67話 聖女アリス
「何故だ?! 何故発動しない?! 神罰魔法! ダルマシオン!!」
大神官が再び魔法を使おうとしたが何も起きない。
想像通りだな。
大神官は知らないだろうが、力を与えていたアインバダルは滅んでいるのだ。
アインバダルの力を使った魔法が発動するはずがない。
でも、その事実を親切に教えてやる必要は無い。
「大神官、お前は間違っている。だからダルマシウス神はお前を見捨てたのだ」
「なんだと! 信者ですらないお前にダルマシウス神の何が分かる?」
「ダルマシウス神がお前に力を与えないって事を知っているだけだ。やってみろよ。国を滅ぼす神罰魔法ってやつをさ」
「神罰魔法! ダルマシオン!! 奴を滅ぼせ! ダルマシオオオオン!!」
大神官の叫びがダルマシニウムに響き渡る。
その空しい叫びを聞いて戦いが終わった事を感じ取ったのだろう、この場にいる全員が武器を降ろした。
アリスが魔法障壁で拘束した大神官に杖を突き付けた。
「父さん……いや大神官ウィリアム。貴方は国を守ると言いながら神民に力を向けた。そんな貴方に大神官を名乗る資格はありません」
「やつらはぁ! 神敵なんだよ! アリスにとっても敵だろ! 奴ら聖女反対運動グループはアリスを否定する暴漢共だろうが!」
「それは違います。ダルマシウス教に聖女は存在しない。私もその考えに同意します。私は聖女ではないのですから」
「なら何で聖女を名乗った! アリスが聖女を名乗らなければこんな事にはならなかった!」
「ギリス王国で人々を救うのに聖女を名乗ったほうが都合が良かったからです」
「勝手に異教の真似をして聖女の名を利用したのか! 自身の目的の為に!!」
「それがなにか? ただの神官より聖女って言った方が話を聞いてくれるでしょ?」
「不遜だ! そんな事が許されると思っているのか?」
「さぁ。許されるかどうかは分からないけど、感謝はされているわよ」
「勝手にしろ。これ以上私が言う事はない」
大神官が黙った。
アリスが聖女反対運動グループの皆の方を向いた。
「そういう事だから。帰りましょ。見ての通り聖女なんて存在しないのだから、もう聖女を否定する活動をする必要はないよ」
「聖女だ……」
聖女反対運動グループの誰かが呟くと、一斉に聖女コールが始まった。
古参でダルマシウス教の熱狂的な信者であるアルジャーノンとリヒトの老人コンビまでアリスを聖女として認めている。
アリスにとっては想定外だったのだろう。
呆然としている。
「アリスゥ。野郎どもに応えてやれよ。アイツらアリスの事を聖女として認めてるみたいだからよ」
「何言ってるのよフェード。元々聖女にならないでギリス王国に逃げる予定だったでしょ。聖女にされたら自由がなくなるでしょうが! ラウルからも言ってよ。私は聖女じゃないって!」
「無理だな。諦めろアリス。評価とは他人が決める事だ。国から聖女の存在を強要されているのであれば否定する。だが、彼ら自身がアリスを聖女として認めたなら俺に出来る事はない」
「そういうこった。認めろよアリスゥ」
「もう! このあとどうするのよ!」
「予定通り聖女のお披露目をしよう。頼めるかリブドレン?」
「承知致しました。元々明日は聖女の公表をする予定でしたから」
「よし、それじゃ帰るぞ!」
俺は聖女反対運動グループの皆を連れて町に戻った。
アリスはフェードと共にダルマシニウムに残った。
翌日、予定通り聖女の存在が公表された。
元聖女反対運動グループの皆のお陰で混乱は起きなかった。
今はダルマシニウム周辺だけだが、いずれダルマシニウム神国各地で聖女の誕生を祝わう祭りが開催される事だろう。
そんな話題の聖女様はダルマシニウムの町の冒険者が泊る宿屋の一室で俺たちと供にいる。
俺は聖女の存在を公表させた時に、聖女の役割についても公表したのだ。
聖女とはダルマシウス神の意志を受け継ぎ、世界各地を救う為に旅をする存在だってね。
そのお陰でアリスは俺たちと共に旅を続けられる事になった。
アリスの父親の大神官ウィリアムは、ダルマシウス神に見捨てられたと勘違いしている事と、アリスが反抗して旅に出た事がショックで大神官を引退した。
少し可哀そうだとは思ったが、激務から開放されて少し落ち着いた様にも見えるから大丈夫かな。
大神官が不在となったダルマシニウム神国の運営は、三戒のリブドレンとメディクス、そして新たに三戒の一人になったドロシーの三人が行う事になった。
これでダルマシニウム神国での問題は全て解決した。
さて、これからどうしよう。
一度ギリス王国に帰ってアリスの無事をシンシア姫とローレインに伝えるか、
それとも折角だからダルマシニウム神国で遺跡探索をしてみるか。
アリスとフェードと一緒にノンビリ考えるとするか。
俺たちは自由なのだからなーー




