106話 深夜の襲撃
「何の用だ? 入室するならノックするのが礼儀だろう」
俺は侵入者に声をかけた。
「窓から侵入するのにノックが必要か? 状況を分かっているのか?」
侵入者が剣を抜いた。
「暗殺者か……無駄な事を」
「強がるのはやめろ。丸腰で戦えるとでも思っているのか? この距離なら魔法を使う余裕もないのだぞ」
「武器ならあるさ」
俺は拳を侵入者へ向けた。
「舐められたものだ。拳で俺の剣を防げると思っているのか。パーティーリーダーのお前がこの程度であれば、他の奴らは既に仕事を終えているかもしれないな」
「それはないな。俺の仲間は礼儀知らずのザコ相手に負けはしない」
「そうか。だったらお前を殺して確かめに行くさ!」
侵入者が切り掛かってきた。
剣筋にブレがない。
なかなかの腕前だな。
中級冒険者くらいの実力があるんじゃないか。
だが俺の敵ではない。
「砕け散れ! エナドリアッパー!」
俺の拳を受けた侵入者の剣が折れて、剣先が天井に突き刺さった。
すかさずライジングハーブを飲んで力を補充した。
「何をした?!」
侵入者が狼狽えている。
実践経験が豊富な様だが、素手で剣を折られる経験は無かったようだな。
「殴って剣を折っただけだ。さて、依頼人を教えてもらおうか?」
「誰が話す、ごへっ!」
素直に話す気がないようなので腹部に拳をめり込ませた。
侵入者が跪いた。
「もう一度聞く。依頼人を教えろ」
「無理だ……そんな事をすれば死んでしまう。許してくれ。仕方がなかったんだ!」
「そうか。分かった」
俺は再び侵入者を殴った。
「何が分かったんだ! 依頼人の事を話せば死ぬんだよ!」
「俺には関係ない」
困ったな。
俺は敵を痛めつける趣味はない。
でも黙って暗殺者を見過ごすほど甘くはない。
自白させられるエナドリでもあれば楽なんだけどな。
「アニキ! 一匹捕獲したぜ!」
フェードが勢いよく入室してくると同時にロープで拘束した男を床に転がした。
「すまないエリック。こいつ強え……」
「ボブがやられただと。何者なんだ貴様らは」
「襲撃してきたくせに知らねぇのかよ。深夜だからってボケてんのか? ええ?」
フェードがナイフで侵入者達の頬をペチペチ叩いている。
俺を襲った方がエリックで、フェードを襲った方がボブか。
エリックは剣士だったが、ボブの方はパワー系の戦士の様だな。
「取り込み中だったかしら? お土産を持ってきたわよ」
アリスが入室してきた。
心配はしていなかったが、アリスも無事だったようだな。
無事でないのは侵入者の方か。
棺桶に押し込まれた様に四方から魔法障壁で押しつぶされているのが哀れだ。
「ラスティン! なぜ負けた?! 奴は攻撃魔法を使えないはずだろ!」
「こいつ……攻撃が全く効かない……」
ラスティンが苦しそうに言った。
ライジングハーブを飲んだアリスの魔法障壁は一晩持続する。
あらかじめ展開していた魔法障壁で攻撃を防いだ後、魔法障壁をぶつけられてボコボコにしただろう。
「聖女の力をなめるから負けるのよ!」
「アニキのエナドリのおかげだろ?」
「エナドリですこ〜し強化されていたけど、活躍したのは私の魔法ですぅ!」
「ならエナドリなしでやってみろよ? おい?」
「フェード相手なら負けません〜」
「楽しそうですねお二人さん」
セレスティナがブタリウスを引き連れて入室してきた。
これで全員そろったな。
「サマンサはどうした?」
俺を襲撃したエリックがセレスティナに言った。
サマンサって奴がセレスティナを襲撃したようだな。
「さぁ? どうしたのでしょうね?」
セレスティナがトボけた表情で答えた。
「ふざけるな! サマンサはお前を襲撃したはずだ!」
「僕、襲撃されちゃったんですか? そんな記憶はないなぁ」
「殺したのか! サマンサを!」
「やだなぁ。殺してなんていませんよ。僕はね」
「僕はね……だったら誰がやった?」
「トボけないでくださいよ。本当は分かっているのでしょ? 依頼者の名前を言ったら死ぬって?」
「バカな……サマンサが依頼者の名前を言ったのか……」
エリックが絶句している。
よほどサマンサって奴を信じていたのだろう。
セレスティナに依頼者の事を話したのが信じられないようだ。
そしてエリックが必死に依頼者の事を話さなかった理由も判明した。
どういう方法なのかは分からないが、依頼者の事を話すと本当に死ぬらしい。
「セレスティナ、それは本当なのか?」
「本当ですよ。マーティンと言った直後に死んじゃったんですよね。僕はレイリックを疑っていたので予想外でしたよ」
最初に疑っていたギルドマスターのレイリックではなく、マーティン将軍が依頼者なのか?
「そういう事か……」
エリックが俯いた。
そういう事とはどう言う意味だ?
突然エリックが顔を上げた。
「そうだよ! 俺たちはマーティンの依頼でお前達とレイリックを抹殺しに……」
エリックが急に動かなくなった。
本当に依頼者の名前を言った事で死んだようだ。
「エリック……君って人は……」
ボブが悲痛な声を出した。
これ以上こいつらに聞く事はないな。
俺たちに個別の部屋を用意したのもマーティン将軍だ。
俺たちを分断して殺す為だったのかもしれないな。
明日の朝、生き残った二人の襲撃者を連れてマーティン将軍を問い詰めよう。




