65話 三戒の真意
「リブドレン、俺が相手だ!」
「手ぶらか……素手で俺を倒せると思っているのか?」
「試してみるか?」
「あぁ。どうせ一撃で終わるからな」
リブドレンがハンマーを振り下ろしたので、俺は手のひらで止めた。
「なんだと! 何故俺の攻撃を素手で受け止められる?!」
「エナドリ飲んで鍛えたからに決まってるだろ。次は俺の番だ。くらぇ! エナドリパンチ!!」
リブドレンが俺のエナドリパンチをハンマーで受け止めた。
一撃では倒しきれなかったか。
使っていたのがレイジング・ミノタウロスだったらハンマーを打ち砕き、一撃で倒せていたのだがな。
でもハンマーの柄を曲げるだけの威力はある。
コイツを倒すのに不足はない。
「次で最後だ!」
「それはどうかな?」
俺は連続攻撃で倒そうとしたが、リブドレンは巨大なハンマーで的確に攻撃を受け流した。
俺の攻撃を正面から受け止めず、受け流す事でハンマーを破壊されないようにしているのだ。
巨大で重いハンマーなのに器用なものだ。
「なかなかやるじゃないか。ダルマシニウム神国最強の戦士って言葉に嘘はないようだな」
「それはこちらのセリフだ。本当に素手で私と戦う事が出来るとはね」
「怖いか? 俺は鋼鉄製のハンマーですら素手で破壊するぞ」
「恐怖など無い。私は三戒のリブドレン。恐れを否定するものなり。私がいる限り、神敵を恐れる必要などないのだ。なぜなら、私こそ世界で最も崇高なダルマシニウム神国最強の戦士なのだから!」
「俺に破れて最強ではなくなる予定だけどな」
「それはない。私は生まれながらの強者! 最も強く生まれた私を越える人など存在しない」
「それは違う。最強など時が経てば入れ替わるさ。努力次第でね」
「それは弱者の妄言。弱者が夢を見ているだけだ!」
「それなら、その夢に屈しろ! これが勝利を夢見て努力した結晶だ!」
俺は最強の蹴りを放つ為に構えた。
次の一撃が最強の一撃だと悟ったのだろう。
リブドレンがハンマーを肩に担いで反撃体勢を取った。
「こいっ! お前らの妄想を! 希望を打ち砕いてやる!」
「これがエナドリと共に努力して得た力だ! エナドリキィィィィック!!」
俺が必殺の蹴りを放つと、リブドレンがハンマーを振りかぶった。
激突する蹴りとハンマー。
勝負は一瞬だった。
俺の蹴りがハンマーを破壊し、リブドレンを蹴り飛ばした。
リブドレンは吹き飛ばされたが無傷だった。
ハンマーの威力で蹴りの威力を相殺されたか。
「私のハンマーが……」
「どうする? 俺はまだ戦えるが、お前はハンマーを失った。勝負は決したと思うけどな?」
「私は……三戒……最強……でも……分かったよ。私のーー」
「それ以上は言うなリブドレン。三戒の敗北はダルマシニウム神国の敗北に等しい。立ち上がれ! 訳が分からない暴漢相手に膝を折るな!」
言ったのは白地に金色の刺繍がされた豪華な神官服を着た中年男性だった。
三戒の服装より豪華な人物は一人しかいない。
アリスの父親である大神官だ。
「お前が大神官か?」
「私を知らないのか? お前は余所者だな。人の娘を攫って何が目的だ? 金か?」
「ラウルは私を攫ってなんていないから! 私を攫ったのは父さんでしょ! 連れ戻そうとしても無駄だからね!」
アリスが杖を大神官に向けた。
「親に武器を向けるのか。神官としての実績を作るためにギリス王国に派遣したのが間違いだったな。異国の思想にかぶれて聖女などと名乗りだしたのを知った時の気持ちが分かるか? 大神官として娘を処刑する決断をしなければならなかったのだぞ」
「何言ってやがる! テメェが聖女にする為にアリスを攫ったんだろうが!」
「アリス様を攫って大神官に聖女を認めるよう説得したのは私たち三戒だ」
リブドレンの言葉に一同が驚く。
ダルマシウス教の教義を守るべき三戒が、ダルマシウス教に存在しない聖女を率先して認めるよう行動していただと。
俺は大神官が三戒に聖女の存在を認めさせようとしているのだと思っていた。
それが逆だったとはね……
「リブドレン、何でアリスを聖女にしようとしたんだ?」
「大神官の話を聞いていただろ。このままだとアリス様を処刑しなければならなかったからだ。私たちがやらなくても過激派に殺されていただろう。だから認めさせる必要があったのだ! 聖女の存在を! そして一掃する必要があったのだ! 奴ら聖女反対運動グループを! 聖女の存在を世間に認めさせ、奴ら過激派を駆逐しなければアリス様に未来はないのだから!」
リブドレンが俺たちの後ろにいる聖女反対運動グループのメンバーを指差した。
そういう事だったのか。
だからメディクスは執拗に聖女反対運動グループの人達を殺そうとしていたのだな。
アリスの為とはいえ、同意は出来ないけどね。
さて、俺の出番は一旦終わりかな。
戦いは終わったのだから。
あとはアリス自身が決める事だ。




