55話 ブタリウスの魔法
「ヒャッハー! アニキィィィ! こいつ最高だぜええええ!」
フェードが馬車を豪快に走らせる。
マックスが言っていた通り普通の馬車より速く走れた。
これならギリス王国内で三戒に追いつけるかもしれない。
二日程街道を走っていると、前方に白い豪華な馬車が見えた。
ダルマシウス教の紋章……アレが三戒の馬車に違いない。
「フェード! 前に回り込んで馬車を止めるぞ!」
「了解だアニキ! いけぇええええ! エムスリー!!」
俺たちの馬車が白い馬車の前に周り込み進路を妨害した。
相手の馬車が停止したので、俺とフェードとブタリウスは馬車を降りた。
「少し話をさせてもらおうか? 人攫いの疑いがあるのでね」
「さっさと出てこいや!」
俺たちが呼びかけると、一人の男が馬車から降りて来た。
男は煌びやかな神官服を着ており、一目で高位の神官だと分かる見た目だった。
「我々がダルマシウス教の神官だと知っての暴挙か?」
「当然だ。お前たちが三戒なのだろう?」
「それを知りながら馬車を襲うと言う事は追っ手か。そういえば、そこのヤツには覚えがあるぞ。喚いているだけで何も出来なかった無能者ではないか」
「宿では油断しただけだ! テメェ何かに負けるかよ!」
フェードがナイフを抜いた。
「私に敵対するという事は神敵という事になるが、それで構わないかね?」
「お前らの神なら既にぶっ飛ばしてる。神敵であってるよ」
「そういう事だ! アリスを返してもらうぜぇ!」
馬車からもう一人の男が出て来た。
「ソレータム。我らは先を急ぐから、そいつらを退けろ」
「言われなくてもやるさリブドレン」
リブドレンと呼ばれていた男が再び馬車の中に戻っていった。
そして俺たちと相対していたソレータムが先端に鉄球がついた鋼鉄製の鎖を取り出した。
「私は三戒の一人であり、疑いを戒める役割を承った者である。我らの教義を疑う異教徒に神に代わり神罰を下す!」
「そんなの知るか! くたばれやぁ!」
フェードがナイフで切りかかったが魔法障壁で防がれた。
「卑怯だぞ! この野郎!」
「魔法を使う事は卑怯ではないだろう」
ソレータムが鎖を振り上げ、鉄球がフェードに向かって飛んできた。
「遅せぇよ! なにっ!」
フェードが避けようとしたが急に足を止めた。
いや魔法障壁で足を止められているのだ!
「ゴハッ!」
鉄球がフェードに直撃した。
これは危険だ。
今の俺たちには薬草しか回復手段がない。
大ダメージを受けたら行動不能になってしまう。
これ以上やられる前に止めを刺すしかない。
「くらえ! エナドリキィィィィック!」
俺はソレータムに向かって必殺の一撃を繰り出した。
「甘い」
ソレータムが魔法障壁を展開した。
パリンパリンガツン!
三重に展開された魔法障壁の2枚は破壊出来たが、最後の一枚が破壊出来なかった。
エナドリの効果が切れてから大分経つから技の威力が落ちている。
「これで終わりです」
ソレータムが振り回した鋼鉄製の鎖で体をからめ取られ、動きを封じられてしまった。
俺が拘束された事を確認したからだろう、敵の馬車が迂回して走り去っていった。
逃がしてしまったか……
それなら、コイツを倒して追いかけるだけだ。
こっちの馬車の方が速いから、直ぐに追いかければ間に合う。
「フェード! 動けるか!」
「今すぐは無理っス……」
地面に転がったフェードがうめいている。
ここは俺が何とかするしかない。
気合で鎖を振りほどこうとしたが解けなかった。
「無駄ですよ。そろそろ死んでもらいますよ。貴方たちの馬車をもらって皆を追いかける必要があるのでね」
ソレータムが鎖を振り上げ、俺の体を地面に叩きつけた。
脇腹が痛む。
肋骨が折れたかもしれない。
このままでは負けてしまうが、ソレータムの攻撃に対抗する手段が思いつかない。
「ブッブブゥー!」
ブタリウスがソレータムに突撃した。
「なんだこのブタは! 邪魔だ!」
ソレータムが俺を拘束していた鎖を解きブタリウスを攻撃した。
鉄球が直撃したブタリウスが吹き飛ばされた。
「ブッ! ブブゥー!!」
傷だらけのブタリウスが立ち上がった。
「ブブブッ! ブッ! ブー!!」
ブタリウスが興奮しながら何かを叫んでいる。
なんだか様子が変だ。
突然、空中に水の塊が現れ、ソレータムに向かって飛んでいった。
ブタリウスが魔法を使った?!
バシャッ!
水がソレータムにかかったが、魔法障壁を展開したので全く濡れていなかった。
「ブタが魔法を使ったのは驚きましたが、こんな威力が低い水をかけられても何もおきませんよ。さて、そろそろ死んで頂きましょう。これ以上無駄な時間を使いたくはないのでね。最初は誰がよいですか? 選ばせてあげますよ」
ソレータムが鎖を構えた。
どうする?
俺が何かしないと次のソレータムの一撃で終わってしまう。
そうだ!
これならいけるかもしれない!
「ブタリウス! 俺に向かって水の魔法を放て!」
「ブッ?!」
ブタリウスが困った顔をしている。
「どういう事っすかアニキ?!」
「錯乱しているのですか? 実に情けない」
「気にするなブタリウス! 水魔法を俺に向かって放ってくれ!!」
「ブッ!」
ブタリウスが俺に向かって水魔法を放った。




