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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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肉食小夜子の旅の終わり 2

「黒の至宝たる聖ハイデンの」

「ストップ!皇帝も皇妃も膝を突かない!はい、立って!」

 まず小夜子は手近なところで帝国の王宮を押さえる事にした。

 小夜子が王宮にアレクシスと赴けば、最高ランクの貴賓室に通され、皇帝と皇妃が小夜子を訪ねてきて膝を突いた。取り合えず小夜子までもを黒の至宝と呼び始めた皇帝を止め、小夜子は床に跪く2人を椅子に座らせた。

 離宮の騒ぎ以降、小夜子が王宮に足を踏み入れるのは初めての事で、そう思えば皇帝と皇妃の強張った表情も無理もない事だった。

「まず2人に言っておくわ。私は聖ハイデンの使徒になってしまったけど、あなた達の上に立つ気は無いのよ。私は帝国ではアレクの妻でSランク冒険者という身分だけを希望する。だから、あなた達が私に頭を下げる必要もない。分かった?」

「サヨコ様、かしこまりました」

 言いながら皇帝は態度を改めず、隣の皇妃も揃って頭を下げる。

 頭を下げるなと言っても皇帝が畏まり小夜子に頭を下げるなら、もう後は好きにさせる事にした。

「サヨコ様、ひとつご相談があるのです」

 その皇帝は緊張の面持ちで話しを切り出した。皇帝の相談とは、小夜子とアレクシスの婚姻とアリー誕生についての発表の件だった。

「離宮での一件は、本当にお詫びのしようもございません。私共はあの件を機に、サヨコ様に仇成す可能性のある者、皇族を軽んずる者を徹底的に炙り出しました。現在はだいぶ王宮の風通しも良くなり、信頼できる者だけを皇族の傍に置くようにしております。しかし人の心は移ろうもの。慣れと慢心からまたサヨコ様に仇成す者が現れないとも限りません。ですので、聖ハイデンの使徒たるサヨコ様とアレックスが婚姻関係にあると、そしてサヨコ様とアレックスの間に御子が誕生した事も帝国内外に大々的に公表をさせていただきたいのです。この大きな慶事により皇族への国内の支持が更に高まるでしょう。その事は帝国貴族への抑えとなり、アレクサンドラ公女の身辺の安全にも繋がります」

 ふむ、と小夜子は一つ頷くと、判断をアレクシスに丸投げした。

「アレクはどう思う?公表することで私達にメリットはある?」

「そうだな。あの神の啓示に現れた人物がサヨコであると公表すれば、私の妻であっても聖ハイデンの使徒たるサヨコに取次ぎを求める者はまず居ないだろう。神の使徒が実際に顕現するなど今までになかった事。帝国の皇帝はもちろん、コルネリアの大司教猊下であってもサヨコが頭を下げる必要はないのだ。つまりサヨコはハイデン教が信仰される地域ではこの世で最も尊い身となったわけだ。その尊き身が産んだ御子もしかり。しかし逆に熱心な信徒の一部はサヨコとアリーへの謁見を求めるかもしれない。だがサヨコとアリーの平穏な生活を騒がす者など、私が取り次ぐ事は無い。兄上もそのようにして頂けますね?」

「もちろん。サヨコ様とその御子の御身を煩わせる事の無いよう、私が責任を持って事に当たろう」

「よし、皇帝。それなら私とアレク、アリーの事を公表してもいいわ。内容とタイミングは帝国の好きにしてくれたら良いわ」

 開き直った小夜子としては、全世界的に顔が広まった状況下、もう聖ハイデンの名前をガンガン使い周囲を黙らせていく方向に考えをシフトチェンジする。

「まあ使徒になった事は成り行きなんだけどね。これから私絡みで皇帝でも困る案件が出た時はアレクに相談して。アレクのお兄さんだもの、私も無下にはしないわよ」

 離宮での一件はあったが、皇帝はそれから小夜子に約束した通り、国内の膿を出し切り、有言実行できちんと大掃除をしたとアレクシスから聞いている。アレクシスが慕う兄でもある。それならば小夜子も皇帝への、帝国への態度を軟化させる事にした。

 帝国側は今後も小夜子の不興を買う事を回避すべく、小夜子とアレクシス、そしてアリー公女への関り方には慎重になるだろう。自分はともかく愛する夫と娘にも敬意を払って接してくれるならば、小夜子としてはこれ以上帝国に厳しく当たるつもりはない。

 離宮の一件から距離が開いていた帝国と小夜子だが、これで実質の和解となった。


「偉大なる神の使徒、サヨコ様。我がゴウ国は今後もサヨコ様の僕として、あなた様に仕えていく所存。サヨコ様の一の僕と世界へ公表する栄誉、是非我がゴウ国に賜りたく」

「許す!」

「ありがたき幸せにございます!」

 椅子に座り足を組む小夜子の前には、帝国の常駐官となったワンを筆頭とする元ゴウ国使節団信号トリオが平伏している。この者達に関しては、小夜子は好きに土下座をさせている。信号トリオは小夜子が大海原で大型海洋生物の討伐を見せつけた直後から、今回の啓示騒ぎがなくとも既に小夜子の下僕と成り下がっていたのだった。

「私の下僕を名乗る分には好きにすればいいわ。あと前にそっちの王太子にも言ったけど、帝国に対して妙な気を起こすんじゃないわよ。帝国は私とその家族が暮らす国よ。ゴウ国が何か悪さをしたら、私がゴウ国にすぐさま乗り込んで力の限り暴れてやるわ」

「承知しております。全てはサヨコ様の御心のままに」

「分かっているなら良いわ!」

 ゴウ国とは小夜子が相手にマウントし直すだけで、簡単に事は済んだ。

「このような小夜子も懐かしいな」

 小夜子と信号トリオのやり取りを見て、アレクシスは何やら昔を懐かしんでいる。

 思い返せば、小夜子はアレクシスと知り合ってすぐの頃は顔を合わせれば言い合いばかりをしていた。それが今やアレクシスとの間には子供ができ、夫婦になっているのだから人生とは分からないものである。

 それからゴウ国側からは絹の反物やら赤珊瑚の塊やら金の延べ棒やら、高級品の数々が小夜子へと献上された。アリーが後々使う事もあるかもと、その全ては屋敷の宝物庫に納められた。献上品を小夜子が受け取っただけでワン以下信号トリオは感激し咽び泣いていた。

「サヨコが献上品を受け取らなければ、この者共の首が飛んだであろうからな」

 大袈裟なと思っている小夜子にアレクシスが補足説明する。ちなみに首が飛ぶとは比喩ではなく、物理的にという事だそうだ。

 小夜子が望まずともこの世界で最も尊い身となってしまった。小夜子の言動1つで人の人生を変えてしまえる程に。

「私の些細な選択で人が死ぬ事は望まないわ」

「では帝国とゴウ国には、そのようにサヨコの意思を伝えておこう」

 帝国とゴウ国の対応だけで結構な精神的疲労だ。

「諸外国との面談の申し入れは全て拒否しても良いのだぞ」

 げんなりしている小夜子をアレクシスが心配する。

「・・・私の顔を見られなかったというだけで首が飛ぶ外交官が居そうだもの」

「否定はできんな」

 その場合は比喩で済むか物理的にかは、それぞれの国の事情によるだろう。

 気の進まない宿題を片付ける様に、小夜子は一つずつの問題を片付ける事にした。

 ヴァンデール帝国を頼って小夜子への面談を求めてくるのは、神の啓示に現れた使徒が帝国の推挙したSランカー冒険者だと気付いた諸外国の面々だ。小夜子の新聞記事は大量に出回ったので、帝国の国民達も気付いた者は多かっただろう。

 面倒になった小夜子は使徒への謁見を求める諸外国の使者を一堂に集めて言い放った。

「挨拶は受けるけど、縁が無ければあんた達の国と関わる事は無いわ。これ以後の挨拶は不要!私との縁が結べなかったからって、外交官を処罰する事は許さないと国に帰って伝えなさい。聖ハイデンは全てを見ているわ。使徒の言葉を違えたらどうなっても知らないわよ。献上品もこれ以降は不要!寄進は教会にしてちょうだい」

 ぴしゃりと小夜子に言いきられた諸外国の代表者達は、せめてもと貢物を小夜子の前に次々と積み上げて、大人しく謁見の間を退場していった。

 壇上の小夜子の隣に椅子を設けられ、使徒の配偶者として諸外国の外交官達との謁見に同席したアレクシスは、涼しい顔でその様子を眺めながら片手で口元の笑みを隠した。

 小夜子は自分の言葉一つで外交官の首が飛ぶと言ったアレクシスの説明を気にしていたのだ。

 使徒との謁見を望む外交官達を一堂に呼びつけて、使徒との面会が叶った実績だけは作れるように小夜子は場を設けた。

 小夜子の言動は過激だが、基本は善性。何なら人一倍のお人好しですらある。

 最後の外交官が退場していくのを、小夜子は壇上で仁王立ちで眺めていた。

「よし、終わり!帝国での後始末は全部終わり!もう帝国では何もしない!」

 小夜子は雄々しく使徒謁見の終了を宣言した。

「サヨコ、ご苦労だったな」

「うん」

 アレクシスが笑いながら小夜子を引き寄せると、小夜子は大人しくアレクシスの膝の上に収まった。

「帝国は終わったけど、まだ残ってるなぁ」

 アレクシスの首に両腕を回し、体全体で子供のようにしがみ付いてくる小夜子を抱きしめて、アレクシスはまるでアリーにするかのようにポンポンと小夜子の背中を叩く。

「早く全て済ませて帰ってこい。コルネリアにはまたイーサンと行くと良いだろう」

「行きたくないけど、行かないとなあー」

 小夜子はアレクシスの逞しい首筋にグリグリと顔を擦り付ける。アレクシスは小夜子が可愛いやら擽ったいやらで、笑いそうになるのを衛兵の手前堪えている。

 こうして小夜子が甘えてくる時は、多かれ少なかれ精神的疲労を覚えた時だ。今回のような使徒としての振舞いなど、本当は小夜子が望む物ではないのだ。

 しかし小夜子は生真面目な程に、己の責任を果たそうとする。傍若無人に見せながらも、その本質は表面の言動からはかけ離れた物だ。

 小夜子の内面を知れば知るほど、愛しさは募る。その想いの果ての無さに、我ながらアレクシスは驚きを覚えている。

「サヨコ、偉かったな。帰ったら存分に甘やかしてやろう」

 そうアレクシスが言えば、首筋に顔を埋めた小夜子がフフと小さく笑いを漏らした。

 寄り添う2人を前に衛兵達はさりげなく目を伏せ、礼儀正しく見ないふりをする。

 面倒だとぼやきながらも見ず知らずの外交官の身を案じて骨折りする小夜子を、帰ったらじっくりと労わってやらねばと思うアレクシスだった。


 

 ヴァンデール帝国とゴウ国、その周辺の片は付いた事にする。

 そしていよいよ後回しにしても解決はしないコルネリア大公国である。ちなみにガルダン王国については沈黙しているので、今は放置する事にする。

 コルネリア行きの同行者はまたイーサンにお願いした。

「遅いよサヨコ!」

 スチュアート商会のコルネリア支部に到着すると、長い間のらりくらりと返事を躱され続けてプンプンお怒りのライアンが待ち構えていた。

「ごめんごめん。まずはヴァンデール帝国とゴウ国の対応をしてきたのよ。こっちの様子はどう?」

「もう、どんどん騒ぎが大きくなってるよ。コルネリアはそもそも宗教国家だからね。帝国や他国に比べると、国民一人一人も熱心な聖ハイデン信徒なんだ。更に海を渡ってまで聖地巡礼に来る、大公国民に輪をかけて熱心な信徒達もいる。大聖堂には連日、使徒に会いたいという信徒達、各国の駐在員達が押しかけていて、教会は日々のお勤めも出来ない位なんだよ」

「あらー、それは大混乱だわね」

「これは事態が酷くなることはあっても、自然に収まる事はないよ。余りの騒ぎに教会併設の神学校も休校している位なんだ。サヨコ、どうかレオを助けてくれないかい?使徒目当てに押し掛ける信徒たちの様子には集団ヒステリー寸前の危うさを感じるんだ」

「・・・それは良くないわね」

 そこまでライアンの説明を聞き、小夜子はコルネリアの対応を真面目に考える事にする。

「サヨコ、ひとまず大司教猊下の所に伺おうか。教会が望む事と、小夜子が出来る事のすり合わせも必要じゃない?」

 イーサンが提案し、早速小夜子とイーサンは中央協会へとアポなしで飛んだ。

 転移した先は、大公一家と顔合わせをした応接間だ。しかし応接間はあいにく無人で、小夜子とイーサンはそこから大司教への取次ぎをしてもらうべく、部屋の外に出て人影を探す。

「し、使徒様・・・っ!!」

 するとものの数分で、小夜子達は聖職者達に見つかった。聖職者達からは、前世の五体投地よりも激しい全身を使った礼を小夜子は受ける事になった。その礼はイーサンも初見だったらしく、思わず2人はギョッとして固まる。

 案内をされる先々で、聖職者達の痛みも恐れぬ全身を床に投げ打つ最深礼に足を止められつつ、小夜子はどうにか大司教の元へとたどり着いた。

 小夜子出現の一報があり、案内された礼拝堂には大司教と司教枢機卿、そしてその他の司教、祭司といった役職を持つ者全てが集められていた。

 礼拝堂の中央を祭壇まで案内され、その祭壇前には赤い革張りがされた祭祀用の大司教の椅子が置かれている。そして大司教は中央の赤絨毯を挟んで右側に。司教枢機卿のローランドは左側に立ち小夜子とイーサンを待ち構えていた。

 促されるまま中央を進み、装飾の美しい赤い椅子の前まで進み、後ろを振り返った小夜子は、大声で聖職者たちの行動を制止した。

「止めい!やーめーて!!大司教、年寄りの冷や水にもほどがあるわよ!せっかく健康になったのに、無茶して骨折でもしたらどうするの!他の聖職者達にも伝えて。いきなり両手を揃えて床に身を投げ出すなんて正気の沙汰じゃないわ!そんな危ない真似、私も聖ハイデンも絶対に望まないから!!」

 前世の五体投地はもっとゆったりと、膝と肘を地面に付け神に平伏するようなものだったと記憶している。なぜ両手を体の脇に揃えて硬い床に身を投げ出すような危険行為が最深礼となってしまったのか。小夜子達の目の前で顎を打ったり顔面を打った聖職者もいた。驚くだけでありがたい事は何もないので二度としないで欲しい。

「使徒様がそのようにおっしゃるのでしたら、承知いたしました」

 前方の赤絨毯に飛び込もうと膝を曲げていた大司教が姿勢を直したので、小夜子はやれやれと用意された赤い椅子に腰を降ろした。小夜子の後ろにはイーサンが立つ。

 すると小夜子が立ち上がり、イーサンを椅子の前に引っ張って来て無理やり座らせる。そのイーサンの膝の上に横抱きにされるように小夜子が収まった。

「・・・サヨコ、これ変じゃない?」

「イーサンは私の家臣じゃないもの。私の後ろにも前にも立たないで」

 何やら赤い椅子の周囲でバタバタしている小夜子とイーサンを、大司教以下聖職者達は声を掛ける事も出来ずに見守っていた。そして2人が落ち着いたとみて大司教がサヨコに挨拶の口上を上げようとしたが、またも小夜子が阻止する。

「大司教。私は聖ハイデンと個人的に繋がりを持ったけど、教会の組織に入るつもりはない。何か困り事があれば私の出来る範囲で協力しても良いけど、それは大司教がライアンの友達だからよ。ライアンがレオを助けてくれって何度も頼むから、今日私はここに来たわけ。感謝するならライアンにして頂戴」

「・・・かしこまりました。全ては使徒様の御心のままに」

 小夜子の先制パンチを受け、大司教以下の聖職者達は胸に手を当て小夜子に向けて首を垂れた。

「で、ライアンからも話は聞いたけど。毎日信徒達が押し寄せてくるんだって?それが一番の困りごとなの?」

「それもありますが、各国から使徒様に関する問い合わせが我が国に殺到しております。我々も使徒様の事を断りもなく外部に漏らす訳にもいかず、沈黙するしかない状況でした。先週からは入国者も急増しております。首都の宿泊施設はほぼ満室で、このままでは入国制限を考えなければなりません。もし、使徒様にご助力を願えるならば、首都に集まっている信徒達に一度その御尊顔をお見せ頂ければと・・・」

 聞けば一般に開放されている礼拝堂ではドミノ倒しが起こり、幸い死者は出なかったが多くの負傷者が出たのだそうだ。そのような事故があっても、礼拝堂には連日信徒達が押し寄せ、祭壇前の聖ハイデンを目指してギュウギュウの大混雑になるのだという。入口から出口までが元々一方通行だったのが幸いしたが、そうでなければ大事故が起こりかねない状況だ。

「分かった。じゃあ、コルネリアで1番大勢が集まれる場所、海岸が良いかな。2日後の午前10時。使徒の顔を見たい人は海岸に集まるように周知してちょうだい。声が遠くまで届くようにするから、海岸に来られなくても市街地の温泉辺りとかからも見られるようにするから。遠くからでも見えるようにピカピカ光るようにしておくわ。最初に言っとくけど、私は教会の看板になるつもりは無いわよ。その日は私の言葉を話すだけ。そのせいで使徒に対しての願望やイメージが壊れるかもしれないけど、それでも良ければ人を集めておいて」

「信徒達へのご配慮、心から感謝申し上げます」

 大司教以下、聖職者達が再び小夜子に頭を下げた。

 それをイーサンの膝の上から小夜子は涼しい顔で受け流した。

「お礼なんて気が早いわよ。私は信徒達に耳触りの良い事を言うつもりは無いから。聖ハイデンへの純粋な信仰心しか持たないのなら、人を押しのけてまで、人にケガさせてまで、礼拝堂に押し掛けるなんて自分本位な真似はしないと思うのよ。なんだか自分だけが良ければそれでいいって感じの、人の醜さを感じさせるわね。でもまあ、その醜さもひっくるめて人間って事なのかしら?」

 聖職者達は小夜子の言葉に反論も出来ずに黙る。

 イーサンの首に両腕を回しながら聖職者達を流し目で見やる小夜子は、使徒と言うよりまるで人を誘惑し堕落させる魔の者のようであった。若い聖職者などは頬を赤らめて、魅入られたように小夜子を見上げている。

「じゃ。大司教、頼んだわよ!」

 妙な空気をものともせず、用事の済んだ小夜子は礼拝堂からイーサンもろとも姿を消した。

 転移で移動した先は、商会が押さえてくれていた同じホテルの同じ部屋だった。

 礼拝堂と変わらずに小夜子を横抱きしていたイーサンは、小夜子をソファに降ろしてからバーカウンターで飲み物を作り始める。

「サヨコ。信徒を集めるなんて、何を言うか決めてるの?」

「私はそもそも信徒達に用事は無いのよ?でも信徒達が私に会いたいって騒いでるみたいだから、何の用事か聞いてみようかと思って。腹が立ったら遠慮なく暴れて、使徒への幻想をぶっ壊してやろうと思ってるわ」

 イーサンは笑いながら小夜子の前にアイスティーを置く。

「なんだか小夜子は大暴れしたいみたいだね。信徒達も小夜子を怒らせるなんて命知らずな真似をしないと良いんだけど」

 イーサンは小夜子の心情を的確に言い当て、そして2日後の海岸で巻き起こる騒ぎを正しく予言したのだった。



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