5話 髪型の秘密
勇者と王を倒した俺は姫から王宮に招待された。
ギリス王国のナンバーワン冒険者のローレインさんも一緒にいる。
敵地に呼ばれた様な気分だが、敵対するならエナドリ飲んで一撃食らわせれば良いから不安はないな。
「私はシンシアです。先ほどはローレインを助けて頂きありがとう御座いました」
姫が俺に向かって頭を下げた。
冒険者の為に頭を下げるとはね。
姫にとってローレインは大事な人なのだろうな。
「俺はラウル。俺じゃなくてエナドリに感謝するんだな」
「え、エナドリとは何の事でしょう?」
「エナドリはエナドリだ」
「ちょっと! ちゃんと説明しないと分からないでしょ。エナドリっていうのは魔法薬みたいなものです。あと私はダルマシウス教の神官のアリスです。困った事があったら、いつでも声をかけてくださいね」
「なに勝手に売り込んでんだよアリスぅ! アニキのエナドリを魔法薬如きと一緒にすんじゃねぇよ」
「アリス、フェード、静かにしろ。姫の話を聞くぞ」
「分かったわよ」
「了解だぜアニキ」
「で、俺たちに何の用だ?」
「それについては私から説明しよう」
ローレインが世界の状況について説明を始めた。
魔王を倒す為に北のノールイン山に向かうには、魔族が作った結界を破壊しなければならない。
結界を破壊するには、ギリス王国各地にいる四天王と呼ばれている強大な力を持った4体の魔族を倒す必要がある。
伝承によれば、四天王と魔王を倒せるのは勇者が持つ聖剣だけだそうだ。
なるほど、世界を救うには勇者と聖剣が必要なのか。
さっきぶっ倒しちゃったから世界終わったな。
「もしかして俺恨まれている? 勇者倒しちゃったからさ」
「いえ、逆に感謝しております。あのまま勇者を放置していれば、魔王の侵略前にギリス王国は終わっていたと思います」
「そんなに酷かったのかアイツ」
「はい。ギリス王国を救って頂きありがとう御座いました」
「私の事も救ってくれてありがとう。ラウル殿、ついでに世界を救ってくれないかい?」
「ついでに世界を救う? 俺が?」
「そうだよ。伝承では上位の魔族を倒せるのは勇者だけだ。でも勇者を倒した君なら魔族を倒せる可能性がある。まずは四天王に挑戦してみないか?」
「四天王か……」
「ラウル様は四天王をご存じですか?」
「もちろん知っている。荒ぶるエネルギーで快活な一日を過ごせるレイジング・ミノタウロス。溢れるエネルギーでタフな一日を過ごせるマイティ・サイクロプス。集中力をあげて俊敏に仕事がこなせる様になるスピーディー・ケンタウロス。全ての疲れを癒す白銀の妙薬である白銀滋養霊液の4つだ。この4つのエナドリが四天王と呼ばれるようになるまで、どれだけの犠牲が払われた事か……最強のエナドリの話題は禁句だからな。あの醜い争いを俺は二度と経験したくはない……」
「あの……良く分からないけど大丈夫でしょうか?」
「私が知っている四天王とは違う名前だね。なんの戦いの事を言っているのか分からないが、ラウル殿がそれほど深刻な顔をするという事は世界の危機に直結する事なのだろうね」
シンシア姫とローレインが不安そうな顔をしている。
そうだよな。
事情を知らなくても、世界最強のエナドリの座を巡って起きたエナドリ大戦の恐ろしさを感じてしまうの当然の事だ。
「どうせ大した事ない話なんでしょ。どっちの牛乳が美味しいかダンサの村とロイレスの村で争ってるのと同じ程度の話だと思うけど」
「アリスぅ! アニキのエナドリを牛乳と一緒にすんじゃねぇぞ! エナドリはなぁ、エナドリなんだぞ!」
「意味が分からないわよフェード! このエナドリ信者!」
「ダルマシウス教信者が! ダルマシウス神よりエナドリの方が崇高なんだよ!」
「世界に対しての冒涜よ!」
アリスとフェードが喧嘩を始めてしまった。
シンシア姫とローレインが呆れているじゃないか。
「姫の前だから喧嘩は止めてもらえるかな」
ローレインがフェードとアリスの喧嘩を止めた。
「ごめんなさい」
「アリスが悪いんだよ。オレは悪くねぇ」
「そう言わずに仲良くしようじゃないか。ラウル殿が強くても一人で四天王を倒すのは困難だと思う。電撃魔法の使い手のフェード殿と神官のアリス殿の協力が必要だと思うよ」
電撃魔法の使い手?!
何を言っているのだローレインは。
「フェードはナイフ使いだぞ。盗賊じゃないのか?」
「ラウル殿は気付いていなかったのですか? フェード殿の頭髪から魔力を感じますよ。常時、電撃魔法を纏い続けるには膨大な魔力が必要となる。私が今まで出会った魔法使いの中で一番の魔力保有量だと思いますよ」
俺は魔力が扱えないから気付かなかったぜ!
フェードの髪型を維持していたのは電撃魔法だったとはね。
「ローレインが言っている事は本当なのか?」
「魔力保有量が多いかどうかは分からないっす。でも髪型を維持する為に電気属性の魔法を使っている事は本当ですぜアニキ」
なんという事だ……。
整髪料の代わりに静電気で髪を垂直に立てるなんて発想は俺には出来ない。
こいつは俺を越える逸材かもしれない。
何の役に立つかは分からないけどな!