6話 エナドリの弱点?!
シンシア姫とナンバーワン冒険者のローレインさんの話を聞いた俺たちは、ギリス王国南部のぺプリカ地方を目指す事にした。
面倒だから魔王がいる北のノールイン山を目指したかったが、フェードとアリスが先に四天王を倒せと煩かったからだ。
エナドリの力なら結界程度一撃で破壊出来ると思うんだけどね。
せっかくだから冒険を楽しんでみようかな。
二人を連れて王都を出て街道を歩いていると、草むらから金髪の青年が飛び出して来た。
「見つけたぞエナドリ野郎! ここでお前をぶっ潰してやる!」
誰だったかな?
知らない男性だ。
「どちら様でしょうか?」
「勇者のユウマだ! 忘れたとは言わせんぞ! 出でよ聖剣ブライアー!」
ユウマが聖剣を召喚した。
思い出した!
勇者のユウマだった。
一撃でぶっ飛ばしたから記憶に残っていなかったよ。
「なんだボロ負け勇者かぁ。アニキに勝てると思ってんのか? エナドリないくせによぉ。勇者如きじゃアニキからエナドリもらったオレにも勝てねぇよ!」
フェードがユウマに向かってエナドリを突き付けている。
な、なんて滑稽な姿なんだ。
こんな恥ずかしい挑発を受けたくはないな。
「ダメよフェード。相手は腐ってるけど勇者なのよ。油断したらダメよ」
アリスが真剣な表情で言った。
真剣に言ってるけど、言い間違いしてるよな?
「言い間違いしてないかアリス? 腐ってるけど勇者じゃなくて、腐っても勇者だと思うけど」
「ま、間違ってなんかいないんだから! シンシア姫だって腐ってるって言ってたわよ!」
「ばかにするな! 私は勇者なんだぞ! 凄い力を持ってるんだ! 無双して賞賛されるのは私なんだ!」
「カッコわりぃな。話す気失せたぜ」
「子供っぽいわよね」
フェードとアリスが呆れる。
「もういい。お前らを倒して私は勇者として王都に舞い戻る。弱点が分かった以上、お前らに勝ち目がない!」
「へっ、負け惜しみだね。一撃でやられたお前がアニキに勝てるはずが無いだろ」
「そうよね。一回スカッとやっつけたところを見ちゃったから怖くないわよね」
「馬鹿だな。エナドリを飲む前に倒せばいいだけだろ! そんな簡単に分かる弱点に気が付かないとは間抜けだな!」
「な、なんだと! どうしようアニキ! 今から飲めば間に合うか?」
「私が防御魔法で時間を稼ぐわよ!」
「遅い!」
ユウマが聖剣から放った光を受けてフェードとアリスが吹き飛ばされた。
「さぁ、死んでもらうぞエナドリ野郎!」
「アニキいいいいっ!」
「逃げてラウル!」
物騒だな。
気にらないからといって、いきなり剣を突き出すものかね。
バスン!!
ユウマ突き出した聖剣を拳で払うと、聖剣が根本からバキッと折れて吹き飛んでいった。
「え、はっ、わ、私の聖剣が……」
ユウマが聖剣を折られて混乱している。
俺は荒ぶるエナドリ、レイジング・ミノタウロスを生み出して一気に飲み干した。
「ぷはっ、一仕事終えた後のエナドリは最高だなぁ」
「なんなんだお前はぁ! エナドリ飲んで無かっただろ! なのに何で私の聖剣を破壊出来るのだ! ありえん……」
「ア、アニキ……いつエナドリ飲んだんすか?」
「そうよね。エナドリ飲んでなかったわよね」
「まずは白銀滋養霊液を飲んで元気になれよ」
フェードとアリスに白銀滋養霊液を渡した。
二人共白銀滋養霊液を飲んで直ぐに元気になった。
「説明しろ! 説明してくれなければ納得できない……」
「オレも知りたいぜ。教えてくれアニキ」
「私も気になるわね。一体何をしたのラウル?」
異世界人のフェードとアリスだけでなく、同じ世界の出身であるユウマにまで聞かれるとは思わなかったよ。
皆にエナドリについて知ってもらう必要がありそうだ。
「エナドリはね。戦う前に飲む場合と、戦った後に飲む場合があるのさ」
「そうだったのか……知らなかったぜ! オレも戦った後にエナドリを飲む様にするぜ!」
「意味が分からないわよ。飲まなくても力が出せるなら飲む必要ないじゃない」
「そうだ。飲まずに力を発揮するなんて卑怯だ!」
フェードは納得したが、アリスとユウマは納得出来ないみたいだ。
「エナドリを飲むのが先か後かを論じる事は、卵が先か鶏が先か論じる事に等しい。無駄な事は考えず、楽しくエナドリを飲んで解決しようではないか?」
「ふざけるな! 異世界なんだぞ! 魔王を倒せる力を持つ勇者が何でエナドリに負けるんだ!」
「努力が足りないから負けるんだよ。チートに頼るな。エナドリを飲んで日々鍛錬を積め」
「努力に何の意味がある! 私は魔王を倒して英雄になるんだ!」
ユウマが走り去っていった。
「いつか努力の素晴らしさに気付いてくれると良いのだがな」
「ねぇ、ラウル? 努力しているところを見た事ないんだけど、本当に努力が必要なの?」
「あぁ、必要だよ。たぶん……」
そういえば、転生してから一切努力していなかったな。
次の町についたらエナドリ飲みながら勉強でもしようかな。