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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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王都ブラッドレー 2

「ジャイアントモール・・・。あれほど大きくなるのか?」

 数々の大型魔獣と対峙してきたであろうイーサンが、驚きを隠せずにいる。

 王都城壁のすぐ近くに姿を現した3匹目のジャイアントモールは、後ろ足で立ち上がった体勢から上体を王都に向けて勢いよく倒す。ドオオンと、轟音が響き渡ると共に地震のように地面が揺れる。4つ足で城壁に突進したジャイアントモールは勢いよく石壁に激突した。ドカンと轟音と共に城壁か粉砕されたのが遠くからでもわかった。城壁はジャイアントモールの進攻を一時せき止められる位には厚さがあったようだ。ジャイアントモールは壁の下部に鼻面を突っ込んだ形で尻をこちらに向けて停止している。うつ伏せになった状態でも、ジャイアントモールの体高は城壁の半ばまで達していた。

「う、嘘だろう。王都の城壁は30メートルはあるんだぞ・・・」

 衛兵達は呆然と王都の城壁にめり込んだジャイアントモールを見つめる。

「なるほど。城壁の中の方が餌は沢山あるものね」

 城門前に集まった人々に目もくれずに城壁に突っ込んだジャイアントモールの行動に対して、小夜子が冷静に分析をする。

 衛兵達の顔色が更に悪くなった。

「ガルダン王国軍に提言する!!」

 刻一刻と時間が過ぎる中、思考停止している衛兵達にイーサンが鋭く叫んだ。

「今すぐ彼女にジャイアントモール討伐の助力を乞え!!城壁は長くは持たないぞ!!」

「っ・・・!イーサン卿、どうか討伐を・・・!」

「俺では時間がかかりすぎるんだ!王都民へ被害が出るぞ!今この場で彼女を頼ると決断しろ!!」

 ここまでイーサンに言われても、衛兵達は口が固まったようにそれ以上の言葉を発する事が出来ないでいた。

 イーサンには珍しく乱暴に舌打ちをした後、ジャイアントモールの上の小夜子の傍に飛び降りた。

「サヨコ」

 イーサンは強く小夜子を抱きしめた。

「イーサン?」

「サヨコ、ごめん・・・。王都には母と、兄達がいる」

 イーサンが小夜子の耳元で小さく囁いた。

一瞬の間を置き、小夜子は宥める様にイーサンの背中を何度か軽く叩く。

「イーサン」

 イーサンが抱擁を解いて腕の中の小夜子を見下ろせば、柔らかい笑みを浮かべ、小夜子はイーサンを見上げていた。

「いいのよ。家族は大切にしなきゃね」

 状況も忘れ、イーサンは小夜子の笑顔に見惚れた。

 自分の体に回されたイーサンの腕を、小夜子はそっと解く。

「まあ、これは私の所為かもしれないから」

「えっ?」

「ちょっと片付けてくるわね!」

 小夜子の言葉をイーサンは聞き返すが、次の瞬間には小夜子はイーサンの前から姿を消していた。

 ドン!という音の後に、強風がその場に残されたイーサンと衛兵達を叩く。

 城壁前のジャイアントモールの元に辿り着いた小夜子の小さな体を見て、他に打つ手はないとはいえ小夜子に頼りきりの現状にイーサンは奥歯を強く噛み締めた。

 一方城壁前に辿り着いた小夜子は、城壁に顔を突っ込んだままもぞもぞと身動ぎしているジャイアントモールを地上から見上げていた。城壁がぶ厚かったらしく、ジャイアントモールは進むか戻るか迷うようにもがいている。

 その城壁を見上げて小夜子は感心する。さすがに重機はまだ存在しないだろうこの国で、よくここまでの高く厚みのある城壁を築いたものだ。

 小夜子はおもむろにジャイアントモールの左後ろ脚を両手で抱える。抱えきれるものではなかったが、ジャイアントモールの足の毛をガッチリと掴み、そのまま後ろに下がってみた。すると、ジャイアントモールの巨体は小夜子が下がる毎にずるりと城壁から引きずり出された。

「ギイイイイ!」

 口周りが自由になったのか、ジャイアントモールが咆哮を上げた。

 小夜子は更にしっかりとジャイアントモールの毛皮を掴む。

「おらぁ!!」

 小夜子は気合の一声を上げ、右足を後方に強く踏み込む。そのまま上半身を捻り、フルスイングしてジャイアントモールを後方に投げ飛ばした。

「ギイイイイィ!!」

 ジャイアントモールは城壁から100メートルほど王都とは反対方向に投げ飛ばされ、街道脇に仰向けに落下した。そこにすかさず小夜子が飛んでいき、ジャイアントモールの頭部に手を当て強力な氷魔法を放った。

「ギ・・・・」

 長々と咆哮を上げていたジャイアントモールは頭部が真っ白に霜に覆われると同時に静かになった。今回は首から下もピクリと動かなくなったが念のため3匹目のジャイアントモールの頭部も破壊し、小夜子はしっかりと止めを刺した。

 小夜子がジャイアントモールの上から辺りを見回すと、城門の前で土まみれになっている人々も、城門を守っていた衛兵達も一言も声を発することなく静まり返っている。

 小夜子は周囲に構わず粛々と討伐後の後処理をしていく。まず足元のジャイアントモールを一瞬で収納ボックスに仕舞った。そしてイーサンが乗ったままの2匹目のジャイアントモールに向かう。

「イーサンお待たせ!」

「お疲れ様、サヨコ。本当に、ありがとう」

「私の出来る事だったし、別に構わないわ。あと、それもしまっちゃうわね」

 小夜子が指差す足元のジャイアントモールからイーサンが宙に飛び上がると、小夜子は2匹目もサクッと収納ボックスにしまう。

「イーサンが倒した分はどうする?自分で持っておく?」

「俺の空間魔法だと、ジャイアントモールだけで一杯になるなあ。使い勝手が悪くなるし、どうしよう」

「半分に切ってあげようか?」

「あはは!パンやケーキじゃないんだから」 

 辺りがシンと静まり返る中、小夜子とイーサンはのんびりと討伐の事後処理を済ませていく。

「じゃ、とりあえずイーサンの分も私が持っておくわね。じゃあ、王都はやめてどこかの辺境村でも巡ろうか。案外都会よりも石像が残ってるかもしれないし」

 小夜子は目視で街道脇に転がる一匹目のジャイアントモールを収納ボックスに仕舞った。

「はあ、うちの伯父がほんとにゴメンね」

「今度会ったらどうやって金を巻き上げてやろうかしら」

 小夜子は笑いながら収納ボックスからバギーを取り出した。

 小夜子とイーサンがバギーに乗り込み出発しようとした時、イーサンに声を掛けてきた者が居た。

「待て、イーサン!何処に行く!知らせを聞いて駆け付けたが、本当によくぞ国難を防いでくれた」

 1人の男が助手席側からバギーの車体に取りついた。短く刈り込まれたプラチナブロンドは美しくも凛々しく、水色の瞳には強い意思が感じられる。精悍な顔立ちだが、男はイーサンとよく似ていた。

「えーと、エドワード兄上。久しぶり」

「呑気に挨拶をしている場合か!早急にこの騒ぎについて軍本部に報告を入れねばならない。イーサン、彼女を紹介してもらえるか」

 イーサンの向こうから声を掛けてきた男は、少し緊張した様子で小夜子を見ていた。

「あ、うん。彼女はサヨコ。冒険者だよ。サヨコ、こちらは俺の兄でエドワード。王都の防衛軍に所属している」

「エドワードだ」

「小夜子よ」

「・・・・君がジャイアントモールを倒す所を見た。あの巨体が消えてしまった後では、にわかに信じ難いが・・・・。城壁に被害が残っているし、目撃者は多数いる。是非軍まで同行を願いたい」

「それは無理な話だわ。私、王都に立ち入りが禁じられているの」

「・・・どういう事だ?」

 怪訝な顔のエドワードの周囲にいる衛兵達の顔は、青を通り越して真っ白になっている。

「エドワード兄上、俺も衛兵達にはがっかりしたよ。自分のプライドと王都民の命とどっちが大事なんだって話だよね。あ、それとも、現場決定の責任を誰も取りたくなかったのかな?」

「チャールズ少尉!!」

 エドワードが怒号にも等しい大声を張り上げると、顔を白くしていたうちの衛兵の一人がビクリと体を揺らした。

「何があった。簡潔に報告しろ」

 チャールズ少尉と呼ばれた男が、ぎこちなく手足を動かしてエドワードの前にやってきて、大汗をかきながら報告を始める。報告が淀みそうになる都度、エドワードの怒号が飛び、チャールズは恐怖に突き動かされて、先程小夜子とやり取りしたありのままをエドワードに洗いざらい報告した。

 報告を聞いた後、エドワードは苛立ちを逃がす様に深く息を吐いた。

「サヨコ、私の部下の非礼を詫びよう。大型魔獣の討伐の助力を得た後で王都入りを禁じるなど、恩を仇で返す恥ずべき行いだ。チャールズ少尉、君は即刻兵舎に戻り待機していろ。追って沙汰を伝える。少尉の部下3名、お前達も兵舎で待機だ」

 上官命令は絶対で、衛兵達は白い顔のまま駆け足で城門へ向かった。

 エドワードは厳しい顔で城門へむかう衛兵達を見ていた。

「イーサン。あなたのお兄さん、いい男ね!」

「ちょっと、サヨコ!エドワード兄上は妻帯者だからね!」

「きちんと自分の否を認めて謝れる男って、かっこいいわ!」

「サヨコ!兄上は子供もいるから!」

 軍の不手際に忸怩たる思いで居たエドワードだったが、突然話の内容が飛んだ小夜子とイーサンのやり取りにエドワードは思わず笑ってしまった。

「ははは!イーサン!随分余裕が無いじゃないか!こんなお前は初めて見るな。いや、愉快だ!」

 イーサンはイーサンで、堅物であるエドワードの滅多に見られない笑顔に驚いた。イーサンは真面目で少し融通が利かない次兄がどうも苦手で、これまで積極的に関わってはこなかったのだ。

「イーサン、サヨコ。是非、軍本部までご足労頂きたい。王都を守った英雄に礼をさせてくれ」

「私があなた達の伯父さんの家で暴れた事は事実よ。それはいいの?」

 トマスの話を小夜子がすると、エドワードの片眉が上がった。

「ふん、どうせトマス伯父上が先に悪さをしたのだろう?その件については不問とする。君に対する警告文も、国内におけるもの全てを取り下げる」

 トマスも小夜子もどっちもどっちであったのだが、トマスは日頃の行いが悪すぎて甥達の信用が無いようだった。

「ありがとう」

 エドワードの解釈を小夜子は黙って受け入れた。

 しかし、考えてみればトマスの嫌がらせがあった事により小夜子とイーサンは王都の城門前で足止めを食い、結果王都を守る事になった。

 あの幼女は長らく小夜子の前に姿を現さないが、全ての点が線で繋がっているかのような気味悪さを小夜子は覚えた。幼女の言いなりになるのは不愉快極まりないが、少しの差で小夜子の周囲の人の生き死にの結果が変わって来るかと思えば、小夜子は石像の修復を放り出すわけにはいかなかった。

「じゃあ、ありがたく。あなたのお兄さんのご招待を受けましょうか」

 エドワードが騎乗で先導する後ろを追いかけ、小夜子とイーサンはゆっくりとバギーで王都入りした。



 王都ブラッドレーは、200年程前に今の国の規模となってから遷都された新しい都だ。

 区画整理された都は碁盤の目のように道路と建物が整えられている。

 王都中央を通る大通りを延々と中心部に向けて進むと、機能的に行政機関が集められている。王都の後背部はマキア山脈が聳え立ち、天然の要塞となってヴァンデール帝国からの侵攻を防ぐ。天然の要塞を背後に背負い、ガルダン王国の白亜の王城はその威容を誇っている。ガルダン王国のみが産出する希少な畜光石が数百とも数千とも、白亜の王城には埋め込まれており、白亜城の他に不夜城の異名も持っている。

「綺麗な街ね」

 大通りに面した部分しか見ていないのだが、前世の知識がある小夜子をしてそう言わしめる、美しい街並みだった。

 広い大通りを馬車とすれ違いながら、小夜子とイーサンのバギーは進む。

 それほど時間もかからずに王都中心部、ガルダン王国軍本部に小夜子とイーサンは到着した。碁盤の目の広めの1区画の全てが軍の敷地のようで、軍本部、兵舎、厩、訓練場などの軍の機能が一所に集約されている。

 小夜子とイーサンはエドワードに導かれるままに、武骨な箱型の建物の3階へ案内された。

 先触れが出されていたようで、ドアを守る兵士がエドワードに会釈してから中に合図を送る。ドアが開き中に通されると、正面の執務机には堂々たる男ぶりの人物が笑顔で座っていた。

「イーサン・バトラー、久しぶりだな!相変わらずの凄い活躍じゃないか。こうも個の武に敵わないとは、我々王国軍はもっと鍛錬を積まねばな!此度の王都防衛の助力、感謝する」

「ははは。ブルームハルト将軍閣下、俺の武などささやかなものですよ。今回最大の功績を上げたのは彼女ですから」

 男が執務机から立ち上がると、その充実した体は小夜子が見上げる程の大きさだった。

「ダグラス・ブルームハルトだ。ガルダン王国軍の軍団長職を預かっている」

「小夜子よ」

 誰が相手でも通常運転の短い自己紹介をしながら、小夜子はダグラスと握手を交わした。

 室内応接スペースに案内され、ダグラスの向かいに小夜子とイーサンは腰を降ろした。ここまで小夜子達を案内してきたエドワードはダグラスの後方に下がって控えている。

「ふむ、しかし俄かには信じがたい。このような可愛らしいお嬢さんが、ジャイアントモールを単独で討伐したというのか?しかも通常よりも巨大な個体を2体もか?」

「はい。私もこの目で見ていなければ信じられなかったでしょう。体長が50メートルに届くほどの超大型個体を彼女は投げ飛ばし、氷魔法で動きを封じた後にその頭部を拳で粉砕しました。その上、彼女は大型魔獣3体を楽々と空間魔法で収納してしまいました」

「・・・それは、凄まじい力だな」

 エドワードの報告に、ダグラスは言葉少なに考え込み始める。イーサンは既に小夜子の常識を外れた力に対して感覚が麻痺しているので、ダグラスが事情を呑み込むまでゆったりと紅茶を飲みながら待っている。

「サヨコ、ガルダン王国軍に入らないか」

「断るわ」

 軍人らしいダグラスの簡潔な勧誘を、小夜子は速攻断った。

「ふっ、ははは!」

 ダグラスは気分を害する様子もなく、愉快そうに笑い声を上げた。

「振られてしまったな。イーサン・バトラー以来の大型新人に是非入団してもらいたかったのだがな。サヨコ、君は冒険者だったか。アレンからも報告は上がっているが、ランクはAか?」

「Bよ」

 小夜子の答えにダグラスは怪訝な顔をする。

「そのランクは、あまりにも能力に見合わなくないか?君ならSランクでもおかしくないだろう」

「別にランクなんかどうでもいいわ。冒険者ギルドは冒険者の身分が便利だから登録しているだけ。素材の買取を依頼するだけなら、商業ギルドがあれば私の用事は事足りるわ。でも、田舎にもあるのが冒険者ギルドなのよねぇ。だから、メリットがあるうちは冒険者でいるつもり」

「そうか。もし君が望むのなら、Sランクへの推薦を私からさせてもらうが」

「遠慮するわ」

 再びにべもなく、ダグラスは小夜子に断られた。

「ははは、それは残念だ。ガルダン王国に君とイーサンが居てくれるなら、これほど心強い事は無いのだがな。仕方がない、私は君の事を潔く諦める事にしよう。だが、これから君の周りは賑やかになるぞ」

「なんで?」

 首を傾げる小夜子を、向かいに立つエドワードは少し気の毒そうに眺めている。

「今、君の噂は王都を物凄い勢いで駆け巡っている。君を獲得するために王都の貴族、冒険者ギルドはもちろん、教会ですら動くかもしれないな。イーサン、彼女を守り切れるのか」

 ダグラスの問いかけにイーサンは首をすくめる。

「俺の力の及ぶ限りは俺なりに彼女の力になるつもりです。でもまあ、彼女はどんな権力にも屈しないというか、相手にしないでしょう。そもそも小夜子は、俺の庇護なんて最初から当てにしていないですから」

「ちょっと、イーサン!私、イーサンをとても頼りにしているわよ!この国の事は何も分からないし、沢山助けてもらっているわ。でも助けてもらえるからじゃなくて、私は好きでイーサンの側に居るの!」

 何やら自分を過小評価している様子のイーサンに、小夜子は思った事を思った通りに言い放つ。

 イーサンの顔が途端に真っ赤になった。

「ははは!これは良い物を見た!王都で浮名を流していたあのイーサン・バトラーが、まるで初心な少年のようじゃないか!いやあ、エドワード。恋は人を変えると言うが、実際に目の当たりにすると何とも微笑ましい物だなあ」

「はい。私も今日初めてこの二人を目にしまして、驚いている所です」

「あの、将軍閣下、どうかもう、その辺で」

「本当の事だもの。恥ずかしがること無いじゃない」

 更に赤面するイーサンと喜ぶダグラスの前で、小夜子は何で?とイーサンを覗き込む。

「いや、あの、うん。サヨコ、ありがとう」

 未だ顔の赤みは引かないが、薄く微笑むイーサンを小夜子も見つめ返す。小夜子はイーサンの笑顔はもちろん好きだが、余裕がなさそうに眉根を寄せていたり、焦って赤面している顔も大好物なのだ。今のはにかんで顔を赤らめているイーサンも、もちろん良い。

「2人の仲は良く分かったから、そんなに見せつけてくれるな。最初に話を戻すぞ。サヨコ、今回の王都防衛の多大な功績に対しては国から褒賞がでるだろう。その内知らせをやるから所在は分かるようにしていてくれ。しばらく王都にいる予定か?」

「その予定よ。どこかいいホテルはある?従業員教育がしっかりされている所がいいわ」

「我が家に招待しても良いが、外野がうるさそうだからな。客をしっかり守る良い所を紹介してやるから、イーサンと滞在してくれ。費用は俺が持つ」

「いいの?!ありがとう!グレーデンのアレンはクソ野郎だったけど、あなたの事は信用するわ!」

「はっ?!くっ・・!あはははは!」

 ダグラスはとうとう体を折って大笑いし始めた。

「サヨコ、ウィンスロット閣下はガルダン王国の高名な将軍だ。もう少し、歯に衣着せてもらえると助かる」

 笑い転げるダグラスの後ろで、エドワードは諦念の滲む笑みを浮かべている。この短い時間で、エドワードは小夜子が制御の利く人物ではないと理解した。

「こんなに笑ったのは久しぶりだ。楽しかったよ、サヨコ。また近いうちに会おう」

 ダグラスがにこやかに小夜子とイーサンに別れを告げた。

 城門前の衛兵達との小競り合いはあったが、小夜子と軍のトップとの顔合わせは和やかなまま終わった。

 ダグラスが紹介してくれたホテルまでエドワードが付き添い、エドワードとも一度ここで別れる事となった。

「イーサン、その内一度家に顔を出しなさい。母上も待っているだろう」

「あー、だよねぇ」

 少し困った顔をする弟の頭を笑いながら乱暴に撫でて、エドワードは仕事に戻っていった。

「お兄さんと仲良しね」

「エドワード兄上とは、実は3、4年振りに会ったんだ。あんなに気楽に話出来たの、初めてかも」

「へえー。お互いに大人になったからじゃない?」

「あはは、そうかもね」

 小夜子とイーサンがホテルのエントランスに入っていくと、すぐに従業員が愛想よくフロントへの案内につく。

 穏やかに緑のアイコンを点滅させているエドワードとダグラスに知り合うことが出来て、まずまずの王都滞在の滑り出しだと小夜子は思った。もちろん衛兵達とやり合った事など、小夜子はすっかり忘れている。

 ジャイアントモール3匹を討伐したことすら喉元を過ぎて忘れ去り、今夜の食事と酒の相談などを笑顔でしている小夜子とイーサンは、常人の感覚とは大きくかけ離れた似合いの2人だった。


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― 新着の感想 ―
小夜子の前には50m級のジャイアントモールも単なる食材。すっかり染まってしまったイーサンが、だんだん可愛く思えてきました
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