臨時護衛の小夜子 3
「ライアン様の護衛となる力があるのか、私がこの目で確かめさせてもらう!」
凛々しく叫ぶシンシアはドレスから着替え、町の自警団員が身に付けているようなカーキ色の上下のパンツスタイルになっている。
「シンシア、いったい何なの?護衛って何の話?」
威勢の良いシンシアに小夜子が困惑していると、廊下の先のライアンの部屋から当人が顔を出した。
「ちょっと、ライアン。シンシアはどうしちゃったの?」
小夜子の言葉にシンシアの眉が跳ね上がる。
「サヨコ、ライアン様を呼び捨てにするな!いくら黄角の恩人でも呼び捨てはダメだ!スチュアート元侯爵様への礼節を守らないか!」
「僕は別に構わないけど。僕もサヨコと呼んでいいかな」
「いいわよ。ライアンは侯爵家の元ご当主様なのね」
「サヨコ!前ご当主様に向かって何たる口の利き方だ!」
「シンシア、もうやめなさい。君こそ私の命の恩人に対して礼節を守りなさい」
ライアンがシンシアの態度をたしなめるも、ライアンへの態度を改めない小夜子を前にシンシアのボルテージはどんどん上がっていく。
「サヨコ、済まない。私の思い付きをシンシアが真に受けてしまってね。あの子の言う事は気にしないでいいから」
「サヨコ、決闘だ!!」
ライアンと話をしていた小夜子の胸元に、赤い毛糸の暖かそうなシンシアの手袋が投げつけられた。
「ライアン、これ、どうしたらいい?」
「・・・サヨコ。悪いけど、うちの子に優しくご指導いただけるかなあ」
ライアンは長い溜息とともに、小夜子にシンシアの相手を頼んだ。
シンシアは至極真剣な様子なのだが、療養中のライアンにこれ以上の余計な心労を掛けてはいけない。
ライアンの話すら受け付けないシンシアを小夜子はすぐさまギルドの訓練場に連れ出し、ライアンの依頼通りに優しく指導したのだった。
「うっ、ううっ、うっ・・・」
「ごめんてば。でも手加減はしたわよ?」
ギルドの訓練場で、雪塗れ泥塗れで地べたに座り込み悔し泣きをするシンシアを、小夜子は呆れ半分で慰めている。
一応、訓練名目で場所を提供したジュードも何とも言えない顔でシンシアを見守っている。
シンシアは威勢だけは良かったが、驚くほど弱かった。
最初に一発、腹に弱いパンチを受けてやった小夜子が軽く拳を手で払いのけると、シンシアは簡単に地面に転がってしまったのだった。その後のシンシアは繰り出す攻撃の全てを小夜子に払われ、その都度訓練場に転がりダメージを勝手に蓄積し、とうとうギブアップした。
「お嬢ちゃん、ライアン様の頼みもあったから今回は特別場所を貸したが、冒険者同士だって決闘は許されていないんだぞ。ましてや嬢ちゃんは、その、戦えないだろ?だからライアン様からギルドへ護衛の依頼も出ていたはずだが」
悪化する心臓病を抱えながら帝都からどうにかマルキアまで辿り着いたが、マルキアでライアンは倒れてしまった。
体調はなかなか回復せず、馬車の移動もライアンは厳しい状態で、コルネリア大公国までの護衛契約をしていた冒険者とはマルキアで一度契約を解除したのだという。春先まで療養しようと思っていた矢先、長年探し求めていた黄角を持つ小夜子と出会い、旅の再開をライアンは考え始めたと言う訳だった。
ライアンが依頼した護衛は男女を問わずに4名。護衛対象者はライアンとシンシアという事だった。
冬の旅は他の季節に比べてより危険を伴う。
積雪により道が悪く、事故に遭うリスクも高いのだが、冬は旅人が極端に減る為に盗賊団に狙われるリスクも跳ね上がるのだ。盗賊団も旅人が極端に減る冬は、数少ない旅人が自分の縄張りの近くを通りかかるのを手ぐすね引いて待っている。冬場の盗賊団は近隣の村や町を襲う事すらあるが、手間と労力を考えれば旅人を襲う方が容易い。
それほどにリスクを伴う冬の旅の護衛であるので依頼料も通常よりも跳ね上がり、マルキアからコルネリア大公国までの契約で依頼料は一人につき1000万ゴールドの提示がなされていた。
「私はライアン様の為なら命も惜しくない!いざとなれば戦うし、もしもの時には肉の盾位にはなれる!」
「この、おバカ」
「いたいっ!」
小夜子は思わず地面に座り込んだままのシンシアの頭部に拳骨を落とした。
シンシアは堪らず頭を押さえて地面に蹲った。
「ライアンがあんたを盾にして自分の命を守る訳がないでしょ。数日の付き合いしかないけど、端から見ていればライアンがどれだけあんたを可愛がっているか一目瞭然よ。それを、ライアンの気持ちも知らずにまったく!あんたの無茶と無知と無謀が元でライアンか、周りの人間の誰かが命を落としてもいいの?あんたは誰かが死ななきゃ自分の経験と実力の無さが理解できないのかしら?あんたが護衛だなんてとんでもない。弱すぎて話にならないわ!」
小夜子に叱られてシンシアは本格的に泣き出してしまった。
小夜子はシンシアに教育的指導を行う前に、彼女を鑑定したのだが大人びた顔と成熟した身体に反して年齢はなんと14歳だったのだ。年齢が分かれば、見た目に反した青い言動にも納得がいった。シンシアはドレスを身に纏い黙っていれば25歳前後の大人の女性に十分に見える。逆に年相応の娘らしい服装は、シンシアには全く似合わないだろう。シンシアが身に付けている物は、周囲の大人達が旅の最中に悪目立ちしないように用意してくれた物ではないかと推測される。
ちなみに、シンシアのステータスはガルダン王国の一般国民程度のHPとMPで、魔法適性も、身に付けているスキルもない。戦闘職とはとても言えなかった。
「お嬢さん、・・・シンシアだったか。ライアン様にあまり心配をかけるんじゃないぞ。君がライアン様を慕っているのは良くわかる。でもライアン様に仕える方法を間違えないようにな。君は自分の力と立場を良く理解して、周りを危険に晒さない様にしっかり守られていなければならない。分かるな?」
シンシアはジュードの言葉には不承不承ながら頷いた。
小夜子は泥まみれ涙まみれのシンシアに清浄魔法をかけてやる。ついでに拳骨を落とした頭部から擦り傷だらけの体全体にも軽く治癒魔法をかけてやった。
シンシアは自分の身に起きた事に驚いて小夜子を見上げた。
「シンシア。君が喧嘩を売った相手は、神秘の国、ガルダン王国から来たAランク冒険者だぞ。並大抵の者では到達できない、マキア山脈の高地に生息するクロイワヤギの黄角を持ち帰る人物だ。それがどういう事なのか理解できない君が、そもそも小夜子に太刀打ちできるはずもない。君はサヨコが優しくしてくれた事に、本当に感謝しなくてはいけない」
「・・・ごめんなさい・・」
小夜子の魔術を体験し、やっとシンシアは小夜子が敵う筈もない相手なのだと理解した。
大人びた容姿のシンシアがしょんぼりと稚く謝る様子に、小夜子とジュードもやれやれと胸を撫でおろしたのだった。
「何度も押し掛けて悪かったわね。じゃあ、シンシアと宿に戻るわ」
「もとから暇だから構わないさ。またいつでも来てくれ」
気の良いジュードと小夜子達は別れ、再び宿に戻った。
宿に帰ると、ライアンが食堂で2人の帰りを待っていた。
「ただいまライアン。心配しなくても、ちゃんと仲直りしたわよ」
小夜子は自分の体の後ろに隠れている、自分よりも大きなシンシアをぐいとライアンの前に押し出した。
「あ・・、あの。ライアン様・・・」
ライアンを前に言葉を発する事が出来ず、俯いてしまうシンシアにライアンは目を細める。
「どれ、お茶の時間だね。ティータイムとしようじゃないか。サヨコも一緒にどうかな」
「喜んで」
ライアンを前にシンシアはまだモジモジとしていたが、小夜子はさっさとライアンと一緒のテーブルについた。それから紅茶と、リンゴジャム、カスタードパイが3人前テーブルに並べられて3時のお茶の時間となった。
「この辺は食事も美味しいけど、特にお茶とお菓子が最高だわ。ジャムは紅茶にもパイにも合うわね。山間の集落のコーヒーもすごく美味しかったの」
「へえ、サヨコは山の集落に行ったことがあるのかい?実に興味深いね。帝都と比べてこの辺りは古き良き物が沢山残っていて、子供の頃を僕に思い出させるんだ。山間の集落も趣深いんだろうねえ」
「良い所だったわよ」
「うぐっ」
ライアンと会話をしながら小夜子は隣で固まっているシンシアの口に一口大のカスタードパイを突っ込んだ。目を白黒させるシンシアに、小夜子はジャムをたっぷり落とした紅茶を持たせる。シンシアは慌てて紅茶を口に含んだ。少し熱かったのか、シンシアは顔を赤らめ涙目になっている。
こうしてみてみればシンシアは図体ばかりが大きい、まごう事なき子供だった。
「シンシア、私は怒ってないし、ライアンも怒ってないわよ。ねえ?」
「うん。シンシア」
ライアンがシンシアに声を掛けると、シンシアが緊張の面持ちでライアンを見た。
「今日の事は君が僕を思ってくれての事だと分かっている。怒ってはいないが、君の事が僕は心配だ。怖い物を知らずに不用意な言動を取れば、命を失う事にも繋がりかねない。サヨコが優しい人だったから今回は大事にならなかった。けれども、今後の道行きで同じ行動を取り続ければ、僕も君も命が幾つあっても足りないよ。僕は君を自分の護衛とは考えていない。君は僕の人生の最後の旅に付き合ってくれるという、奇特で大切な旅の友だよ」
ライアンからジュードと同じように諭されて、シンシアは俯いて再びポロポロと泣き始めてしまった。
聞けばシンシアは多少の護身術を習った程度で、要人の護衛を出来るほどの力などもちろん持っていない。しかし自分の兄が商会で従業員兼用心棒を務めている事と、持ち前のポジティブさ、そして若さゆえの根拠の無い自信もあり、必要があれば自分もライアンの護衛を務めようと日頃から考えていたらしい。
その必要がある事態が、護衛任務を受けてくれる冒険者がなかなか現れない今だと考えていたのだが、そこにポッと出の小夜子が現れた。
そしてライアンの言葉を真に受けて、自分を差し置いてライアンの護衛をする実力があるのか力を試してやる、という思考になったのだそうだ。
決闘騒ぎを起こした訳をライアンが小夜子に説明している横でシンシアはいつしか泣き止み、今度は俯いて耳まで真っ赤になっている。
シンシアにとって今日という日は黒歴史になるかもしれないが、間違えて、恥を知って人は大人になっていくのだ。まずは人を守るどころか自分の身も守れない程に自分は弱いと自覚出来たのなら、今日の所は上出来だろう。
「そういえば、ライアンは護衛依頼をギルドに出していたわね」
そもそもシンシアから決闘を申し込まれたのは、小夜子がライアンの護衛足り得るのか力を試すとシンシアが息巻いたからだった。
それから小夜子はライアンの旅について話を聞いた。
今現在はスチュアート商会の会長をしているが、年明けには息子に会長職を譲り渡し隠居する予定のライアンだった。侯爵家と商会は無事に代替わりを終え、家族にも従業員にも恵まれて幸せな人生だったが1つだけ心残りがあった。
ライアンには幼馴染と交わした、未だ果たせていない約束があったのだ。
幼少の頃、スチュアート侯爵家の嫡男のライアンは何不自由なく帝都で暮らしていた。
ある日父親に連れられて行った帝都の中央協会で、ライアンは1人の少年を紹介された。白銀の長い髪を真っ直ぐ腰まで下ろした金の瞳を持つ少年は、まるで教会の天井画にある聖ハイデンを天に導く天使のような美しさだった。
教会で出会った少年とは、それから半年ほど教会内で交流を持つようになった。何度か会う内に、少年はコルネリア大公国から来た事、いつ呼び戻されるか分からぬ身だが、それまでは帝国の教会預かりになっている事などをライアンに教えてくれた。
少年よりも2つ年下だったライアンはその少年の抱える事情など察する事は出来ず、ただ無邪気に少年と会う事を楽しみにしていた。屈託の無いライアンにいつしか少年も心を許すようになった。
物静かな少年だったが、重ねる交流の中で1つだけライアンに願ったことがあった。
もし、自分が国に連れ戻される事があったら、いつか自分に会いにコルネリアに来てほしい。
幼い子供同士の、果たせるとも思えない約束だった。
少年から請われ、ライアンはそれを承諾した。
それから数日して、少年はライアンに別れも告げずに突然にコルネリア大公国に帰ってしまったのだった。
「僕の体は数年前から調子が悪かったんだけど、いよいよ人生の終わりが見えてきた時、教会で出会った少年との約束をふと思い出してね。この国ではやり残した事はもうないから、後はコルネリアまで行って、聖ハイデンのお膝元で生涯を終えるのも良いかと思ってね」
聞けば、ライアンの妻は5年前に病で亡くなったという事だった。
最愛の妻の最期を看取り、子供達もそれぞれが自立した。そして自分の人生に思い残す事はないかと、これまでを振り返った時に数十年ぶりに幼い頃に出会った美しい少年の事を思い出した。
そして、命の尽きる前にコルネリア大公国へ行ってみたいという衝動が、突如ライアンの中に沸き起こった。その衝動は、病に侵された老人を旅立たせるほどの、ライアンの周囲も驚くほどの熱量だった。
結果、ライアンはシンシアを供に護衛を雇い、帝都を旅立つこととなった。
「よく家族が許したわね。胸に爆弾を抱えているようなものじゃない」
「僕の最期の我儘を、子供達は許してくれてね。金はいくら使っても構わないから、体に無理のないようにしろと言ってくれた。本当に出来た子供達だよね。子供や親族達とは今生の別れを済ませて来たんだ。そうしてせっかく、ここまでお膳立てしてもらったのだけど、情けなくもマルキアで動けなくなってしまった。まあ、志半ばで倒れるならそれも僕の人生だよ。ただ命尽きるまでは、コルネリア大公国を目指したい。義理堅いこの子は、僕の最期の旅に付き合うと言って聞かなくてね」
「私は最後までライアン様と一緒にいます」
ようやく自分で紅茶とパイを口にし始めたシンシアが、真面目な顔をして言う。
シンシアはスチュアート商会で働いていた従業員の子供で、その従業員が亡くなった際にライアンの妻が兄妹を一緒に引き取り、これまで育ててきたのだそうだ。
スチュアート家の子供としてライアン夫妻は2人を迎えたのだが、5歳年上のシンシアの兄は10年前に、シンシアはライアンの妻が亡くなったのを機に、スチュアート家の使用人として仕える事を望んだ。
現在は兄妹共に商会と雇用契約を交わし2人の要望を叶える形を取っているが、ライアンがシンシアを見る目は完全に孫に対する祖父の物だ。
「その教会にいた少年って、今は一切連絡を取っていないの?」
「彼とは教会で別れたきりなんだ。僕も幼くて、彼と連絡を取るなんて思いつきもしなかった。両親も彼との仲を取り持とうとはしてくれなかったから、大人達からしたら僕と彼は帝都にいる間だけの付き合いの方が望ましかったんだろうね。かれこれ60年前の話になる。生きているのかもわからないし、彼の名前は愛称しか分からないんだ。でも大公国に無事辿り着けたら、教会に60年前の少年の事を尋ねてみようかと思ってる」
60年越しの約束を果たす旅とは、何とも浪漫があるではないか。
ライアンは現在65歳。少年が生きていれば67歳になっている。
「護衛が見つかり次第、出発するの?」
「僕の体とも相談しながらだけどね。お陰様で君から買い取った黄角が物凄い効き目で、ここ数年常に感じていた息苦しさと動悸が、薬を飲んですぐに嘘のようにおさまったんだ。もう少し様子を見たら出発したい所なんだけど、肝心の護衛が見つからない」
「それで私に頼もうとしたの?」
「こんなに体の調子が良いのは数年ぶりの事だ。この機会を逃したくない。実力のある冒険者がギルドに訪れたら、連絡をくれる様にギルドマスターにはお願いをしていたんだよ。・・・サヨコ、クロイワヤギはサヨコ自身がマキア山脈で捕獲したもので間違いはない?」
「そうよ」
小夜子の返事にライアンは、無言で1度目を閉じる。
「マキア山脈の高地は、氷点下の極寒の地で、山に登ろうと思えば高山病の他に寒さとの戦いになる。その上、言い伝えでは飛竜の巣となっていて、クロイワヤギを手に入れるためには飛竜の攻撃も搔い潜らなければならない。普通の人間であればまずマキア山脈で活動する事は無理だ。武装をした軍隊だって、寒さと高山病に抗いながら存在自体を疑われている飛竜と戦うなど、可能なのか検討も出来ない程に現実的じゃない。サヨコ、君はどうやってマキア山脈に登ったんだい?」
「どうって、私だって生身じゃ無理よ?結界を張って、気圧と温度を一定に保ちながら空を飛んで行って、飛竜とヤギたちを目につく限り狩り取って来ただけ。持ち運びも魔法で出来るからね」
「・・・飛竜も狩ったと?」
「ええ、四方八方から襲ってきたから。首だけを狙ったから素材の状態は良い筈よ」
「そうか・・・」
ライアンは小夜子の言葉を噛み締める様に、しばし沈黙する。
「サヨコ、言っておくが、帝国では冒険者も軍人も、もちろん一般国民にも魔法なんて使える者はいない。ガルダン王国では、魔法はありふれたものなのかな」
「んー、貴族には高魔力の人間が多いみたい。庶民にも時々高魔力持ちが生まれるけど、貴族にバレると囲われてこき使われるのよ。あ、少し魔力を使える位なら、冒険者にはごろごろいたかな。小さい火を出せるとか、水を出せるとか。野営に便利よね」
「・・・もし、サヨコに護衛を頼んだとしたら、君ならコルネリアまで私達を無事に送り届ける事はできるかい?」
「人を守りながらの移動はあんまりしたこと無いんだけど、常時結界を展開したら行けるかな。移動はバギーで、野営はコンテナハウスがあるしね。あ、持ち運んでいる家があるのよ。暖かいし、お風呂もトイレもあるわ。ライアンとシンシアの体調を守りながら、擦り傷1つ付けずにガッチガチに護衛をやり切ってコルネリアには連れていけると思うわよ。索敵も出来るからね」
シンシアはもう、小夜子が何を言っているのか理解できずにぼんやりした顔になっている。ライアンは自分の気持ちを決めるために、一度深く息を吐いた。
「僕の旅はこのマルキアで終わりなのかと正直思っていた。この地で君と出会えたのは、僕の人生最後の幸運だったかもしれない。サヨコ、君に依頼をしたい。私達を守り、コルネリアまで連れて行って欲しい」
「護衛って、4人募集していたわよね。私の他に3人、冒険者が集まるかしら」
「1人で100人力の君を雇うのに、どうして他の護衛を雇う必要が?」
「私1人で4人分の働きをさせるつもり?1人分の報酬じゃ納得しないわよ」
「君に、4人分、4000万の報酬を支払う。その代わり、報酬の支払いはコルネリアに辿り着いてからにさせてもらう」
「それならまあ、いいかな。ただしコルネリア大公国には私は足を踏み入れない。国境まででもいい?どうせ私も東に向かうつもりだったしね」
「うん、国境まででいいよ。迎えは商会のコルネリア支部の者に頼むよ。コルネリアに辿り着けたら成功報酬を支払おう」
こうして小夜子はライアンからの護衛依頼を引き受ける事となった。




