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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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39/108

ヴァンデール帝国辺境にて 1

 マキア山脈を越えると、気候は一変していた。

オーレイからラガン平原に飛び、そこから更に北西のマキア山脈を目指して飛び続けた小夜子は、山脈の屋根を飛び越えてその向こうの麓に辿り着いた。

 ガルダン王国では冬の入り口といった所だったが、一つ山を越えるとそこはもう、まごう事なき冬の季節だった。

 まだ麓に雪は積もっていないが、吹き付ける風は冷たい。そうこうしている内に、風の中には細かな雪がちらちらと舞い始めてきた。

「寒っ!いっそスキーウェアを着ようかしら」

 一応ダウンジャケットと裏起毛加工のスキニージーンズを着用し、更にムートンブーツを履いてはいるが、寒風がジーンズを突き抜けて小夜子に突き刺さる。もう少し防寒をすべきかもしれない。

 ちなみに暑い寒いはダメージ判定をされないために、生命に関わらない限りは小夜子も人並みに季節を感じる事が出来る。守護結界を張ってしまえば寒暖を感じることも無いのだが、寒いなら寒い時期の、暑いなら暑い時期の美味しい食べ物や飲み物がそれぞれの地域にあるはずで、小夜子はそれを楽しむためには敢えて寒さに震え、暑さに汗を流したいと思っているのだ。

 それはさておき、平地が多かったガルダン王国とは様子が異なり、小夜子の前には再び山々が立ちふさがっている。

 土地勘の無い小夜子は周囲の地理を把握するために再び上空へ高く飛び上がった。辺りを見回してみれば、山間部の僅かな土地に点在して辺境集落があるように見える。更に北を見れば、山に代わり今度は平地が広がっていく。

 山間部の集落は1つずつがとても小さく、離れて点在している。

 連なる山々を見回しながら今後どう動くか小夜子は考えていたが、濃い緑の木々の間に、酷く目立つ人工的な黄色を見つけた。

「ん?」

 小夜子が不思議に思いその黄色に近づくと、その黄色は人の衣服だった。目にも鮮やかな黄色い上着を身に纏った男が、山の斜面の剥き出した木の根に片腕でぶら下がっている。その木の根はミシミシとしなり、今にも千切れそうだ。

「ねえ、助けようか?」

「!!」

 小夜子が男の正面に回り込み、訊ねるのと男が滑落するのは同時だった。

「わああああ!!!」

「おおっと!」

 一瞬宙に投げ出された男を小夜子は両手で掬い上げてキャッチした。そのまま勢いに任せて上昇し、目の前に現れた程よい大きさの岩棚に小夜子は男を降ろした。

「はっ・・!はあっ・・・!はあっ・・・!」

「大丈夫、大丈夫。落ち着いて。危なかったわね」

 男は四つん這いのまま額から大量の冷や汗を流しており、息も絶え絶えに呼吸を繰り返している。この寒さでこれ程に発汗しては、体温を奪われてしまう。

 小夜子は男に清浄魔法をかけ、少し寒さを緩めるために守護結界も張る。

「ゆっくり呼吸して。もう大丈夫だから」

「はあ・・・、はあ・・・」

 寒さが緩み、死に直面した緊張も緩んだのか、男の呼吸が少しずつ落ち着いてきた。

「はあ・・・、もう駄目だと思った。どうなってるんだ。あんたが助けてくれたのか?」

 男の動悸はまだ激しく、両手の震えも収まっていないが、どうにか小夜子を見て言葉を失う。男は岩棚の上に乗せられているが、小夜子は男の目の前、空中にフワフワと浮かんでいるのだった。男は目を大きく見開いたまま小夜子を凝視していた。

「うん、私が助けたわ。あなた、運が良かったわね。黄色い服が物凄く目についたわ」

「あ、あんたは、ひ、人なのか?」

「はあ?失礼ね!れっきとした人だけど!ガルダン王国から来たAランク冒険者だけど?!」

「ガルダン王国?!」

 男がガルダン王国の名前に大きく反応し、小夜子は首を傾げる。

「ほ、本当に?ガルダン王国から・・・。ひょっとしたら、人の形をした山の魔物か何かかと・・・」

 言うなり男が全身を弛緩させて岩棚の上に倒れ込んだ。

「ガルダン王国の人間なんて、初めて見た。国民全員が、魔法使いだって話は、本当なんだな・・・」

「何言ってんの?」

 小夜子が男に突っ込むが、男は自分で勝手に納得し、満足そうに頷いている。

「魔法使い殿、図々しい頼みだが聞いてくれないか」

「魔法使いじゃないし。冒険者だけど何?」

 小夜子を魔法使い呼ばわりする男が言う頼みとは、もう一つ山を越えた向こうの集落まで、解熱作用のある薬草を分けてもらうため連れて行ってくれないかという物だった。

「集落を出た時に、もしもの事も覚悟してきた。でももう駄目だと思った時、あんたに命を救われた。命がある限り、俺は何としてでも薬草を持って帰らないといけない。この通りだ、頼む」

 男は躊躇いなく、岩棚の上で小夜子に土下座をした。

「急ぐ用事もないし、まあいいけど。誰か病気なの?」

「俺の弟と姪が死にかけてる。姪はまだ10歳なんだ」

「何してるの!早く行くわよ!」

 小夜子は土下座する男の背中に取りつき、両脇に手を差し入れると羽交い絞めをして勢いよく宙に舞い上がった。

「うっ、うわあああーー!!」

 両足を宙に投げ出されて絶叫する男を小夜子は叱り飛ばす。

「騒いでいないで、場所を教えなさい!集落はどこなの!!」

「ぐ・・・、う、・・・右手だ!」

 男が恐怖と戦いながら差した方向を見下ろせば、山と山の間に民家の集まる場所が見えた。

 小夜子は男を抱えたまま集落をめがけて滑空していった。

 集落の外周部、木製の柵と門が構えられた入り口前に急激な減速と共に男と着地すると、その途端に男が嘔吐した。

「なっ?!なに・・・、あっ・・・!」

 門を守っていた男は突如現れた小夜子と男に驚いた様子だったが、すぐさま蹲って苦しむ男に駆け寄った。

「カルロス!お前、どうした!」

 男同士は知り合いだったようで、黄色い上着の男をもう一人の男が介抱しながら抱き起した。

「・・・ピエト、うちの集落で熱病が出た。薬草を、分けてくれないか・・・」

「っ・・!待ってろ!」

 ピエトと呼ばれた男が慌てて門の向こうへ駆けていった。

 しばらくすると、門番のピエトと共に数人の男達が小夜子達の所に小走りでやって来た。

「カルロス、熱病が出たのか」

 男達の内の一人、口ひげを蓄えた年配の男が尋ねると、黄色い上着の男、カルロスは唇を噛みしめながら頷いた。

「熱冷ましの薬草はこれだけだ。済まない・・・、俺達も病に備えなければならない」

「いや、当然だ。貴重な薬草を分けてくれた事、感謝する」

 年配の男は丁寧に二束の薬草を油紙で包み、布袋に入れるとカルロスに手渡した。カルロスはそれを大切に上着の内ポケットに仕舞い込む。

「その薬草があれば病人は助かる?」

 カルロスから少し離れて立っていた小夜子が突然発言し、男達は初めて小夜子に気付いたように目線を向けた。

「急いで集落に戻って、煎じて飲ませて、それでも本人の体力次第だ。熱はどんどん体力を奪う。とにかく、一刻も早く薬草を」

「了解!」

 口髭の男が説明する途中で小夜子は元気よく答えると、再びカルロスの背後を取り、おもむろに羽交い絞めする。

「あなたの集落はどっちの方向?」

「も、もと来た進路を戻るんだが、ま、待っ・・!」

「薬草、落っことさないでよ!」

 カルロスが慌てて胸元を押さえるのと同時に、小夜子は勢いよく打ち上がる様に再び上空に飛び上がり、元来た方向に飛んだ。

 薬草を持ってきた男達が驚いて空を仰いだが、カルロスと見知らぬ女の姿は既に無かった。


「わああああーー!!」

 カルロスは飛び始めてからずっと叫び続けている。小夜子はカルロスに構わずに来た方向を戻る様に空を飛び続けている。周囲の山々は正直、小夜子には見分けが付かず、最早カルロスを最初に助けた山すらどれだったか分からなくなっていたが、幸い違う集落が進行方向に見えてきた。規模としては、先ほど薬草を分けてもらった集落の半分にも満たない大きさだ。20軒ほどの小さな家の屋根が確認できる。

「ねえ、あなたの集落はあれ?!」

「っ・・・・!!」

 小夜子に抱えられたまま、胸元を押さえてガチガチに体に力を入れているカルロスは必死に空中で頷いた。

 先ほどカルロスを嘔吐させてしまった小夜子は、今度は多少気を使い、集落のかなり手前から減速し、カルロスの集落と思しき場所の手前でふんわりと着地した。

「う・・、おえっ・・・!」

 しかし、結局えづきながらもカルロスは懸命に足を動かし、集落へと足を踏み入れた。

「だ、誰か・・・!戻ったぞ!早く薬草を・・・!」

 カルロスの声に、近くの家のドアが開いた。

「カルロス!」

「戻ったのか?!」

 家の中から3人ほどの男女が 飛び出してきて、カルロスに駆け寄る。

「薬草だ。早く飲ませてやってくれ」

「本当に持ってきたのか!これできっと助かるぞ!」

 男の1人がカルロスから薬草の入った袋を受け取ると、すぐさま集落の奥に駆けて行った。

「カルロス、よく無事で」

「よくやったな。後はゆっくり休んでくれ」

 残った男女がカルロスを労わる様に支える。

 カルロスは薬草を何とか集落に持ち帰る事ができ、肩の荷が降りたように男女に支えられて歩き始めた。

 そしてその場には小夜子1人がぽつんと残された。

 カルロスはもちろん集落の人々も小夜子に構う余裕も無いようだ。人々の喜びようを見れば、どうやら薬草は間に合ったようで何よりだ。小夜子は此処まで関わったついでに病人の様子も見届けて行こうと、案内も無いが勝手に薬草の行方を追いかけたのだった。

 薬草を分けてもらった集落もそうだったが、この集落も民家が全てログハウスになっている。この辺りの山々の山頂付近は既に雪化粧をしていたので、もうすぐこの集落にも雪が積もり始めるのだろう。ログハウスはガルダン王国では全く見なかった建築様式で、ログハウスと言えば小夜子の中では高地の別荘的イメージだ。なので三角屋根のログハウス群の景観は見ていて楽しい。集落の景色を楽しみながら小夜子が歩いていくと、一軒の家の戸口に人だかりができていた。

 戸口を過ぎて、家の壁に開けられた縦長の採光窓から家の中の様子を見ると、丁度病人のベッドの近くを覗くことが出来た。

 寝込んでいたのはガタイの良い成人男性と10代前半だろう少女だった。この二人がカルロスの弟と姪だろう。大きめのベッドに2人が並んで寝ている。2人ともが髪の毛も肌の色も色素が明るい。特に少女の方は銀糸のようなプラチナブロンドの髪の毛と長いまつ毛を持つ美しい容姿をしていた。

 周りの大人達を見ると、男女総じてみんな銀髪や明るい金髪と水色の瞳、真っ白い肌を持つ淡い色彩の人々ばかりだった。温暖というより、暑い国と言ってよいガルダン王国は色素が濃い人々が多かったような気がする。色素が薄いイーサンは珍しい部類だった。風土が違えば人の見た目も変わるのは地球ととても似ていた。

 寝込んでいる少女の頬はバラ色に色づいており、辛そうに肩で息をしている。まだ男性の方が呼吸は穏やかだった。そうこうしている内にカルロスが持ち帰った薬草が煎じ終わったようで、少女と男性は部屋に詰めていた人々に抱き起されて眉をしかめながら薬湯を飲んでいた。薬湯を飲み終わった2人は再びベッドに横になった。

「薬湯を飲ませることが出来た。あとは、2人の体力次第だ・・・」

 家の中の大人達が深刻そうに話している。

 体力次第だと言うなら、成人男性はともかく少女は大丈夫なのか。

 小夜子は家の外から男性と少女を鑑定する。健康状態を見れば、2人ともがインフルエンザと表記されていた。インフルエンザはこの集落一帯で熱病と言われているらしい。

 2人が飲まされていた薬湯の器も鑑定すると、ユキノシタ(効果:解熱)と出てくる。ユキノシタは日本で生きていた前世においては、親の実家の裏庭などに生えていた野草だった気がする。祖母が天ぷらにして食べさせてくれた事まで小夜子は思い出す。日本で美味しく食べていた野草が、この場では命を繋ぎ止める頼みの綱になっている。

 小夜子はすぐに結論を出した。乗り掛かった舟だ。小夜子は男性と少女を助ける事にした。ここまで手を出しておいて、結局2人とも、もしくはどちらかでも儚くなってしまっては後味が悪いではないか。

「ちょっとどいて!」

 小夜子は家の戸口の人だかりをかき分けて、家の中に押し入った。

 中では薪ストーブが焚かれ、その上で薬缶も景気よく蒸気を噴き上げている。人がギュウギュウに入っているせいもあるが、物凄い熱気だ。換気は開け放しの窓や戸口からされているだろうが、これだけ人が過密では他にもインフルエンザの感染者が出るのではないか。

 小夜子は問答無用で清浄魔法を室内と室内の人々に掛けた。

「なっ・・?!」

「えっ・・・!」

 室内の男女は何が起こったのかは分からないが、何かが起こった事だけは分かり騒然としている。小夜子は室内の人々をかき分けて、2人が眠るベッドまで辿り着いた。ベッドサイドには丸椅子に座り少女の手を握っている女性がいる。

「あ、あなたは?」

「ねえ、私の声が聞こえる?いま、寒い?それとも、暑い?」

 戸惑う女性に構わず小夜子は2人に問いかけた。

「あ・・、あつい・・・」

 少女のか細い声を小夜子の耳はしっかりと拾った。

「女の子は熱が上がり切ったわ。あとは体を冷やしてあげないと。みんな、窓とドアを開けて!この部屋は暑すぎるし、空気も悪いわ!」

 突然現れた小夜子の指示に、室内の人々は戸惑い動こうとしない。

 小夜子はベッドサイドの採光窓を全開にし、冷えた外気を取り入れた。それから、小夜子は2人に少しだけ回復の後押しをするべく治癒魔法をかける。男性の方は元より呼吸も落ち着いていて、症状はそれほど重くなさそうだった。小夜子は少女の額の上に手を翳すと、少女の体が淡い緑色の光に一度包まれ、その淡い光は溶ける様に消えて無くなった。光が消えた後、少女の荒かった呼吸はすぐに落ち着いて、少女自身はスッと寝入ってしまった。

「あなたは、この子のお母さん?」

「は、はい」

 少女の手をずっと握っていた女性が頷いた。

「薬も飲んだし、後は目が覚めたら水分と食事を少しずつでも取らせてね。後はゆっくり休めばきっと良くなるわ。男性の方は女の子よりも軽そうだから、もっと早く元気になると思う」

「あ、ありがとうございます!」

 少女の母親は涙を流しながら小夜子に礼を言った。

「あなた達、2人の風邪がうつったかもよ?」

 小夜子が部屋を見回しながら、母親の他に7人ほどの家に詰め掛けていた男女に言うと、全員がギクリと体を強張らせた。

「あなた達の言う熱病は、飛沫感染と接触感染をするからね。咳やクシャミを吸い込んだら、2人に直接触れていなくても感染する恐れがある。病人と同じ部屋に居たんじゃ、うつる危険は高いわよ」

 小夜子の言葉に母親も含めて室内の大人達の顔が青くなった。その大人達に小夜子は弱めに治癒魔法をかけておく。室内が淡い緑の光に満たされ、先ほどと同じように緑の光は溶けて消えてしまった。

「一応、全員に治癒魔法をかけておいたから。万が一発症しても軽い筈だわ。発症者が出たら一纏めに隔離して、看病する人間を固定で決めてね。入れ替わりで病人と接触しない事。心配でも今みたいに大勢で詰め掛けたりしたらダメ。全員が熱病になるわよ。はい!まずは換気!ドアと窓を開けて!看病する人以外は全員外に出て!」

 小夜子の指示に今度は、室内の大人達は機敏に従った。窓とドアを全て開け放し、大人達は病人と母親を残して家の外に出て行った。

 冷たい外気が火照った2人の顔に当たり、気持ちよさそうに2人は顔を緩めた。

 空気が入れ替わった頃に、小夜子は部屋のドアを閉めた。採光窓は少しだけ開けたままにしておく。ベッドサイドに木桶を出し、満たした水で手巾を濡らし2人の額を冷やす様に小夜子は母親に看病の指示を出す。母親は真剣な表情で小夜子の言葉を聞いていた。

「お母さんが倒れたら大変だからね」

 小夜子は少女の母親にはもう一度治癒魔法を重ね掛けしておく。母親は両手を胸の前で合わせて、小夜子を拝み始めてしまった。

「聖女様・・・」

「・・・私はギルド所属の冒険者だからね」

 拝み続ける母親を小夜子は放置して家の外に出ると、小夜子により家の外に追い出された男女が小夜子を待っていた。小夜子の顔を見ると、男女は感極まった様子で手を合わせる。

「「「聖女様・・・!」」」

「やーめーて!!私は聖女じゃない、教会とは一切関わりないギルド所属の冒険者なの!これ以上聖女呼ばわりするなら今すぐここを出ていく!!」

 すると小夜子を出待ちしていた人々全員がぴたりと口を閉じ、胸の前で合わせていた手もすぐさま両脇に降ろした。

「あの2人も数日で回復すると思うわ。食欲が出てきたら、欲しがるものを食べさせてあげて」

 安心させるために小夜子は言ったのだが、小夜子の言葉に集落の人々の表情が途端に暗くなった。

「・・・何?もうこの際だから、心配事が他にもあるなら言ってくれる?」

 腕組をして仁王立ちする小夜子を前に、男の1人がため息交じりに口を開いた。

「1カ月ほど前、この集落から近隣の集落と近くの町に繋がる唯一の山道が崩れまして・・・」

 男の話によると、この集落の命綱ともいえるメインの山道が崩れてしまい、この集落の物流がほぼストップしている状態だと言うのだった。この周辺の集落は雪解けとともに男達が集落の外に出稼ぎに行き、女たちが家を守る。雪が降る前に男達が戻ってきて、冬越えの為の買い出し等を集落総出で行い、雪に閉ざされる冬の間は家に閉じこもり春を待つという生活をしているのだそうだ。

「山道が崩れたのは、冬ごもりの準備を半分ほど進めた矢先でした。人が崖崩れに巻き込まれなかったのは幸いでしたが・・・。集落の上げた救援弾には、近隣の集落が応えてくれました。しかし国からの何かしらの支援を期待したが、もはや間に合わないでしょう。まもなくこの集落は雪に閉ざされる。今年は今ある手持ちの食料と物資で冬越えをしなければなりません・・・・。国が山道を整備するのはどう考えても雪解けが過ぎた頃になる。薬草や薬などは残念ながら手持ちが尽きた所でした」

「なるほどねえ・・・」

 だからカルロスは命を懸けて、薬草を手に入れるため近くの集落を目指したと言う訳なのだ。昔から使われていた細道や、獣道を使い、近隣の集落からはわずかに物資の援助を得られたという話だった。

「今すぐ山道が直れば買い出しできるの?」

「たとえ今、山道が元に戻り、さらに運よく雪が酷くなる前に町まで辿り着けてたとしても、帰る頃には山道は雪で閉ざされとても登る事は出来ないでしょう」

 どっちにしろ、現時点でこの集落は詰みだ。

「よし、わかった!物資は私があなた達に売ってあげる。それでどう?」

 手持ちの荷物を一切持たない小夜子が集落の人々に言い放つと、さすがに小夜子を手放しで有難がっていた人々も怪訝な顔をした。

「必要な物を言ってくれる?とりあえず、こんな所かな。あとは何が欲しい?」

 しかし、小夜子は人々の反応に構わずヒクイドリの燻製肉の大きな塊を皮切りに、スパイスをきかせた大量のソーセージ、木箱に山盛りになったジャガイモ、タマネギ等の根菜類や、大きい綿袋に詰まった小麦粉、壺に入った塩、砂糖、蜂蜜などを数個ずつどんどんと自分の前に積み上げた。

「どれ位要るの?」

 食材の山の陰から小夜子が顔を出すと、集落の男女は皆が地面に膝を付き、泣き出してしまっていた。

「聖ハイデンの思し召しか・・・・。主よ、感謝いたします・・・!」

 泣きながら胸の前で手を合わせて、男女全員が天に向かって祈りを捧げている。この集落の人々は敬虔なハイデン教徒のようだった。

 司教に恨みはあるが聖ハイデンに恨みは無いので、人々の気持ちが落ち着くまで小夜子はしばらく待った。


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― 新着の感想 ―
追い詰められた寒村に急に救いが与えられたらそんな反応にもなるよね。第二オーレイ村みたいな集落になる予感。行く先々で気ままに善性の力を振るうところが気持ちいいね
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