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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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【閑話】オーレイ村 温泉郷への道 ④ー3

「認めよう」

「・・・いいの?」

 自分で言い出しておきながら、あっけなく要望が通った事にイーサンは喜ぶより驚いた。

 ガルダン王国王都ブラッドレーの最西部、マキア山脈が自然の城壁として抱き込むように両腕を伸ばすその内部に聳え立つ白亜の王城。その中の一室にて、ガルダン王国の英雄イーサン・バトラーを囲んで、数名が朝早くから会議を開いていた。このメンバーの中の新国王となったロバート・ガルダンとアレン・ウィンスロットとは学友であったため、不意を突かれると思わず素が出てしまうイーサンであった。しかし内々の話し合いである今日は、参加者同士のある程度の砕けた物言いも国王は許すと宣言している。

 今日の会議の参加者は、即位式を半年後に控えている先代ジャスティン王の第一王子であったロバート王と、ガルダン王国軍軍団長に新たに就任したアレン・ウィンスロット、引き続き宰相職にあるセシル侯爵、そして今回バトラー子爵へ与えられる領地の選定のため呼び出されたイーサンの伯父であるウォリック伯爵と、城塞都市グレーデンより東方に領地を持つシール伯爵の5名であった。

 今より3カ月ほど前、緑あふれる初夏の陽気の中、王都ブラッドレーに冒険者ギルド査問官が到着した。それから王城で開かれた査問会、国王の交代劇は未だ生々しくこの室内にいる者達全員の記憶に残っている。冒険者ギルドに国体の刷新を示すために必要な前国王の退位であった。

 国王の交代と共に、新旧の国政体制が入れ替わり、要職に就く者達の多くの交代劇も起こった。宰相だけは代わりを務められる者がおらず続投となったが、人望も能力もあった王国軍軍団長ダグラス・ブルームハルトの交代までもが余儀なくされた。国王の専横を許したとして、側近の殆どが失職した形となったのだった。ガルダン王国にまさに自らの手足を断ち切るような苛烈な政変が起ったのだが、その改革の後押しをしたのは、断ち切られる手足となった旧体制の良識のある側近、重鎮達でもあった。

 そして若々しく生まれ変わったガルダン王国ではあるが、その影響はまだ王城、王都内のみに留まっている。新しい王の統治が辺境まで行き渡るには数年の時を有するだろう。

「アレンからオーレイ地方に関する報告が上がっている。かの地方には冒険者サヨコが手塩にかけて開拓した集落があるという。イーサン、間違いないか?」

「はい」

 王の発言に室内はざわついた。

「それでは尚更下手な貴族に触らせるわけには行きますまい」

「だが我が甥のイーサンなら適任でしょうな」

「しかし断りなく領主を立てるなど、冒険者サヨコの逆鱗に再び触れる事にならないだろうか」

 意見が飛び交う中、宰相の発言に室内がシンと静まり返った。

 全員が昨年の大広間での出来事をよく覚えていた。ガルダン王国が大きく対応を誤り、冒険者ギルドから警告を発せられたあの悪夢の日だ。その事件により査問官が国に派遣され、ガルダン王国が生まれ変わるきっかけになったのだが、再び警告が発せられるような事態は絶対に回避しなければならない。

「それに関しては、サヨコには事後報告でも大丈夫かと。実は問題が既に発生しておりまして、オーレイ地方にちょっかいを出し、住民に迷惑をかけた下位貴族がおりました。領主不在の期間が長引くと良い事は無いかと思います。オーレイの集落を守る為であれば、サヨコも理解してくれます」

「その貴族はいったいどこの馬鹿だ!次に冒険者サヨコを怒らせれば、ギルドがどう出てくる事か!!」

 シール伯爵が激高する。

 査問会では様々な事が詳らかにされた。イーサンとサヨコの報奨金にガルダン王が差をつけ、王都の危機となり得たジャイアントモール2匹の討伐にたった500万ゴールドしか支払わなかった事も明らかにされ、査問会の議事録にありのままに記録された。その時の事は、新国王も宰相も未だに思い出しては頭を抱えたくなる。しかし、その光景を目の前で見ながら王を諫めなかったのも自分達なのである。

 査問会では、サヨコに対して国がその働きを正当に評価しなかった事も大きな問題だと指摘されたのだった。

「オーレイ地方に関しては早急に領主を立て、保護した方が良さそうですね。幸い前回は、多少王城で暴れた位の騒ぎで済みました。しかしオーレイに何らかの被害が発生した場合、サヨコがどれほど怒り狂い暴れるか、加害者側がどれほどの報復を受けるかは予測がつきません」

「・・・・・」

 深刻な表情で発言するアレン・ウィンスロットの隣で、トマス・ウォリックは無言だった。過去に小夜子にちょっかいを掛けて嫌われた大馬鹿者がこの室内には2人も揃っていた。

 アレンもトマスも小夜子の驚くべき力を目の前で見ている。しかし破壊行為を行うが、小夜子はその後始末もしっかりとしていく。壊れた設備を修繕しケガ人には治癒魔法をかけてやる人の好い一面もあった。それは王城で破壊した装飾華美な石柱の修復すらしている辺りにも表れている。

 根は悪人ではない。しかし、感情が豊かで怒りの沸点は低いように思える。国としては、対応の仕方は慎重を期すべき人物だった。

「私はオーレイ地方をバトラー子爵領としていただければと思います。何人たりとも手出しをしないよう、私が守っていきます」

「イーサン、それは構わないのだが、オーレイ地方は領民が少なすぎるだろう。少ないと言うより、村程の規模もない。税収もほぼ無いに等しいだろうし、我が国の英雄に対しての褒賞としてはあまりにもささやか過ぎる」

「冒険者ギルドの手前もあるが、バトラー子爵には豊かな領地を持ってもらいたい所だ」

 穏やかに話を進めるガルダン王に宰相も頷く。国としては、英雄であり若くして子爵となったイーサンに社会的地位に見合う富も与えたいのだ。

「新体制となったガルダン王国は、冒険者と冒険者ギルドに理不尽な行いをしないと俺は信じていますよ」

「もちろんだ。我々は冒険者ギルドの信用を損なうような真似は二度としない。国内の貴族にも即位式の際には今後の体制について宣言をする。しかし、辺境貴族の意識を変えるには時間がかかるだろうな」

 冒険者ギルド、冒険者達への対応についての注意喚起が査問会後に王国貴族達へ通達された。しかし、この通達をまともに取り合わず変わらない者、これまでにない注意喚起に注目し、時代の変化を敏感に感じ取る者、それぞれに分かれる所だろう。

 中央の変化を実感できない辺境貴族であれば尚更変わる事は難しい。冒険者の装いのイーサンに対してのエルマー男爵の初手の態度をイーサンは思い返す。

「だからこそ、辺境の領地を俺に下さい。俺が辺境貴族達の意識を変えてみせる。元々空白地帯だ。誰も損はしないでしょう?」

「うん。オーレイは希望通りにしよう。だが、領地を他にも持ってもらいたいという話だよ、イーサン」

 イーサンは国王の話には笑みを深めながらも諾と言わない。しかしロバート王も折れずに領地取得について更にイーサンに迫る。

 イーサンとしてはオーレイ地方の領主になる覚悟はしてきたのだが、それ以外の領地も治めるとなるとちょっと待ってくれと言いたい。そもそも領地経営などイーサンは学んだことも無い。経験も実績もない領主に突然生活を預ける事になるのは、領民にとっても不幸だろう。

「イーサン、それならファリンも統治したらどうだ。グランシールの隣だし、何か困り事があれば私がすぐに相談に乗れるぞ」

「ファリンですか・・・」

 困り事の原因に進んでなりそうなトマスが、ファリンの領主になる事をイーサンに持ち掛ける。

「そこそこ栄えているし、安定している町だぞ。役人もそのまま使わせてやる。悪い話ではないだろう?」

「しかしウォリック伯爵、飛び地では管理も大変だろう。ファリンとオーレイ地方はだいぶ離れているぞ。バトラー子爵、それなら私の領地であるポート町を譲ろう」

「ポート町ですか?」

 ファリンには興味を示さなかったイーサンだったが、シール伯爵の口から出た良く知る辺境の町の名前には思わず反応した。

「規模は小さいのだが、オーレイとは隣地だ。税収にこだわらないのなら、ポート町もオーレイと治めたらどうだろうか?町長はしっかりした男だ。町の運営も任せっきりなのだが永らく安定している」

「実は下位貴族とのトラブルの中でポート町の住民を救助しました。シール伯爵には、断りなくポート町に介入する形になった事をお詫びします」

「住民を助けてもらったなら感謝こそすれ、文句などないよ」

 シール伯爵は笑いながらイーサンの報告を受けた。

「最近は新たな試みが成功して活気付いているようですが、シール伯爵はポート町を手放してしまってよろしいのですか?」

「構わんよ。辺境東部の空白地帯をイーサン・バトラーが治めてくれるのなら、ポート町を献上しても釣りがくる。グレーデンと並び辺境の防衛を担ってもらえるならこれほど心強い事は無い。是非良い隣人として、今後ともお付き合いいただきたい」

「・・・実はポート町の町長を知っています。話をしてみて、それから決めても良いでしょうか」

「納得いくまで検討してくれ。良い返事を待っているよ」

「イーサン、ファリンは要らないのかな」

 思わずシール伯爵と話が弾んでしまったイーサンだったが、受け取る領地の検討のためにトマスも一応呼ばれているのだ。

「伯父上、ファリンは要りません」

 イーサンの返答にトマスはあからさまに肩を落とした。

「いい加減、何か謝罪の品を受け取ってくれないか、イーサン。当のサヨコは国外にいるし、お前の伯父を哀れに思うならどうかファリンを受け取っておくれ」

「ウォリック伯爵。失礼ながらファリンはめぼしい産業も無い、グレーデンとグランシールに挟まれて補給地となっているだけの町ではないか。バトラー子爵にとって飛び地を手に入れる手間をかける程の旨味もなかろう」

「シール伯爵、それを言ったらポート町はもっと規模も小さい。税収だけでいったらファリンと比較にもならないだろう」

 隣り合った領地の領主同士、面識があるからと言って仲が良いとは限らない。

「ウォリック伯爵、独りよがりな善意の押し付けはバトラー子爵も迷惑であろう。バトラー子爵は何の思い入れもないファリンより、ポート町が好ましいとの事だ」

「辺境最東部の小さな町や、空白地帯を貰った所で何になると言うんだ!イーサン、ファリンを黙って貰っておきなさい。何もせずとも税収が入るんだ、悪い話ではないだろう?」

「本当に!昔から相手の話を聞かない男だな!トマス、お前の物の役にも立たんその両耳は家鼠にでも食わせてしまえ!バトラー子爵は税収に重きを置いていないと言っているだろう!そんなだから娘にも嫌われるのだ!」

「ベンジャミン!言って良い事と悪い事があるぞ!」

 50も過ぎた良い年をした男2人だが、興奮のあまりつい学友の時代にまで気持ちが遡ってしまう。

「両伯爵、王の御前であるぞ」

 呆れた宰相が止めに入って、2人はそろって口を噤んだ。

「えーと、伯父上。俺はやっぱり、ファリンは要りません」

 そしていくらごり押しされても、これに関してはイーサンの考えも変わらなかった。

「伯父上、謝罪はいつか機会があればサヨコへ。俺に謝ってもらう必要ありません。しかしサヨコは、グランシールにはもう訪れないでしょう」

「そうだろうな」

 王に対してすら怯まず怒りを爆発させる小夜子だ。相手がトマスであれば尚更遠慮など小夜子がする訳も無い。

 それでもウォリック邸での一件では、小夜子はイーサンに気を使って自分を抑えていたのだ。それなのに、更にトマスは小夜子へ嫌がらせを働いた。王都への立ち入りを一時禁じられた小夜子のトマスへ対する心証は悪いに決まっている。

「あの日大広間で、冒険者サヨコを侮って無礼を働いた旧体制の者達は悉く失脚した。私も失脚すべき旧体制側の者であると理解しております」

 神妙に首を垂れたトマスに、若き国王は柔らかく微笑む

「まあ、ウォリック伯爵は大広間では騒ぎに乗らず大人しくしていたからね。国としては処分を言い渡す対象とは考えていない。その辺はイーサンとサヨコの裁量に任せるよ」

「御意に」

 さすがに国王の前では殊勝な態度を見せるトマスだった。

 この日の結論としては、イーサンが望む領地を与えるという形になった。オーレイ地方はバトラー子爵の領地となる事で決まった。

「シール伯爵の統治にポート町の住民達は満足していたように思います。俺が領主となる事を住民達が認めてくれるのか、ちょっと話をしてきます」

 領主が誰に変わろうが領民達が不満をいう事など許されないものであるが、イーサンはそのように言う。宰相も両伯爵も何故そこまで領民に気遣うのかとイーサンの行いには理解し難いものを感じたが、若き王は笑顔で1つ頷いた。

「領民と領主の新しい形をイーサンなら作れるんじゃないかな。イーサン、自分の満足の行くようにして欲しい。治める領地が決まったら教えておくれ」

「御意」

 自分の気持ちを固めるべく、イーサンはすぐにポート町へと飛んだ。

 会議室に取り残された面々は、姿を消したイーサンが座っていた場所を何となく眺めていた。

 国の英雄と呼ばれるに相応しい実力を元から持っていたイーサンだが、その力にはこの一年で更に磨きがかかった。

 昨年から国内に現れるようになった大型魔獣の討伐要請が各地からイーサンに寄せられてくるが、イーサンは転移で瞬く間に現地に向かい、短時間で魔獣を仕留める。その剣戟は今まで以上に重さと威力を増しており、討伐に居合わせた冒険者も軍人もその凄まじい剣舞に呼吸すら忘れて見入る程だった。前日は国境付近で魔獣の討伐をしていたかと思えば、翌日には王都に現れる。神出鬼没のイーサンは国の要としてまさに八面六臂の活躍を見せている。

「元々突出した能力を持っていましたが、イーサンはますます人間離れしていくようです」

「そうだね、アレン。だが、我々との友情は変わらずに持っていてもらいたいな」

「二心を持たず誠実に相手に接していれば、自然と友情は続いていくものですよ」

 まだ若者の域にある国王と王国軍軍団長に、ついシール伯爵は忠告めいた一言を言う。

「その通りです。このように我々の友情も40年の長きに渡り続いておりますゆえ」

「陛下、閣下。悪友との悪縁は一度繋がってしまえば切りたくともなかなか切れぬ物でございます。付き合う者はしっかりとお選びなさいませ」

「ベンジャミン、それはどういう意味かな?」

「言葉通りの意味だが」

「両伯爵、陛下の御前であるぞ」

 良い年をした両伯爵が宰相から2度目の注意を受けた所で、内々の会議は終了となった。




 

 イーサンは王城の会議室から一気にポート町の入り口まで飛んだ。

 空間魔法から派生する転移魔法と収納魔法は、この1年で更に飛距離と収納量の上限を上げる事に成功した。イーサンは自分にまだ伸び代がある事に驚いた。今では王国の端から端まで、1日1回という回数制限はあるが転移する事が出来る。風魔法と水魔法もレベルかスキルが上がったようで、特に水魔法から派生したらしい治癒魔法と、氷片を出せるレベルのささやかな氷魔法は日常生活に役に立っている。

 これも小夜子と対等の立場になりたいと言うイーサンの想いからくる努力の賜物だったが、既にイーサンのレベルが常人と大きな隔たりがある事にイーサンは気付いていない。

 イーサンはつい先日訪れたばかりのポート町に足を踏み入れる。

 前回はエルマー男爵との一件もありゆっくり出来なかったが、夏から秋へと季節の変わったポート町の風景をイーサンはのんびりと眺めた。

 秋も深まり、花の種類も少なくなっているかと思ったが、ポート町はまだまだ花咲き誇る町だった。噴水の周りには観光客が集まっているし、広場には数件土産物屋や軽食の屋台も出ている。そちらも観光客で賑わっており、小さいながらも活気がある。観光客も笑顔だが、その対応をする住民達も楽しそうに笑っている。

 そして以前と様子が変わっている事がもう1つ。子供達の数が多い。それも服装からして冒険者見習いと言った所だ。5、6人の子供達に対して大人の冒険者が1人必ず付き添っている。徒歩で移動する者達もいれば、小夜子がギルドに提供したバギーに乗り込み出発しようとしている者達もいる。

 イーサンがポート町のギルドに顔を出すと、昼前という事でギルド内は閑散としていた。ノエルの所在を尋ねると、丁度子供達の訓練の付き添いで出かけてしまったという事だった。戻ったら森の小鳥亭に顔を出してもらうように伝言を頼むと、イーサンは広場の噴水前のベンチに座りぼんやりと噴水と花を眺めていた。

「イーサン殿、どうされました」

 聞き覚えのある声にイーサンが振り返るとジェフが立っていた。

 どうしてジェフに見つかったのかと思えば、ちらほらとイーサンを見て手を振って来る住民達がいる。彼らが町長に知らせてくれたのかと、イーサンも住民達に手を振り返した。ジェフがイーサンに声を掛けた事で、住民達も安心してまた自分の仕事に戻っていった。

「ジェフ、王都で色々相談してきたよ。それで、ジェフとノエルに報告に来たんだ。でもノエルは町の外に出ているみたいだったから」

「それなら私にもお声がけ下さればよろしかったのに」

「俺はギルマスと町長より暇だからね。2人の仕事が終わるまで待ってるよ」

 イーサンから話があると言われれば何を置いてもジェフもノエルもすぐさま駆けつけると言うのに、イーサンは自分の為には身分を笠に着るような事をしない。フッとジェフの口角は自然と上がった。

「ではノエルの戻りを待って、2人で話をお伺いしましょう。それまでよろしければ、私の家でお待ちください。昼食も一緒にいかがですか」

「ありがとう」

 ジェフの自宅にはその妻と手伝いの女性がいて、昼食を取った後はジェフとノエルの仕事が終わるまでイーサンはジェフの家で待たせてもらう事になった。



評価、ブクマ、いいね、ありがとうございます。


思いのほか長くなっています。

自己満足、自家発電の為の拙作ですが楽しんでいただけると嬉しいです。

必ず完結させます。

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