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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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【閑話】オーレイ村 温泉郷への道 ③-4

旅は道連れ~1のコーヒーの説明変えました。王国ではコーヒーは貴族の嗜好品ということで。

 翌朝、小夜子はふんわりとしたマシュマロに包まれる夢から目覚めた。

 小夜子が目覚めると、見知らぬベッドに寝かされており、何故かジェフの妻のジョアンナが小夜子の懐に潜り込んでいた。小夜子はジョアンナのフワフワとした柔らかい体を遠慮もなく抱きしめていた。

 小夜子はジョアンナを起こさないようにベッドを抜け出し、そっと部屋の外に出た。少し歩けば昨日通された食堂に辿り着き、食堂ではジェフが朝食の支度をしていた。

「おはようジェフ。ベッドを貸してくれてありがとう。ジョアンナの体は素晴らしいわね」

「君はまた、妙な言い方をしないように。妻がお邪魔したようだがよく眠れただろうか」

「お陰様で。コーヒーは私が淹れるわ」

 ジェフがパンと具だくさんのスープを用意してくれたので、コーヒーが無性に飲みたくなってしまった小夜子は収納ボックスから道具を取り出し、厨房でコーヒーを淹れ始める。王都では普通に飲んでいたコーヒーだが、貴族達の嗜好品であり田舎ではなかなか味わう事が出来ない。ジェフはコーヒーの香しい香りを目を閉じて堪能していた。

 ジョアンナは昼前まで寝ているそうなので、小夜子とジェフは2人で朝食を取り始めた。

「ポート町は子供達の受け入れ以外に何か変わった事あった?」

「そうだな。オーレイの温泉宿の噂が少しずつ近隣の町に広がっているようだ。1度、温泉宿を目指して馬車でポート町までやって来た者がいたな。隣町の大店の隠居したご老人とその使用人達だった」

「へえ、それは凄い」

「ポート町の宿を旅人が利用するのは十数年ぶりの事で、宿屋の者達は非常に張り切った。夜の篝火も気に入ったようで、オーレイの帰りにもご隠居の一行は町の宿に泊まっていってくれた。ポート町に来客があった事に、町民たちはとても喜んだ」

「良かったわねえ」

「君がくれた切っ掛けでこの町はどんどん変わっていくぞ。サヨコ、本当にありがとう」

「ジェフ、まだ始まったばかりよ。お礼は町がもっと賑やかになってからもらうわ」

「そうか。それでは何の礼にするか皆で考えておこう」

 オーレイの温泉宿に外部からの客が増えれば、必然的に外部の客はポート町を経由する事になる。ポート町がかつての宿場町のような活気を取り戻すのかはまだ分からないが、冒険者ギルドの試みも併せてポート町にも良い変化がもたらされればよいと思う。

 和やかに朝食を取っている内に、通いのお手伝いの女性が到着し、ジェフの出勤に合わせて小夜子も出かける事にした。


 小夜子がギルドに顔を出せば、ジェシカ達と子供達6人が1階のフロアに集まっており、ノエルと2人のベテラン冒険者達が子供達に注意事項を説明している所だった。

「みんなおはよう」

「サヨコ、おはよう!」

「よお、よく眠れたか」

 小夜子はジェシカ達とノエルと、それぞれに挨拶をする。

 子供達は冒険者に引率されてギルドの外へと出て行った。

「訓練は順調?」

「初めての事だからな。効果が分かるのは数年後かもしれないが、まあ、気長にやるさ。でも、手厚い指導は必ず子供の命を守ると俺は思ってる」

 そう言うノエルを見つめるジェシカ達の表情は安心と信頼に満ちている。

 頼もしい大人が側に居るという事は、子供にとって本当に大切な事だ。

 ギルドの外に出れば、子供達はバギーの荷台にまとめて乗せられていて微笑ましい。ギルド職員がバギーの運転席に座り、助手席に冒険者が乗る。その他に、馬に騎乗した冒険者も付き添うようだ。

「まって、まってー!」

 もう出発するかという時に、もう一人子供がバギーに駆け寄ってきて素早く荷台によじ登った。

「あら、キースじゃない」

「あっ、お姉ちゃん!」

 その子供はポート町の駆け出し冒険者のキースだった。3人パーティを組んでいた筈だが、今日はいつも一緒の他の2人が見当たらない。

「元気そうね。チェルシーとチャドは一緒じゃないの?」

「俺らのパーティ、解散したんだぜ!」

「ええ?」

 話を聞けば、町でこの秋から営業再開する宿が幾つかあり、チェルシーとチャドは本人の希望で宿の従業員と厨房見習いとしてそれぞれ働き始めたのだそうだ。

「解散したけど、俺達ずっと友達だし!」

 パーティは解散しても永遠の友情の誓いは続くようだ。

「キースは冒険者を続けるの?」

「うん!俺は強くてカッコいい冒険者になりたいから。今パーティメンバーを募集中なんだ」

「そうなのね。いいメンバーが見つかる事を祈っているわ。頑張って!」

「うん!じゃあ、行ってきます!」

 キースの出発の挨拶で、荷台の子供達も小夜子とノエルに笑顔で手を振る。

 子供達を乗せたバギーはラガン平原を目指して走り出した。

「あなた達は今日どうするの?」

 見れば疾風の一撃の3人も仕事に出かける装いをしていた。

「俺達は普通に狩りでもしてくるぜ!結局グレーデンではCランクに上がれなかったんだ。でもここで基本を教えてもらえるのは本当にためになる。俺達は見様見真似でやって来たから、知らない事もまだまだ多いんだ。ポート町の冒険者はみな親切だし、バカにしないで色々助けてくれる。こんな優しい大人が居るなんて、びっくりした」

「はあ、こんな事を聞かされたんじゃ、面倒を見ずにはいられないだろう?」

 ノエルが眉間に皺を寄せながらもケインの頭をグリグリと撫でている。それを見てジェシカとリカルドが楽しそうに笑い声をあげた。

 訓練の子供達の後を追って、疾風の一撃の3人もラガン平原へと出かけて行った。

「それにしても小さな駆け出し冒険者達は、全員がグレーデンからポート町にやって来たのかしら?こんな調子じゃグレーデンギルドは後で泣く羽目になるわよ?」

「うーん、グレーデンギルドはポートギルドよりも数倍規模がでかいからな。今俺に何か言われた所で、グレゴリーもまともに取り合わねえだろうなあ」

 グレーデンのギルドマスターはノエルと古い仲であり、それ故ノエルも相手の性格を分かっている。

「グレゴリーはよく言ってたわよ。冒険者は自己責任だって。手助けが必要な子供にまでそれを言うのは単なるギルマスの責任放棄だけどね。自分の行いは自分に返ってくるんだから、放っておきましょ。頼ってくる子供達の面倒を見てあげてね」

「ああ、任せとけ」

 この年から10年にも渡り、疾風の一撃の3人はグレーデンギルドでデビュー予定の子供達を根こそぎポートギルドへ連れて来て保護した。疾風の一撃はその後順調にランクアップし、Cランクパーティーとしてポート町を拠点に末永く活躍する事になる。


 昼前に森の小鳥亭でポールとココと落ちあい、小夜子達は早めの昼食を取った。昨日のうちに新たに手に入るようになったプルーンをお試しに2篭ロッドに渡しておけば、今日の昼にはプルーンを練り込んだバターたっぷりのデニッシュパン2籠になって帰ってきた。山盛りパンの1篭がロッドからココに渡される。

「見舞いだ。母さんに渡せ。プルーンは1山500で買い取る」

「あ、ありがとう」

「わかった。トーリに言っとくわ」

 ココの母親が療養中だという事を昨日聞いたロッドは、今日ココに渡す為にデニッシュパンを作っておいてくれたのだ。厳ついロッドの美味しすぎる料理と、スイーツ、細やかな優しさに昨日からココは驚き続けているが、すぐに町の子供達のように屈託なくロッドに懐くようになるだろう。

 昨日のうちにギルドや宿のおかみさんや商店街の店主たちに温泉宿の送迎の話をしていたら、町の老夫婦2組と冒険者5人の希望があった。帰りは小夜子もバギーを出し、利用客と買い出しの品をたっぷりと乗せ、バギー2台を運転してオーレイに戻る事になった。ココとポールの帰りの運転も危なげなく安定しており、温泉宿の送迎は幸先の良いスタートとなった。

 

 それからオーレイの温泉宿は専用のバギーを有効活用し、ますます活気づいていった。

 リリとセイラは少しずつ食べられる量も増えていき、ベッドから起き上がれる時間も長くなってきている。

 小夜子はレインや子供達と畑や果樹の手入れをし、爺婆達と一緒に冬の保存食の準備などをした。エディに解体を頼んでいたヒクイドリとワイバーンの肉は半分ほどオーレイに持ち帰り、爺婆達と宿で使う分の燻製肉も大量に作りまくった。

 果樹を植えたスペースには新たにオリーブの木も増やし、果樹園と呼んでいいくらいの規模になった。オリーブは耐寒性が強く、秋から冬の間中に収穫できる物にした。熟した実はそのまま食べられる位に苦みが少なく、輪切りにしてサラダやパスタに入れたり、オイルを作ったり、ピクルスにしても良い。果樹は爺婆達で消費しきれないので、ポート町に売る他に温泉宿とも分け合ってもらうようにする。試しに作ったオリーブの塩漬けを味見しながら、ニーナとハンナがまた悪い顔で笑っていたので、オリーブの木を更に10本増やしておく。

 良い頃合いだからと、鶏小屋とウサギの飼育場にも早々に冬支度をしていく。


 小夜子はしばらく冬支度の合間にのんびり人々と交流を楽しみながら、オーレイとポート町を行き来して日々を過ごした。

 小夜子がオーレイに戻ってきて3週間にもなる頃、セイラのつわりは随分軽くなっていた。起き上がって動けるようにはなっていたが、やはり厨房の立ち仕事は無理がある。ジャックと相談の上、動けるうちにセイラとアンはポート町の実家に戻り里帰り出産をすることとなった。温泉宿専用のバギーがあるので、ジャックもちょくちょく妻子の顔を見に行けるだろう。

 そして、その翌週にはリリの療養が終わり床上げする事になった。住まいも爺婆の集合住宅から、温泉宿の従業員宿舎に移る事になった。

 家財を全く持たなかったリリ達親子は、ココが狩りで稼いだ資金を元手に、ささやかな冬支度をするためにポート町に出向いた。しかしリリ達が道具屋に顔を出すと、親子達に町の住民達から古着や細々とした生活用品の寄付が山と集まった。

 1枚の銅貨すら支払わせてもらえなかったと、沢山の家財を抱えたリリは泣き笑いで子供達とオーレイに戻ってきた。親子の買い出しに付き添ったポールは、泣きながら喜ぶリリを何とも柔らかい表情で見つめていた。

 夫を亡くして幼子を抱えて苦労したリリと、気の優しいポールは相性が悪くないのではないか。などと、ポールの遅い春を喜ぶハンナ達と小夜子は、こっそりと気が早い祝い酒を酌み交わしたりもした。

 

 そうこうしている内に、とうとうオーレイとポート町も冬の気配を感じる様になってきた。

 朝晩はそれなりに冷え込み、爺婆の集合住宅でも温泉宿でも食堂では薪ストーブに火が入れられるようになった。

 例年であれば、食料も心もとなくなり、燃料も節約しながら春を切望する暗い冬が始まるのだが、今年はオーレイの住民達の表情は明るい。冬を越すための食料は十分に備えられており、温泉宿は満室になる日も増えてきた。

 セイラの抜けた穴をリリはしっかりカバーしており、ココもルルも無理のない範囲で宿を手伝っている。これなら問題なくオーレイ村の全員で冬を越えられるだろうと、小夜子もやっと安心出来た。


 ある冬の朝、小夜子はオーレイを発つことにした。

 広場には出立準備を終えた小夜子と、それを見送るトーリ、レイン、ココとルルがいる。爺婆達と宿の従業員達は忙しく一日の仕事を始めている。

「サヨコさん、春まで居たらいいのに・・・」

 小夜子がこれほどのんびりとオーレイで過ごした事が初めてで、ついレインは名残惜しく小夜子を引き留めるような事を言ってしまう。

「ふふ、これ以上寒くなったら温泉から離れられなくなるわ。私も出来るならもっとのんびりしていたいけど、やらなきゃない事もあるの。だから、頑張って片付けてくるわね」

 レインの隣のココとルルは、器用なマーガレットが鋏で伸び放題だった髪の毛を切り揃えてやっており、レインとココは揃いの坊ちゃん刈りに、ルルはぱっつんショートボブになっている。3人ともドングリが帽子を被ったような愛くるしさで、その姿だけで周囲の大人を笑顔にさせてくれている。

 貧困街から連れてこられた直後のようなやつれはてた面影は欠片もなく、ココもルルもたっぷりの愛情と食事と世話を与えられた、どこから見ても大事にされている子供だった。

「みんな、風邪を引かないように暖かくしてね」

 冬の服を重ね着させられてもこもことしている3人の頭を、小夜子は順番に撫でる。

「サヨコさん、またいつでもオーレイにお戻りください。サヨコさんの部屋はいつでも空けておきます。お疲れの時は、どうかこの村を思い出してください」

「ありがとう・・・。十分休ませてもらって、元気になったわ」

 小夜子はトーリと親愛の抱擁を交わした。

「トーリ、何か困った事があればノエルを通してギルドに連絡してね。こまめにギルドには顔を出すようにするから」

「はい。オーレイの事はご心配なく。サヨコさん、行ってらっしゃいませ」

「サヨコさん、いってらっしゃい!」

「サヨコさん、またね!」

「またねえ!」

「みんな、行ってきます!」

 満面の笑顔を浮かべた小夜子は、出立の挨拶をした次の瞬間にはオーレイから姿を消した。



 秋口から始まった温泉宿のバギーの送迎により、オーレイの温泉宿は冬の間ほぼ満室となるほどの人気となった。冬場の温泉の魅力は人の口から口へと伝えられ、温泉宿の部屋の空きを待つ者達がポート町の宿に泊まるようになった。ポート町もかつての宿場町を彷彿とさせるような、これまでの冬には見られないような活気が生まれていた。さらにその活気を賑やかなものにするのは、ポート町で冬場の訓練を受ける子供冒険者達だった。

 オーレイの温泉宿は、ポート町ではすっかり認知され、ポート町の近隣の町へとその噂はますます広がりつつある。

 しかし、その噂は未だ城塞都市グレーデンまでは到達しない、ガルダン王国最東部での話である。オーレイの温泉宿がガルダン王国内に広く知られるようになるのは、まだまだ先の事だった。



次回から本編(ヴァンデール帝国編)となります。


めっちゃジャックの名前を間違ってました。あちこち訂正してあります。

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