投げている。
「何をしている?」
「畑を荒らされないように豚を追っ払ってるんだよ」
豚が悲しそうな目で俺を見ている。
村人が畑を守る為に追っ払いたいって事は理解出来る。
だけど豚が可哀そうだな。
「おい、お前。俺についてくる気はあるか?」
豚に問いかけると、俺の傍に寄って来た。
コイツ、俺の言葉を理解出来るのか?
「ねぇラウル。この豚どうするの? もしかして連れて行くなんて言わないよね?」
連れて行くか……それも悪くはないな。
俺にはアイテムボックスのような便利道具がない。
だから冒険で手に入れたお宝を運ぶ手段が必要だ。
こいつは足腰が強そうだから荷物持ちくらい出来るだろう。
「連れて行こう。なぁアンタ。コイツを俺が連れて行っても良いか?」
「畑を荒らさないようにしてくれるなら構わないさ」
村人が去っていった。
「なんで豚を連れて歩かないといけないのよ……」
アリスは豚を連れて行くのが嫌そうだ。
「コイツはフェードの子分だ。荷物持ちを担当してもらう」
「オレの子分だって! おいお前! オレと一緒にアニキの役に立つんだぞ! お前にもエナドリを分けてやるよ」
「ン~ッ、ブッブッ」
フェードが豚を撫でながら、俺があげたエナドリを飲ませた。
弱っていた豚が元気になりフェードに懐いている。
せっかくだから名前を付けよう。
「今日からブタリウスを名乗るがいい。さて宿を探すぞフェード、アリス」
俺はフェード、アリス、ブタリウスと共に村に入った。