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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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【閑話】オーレイ村 温泉郷への道 ③-3

 久しぶりのポート町への道行きで、草原を走る魔獣の狩り訓練も合間に挟みながら夕方にはポート町につく事が出来た。

 ココはMP使用量15という素晴らしい燃費の良さで、オーレイからポート町までの片道を運転した。その15の使用量の中には魔獣の狩りで使った風魔法のMP減少分も含められているのだ。バギーの往復だけならココの魔力量に何の心配もない。あとは運転手が練習を重ねれば、温泉宿の送迎は問題なく始められるだろう。

 夏が過ぎ去り秋が訪れたポート町は、それでもまだまだ花溢れる町だった。

 ポールは品物の注文に行き、小夜子とココは冒険者ギルドに顔を出した。日が傾きだした時間帯は仕事を終えた冒険者達でギルドも賑やかだった。

「お、姉ちゃんじゃねえか!」

「みんな、久しぶり!」

 何人かの知り合いの親父達と挨拶を交わしながら、小夜子とココは素材の買取窓口に向かった。窓口に姿を見せた小夜子に、ギルド職員が慌てて裏手の倉庫に走ろうとするのを小夜子は止める。

「後でエディの所には行くわ。最初はこの子の獲物を買い取って欲しいのよ」

 小夜子に促されて、ココは自分の目線とほぼ同じのカウンターにヨイショと麻袋を乗せた。麻袋の中には野ウサギが1羽入っている。その袋の横に小夜子がドサドサと野ウサギを3羽出す。全てが首から血抜きがされていて、毛皮も状態が良い。

 素材買取窓口の小太りの男性職員はココに親切だった。

「4羽とも随分大きい。涼しくなって、肉が付き始めた良いウサギだね。毛皮も傷がほとんど無くてキレイだ。1羽800ゴールド、全部で3200ゴールドの買取りでどうかな」

 ココは判断を仰いで小夜子を見上げた。

「良い金額じゃない?おめでとう、ココ。全部あなたが初討伐で仕留めた獲物よ」

「あ、ありがとう」

 ココがカウンターの上に片手を差し出すと、ギルド職員がココの掌に銀貨を3枚、銅貨を2枚置いた。

 ギュッと硬貨を握りしめて、ココは手を引っ込めた。

「この子はココ。時々買取をお願いするかもしれないから、よろしくね」

「わかりました」

 買取窓口の職員は愛想よく頷いた。

「みんな、オーレイの温泉宿のココよ。宿の利用客のバギー送迎の担当になるからよろしくね」

「そりゃいいな!」

 小夜子とココを珍しそうに眺めていた親父達が、宿の子供と聞いてココを囲み始めた。

「馬で行けない事もないが、送迎してもらえるなら有難いぜ」

「町のじじいばばあ達も喜ぶんじゃねえかな」

 気の良い親父達はココを囲い込み、頭を撫でたり、ココに干し肉を持たせたりする。しかし、突然大の男達に四方を囲まれたココは、緊張して体を強張らせた。

 小夜子は親父達の囲いからひょいとココを助け出す。

「ほら、おっさん達。ココがビックリしているじゃない。驚かせないように少しずつ仲良くしてちょうだい。王都に今まで居たんだけど、色々怖い目にも遭って来たみたいなのよ」

「そ、そうなのか・・・。悪かった」

「怖がらせちまったか?」

「顔は怖いかもしれないが、悪い奴はここには居ないからな。これからよろしくな」

 小夜子に抱き上げられたココに、親父達が代わる代わる声を掛けていく。

「ここに居るおっさんは、みんな優しいおっさん達だからね。怖がらなくてもいいのよ。でもまあ、慣れるまでギルドには宿の大人と一緒に来たら良いわよ」

 ココは周りを見回しながら、コックリと頷く。

 周囲の親父達は一様に笑顔を浮かべている。皆、本心からの笑顔で、表情の裏を読むまでもない。オーレイ村もポート町も、王都とは比較にならないほどの、優しく平和な場所だった。

 その時、カランとギルドのドアベルが鳴り、パタパタと軽やかな足取りで数人の子供達が走り込んできた。

 町の子供達かと眺めていると、その子供達の後ろから見覚えのある3人が入って来たのだった。

「サヨコ?!」

 3人が小夜子の顔を見て目を丸くした。

「ジェシカ?!ケイン!リカルド!」

 小夜子が驚くと同時にジェシカがココもろとも小夜子に抱き着いて来た。

「サヨコ!こんなに早く会えるなんて!嬉しいよー!」

「サヨコ、久し振り!」

 ジェシカ越しにケインとリカルドも小夜子をギュッとハグする。

「あなた達・・・。とうとうグレーデンのクソな大人達を見限ったのね?」

「そうなの!見て!グレーデンの小さい子達も連れてきたの!」

 ジェシカが後ろを振り返れば、ギルドの入口には総勢6人の子供達がこちらを見ていて、その後ろに腕組みして眉尻を下げたノエルが立っていた。

「それはそれは・・・、あなた達、やってやったわね!」

「そうなの!!」

 小夜子と顔を見合わせた疾風の一撃の3人は、弾かれたように笑いだした。4人が笑い終わるまで、ノエルは諦めたようにギルドの戸口で待ち続けたのだった。



 疾風の一撃の3人とは明日会う約束をしてギルドで別れた。

 ココとポールはセイラの実家の宿に泊まる事になり、小夜子は招かれたジェフの自宅に向かった。

「お花の魔法使いさん。またお花を咲かせに来たの?」

 小夜子はジェフの自宅の玄関で、ジェフの妻のジョアンナとお手伝いの女性の出迎えを受けた。

「ジェフの奥さんの可愛いジョアンナ、こんばんは。今日はジェフの招待を受けてきたのよ」

「そうなのね。じゃあ、ジェフの所に連れて行ってあげる」

 ジョアンナのふくふくとした柔らかい手が小夜子の手を掴む。にこやかなお手伝いの女性に先導され、ジョアンナに手を引かれながら小夜子は食堂に通された。

 心づくしの夕食が並べられた食卓にはジェフとノエルが先についていた。

「町長、ジョアンナさんにはもう休んでもらいますね」

「ありがとう。ジョアンナが休んだら君も今日は上がってくれ」

 ジョアンナが小夜子とジェフ、ノエルに就寝の挨拶をして女性と自室に下がっていった。

「待たせたかしら?ジェフ、今夜はお招きありがとう」

「いや、時間通りだ。積もる話も相談事も山ほどあるが、まずは乾杯と行こうか」

 ジェフが小夜子とノエルのカップにエールを注ぎ、3人は乾杯をした。

「さて、サヨコ。まずは最初にお前の話から聞こう。俺達に報告するべき事があるだろう?」

 最初にノエルが半眼で小夜子を見ながら切り出した。

 小夜子は報告を求められて直近の自分の身に起こった事を振り返る。やはりこの話が一番ホットな話題だろう。

「一週間くらい前になるかな?ガルダン王に喧嘩を売って、王城を飛び出したわ。あ、同じ日に王都の司教はぶっ飛ばしたわ」

 ジェフとノエルはしばし固まり、それから自分のカップのエールをそれぞれ一息に飲み干した。

「もっと強い酒もあるわよ?」

「「頼む」」

 酒を飲むための手間は惜しまない小夜子は、日本産ウイスキーの角瓶を2本、氷とグラスとミネラルウォーターも出し、親切にもジェフとノエルに好みを聞きながら酒を作ってやった。小夜子自身はジェフが用意した森の小鳥亭のエールの中樽を目の前に引き寄せ確保する。

「ほら、空きっ腹に飲んだら悪酔いするわよ。食べながら飲みましょう!」

「全く、誰のせいで悪酔いしそうだと思ってるんだ」

 それから小夜子は食べながら飲みながら、王都ブラッドレーで起こった事を2人に話して聞かせた。

「どうよ。私は悪くないわよね?腐ったこの国の貴族共と王族と教会が全部悪いのよ」

「うううむ・・・」

 ノエルは唸り、ジェフは言葉もなく渋い顔で眉間を揉んでいる。

「グレーデンで別れてから、3ヶ月と少しでこれか・・・・。いや、サヨコにしてはもった方なのか?まあ、やってしまったもんは仕方がないな。スケールが大きすぎて、辺境の俺達がどうこうできる事じゃない」

「まあ、この件でポート町とオーレイに迷惑は掛からないとは思うんだけどね。ここから王都まで遠すぎるもの」

「「うううむ・・・」」

 小夜子の言葉に安心するどころか、ノエルと一緒にジェフも唸り始めた。

「まあ、国からまだ何かされた訳じゃない。万が一があればその時に考えるさ。それはそうと、サヨコ。俺はとうとう、ポートギルドのギルドマスターになったぜ」

「そうなの!ノエル、おめでとう。今夜は祝い酒ね」

「あのな・・・、ジェフの町長とギルマスの兼務がとうとう限界を迎えてな。お前の考えを採用して冬の間、近隣のギルド支部から子供達を預かる計画を進めていたんだ。だが冬を待たずして夏の終わりになんと、俺を訪ねてグレーデンギルドから子供達がポート町にやって来た。疾風の一撃をリーダーに、総勢15人だ。グレーデンの子らを入れたら、今年の冬に想定していた計画の3倍の人数になった。疾風の一撃の奴等だって指導者にするにはまだ若すぎる。早急にベテラン冒険者やリタイヤした冒険者達の指導者研修が必要になった。ジェフ1人では物理的にさばき切れない事態が起きた訳だ」

「あー・・・」

 小夜子には心当たりしかなかった。

「あはは、グレーデンギルドが余りにも酷くてね。困ったらポートギルドのノエルを頼れって、ジェシカ達に言ったの。ダメだった?」

「子供達から話は聞いた。お前のした事は良い事だったと思う」

「子供達は宿代をしっかり持ってきていたからな。これも君の支援なのだろう?」

「ふふふ、まあね」

 ジェシカ達は子供達を救うために小夜子の預けた金を使ったようだった。

 自分達だけではなく、救える限り手を差し伸べて子供達を連れてきたのだろう3人を思い、小夜子の口元には笑みが浮かんだ。

「オーレイの元住民達が働き手で残ってくれていたから、休業中の宿を開けてどうにか対応も出来た。だがやっぱり、事前に一言報告と相談は欲しかったぞ」

「ごめんねノエル。私もこんなに早くグレーデンから子供達が逃げてくるとは思わなくて。でもまあ、ほとぼりが冷めるまで私はこの国を離れようかと思ってる。だからこれ以上の騒ぎも起きないと思うわ。あ、オーレイとポート町にはこれからもこっそり遊びに来るつもりよ」

 小夜子の言葉に、ノエルとジェフはしばし黙る。

「サヨコ、ギルドマスター間は独自の連絡手段がある。昨日俺宛に王都から速達が届いた。速達には王都でイーサン・バトラーの保護に係る警告がガルダン王国に向けて発せられたとあった。冒険者ギルドの自由憲章が効力を発揮したのは俺が知る限りでは初めての事だ。これもお前に関わる事だったのか?」

「うん、そうとも言えるわね。イーサンは本当に良い男だったわ。王に意見して私を守ろうとしてくれたの。そしてガルダン王はしょうもないクソ野郎だったわ」

 ノエルとジェフは小夜子がイーサンを過去形で語っているのに気付いたが、それには触れず小夜子のカップにエールを継ぎ足してやった。

「私、当分恋人は要らないわ。だって、イーサンより良い男に出会える気がしないもの」

「そうか・・・」

「・・・・」

 これにはノエルもジェフも安易に慰めの言葉など言えなかった。Sランク冒険者よりも良い男とは・・・。イーサンよりも地位も権力も上となれば、高位貴族の当主か、王族か、教皇・司教クラスかという話になる。

「でもいいの。私、世界をまたにかけてやらなきゃない事もあるし。それが終わるまでは定住も難しいのよねえ」

 しかし小夜子は自分なりに既に割り切っているようだったので、尚更男2人は言うべきことは無かった。

「あ、そうだ。ジェフ、これ子供達の育成に使ってちょうだい」

 小夜子は収納ボックスから白金貨を5枚出し、無造作にテーブルの上に転がした。

「また君は・・・。ポート町では大金貨の取り扱いですら珍しいというのに」

「ガルダン王がジャイアントモールの討伐の褒賞に寄越した端金よ。持ってても気分が悪いから遠慮なく使って欲しいわ」

「わかった。これだけあれば、この先10年は各地の子供達を無償で受け入れて冒険者訓練をさせてやれる。ポート町をあげて、子供達の育成に取り組ませてもらおう」

「町の整備に使ってもいいし、使い道はジェフに任せるわ。あ、そうだ、ノエル。ジャイアントモールをギルドに卸そうか?20メートル級と50メートル級があるわよ」

「あほう、解体倉庫に入らねえよ」

「じゃあ、角が黄色いクロイワヤギは?」

「マキア山脈のクロイワヤギの、しかも黄角か。ギルド中の金をかき集めても買い取れねえなあ・・・」

「んー、じゃあ5メートル位のヒクイドリと、7メートル位のワイバーンは?」

「それなら1つずつ頼む。それぞれ高級肉だし、防具の良い素材になる」

「分かった。後でエディに預けておくね」

 王都での顛末とグレーデンの子供達の件について話も一段落して、話題は取り留めのない物に移っていった。

「それでサヨコ、しばらく国を離れるってどこに行くんだ?」

「うーん。山の向こうの帝国に行ってみようかと思ってる。急ぎの連絡はギルドを通してちょうだい。私もギルドにはこまめに寄るようにするから。私、この国でもうお尋ね者かもしれないなあ。私の事を王国軍が追ってきたら、私の情報は隠し立てしないで正直に言ってくれていいからね。グランシールでトマス・ウォリックとやり合ったせいで、最初王都では出禁食らったしね。まあ、どう考えてもガルダン王国にとって私の印象は良くないと思うわ」

「ウォリック伯爵と・・・」

「行く先々で、全くお前は・・・」

「もう済んだことよ。それに悪いのはトマスだからね。でも万が一、私絡みで国がポート町やオーレイに圧力を掛けるような事があればすぐに教えて。相手が高位貴族でも王族でも、2度とこちらに手出しできないように、完膚なきまでに叩き潰してやるわ。教会が言いがかりをつけてきても、私がけりをつけるわ」

 小夜子は澄ました顔でロッドのエールを勢いよく飲む。

 大口を叩いている訳ではなく、小夜子ならやると言ったらやる。ジェフとノエルは国と教会がこれ以上小夜子に関わってこない事を祈りながらグラスを傾けた。

「しかしまあ、オーレイもポート町も殺伐とした大都市からしたら楽園ね。イーサンが言っていた意味が王都に行って良く分かったわ。富を奪わず、奪われず、相手を思いやって分け合っている。表で笑って、裏で相手を陥れる算段をしている人間なんて、ここにはいないもの」

「ははは、それだけのんびりした田舎だって事だけどな。贅沢は出来ないが、食べるだけならどうにかなる」

「この町なら、体を壊さない程度に真面目に働けば、時々ロッドの美味しいエールを飲める位の余裕を持てるでしょう?それで十分よね。十分に幸せだわ・・・」

 そう言いながらロッドのエールを飲む小夜子の瞼は段々下がり始めている。

「・・・サヨコ、グレーデンの子供達の様子も見ていくといいぜ。みんな頑張ってる。少し、のんびりしていけないか?」

「・・・そうね。明日もジェシカ達に会う約束をしているしね。いったんオーレイには帰るけど・・・」

 ぐらりと傾いだ小夜子の肩をノエルが支える。

 小夜子が手前に引き寄せていた、3人で飲む予定だったエールの中樽はだいぶ軽くなっていた。

 ノエルに肩を止められた小夜子は、ぐにゃりと前方に体を傾けた。ジェフがサッとカップと料理の皿を下げて空いたテーブルの上に小夜子は突っ伏して、それからすやすやと寝息を立て始めたのだった。

「酒には相変わらず弱いのだな」

「人1倍酒が好きなのにな。いや、こいつは人と飲む事が好きなのかな?」

 小夜子は子供と食事をする時は水や果実水を子供と一緒に飲んでいたなと、ノエルは思い返す。酒好きなら食事には必ずエールを付けているものだ。

「ほんとうは、田舎町でのんびりと暮らす事を願っているのだろうか」

 しんみりとした様子で、ジェフは小さな小夜子の後頭部を見下ろしている。

「いや、こいつはデカい屋敷で使用人に傅かれて暮らしたいんだとさ」

 ノエルの言う事はまごう事なき小夜子の願望であった。

「そうなのか・・・」

 小夜子の為にしんみりとしたジェフの物悲しい想いは途端に霧散した。

「しかしまあ、サヨコは常に気力も体力も漲っているが、今回ばかりは少し疲れたのかもな」

「そうか・・・。誰だって、そんな時もあるな」

「だが、こいつの事だ。ある日突然元気を取り戻して、またどこかに飛び出して行くんだろうさ。それでまた、こいつが遠くのどこかでやらかす事で、俺達は振り回されるんだ」

「ふふ、しかしこの町にとってはきっと歓迎すべき変化だ」

「それは違いない」

 ポート町町長とポートギルドのギルマスは、小夜子の眠りを妨げないようにそっとグラスを合わせた。



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