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修羅狩り刃  作者: 辻 信二朗
第四章 悪鬼の巣窟

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第四十話 緩和

 対峙した男が修羅狩りだと聞いて、詩音はホッと胸を撫で下ろした。そうとわかると何だか怪しさも薄れ、同じ道を辿ってきたということに親近感が湧いてくる。


「驚かせてすまない。俺の名は太刀川刀乃たちかわとうだい。見知りおき願おう!」


 まず初めに魁偉かいいの男が前へ出て、軽快な声で挨拶をした。

 先ほどまでは危険な雰囲気を漂わせていたが、声を聞くとかなり心象が変わってくる。熱血で爽やかな印象を受け、声音からも芯の強さが溢れ出している。


「わしは黒斬刃。お主、かなりの使い手だのう。同志の存在を知れて嬉しいぞ」

「こちらこそ、君達を誇りに思う。女の子が修羅狩りをやっているなんて驚きだ」


 刀乃の巨躯に圧倒されながらも、刃と詩音は順に握手を交わした。紅蓮を屠った掌はごつごつとして大きく、手の感触だけで実力の高さが窺い知れる。


「わ、わたしは……神楽詩音です」


 雫玖に背中を押されて、躊躇いながら詩音も名乗った。緊張しているのか、それとも怯えているのか、詩音は着物の裾を握り締めて刀乃と目線を合わせない。


 刀乃は詩音の目線に合わせて屈み、もじもじしている少女の顔を覗き込んだ。


「な、何でしょうか……?」

「神楽詩音、君も修羅狩りなのか?」

「は、はい。ええと……その……」

「……?」


 殺し屋だった過去が後ろめたいのか、詩音は訥々と言葉を詰まらせていた。


 修羅狩りとは本来、殺し屋に対して一切の慈悲を持たない処刑人であると詩音は刃から教わっている。例外的に優しい刃と雫玖の他に詩音は修羅狩りと出会ったことがなく、ここで過去を悟られてはまずいと考え至っていたのだ。


 その思惑を見抜いた刃は詩音の肩を抱き、男達に向かって公然と言い放った。


「詩音は修羅狩りとして、もう仕事をバッチリこなしておる! お主らを以てしても斃せぬかもしれぬぞ? 何たって、わしの弟子だからな!」

「そうか! こんなに若いのに修羅狩りが務まるなんて凄いな!」

「凄いだろう! 実力はわしの折り紙付きだ。それに詩音は、わしに歯向かう度胸を持っておる。つい先ほど、こ奴に襲われたところだ」


 刃は詩音を捕まえて、くしゃくしゃに頭を撫で回した。


「ちょ、ちょっと師匠!? それは忘れてください!」


 詩音は刃に首を抱き抱えられる中で、自然と笑みが零れていた。


 弟子であることは詩音が半ば強引に言い出したことであり、尊敬する刃についていきたいという気持ちの表れである。こうして他人に公言したことで、刃には詩音を正式に弟子であると認めたことになるのだ。


 詩音は刃の優しさが嬉しくて、こっそりと流した涙を指で拭った。


「………………」


 そんな中、背後では黙って佇立する怪しい男がいる。

 表情の見えない笠の下で押し黙る男に、一同の視線が集中した。


「こいつは人見知りなんだ。おい、お前も名乗れ。そして非礼を詫びろ」


 見兼ねた刀乃は深編笠を掴み、怪しい男の頭を下げさせた。


「急に襲ってすまない。拙僧は大嵐荒士おおぞれあらし。野良の修羅狩りさ」


 妖怪なのかと感じるほど捉えどころのない男であったが、声を聞くとそういった印象も吹き飛んだ。何だか気怠そうな雰囲気を持つ、ただの中年といった感じだ。


「……どうして、お主はわしに攻撃をしたのだ?」


 刃は捕えた詩音を解放し、荒士と名乗る朴訥ぼくとつな男を見据えた。


「最強だと噂の修羅狩り――黒斬刃。その実力を見ておきたかった……」


 荒士は笠越しに頭を掻きながら、体裁が悪そうに頭を下げた。


「そんな噂を流すのは、一体どこの誰だ……?」


 刃は大きく歎声を吐きながら、綻ぶ顔を掌で隠した。修羅狩りとして名を馳せることは顧客の獲得に繋がるため、溜息とは裏腹に喜びも大きかった。


 全員が最強を自負する修羅狩りの中でも、自身が頂点であるともくされているというのだ。荒士の声音から察するに、噂が大言壮語たいげんそうごであったと失望された様子はない。力試しで殺されかけたことに腹が立っていたが、既に刃は荒士を許していた。


「あなたは……あれですか? あの、虚無僧こむそう……? とかいうやつですか?」


 荒士の被る笠を指で弄りながら、詩音は無造作に尋ねた。声を発したことで怪しさを失った荒士は、詩音による好奇の対象となっている。


「……拙僧は虚無僧などではない。この笠は戦場で拾ったものさ。こういうのを被ると不気味で強そうだろう?」


  深編笠を無邪気につつく詩音に対して嫌がることなく、荒士は静かに答える。


「そんな理由ですか……。居合の際に視線を気取られないようにするためかと思いましたが、違うのですね……」


 あまりに下らない理由を聞き、詩音は失望するように肩を落とした。


「それ、渋くていいな。頂くぜ! 今日からこの笠は居合のための武具だ!」

「ふふっ、面白い人ですね」


 詩音は荒士の言動が可笑しく、自然と笑みが零れていた。

 不気味な第一印象からは想像できなかったが、彼は陽気な性格らしい。

 

 雫玖の知り合いだということもあって、男達とはすぐに打ち解けた。

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