2話 やべぇやつ見けた!
王都について冒険者ギルドを探していたら、広場に人だかりが出来ていた。
何でこんなに人が集まってるんだ?
本当に迷惑だな。
何事かと見てみると一人の男が少女と揉めていた。
「このオレに声かけてタダで済むと思ってんのか小娘!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃねぇ! 出せよ! ほらっ!」
髪を垂直に立てたガラの悪そうな男が少女に金品を要求しているようだ。
どうやって30cm位の長さの髪を立てているのだろう。
異世界にも整髪料があるのかな?
少し興味を持ったが、俺は冒険者ギルドに行きたいのだ。
関わるのは面倒なので、黙って男の前を通過しようとするとーー
「待てよ小僧! なにシレッとオレの前を通過しようとしてんだ!」
男が俺の前に立ち塞がった。
何故だ?
俺は関係ないと思うのだが?
誰にでも構って欲しいお年頃なのだろうか?
絡まれた理由を考えている間に少女が俺の後ろに隠れた。
「助けてくれてありがとうございます」
なんだこの小娘は?
俺は助けようと思ってなどいないぞ。
こういうのは勇者様の役目だろう?
一般人の俺には関係ない。
「いい度胸じゃねぇか! オレとやり合うっていうのか? このナイフの一撃でも食らえば終わりだって分かってんのか? 勝ち目ねぇぞ!」
男が手にしたナイフをちらつかせている。
これは毒を塗ったナイフを舐めて自滅するやつだ!
ベタな展開だけど、異世界に転生してすぐに見られるとは思わなかったよ。
思わず笑みがこぼれてしまった。
「なに笑ってやがる! このナイフは神経毒が塗ってある。死にはしないが少しでもかすったらどうなるか分かってんだろうな? 切れ味も凄いんだぜ」
男がナイフをペロリと舐めた。
あっ、本当に毒付きナイフを舐めたよ!
男が痙攣して倒れた。
「こ、これで……てめっ……」
なんて面白い奴だ。
このまま放っておくには惜しい人材だ。
「私はダルマシウス教の神官のアリスです。助けて頂きありがとうございます。お礼をしたいので是非教会に来ていただけませんか?」
背後にいた少女が助けてもいないのにお礼を言ってきた。
俺はダルマシウス教というものを知らないし、行きたいのは教会ではなく冒険者ギルドだ。
この世界の事は良く知らないから、知らない教団とは関わりたくはない。
「断る。用が済んだら帰れ」
「ええええっ! こんな美少女がお礼を言っているのに断るんですか?!」
アリスは可愛いとは思うが俺には関係ない。
それよりコイツだよ。
俺には神経毒で痺れている男を復活させる方法がある。
エナドリだ!!
俺が出せるエナドリであれば何を飲ませても回復すると思う。
でも最大の回復効果を狙うのであれば白銀滋養霊液が良いだろう。
俺は白銀滋養霊液を生み出し倒れている男に飲ませた。
エナドリの効果はバツグンだ。
男はすぐに起き上がった。
「何故だ? 毒の効果が消えている?! オレに何をした?!」
「驚く事はない。エナドリを飲ませただけだ」
「エナドリ? なんだそれは?」
男はエナドリを知らないようだ。
エナドリを知らないなんて不幸な奴だ。
俺がエナドリを教えてあげよう。
「エナドリとは人類の叡智が生み出した飲み物だ。飲めば人に秘められた超絶な力が呼び覚まされるんだよ」
「叡智……超絶……すげぇじゃねぇか! オレの敗因はエナドリを知らなかったからなんだな」
「その通りだ。エナドリを知らぬ者に勝利などない。これからは毒ではなくエナドリをナイフに塗るがいい」
俺は男にエナドリを一缶渡した。
「スゲェぜアニキ! これからはナイフにエナドリを塗ることにするぜぇ」
「じゃあな。俺は冒険者ギルドに行く予定なのでな」
「それならオレが案内しますぜ! オレの事はフェードと呼んでくれよなぁ!」
「フェードか。覚えたよ。早速案内を頼む。王都は初めてだから迷ってたんだよね」
「任せてくれよアニキ!」
俺はフェードの後についていく事にした。
「ちょっと待ってよ~」
俺の後ろからアリスがついて来た。
「しつこい奴め。俺は何とか教には行かないからな! 俺が信じるのはエナドリだけだ!」
「何とか教じゃなくてダルマシウス教です! 別に誘ってなんていないですから!」
「騙されちゃいけませんぜアニキ。コイツは広場でダルマシウス教とやらを広めてやしたから! 迷惑だから追っ払ってやろうとしてたんすよ」
「なるほどな。やはりコイツが悪か」
「風評被害よ! こんな美少女の何がいけないの?」
「美少女で誤魔化すとこに決まってんだろぉ!」
「俺もフェードに同意する」
「そんなのってないよ~。おいていかないでよ~」
本当に図々しいな。
これだけ拒絶しているのに、何故かアリスがついて来ている。
この子から逃げるのは大変そうだな……