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クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


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【閑話】オーレイ村 温泉郷への道 ②-3

 広場には、元の家から色々家財道具を持ってきた2家族が待っていたので、新たに作った従業員用の宿舎に案内する。小夜子は宿舎に案内しながら、ポート町で預かっていた従業員達の家財道具も一気に収納ボックスから放出する。

 まだ新しい冒険者用の宿も食堂も完成していないので、少しの間は従業員用の厨房から冒険者にも食事を出してもらう事にする。まだ宿に泊まる冒険者の人数はセーブしてもらっているが、従業員達には自分達の住居を整えながら、先に出来ている5人定員の宿の清掃、管理と冒険者の食事の世話をお願いする。

 調理を担当する女性陣3人は家庭料理しか作れなかったので、器用なイーサンが色々な料理を教えてやっていた。様々な食材を小夜子はどんどんとパントリーに詰め込んでいくので、イーサンは贅沢に揃えられた食材を使い、村民達や冒険者を唸らせる料理を思うまま振舞っている。舌が肥えているイーサンの料理は十分に店で出せる味で、料理の手ほどきを受ける女性達も少し安心したようだ。女性陣はサリーからも色々な料理を教わる予定なので、温泉宿の食事もこれで問題ないだろう。気付けばイーサンの料理教室にはマーガレットもちゃっかり加わっていたりして、なかなか楽しそうにやっている。


 出戻り住民達の生活を支援しながら、小夜子は頭をフル回転させて新たな宿の稼働について考え、村の設備を整えていく。

 バギーの送迎については、レイン以外に魔力を持っている村民が残念な事にいなかった。当面は宿の客にはレインがポート町に行き来するついでにバギーに乗ってもらうか、これまで通り馬で来てもらうしかない。一応バギーと同時に馬車も村に乗り入れられるように、村に入ってぐるりと回れるロータリーを広めに作っておく。

 あちこち手入れをしながら構想を練っていた小夜子は、翌日の午後には20人定員の温泉宿を作り上げた。

 最初に作った全個室の5人定員の宿は別館として、こちらを本館とする。4人部屋が2部屋、2人部屋が3部屋、残りは個室が6部屋とした。宿泊料金は個室が一泊300ゴールド、二人部屋が500ゴールド、4人部屋が800ゴールドと格安にする。相部屋の場合は料金を人数割りにするなど、柔軟に対応すればいいと思う。それに食事は朝食が100ゴールド、昼食・夕食が200ゴールドの初期設定は変わりない。ターゲットは冒険者や近隣の庶民なので、薄利多売で稼働率を上げる事を目指してもらう。不都合が出てくれば、価格の変更は管理人達で考えてもらう。

 上水道に関しては、小夜子の知識では動力が思いつかなかったので、厨房内に小型のポンプ式井戸を流しに連結して設置する事にした。これで煮炊きの度に女性陣が井戸から水汲みをする必要が無くなった。

 オーレイ村はポート町と同じく豊かな地下水脈の上にあるので、トイレに関してもトイレの中に小型ポンプ井戸を直接設置し、汚物を流して手洗いも出来るようにした。

 生活排水と汚水は村の外の浄化槽に流れていくようにして、4層に分けて濾過して最終的に村の近くに流れる川に流す。この世界には汚物を処理できる便利なスライムが存在したので浄化槽にたっぷりと放り込んでおく。スライムは川辺にいる大人しい魔物で、ショーンに時々浄化槽への補充を頼むことにする。トイレの便槽の中で直接スライムを飼うパターンもあるそうだが、人の出入りの激しい宿ならやはり水洗の方が清潔だ。

 イーサンに都市圏の水道事情を尋ねると、屋上の貯水タンクからの自然落下による送水が主流なのだそうだ。地球でいえばこの国は近代への過渡期位の文明度といった感じだ。

 オーレイ村で独自に電力発電システムを作り、その電力を使った便利な設備を小夜子のスキルで作れるかもしれない。しかし、それでは故障があった時に小夜子の他に誰も対処が出来ない。生活の要のライフラインがそれではいけない。

 小夜子には万物創造のスキルを使う上でルールがある。建物や設備に関しては、サヨコが不在でも使い続けられる物を作ると決めているのだ。住居などが古くなったら、この世界の修繕方法で修繕して使ってもらえばいい。だから木材と石材で建物は作っている。

 消耗品に関しては何でもありで、特にルールは無い。ちなみにサヨコの中でバギーは消耗品である。元々この世界にない物なのだ。徒歩や馬や馬車、移動手段は他にもある。使えなくなったら、代替品でどうにかしてもらうだけの話だ。

 それから小夜子は2日がかりで、新たな温泉宿と従業員宿舎を作り上げた。

 オーレイ村には全戸、全施設に下水道が敷かれ、厨房内に小型ポンプ式井戸と排水が出来る流し台も設置された。言うまでもなく畜光石は新しい宿と宿舎の全てに惜しみなく設置され、照明用の燃料は不要だ。

 竈やストーブは未だに薪なので、この辺のライフラインの向上は今後の課題だろう。


「まあ、今回はこんな所かな!」

 小夜子によるオーレイ村の魔改造は、基本は小夜子にとって過ごしやすい村作りに焦点が当てられている。今までの生活とは比べ物にならないほどの立派な住居と便利な設備を小夜子が無償で与えてくれるのだから、それに対して住民達からの文句はもちろんない。

「こんな・・・、こんな立派な建物が私等の家と仕事場になるんで?」

 ジャック達家族と一緒にやって来た2家族は、新たに出来た2階建ての温泉宿の大食堂の真ん中で呆然と立ち尽くしている。

「そうよ。もう少し使い勝手を見て必要な家具とか増やすから、あちこち見てみてね。足りない物があったら教えて頂戴」

 2家族はぎこちなく小夜子に頷く。多少小夜子に免疫があるとはいえ、ジャックも似たようなものだった。今はまだ自分達の宿という実感は湧かないだろうが、これからじっくり腰を据えて頑張っていってほしい。

 浴場は8人が一度に入れる大浴場と5人ほどで入れる中浴場、2~3人程で入れる小浴場の3つを作った。全てがもちろん24時間入れる温泉だ。女性客がいる場合は男女で使い分けてもらえばいいし、小浴場を家族で使ってもらってもいい。

「あーっ!働いたわー!今夜は新しい温泉宿の落成式よ!みんなで宴会よ!!」

「よしよし、頑張ったねえ。主役はもちろんサヨコだよ。君を精一杯もてなすから座って待っててね」

 小夜子はイーサンにより上座に座らせられ、お通しとばかりにオリーブの塩漬けとチーズのスライス、イーサン手持ちの白ワインが出される。それを小夜子がチビリチビリと楽しんでいる間にイーサンとサリー達を中心に沢山の宴会料理が作られ、真新しい宿の大食堂でオーレイ村民とその日宿に泊まっていた冒険者を交えての宴会が始まった。

「それではー、新しい温泉宿と住民が半分くらい戻ってきたオーレイ村に乾杯!!」

「「「乾杯!」」」

 白ワイン一杯で既にほろ酔いの小夜子が音頭を取り、皆で乾杯する。

 オーレイ村に戻ることになった3家族と爺婆達は元々が知り合いだった事もあり、和やかに宴会は始まった。サリー以外に爺婆達の中で家族が戻ってきた者は居なかった。けれどもサリー以外の爺婆達は、サリーの孫一家が村に戻ってきた事を屈託なく我が事のように喜んでいる。

「サヨコさん。村民が戻ることを許してくださって、ありがとうございました」

 酒も入り賑やかな食堂の隅で、トーリがヒソリと小夜子に話しかけてきた。

「私が許すも何もないわよ。でも、あの人達はトーリの言葉に従って大きな決断をして、新天地で頑張ったじゃない?だから、その分努力が報われたらいいなって思うわ」

「ポート町の事情を良く知りもせず、私は無責任に彼らの後押しをしました。その結果、私の考えなしの行いの尻拭いをサヨコさんにさせてしまった。本当に申し訳ありません。けれども彼らの受け皿を用意してくださったこと、心から感謝します」

「あはは、そんなに謝らないでよ。温泉の需要に応えるために人手が欲しかったんだもの、丁度良かったの。それに、私こそ反省しているのよ。思い付きでトーリや爺婆達に温泉宿の管理を任せてみたりして。頭で思う通りには、なかなかうまく行かないものねぇ」

「本当に、サヨコさんの言う通りですね」

 反省モードの2人のカップにイーサンが秘蔵の白ワインを注ぐ。

「まあまあ、反省するのはその辺で。人間誰しも失敗や判断ミスはするものだし。俺も失敗ばかりしているよ。でも失敗したら、今度は挽回するように頑張ればいいんじゃない?」

「・・・そうよね!トーリ、まあこれからも適当に頑張ろうじゃないの!」

 基本くよくよしない小夜子はイーサンの言葉にすぐに気持ちを切り替えた。

 小夜子らしい発破のかけ方にトーリは思わず笑ってしまう。

「温泉宿の従業員達は、頑張りたいだけ頑張ればいいし。トーリとレイン、爺婆達はのんびり生活できるだけ頑張れば良いわよね」

「はい、そうさせて頂ければと思います」

「やってみて問題があればギルドを通して連絡を頂戴ね。ノエルにも相談に乗るように言っておくから」

「サヨコさん、本当に、いつもありがとうございます」

 どうしても頭が下がってしまうトーリの肩を、小夜子は軽くポンポンと叩く。

「私が好きな時に入れる温泉をキープしておきたいだけよ。私はこれからも皆の集合住宅の方に泊まるから、帰った時はよろしくね」

 一瞬ハッとして、それからトーリはゆっくりと笑みを深めた。

「わかりました。いつでもお戻り下さい」

 笑顔が戻ったトーリと小夜子、イーサンはカツンと改めてカップを合わせる。

 小夜子がオーレイを帰る場所だと口にしてくれたその嬉しさを噛み締め、トーリはオーレイの賑やかな夜にゆっくりと酒と料理を楽しむ。

 レインに加えてジャック一家の小さな女の子を交えた宴会は、子供の手前羽目を外す事なく行儀よく、良い頃合いで終了した。



 翌日、小夜子とイーサンはオーレイ村を後にした。

 二人は転移でグランシールの郊外まで一気に戻るので、村民達の見送りは遠慮しておいた。集合住宅でいつもの朝食を食べてから、トーリとレイン、爺婆達に挨拶をして2人は一瞬でグランシール郊外に降り立った。

「本当に君の能力はでたらめだよね」

 今回転移により一瞬でオーレイに連れていかれた事にも度肝を抜かれたイーサンだった。

「え?イーサンも転移出来るでしょ?」

「こんな長距離の転移は無理だよ。俺はせいぜい、飛べて1キロ先程度だからね。俺程度でも空間魔法の第一人者とか言われていたんだから、お恥ずかしい限りだよね」

 一度行った場所にしか転移はできないという縛りはあるらしいが、行こうと思えば一飛びに国外へも小夜子は行けてしまうのだろう。小夜子なら守護結界を張って、風魔法でマキア山脈を飛び越える事も可能なのだ。

「サヨコが規格外なのはわかっていた事だからね。俺を恋人と呼んでくれるなら、その立場を守るために俺はもっと努力しないとね」

「イーサン?なあに、改まっちゃって」

「サヨコ。コンテナハウス出して。今すぐ」

「ん?」

 転移の為に抱きしめていた小夜子の体を、イーサンは軽々と横抱きにする。

 小夜子を見下ろしニッコリと笑うイーサンの圧が強い。

 つい最近聞いたようなセリフに既視感を感じながらも、イーサンの圧に押されて小夜子は街道からは木立で見えない草むらの中にポンとコンテナハウスを出す。イーサンは小夜子を抱き抱えたまま、足早にコンテナハウスに入る。

 やや手荒にベッドに降ろされると、イーサンが覆いかぶさるようにして小夜子を見下ろしてくる。

「オーレイ村もポート町もサヨコにとって大切な場所なんだね。俺を一緒に連れて行ってくれて嬉しかった、ありがとう。村や町の中で無邪気な笑顔を見せるサヨコは、いつまでも眺めていたい程にとても可愛らしかったよ」

「うふふ、Sランカーのイーサン・バトラーにポート町は大騒ぎだったわね。こんないい男が私の恋人だなんて、嬉しくて会う知り合い皆にあなたを紹介して回ってしまったわ」

「それでね、サヨコ。ノエルってかっこいいね」

「うん?」

「見た目も渋くてカッコいいし、落ち着いた大人で町のみんなも村のみんなも頼りにしている。ギルド職員なのに、冒険者としての実力はBランク相当だって言うじゃないか。包容力があって守ってほしくなる男って、ああいう人を言うんだろうね。女性なら誰もがノエルみたいな男と結婚して家庭を持ちたいとか、思うのかな」

 突然イーサンがノエルを褒めだして、小夜子は何が始まったのかと内心首を傾げる。

「何があっても動じないような余裕も感じるし、俺のような若造では太刀打ちできない魅力があるように思えるよ」

「そうかなあ。まあ、いい男だとは思うけど、普通のおっさんよ?」

 小夜子を見下ろしていたイーサンの眉間にビキッと縦線が入る。

「ノエルはこの部屋に何回入ったの?」

「えっ?」

 イーサンがのっしりと小夜子に体重をかけてくるので、小夜子はベッドの上で身動きが取れなくなる。

「寝ぼけて抱き着きながら俺をノエルと間違う位に、何度も彼はこの部屋に入ったんでしょ?ノエルは小夜子の恋人だったの?」

「ええっ!ちが、違うわよ!ノエルはただの友達・・・」

 小夜子は自分に覆いかぶさるイーサンの、苦しそうに眉根を寄せた顔を見上げる。怒っているような、でも少し顔が赤らんでいるような。

「・・・あっ。イーサン、やきもち?」

 途端にイーサンの顔が一気に赤く染まる。

「そうだよ!俺はみっともなくノエルに嫉妬しているんだよ!」

「やだっ!イーサン!かっ・・可愛いぃ!んむっ・・・!」

 噛みつかれる様なキスを受けながら、小夜子は喜んで可愛い男を抱きしめる。

 急ぐ旅路ではないにしろ、小夜子はイーサンにより、グランシールの郊外で再び一週間ほどの足止めを食らうのであった。



 オーレイ村に、人知れず温泉宿が新たに出来た。ポート町の冒険者達はこれまでよりも気兼ねなく温泉宿を利用できるようになり、ひっそりと仲間内で喜んだ。その宿の噂はポート町の冒険者を中心に、ポート町の住民、その近隣の町の住民へと少しずつ広がっていく。

 しかしオーレイの温泉がガルダン王国内に広く知られるようになるのは、まだまだ先の事だった。


バカップルのコンテナハウスプレイ。

次回から本編に戻ります。

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