1話 エナドリ転生者爆誕!
「ふざけるな! 俺は卑怯者ではない!」
「卑怯者ってなによ! アンタたちみたいな転生者が好きだっていうから提案しただけでしょ!」
「アンタ達ってなんだ! 俺は俺だ! チートなんて卑怯者がする事だ!」
「あのねぇ! ゲームのチートとは違うのよ! 貴方の先輩達は喜んで力を受け入れていたわよ。貴方は凄い力を得て無双したくはないの?」
「断るっ!」
しつこいな、この女神って奴。
理由は分からないが、俺にチートをしろって言いやがる。
何で俺はこんな奴と無意味な言い争いをしてるんだろう?
仕事疲れでぶっ倒れたところまでは覚えているんだけどね。
もしかして、これが話題の異世界転生ってやつなのかな?
どうやら俺は死んでしまったようだな。
無敵のゴリ押しパワーマンだった獅子王力男様が、こんな事で死んでしまうとはね。
本当に情けない。
仕事前にエナドリを飲み忘れたのがいけなかったかな?
そうだ! エナドリだ!!
「おいっ、エナドリをだせ!」
「エナドリってエナジードリンクの事?」
「エナジードリンク以外のエナドリがあるか! チートとやらが出来るならエナドリを出すくらい出来ようになるだろ?」
「分かったわよ! 貴方の力はエナドリを出す能力にするからね。後悔しても知らないからね!」
「俺に後悔などない! 終わった事を考えていられるような暇人じゃないんでね。俺はいつでも目の前の事に全力なんだああああああ!」
「なんで最終決戦中みたいなノリで話すのよ! ああっ鬱陶しい! メンドクサイから早く転生しちゃえ!!」
女神の手から放たれた光に包まれ、意識が遠のいていく。
あっ、そういえば俺は何の理由で転生するんだっけ?
目的も分からないまま俺は転生してしまった。
目が覚めると天井が見えた。
どうやら俺はベッドで寝かされているようだ。
大人の俺が幼児から人生をやり直すのはキツイ。
こういう時はエナドリだ!
出ろ! マイティ・サイクロプス!!
喋れないので念じたら、無事にサイクロプスのイラストが描かれた青い缶が生み出された。
こいつは唯一の物って意味を込めて、一つ目のサイクロプスをイメージキャラにしてるんだぜ!
タフに仕事をこなしたい時はコイツが一番だ!
さて、早速飲んでやるぜ……そして3時間が経過した。
はぁはぁ、缶のフタを開けるの大変だったぜ!
幼児なのにエナドリのフタを開けられる俺。
エナドリなくても結構強いんじゃないか?
今度こそ飲んでやるぜ!
ごくごく……いつも通りの美味しさだな。
力がみなぎるぜ!
グングンからだが成長していき、俺はベッドからおりて自分の足で立った。
窓に映る自分の姿を確認すると17才の頃の自分にそっくりだった。
これは驚いた。
異世界のエナドリは17年分の成長も一瞬なのだな。
「誰なの!」
「私たちの息子を何処にやった!」
扉を開けて入室した若い夫婦が俺を見て警戒している。
「俺が君たちの息子だよ」
俺は両手を広げながら笑顔で答えた。
そして……両親が呼んだ兵士に拘束された。
ふぅ、転生して成長して牢屋行きか。
波乱万丈な人生だな。
カツンカツン……。
足音が聞こえるけど誰か来たのかな?
「この男がオリバーとアンナの子供を自称している男です。鑑定をお願い致します」
兵士が魔法使いの様な姿の男に話しかけている。
オリバーとアンナか。
話の流れから俺の両親の名前だって事が分かる。
「よかろう。鑑定を始める。この男は……間違いない。この男はオリバーとアンナの子供で間違いない」
「本当ですか! オリバーとアンナの子供は3歳ですよ。こんなに成長するなど、魔法を使ったとしてもあり得ない事です!」
「この男は二人の息子ラウルで間違いない。何故成長したかは分からないが、魔力の波長が生まれた時に鑑定した時と同じだ」
「それでは……」
「開放するのだ。オリバーとアンナに説明して引き取ってもらえ」
「承知致しました。さぁ、出ろ!」
俺は牢屋から出され、両親の元に戻された。
ありがとう名前を知らない魔法使い!
魔法使いが説明してくれたから、何とか両親に息子だって認知してもらえた。
両親の悲しそうな顔を見ていたら切ない気持ちになった。
俺のワガママで子供時代をすっ飛ばしてしまったからね。
我が子の成長を見守る楽しさを奪ってしまったのは申し訳ない。
黙っているのも失礼だから、俺には前世の記憶があって、エナドリで成長した事を説明した。
残念ながらエナドリは理解してもらえなかったけど、一瞬で成長した事については理解してもらえた。
申し訳ないけど子育ての楽しみは弟か妹に任せるぜ!
まだ予定はないみたいだけどな!
両親から自室を与えられた俺は部屋に籠って色々試してみる事にした。
最初に時間が経っても幼児の姿に戻らない事が分かった。
もう一度 マイティ・サイクロプスを飲んでみたけど、17才の姿より成長する事は無かった。
あとは作りだせるエナドリの種類と効果を確認した。
作れるのは攻撃特化、防御特化、速度特化、回復特化の4種類。
全部俺が前世で好きだったエナドリだった。
これなら戦える! 24時間臨戦態勢だ!!
あの名前も分からない、姿も殆ど覚えていない女神のお陰だな。
気に入らなかったけど仕事ぶりには満足したぜ!
1か月後、俺は冒険者になる為に王都に向かう事にした。
あまり裕福な家庭ではなかったからね、手っ取り早く稼ぐには冒険者になるのが近道だ。
父さん、母さん、稼いでくるぜ!