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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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ヴァンデール帝国辺境にて 5

 一通りの集落と山道の探索を終えた小夜子は、次の行く先をカルロスの息子のサニーと相談していた。

 サニーはとても利発な子供で、帝国の地理に詳しかった。

 カルロスの自宅のテーブルに帝国の地図を広げて、小夜子はサニーから帝国の地理についての説明を受けている。

「とりあえずはこの山を北に向かって下りれば、一番近くの町は山の麓のマルキアだよ。町中は集落よりも綺麗に整備されているから、石像があるとしたら町の外れかな。僕は決まった場所にしか行かないからあんまり町中は詳しくない。辺境の集落を回りたいなら、山の麓まで下りて、マルキアから東に向かうと街道は1本道だし分かりやすいかも。東に進めば、コルネリア大公国に辿り着くまでに村が2つあるよ」

「サニーは賢いわねえ」

 小夜子は感嘆のため息とともにカルロスの妻が入れてくれたコーヒーを味わっている。今日のお茶請けはシナモンロールだった。暖かい室内で、窓の外の深々と降り積もる雪を眺めながら熱いコーヒーと共におやつを食べる至福の一時だった。

「そうだろ!とても俺の息子とは思えない位に優秀なんだ。今度の春からマルキアの役所の臨時職員になる予定だったから、サヨコさんに山道まで直してもらえて、本当に感謝しても仕切れない、ありがとう!」

「お礼なら、このシナモンロールとコーヒーで十分よ」

 いまだに何かにつけて頭を下げるカルロスを小夜子は笑って流しながら、サニーと話を続ける。

「コルネリア大公国って、どんな所?」

「聖ハイデン教の総本山。ハイデン教の聖地があって、大公国は大司教様が治めていらっしゃるんだよ」

「あー・・・。そうなのね、ありがとう」

 女神が言っていた敵の本拠地、という事なのだろう。

 女神に振り回されて迷惑な話だが、大公国に近づくのは慎重になった方が良いだろう。まずは帝国を見て回り、それでも運のランクアップが足りなければ大公国行きを視野に入れる事にする。

「うん。何となくイメージ固まったわ。麓のマルキアに寄ったら東に行ってみる」

「サヨコさん、しばらく雪は止みませんよ。吹雪く事はあまりないですけど、せめて雪が小降りになるまで集落に居て下さいな」

 そうカルロスの妻が言いながら、追加のシナモンロールを小夜子に籠ごと差し出す。

「うーん、まあ私には天候はあまり関係ないからね。結界を張って、空を飛んでいけばいいもの」

 今日の夕飯は要らないなと思いながら、追加のシナモンロールに小夜子は手を伸ばす。

 小夜子の移動方法を聞いて、体験済みのカルロスはやや青ざめ、その妻とサニーは感心したように小夜子を見つめている。

 結局残ったシナモンロールは土産に持たされて、大粒の雪が降る中を小夜子はコンテナハウスに戻った。小夜子がそろそろ集落を離れないとなあ、と考える原因がこの集落の女性達の小夜子へのお振舞だった。女性達は大切な冬越えの食料を惜しみなく使い、小夜子に手料理を振舞ってくれるのだ。最初は喜んで持てなされていた小夜子だったが、集落の人々も普段の冬の生活にそろそろ戻るべきだろう。


 今後の予定を考えながら眠りについたその晩、小夜子の夢に女神ティティエが現れた。

 女神ティティエの見た目は10代半ばの少女にまで成長していた。

『おめでとうございます!ランクアップです!とうとうあなたの運がBランクになりましたよ!』

「嘘でしょ!」

 女神を信じられず、小夜子は自分のステータスを確認したが、確かに女神が言うように小夜子の運はBへとランクアップしており、女神ティティエの加護は小から中へと表記が変わっていた。ちなみに15を超えた+分は今回もしれっとリセットされている。まあ、日を置かず今回はランクアップとなったので、この辺は水に流してやってもいい。

「随分気前がいいじゃないの。逆になんか怖いわ。何か不利益を被るようなら、直した石像を戻って全部壊してやるわよ」

『どうしてそう私を疑うのですか。心外です。悲しいです。まずは相手を信じなければ、良い関係を築いてはいけないですよ?』

「うるせーわ。私があんたを信じられないのは、あんたの行いのせいだわ。そもそも、私はあんたと信頼関係なんて作る気はない。私とあんたの間にあるのは利害関係だけよ」

『はあ。手厳しいですね。今回のランクアップは紛れもなくあなたの頑張りの結果ですよ。私に何も含むものはありません。この調子だとAにランクアップする日も遠くありませんね!』

「・・・そうかもね」

『ますます張り切って、頑張っていきましょう!あなたの運気が好転したお陰で、この一帯は不運による災害や事故の気配は一切ないですよ!』

「それは良かったけど」

『まあ、通常の運命による事故や災害は有りますけれど、あなたが居ても居なくても起こる物ですからね』

「ちょっと!通常の災害って?!」

『ですから、この一帯の集落は大丈夫ですよ。麓の町も落ち着いています。まあ、あなたならどんな事故や災害に巻き込まれようともどうにか出来る力が備わっています。ご心配なく。といいますか、あなたを潰すために敵がそろそろ動き始めるかもしれませんね。巻き込まれるというより、あなたを中心に事故、災害が巻き起こると言った方が正しいですかね。女神ティティエの加護を持っているのは、この世界ではただ一人、あなただけですから!』

「じゃあ女神の加護、要らない。返す」

『何をおっしゃいますやら。神の加護は欲しくてもそうそう貰えるものではないのですよ?神の加護は人の能力をブーストします。身体能力も強化します。良い事しかありません。それに、私の加護はあなたの力の安定の一助にもなるのですよ』

「・・・・・」

 初期値がチート過ぎる小夜子の能力では、神の加護によるブーストなどありがたみを感じないのだが、力の不安定さがもたらす影響を言われると、小夜子も女神の言葉を切り捨てるまでの判断が出来ない。

 非常に面白くないが、今のところ小夜子には女神に従う選択肢しかないのだった。

『さあ、不確定な将来の心配をしても仕方がありません。Aランクは目前ですよ!次なるランクアップを目指して張り切っていきましょう!』

 黒髪セミロングの少女の姿となった女神は上機嫌で次なる目標を掲げる。

 見た目は美しい少女だと言うのに、女神を見ていると小夜子の胸の内には何とも言えない嫌悪感が湧き上がってくるのだった。やはり出会いが悪すぎた。この女神に関してだけは、小夜子の第一印象はずっと尾を引いているのだ。

『それではご活躍を祈っておりますよー!!』

 女神は眉間に皺を寄せる小夜子に構う事なく、言いたい事を言いながら白い空間に溶けて消えていった。



 雪が少しちらつく薄曇りの日に、小夜子は山間の集落を発つことに決めた。

 昼前にデニスの家に出立の挨拶に行けば、それからは集落を挙げての大騒ぎになった。

「ちょっと、ストップ!もうたくさんだから!!」

 小夜子が声を張り上げるも、各家庭からどんどんと手料理が小夜子の前に集まってしまう。

「冬越えの食料が減ってしまうじゃない!」

 小夜子の前にどんどんと並ぶ鍋ごとのマスのシチューやミートパイ、篭山盛りの焼き立てパンや、コーヒーによく合う焼きしめたビスケットなどを女性陣が並べていく。

 小夜子も負けじと、食材を返す様に小麦粉の大袋や根菜の詰まった木箱、ソーセージやハム、バターや調味料が詰まった壺各種を競うように並べていく。

「みんな、気持ちは分かるがその辺で。サヨコさんも困っているし、やり合っていたらキリがないだろう」

 デニスが両者を取りなせば、やっと小夜子と奥様方による振舞合戦が終わった。

「ほんとうに、もう!でも、ありがとう。貰った料理は旅の途中で大切に食べるわ」

 最後にはありがたく、小夜子は収納ボックスに心づくしの料理を全て納めた。

 小夜子に手料理を全て持たせることが出来て、奥様方も満足気であった。

「サヨコさん、また会える?!」

 ローラが元気に小夜子に飛びついてきた。小夜子は難なくローラの体を抱き上げる。

「そうね。またいつか。今度は夏にでも来ようかしら」

「夏は森で色んなベリーが取れるよ!そうしたらお母さんのカスタードパイにベリーをたくさん入れてもらうの!」

「それは是非食べたいわ!」

 そんなの、絶対にコーヒーに合うに決まっている。夏の山はまた、今と違う景色を見せてくれるのだろう。思った以上に楽しい日々で名残惜しいが、次に来るのは女神との因縁を精算してからだ。

 ギュウとローラを抱きしめてから、小夜子はそっとローラを下に降ろした。

「デニス、みんなも。本当に楽しかったわ、ありがとう」

「サヨコさん、礼を言うのはこっちだよ。また是非ここに立ち寄ってくれ」

「サヨコさん、マルキアへ行くにはまず北に向かって真っ直ぐ飛んでね。山の麓の町だから森が途切れた辺りを見て。マルキアに付いたら、そこから東に向かう街道に出てね」

「サニー、ありがとう。春からの仕事、頑張ってね」

「うん、頑張る」

 凛々しく応えるサニーにカルロスも誇らしげだ。

 小夜子は集落の人々に見守られながら、上空にふわりと飛び上がった。

 集落の人々は、子供はもちろん大人達までも輝く瞳で小夜子を見上げてくる。小夜子が嫌がるので誰も言わなくなったのだが、集落の人々全員が、小夜子を絵本や児童書に出てくる黒髪の魔法使いと混同しているのは明白だった。

 小夜子は訂正するのも諦めて、集落の人々に手を振って北に向かって飛んだ。

 山間の集落の人々は、小夜子の姿が見えなくなるまで北の空を見上げ続けていた。





 ヴァンデール帝国の国境、マキア山脈の山間に住まう人々が子供達へ語り継ぐ話がある。


 黒髪の美しい魔法使いは本当にいるんだよ。

 ある時、集落の人々が困っていると、突然に黒髪の魔法使いが現れた。 

 魔法使いは崩れた山道をたちまち直し、困っている人々に冬を越せる程の食べ物を分け与えてくれた。

 魔法使いはお礼のもてなしを受け、人々の心づくしの手料理をたいそう喜んだが、特にコーヒーと焼き菓子が気に入った。

 魔法使いはしばらく集落で過ごしたあと、空へと飛び去ってしまった。

 いつかまたコーヒーと菓子を貰いに来ると人々に約束を残して。

 だから、もしも黒髪の魔法使いがやって来る事があったら、まずはコーヒーと焼き菓子でもてなす様に。


 そう大人達に言い聞かせられた子供達は、大きくなってから大人達がしていたように魔法使いの来訪を待ちながらコーヒーと焼き菓子を常備するようになった。

 冬の間もコーヒーと甘味を絶やさぬようにと、山間の集落の冬支度は更にゆとりを持って行われるようになり、魔法使いを待ちながら食べる冬の甘味は人々の楽しみともなったのだった。


 魔法使いが直してくれた山道は大雨が降ろうが大雪が降ろうが、絶対に崩れる事がなかった。

 魔法使いの山道は長きに渡って山間の集落の人々の生活を支え続けたのだった。



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