58話 聖女
街道を進むと町に辿り着いた。
看板を見るとセイコニアの町と書かれている。
宿に行き馬車とブタリウスをあずけた後、俺とフェードは情報収集の為に出かけた。
通りですれ違う住民達はお祭り気分だった。
ダルマシニウム神国の国民は、いつもこんな感じなのだろうか?
「アニキ、ダルマシニウム神国にも冒険者ギルドがありましたぜ!」
「冒険者ギルドで情報収集してみよう。国と関係ない中立の組織だから情報収集がしやすいだろうからな」
俺はフェードと共に冒険者ギルドに入り、受付に向かった。
「どの様な御用でしょうか?」
「観光でダルマシニウムに行こうと思っている。おすすめの観光ルートはあるか?」
「はぁ? なに言ってんすかアニキ?」
「黙ってろフェード。出来れば空いている裏道があれば助かるんだけどね。忙しいから人込みは避けたいんだ」
「今の時期は難しいですね。大神官様が聖女を公表すると発表をしたばかりですからね。普段は神官関係者と旅行者しかいかないので混まないんですけど、今は表だけでなく裏の参道も含めて人がいっぱいですよ」
「聖女? ダルマシウス教に聖女はいなかったはずだが?」
「それが、急に大神官様が聖女を公表すると言い出したので混乱しているのです。ダルマシニウムに人が集まっているのも、聖女の反対運動が盛んになったからなのですよ」
「大神官に言われても従わない人がいるって事なのか。大神官は国王みたいなものなのだろう?」
「国王とは違いますよ。大神官とはいえ、教義に反すれば追放されますから。反対派は大神官に次ぐ地位である三戒の動向が気になっているみたいですね。三戒が大神官に従わなければ内乱に発展する可能性があるので、ギルドとしては警戒をしているところです」
「そうなのか。教えてくれてありがとう。行くぞフェード」
「えっ、もう行くんすか? 欲しい情報全く手に入ってないと思うっすけど?」
「心配ない。十分教えてもらえたさ。暴動に巻き込まれないようにしながらダルマシニウムに観光に行こうではないか」
俺はフェードを無理やりギルドから連れ出した。
これ以上、冒険者ギルドにいたらボロが出そうだからな。
聞きたい情報が得られたから一度宿に戻ろう。
これから話す内容を他の人に聞かれたくはないからな。
俺は宿に戻って椅子に座った。
フェードはベッドに腰掛けている。
「聖女ってなんすかね? アニキは知ってそうでしたけど」
「寝ぼけているのか? フェードも知ってるだろ?」
「へっ、聖女なんて知らないっすよ」
「知らないどころか名乗らせていただろう? 忘れたのか? ギリス王国各地でアリスをダルマシウス教の聖女扱いして利用していただろ?」
「アリスゥウ? 聖女ってアリスの事だったんすか?」
「聖女はアリスで間違いないだろう。アリスが攫われたのと、大神官が聖女を発表したタイミング的にも合っている」
「何で大神官が聖女の存在を認めたんすか? ダルマシウス教に聖女なんて存在しねぇから、奴らの教義に反するんじゃ無かったんすか?」
「教義を曲げてでも聖女を認めなければならない事情があるからだ」
「アリスなんかを聖女にしなきゃいけない理由……分からねぇっすよ」
「忘れたのかフェード。奴らが崇めていたダルマシウス神。アインバダルは滅んだんだぞ。本物のダルマシウス神によってね。恐らく大神官は何らかの手段でダルマシウス神が滅んだ事を知ったのだろう」
「まさか……ダルマシウス神の代わりに聖女にしたアリスを崇めるっていうんすか?」
「そういう事だ」
「まじかよ!」
フェードがひっくり返った。
驚くのも無理はない。
俺だってアリスが聖女になるなんて実感がない。
コウチキカ地方で逃げた時なんて、存在しない聖女を名乗ったとして処刑されると思ってたくらいだからな。
でも、これで良かったと思う。
聖女にするつもりなら、三戒がアリスを傷つける事はないだろうから。
「起きろフェード。これから先は考えて行動しないと苦戦するぞ」
「町に薬草が売ってなかったからっすか?」
「そうだ。ダルマシニウム神国は、神官が製造している回復薬が普及しているから薬草類の販売がない。だからエムスリーに搭載している薬草が切れたら戦う手段を失う事になる」
「結構積み込んだから簡単には品切れにはならないっしょ?」
「馬車を奪われたら終わりだぞ。用心した方が良い」
「分かったよアニキ。それで、この後どうするんすか?」
「まずはダルマシニウムに行こう。聖女反対運動家の協力が得られるかもしれない」
「もしもアリスが聖女になりたいって言い出したらどうするんすか?」
「無理だろ? あのアリスだぞ」
「だよなぁ~。品の無さがバレちまいますからさ。ハハッ!」
フェードが笑っているが、アリスよりフェードの方が品が無いと思うぞ。
口に出して喧嘩しても意味がないから指摘しないけどさ。
さて、今日は休むとしよう。
明日は朝一でダルマシウス教の大神殿、ダルマシウスに向かって旅立つのだからな。




