【閑話】オーレイ村 温泉郷への道 ②-1
両想いになって浮かれポンチの小夜子とイーサンがオーレイ村にやって来た
季節は夏もそろそろ終わりという頃。
朝夕は随分涼しくなってきた。
とはいえ、日中はまだまだ暑くなる。働き者のオーレイの爺婆達は涼しい早朝、朝食前に一働きするのが日課だった。
「カレン、おはよう」
広場の石像周りを掃き掃除していたカレンは、声を掛けられて前屈みになっていた体をヨイショと起こす。
声の主はオーレイの爺婆達の生活を一変させ、その後も親身に世話をしてくれる凄腕の年若い魔術士だった。
「サヨちゃん。お帰りねぇ」
小夜子は虚を突かれて一瞬黙った。
カレンはそんな小夜子を見て、不思議そうに小首を傾げる。
「ただいま、カレン!」
カレンは満面の笑顔になった。
「サヨちゃん、一緒に朝ご飯を食べましょうよ。マーガレットのいつもの麦粥だけど、いつも美味しくて凄いわよねぇ」
「マーガレットの麦粥、何度食べても美味しいわよね」
「でしょう?隣のハンサムさんも一緒にどうかしら」
小夜子の隣には微笑みを浮かべたイーサンが立っていた。
「マダム、ご招待いただき光栄です」
イーサンがカレンの手を取り口付ける仕草をすると、カレンがきゃあと娘のような声を上げる。カレンは裕福な商家の出で、未だに良い所のお嬢さんの風情がある。料理だけは壊滅的に出来ないが、他の家事は頑張る健気な婆だ。
「ふふふ、他にも可愛い爺婆達がいるの。紹介するわ」
「それは楽しみだ」
カレンを間に挟んで小夜子達が爺婆達の集合住宅に向かって歩き始めると、正面の厨房のドアが勢いよく開いた。
「サヨコさん、お帰り!サヨコさーん!」
レインが小夜子達に向かって全力で駆けてくる。
「レイン、ただいま!」
もう虚を突かれることもなく、小夜子は笑顔で挨拶を返した。
小夜子とイーサンがレイン達と連れ立って食堂にやってくると、オーレイの住民達の他に冒険者の親父達の3人がテーブルについていた。3人は全員が小夜子と顔見知りで、その中の一人は小夜子が直接オーレイを案内した冒険者だった。
「みんな、おはよう」
「おう、姉ちゃんじゃねえか!」
「寄らせてもらってるぜ」
親父達は朝食も取り終わり、食後のお茶を飲んでまったりしている所だった。
親父達と話していると、一仕事終えた爺婆達とトーリが食堂にやって来た。
「みんな揃ったわね。紹介するわ、私の恋人のイーサンよ」
おお、と食堂がどよめく。
「イーサン・バトラー、冒険者だ。よろしく」
イーサンが名乗ると、親父達が更にどよめく。
「兄ちゃん、有名なSランク冒険者と同じ名前だな!イーサン・バトラーと言えば、ガルダン王国お抱えのSランカーで、一太刀でドラゴンも倒すって話だぜ」
「ははは、一太刀は言い過ぎだよ。倒すまでに何度も切りつけたからね。成り行きで仕方が無かったけど、ドラゴンの単独討伐は二度とごめんだよ」
「・・・・・おいおいおい!」
再び親父達が騒ぎ出した。
「マジかよ!あのイーサン・バトラーか!」
「こんな若い色男なのかよ!」
「姉ちゃんさすがだぜ!姉ちゃんの相手はその辺の男じゃ務まらねえよな!」
興奮した親父達が口々に騒ぐ中、ガンガンと金物を鳴らす音が響いた。
「こら!小僧共!いつまで騒いでるんだい!食べたらさっさとサヨコ達に席を譲りな!」
見ればサリーが空の鍋とお玉を持って親父達に怒りの形相を向けている。
食堂のテーブルは10人掛けで、オーレイの住人と小夜子とイーサンが座れば満席なのだ。
サリーに小僧共と叱りつけられた親父達は素直に席を小夜子達に譲る。
「悪いわね」
「いいんだ、俺らはもうメシ済ませたからよ。イーサン、後で色々話を聞かせてくれよ」
「サリー、怒るなよ。俺はもう一晩泊るから明日の朝まで飯頼むぜ」
「昼は芋団子とソーセージのトマト煮だよ!」
「おお、好物だ。俺ももう一晩泊るか、迷うな・・・」
わいわいと話しながら冒険者達は食堂を出ていく。
冒険者とオーレイの住民達は良い関係を築けているようだ。
その後、イーサンと爺婆、トーリとレインは自己紹介し合いながら朝食を食べた。
「トーリ、困ってることない?冒険者の宿は順調かしら」
「はい、何とか頑張っています。定期的にポート町にも野菜を売りに行っていますし、温泉宿の収入と合わせて段々と冬支度も始めようかと思っています。サヨコさんのお陰で今年の冬はだいぶ余裕を持って迎えられそうです」
「良かった!でも何かあれば遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
「サヨちゃん、俺は裏の生け簀をもう少し大きくして欲しいんだが」
「わかった。今日やっておくわ」
ショーン曰く、イワナの塩焼きは冒険者にも人気で、切らす事なく提供したいとの事だった。冒険者向けの温泉宿は2人前後で毎日の利用があると言う。稼働してから一か月かそこらの話なので、まだ様子見の段階だろう。
みんな朝食が済み、爺婆達はそれぞれ自分の仕事に動き始めるが、レインは小夜子とイーサンの向かいに座ったままチラチラとイーサンを見ている。
「レイン、何かな?」
優しくイーサンが話しかけると、レインはパッと両頬を赤くする。そんなレインをみてイーサンは笑みを深くする。
爺婆達はイーサンの冒険者ランクにあまり反応を示さなかったが、ポート町に出入りするレインは冒険者達に色々な話を聞いているのかもしれない。レインは頬を赤らめながらも、素直に瞳を輝かせてイーサンへの興味を示している。
「みんな働き者だね。レインはこれから何をするの?」
「これから畑に水まきをするよ。僕が畑のリーダーだから!」
両頬を赤くしたまま、レインはイーサンに胸を張る。
「それは凄い。レイン、良かったら畑を見せてくれる?サヨコ、今日は何か予定があるかな」
「今日は特に無いわ。レイン、イーサンに畑を案内してくれる?」
「いいよ!」
レインがますます背中を反らして胸を張る。レインが後ろにひっくり返る前に、小夜子達3人はオーレイの畑から村を見て回る事にした。
「これは良い景色だ」
3人は夏野菜が豊かに実る、一面緑の畑を見渡した。畑の奥では、ダンとニールが如雨露で畑に水を撒いている。
「さっき食べた野菜は朝採れの物なのかな。贅沢なことだねえ」
水を弾いているトマトやキュウリは張りがあって瑞々しく、野菜はどれも甘みが強い。村の夏野菜は森の小鳥亭から週2回の配達を頼まれるようになっていた。畑の野菜は採っても採っても、次々と実が成り、枯れる様子もないそうだ。小夜子は異世界ならではの不思議現象かと思い、オーレイの住民達は小夜子の魔法のせいだと思っている。
「レイン、水まきは出来るようになった?」
「・・・それはまだ出来ないんだ」
胸を張って意気揚々と小夜子達を案内していたレインだったが、途端に背中を丸めて萎れてしまう。
小夜子が教えられればいいのだが、感覚派の小夜子には魔法の発動を理論立てて説明する事が出来ない。
「水まきが出来ないって?」
爺達が如雨露で水まきをしている様子を見てイーサンは首を傾げる。
「レインはね、水魔法と土魔法の適性があるのよ。水まきとか、畑を耕すとか、魔法で出来たら便利だと思うんだけど、私じゃ教えられなくて」
「魔法の適正があるんだ。それも2種類も?庶民なら冒険者で身を立てるか、能力を売り込んで貴族に雇われる道を選ぶ所だね」
畑仕事をする発想しかない小夜子のおおらかさにイーサンは笑う。
「そうなの?レイン、あなた村の外で働き口があるかもよ」
しかし小夜子の言葉にレインは即座に首を振った。
「僕はオーレイに居たい」
何やら硬い表情でキュッと口を噤んでしまったレインの頭に、イーサンがポンと軽く手を乗せる。
「そういう道もあるって話だよ。レイン、オーレイに居るとしても、せっかく適正があるなら魔法が使えたら皆も助かるかもね」
そう言って、イーサンは前方に向けて片手を上げる。
すると広範囲に渡り通り雨のように水が畑に降り注いだ。こちらに向かって水を撒きながら移動していたダンとニールが喜んでいる。
「ほらね。水撒きだけでも魔法で出来たら、お爺さん達も君も楽になるだろう?」
「イーサンさん!」
レインが真剣な顔でイーサンに詰め寄った。
「僕に魔法、教えてくれない?」
「いいとも」
イーサンが快諾すると、レインの表情がパッと明るくなった。
向かい合っていたレインをクルリと反転させ、イーサンはレインの背中を包むように覆いかぶさる。イーサンは後ろからレインの両手をそれぞれの手で握る。
「魔力があるのに魔法を発動できないのは、魔力の動かし方が分からないからなんだ」
イーサンは握り込んだレインの両手から、ゆっくりとレインの内へと魔力を流していく。
「気持ち悪くない?」
「う・・うう、ぞわぞわする」
「ははは、貴族なら歩き出す前からこの訓練をさせられるんだよね。庶民は偶然に魔法を発動するパターンが多いんだって。そのぞわぞわするのは俺が無理やり魔力を動かしているからなんだけど、自分の中の魔力の動きは分かる?」
「た、多分」
「うん、あとはレインの魔力の出口を作ってあげよう。掌か指先か、イメージが浮かびやすい方で良いよ。前に向けて手の先から水が出るイメージで」
「う、うう・・・・わっ!わわわ!!」
バシャバシャと小夜子の耳に水音が届く。
「成功したの?!」
小夜子がイーサンの後ろからレインの様子を窺うと、両手をイーサンに掴まれたままレインが固まっている。
「うん、成功だ。飲み込みが早いね。レイン、水魔法の発動おめでとう」
レインの足元は落ちた水で黒々と地面が濡れていた。
「やったじゃない!おめでとう、レイン!イーサンも、ありがとう!」
「お役に立てて何よりだよ」
イーサンがニコリと笑い、レインから体を離す。
レインは実感が湧かないのか、ぼんやりと自分の掌を眺めている。
「レイン、大丈夫?疲れちゃったかな」
イーサンが後ろから覗き込むと、ふるふると無言でレインが首を振る。
一応小夜子がレインのMP確認をすると、MP残は62となっている。以前と比べてまたレインのMPは上限が増えている。
小夜子の鑑定は、HPとMPの現在残量しか表示されず、上限が分からないのが玉に瑕だ。今の水魔法でいくらMPを消費したのかは分からない。
「感覚を掴むために、水魔法を続けて使ってごらん。魔力切れになると気絶しちゃうから、ちょっとでも頭が痛くなったら今日はそこで練習はおしまいだよ」
「わかった。イーサンさん、ありがとう」
イーサンにレインは笑顔を見せるが、少しのぼせたように顔が赤い。
「レイン、大丈夫?具合悪いの?熱は?」
「だいじょうぶ」
心配した小夜子がペタペタとレインの顔を触るが、レインは口数も少なく、されるがまま大人しくしている。
「まあ、初めて魔法を使った後に子供は熱を出したりするしね。レイン、無理しないようにね」
「うん・・・」
イーサンが頭を撫でても、レインは反応も鈍くおっとりと頷く。
「初めての魔法って、子供はこんな風になっちゃうの?心配だけど、可愛いわ!」
思春期手前のレインに対して、小夜子なりに遠慮して普段はさらりと頭を撫でる程度に抑えているのだが、無抵抗なレインを前に小夜子はここぞとばかりに撫で繰り回す。
「ははは!レインも初めての事でビックリしたんだろ。サヨちゃん、レインは儂らで見ておくからよう」
レインはぼんやりしたままだが、ニールとダンは笑っているので小夜子とイーサンは後を爺達に任せる事にした。
ちなみにレインの水魔法はFランクになっていた。生活の中で水魔法を活用すれば、MP上限も更に増えるかもしれない。
それから小夜子達は畑以外の村の中を順番に見て回った。
「知っていたけど、サヨコの魔法は本当に何でもありだね」
目の前であっという間に川魚の生け簀を3倍の大きさにした小夜子は、それが?とばかりに平然としている。
「魔法で大抵の事は出来るけど、創造のスキルはやっぱり一番使い勝手が良いわね」
使い勝手が良い所の騒ぎではない。
「ねえサヨコ。何でも作れるなら、いっそ金貨を作ったら?冒険者をやらなくても良いんじゃない?」
金を稼ぐために冒険者をしている小夜子だが、金銀財宝を作ったり、あのコンテナハウスや、建築物の創造のスキルだけでも十分に食べて行けそうだとイーサンは思ったのだが。
「それがね」
小夜子は掌を体の前で上に向けて見せる。
掌にはみるみると金貨や大粒の宝石が付いたアクセサリーが現れ零れ落ちる。地面に落ちたそれらの財宝は、その全てが眩しい程に光り輝いている。
「この有様なのよ」
小夜子の脳裏には、小夜子に数々のスキルを授けた腹黒いおかっぱ幼女の顔が浮かんでいる。
小夜子もこちらの世界に来て真っ先に金や宝石の創造を試してみたのだ。しかし、小夜子が創造した金銀財宝は、鑑定では本物と出るのだが全てが眩しい程に発光していた。小夜子の作る金銀財宝には「女神ティティエの加護」が勝手に付与されていた。これはあのおかっぱ幼女が小夜子のスキルに付けた制限なのだろう。まあ、経済的な理由が無くても不運を回避するためには、世界に散らばる幼女の石像を修復して回らなければならないのだが、小夜子に多少なりとも苦労をさせたいという幼女の底意地の悪さが透けて見えるような加護の付与だ。
「こんなの、本物だと思ってもらえないでしょ。欲しかったらあげようか?」
「あはは、面白いけど遠慮しておくよ。不思議だねえ。畜光石みたいだね」
畜光石と違うのは、小夜子が作り出した金貨や宝石は昼日中からピカピカと発光している所だ。
ちなみに、住民達の集合住宅に使われまくっている畜光石にイーサンは大笑いした。畜光石は冒険者達の入浴施設や、果ては広場の女神像の雨除けにまで使われていて、そのくせ盗難は全くないというのだ。王都の貴族達がこの村を見たら大騒ぎになるだろう。
この村全体に使われている畜光石は総額いくらの価値になるのか、イーサンは考えようとしてやめた。この村では、畜光石はあくまでも照明器具でしかないのだ。
畜光石の価値を知ってからも、燃料が要らないから便利だと小夜子は畜光石を爺婆達に使わせている。
小夜子は必要だと思えば、躊躇せずに人々へ自分の資産を分け与える。
様々な欲も抱いているのに、不思議と小夜子には清廉さも感じる。
相反する性質を自然と併せ持っているのもサヨコの魅力だとイーサンは思っている。
「まあ、石像の修復をして回らないといけないから、冒険者の身分は便利なのよ」
言いながら小夜子はついさっき作った宝石等をあっという間に土に還してしまう。
「それに私の夢を叶えるためにはこの世界の資産が必要だし、この世界のマンパワーが必要な訳よ」
小夜子が常日頃言っている、人に傅かれて世話されて暮らしたいという話だ。
しかしオーレイでの小夜子は、逆に爺婆達に傅く勢いで住民達の生活の手助けの為に細やかに気配りをしながらあちこちと動き回っている。普段言っている事とやっている事が違うなあと思いながら、一生懸命な小夜子をイーサンは笑顔で愛でている。
それからも小夜子はイーサンを引き連れて、野兎や鶏の飼育の様子を確認し、果樹の具合を確認する。最後に小夜子とイーサンは冒険者用の温泉宿にやって来た。
宿を覗いてみると、3人の内1人は町に帰ったようで、2人の冒険者が一階の休憩スペースでのんびりしていた。2人は小夜子とイーサンを見ると、喜んで中に招き入れてくれた。
「ねえ、おっさん達。温泉宿はどんな感じ?何か困っている事や、こうして欲しいって要望はある?」
「そうだなあ」
顎をさすりながら、オーレイに小夜子と最初にやって来た冒険者が口を開く。
「宿自体に文句は無いし、村で食べる食事も満足だ。ただ、来たがる奴が多くて、人数を制限しているんだ」
「そうなの?」
冒険者が言うには、宿に泊まれなくてもいい、食事もいらないし天幕で野営するから温泉に入りたいという者までいるらしい。しかし、オーレイ村は爺婆7人と子供が1人しか居ない静かな村だ。大勢の冒険者が押し掛けて連日騒がしくするのも気が引ける。
最初の頃は宿が定員一杯になる事もあったのだが、爺婆達の疲れ切った様子を見て、冒険者の間で一晩の上限人数を3人と取り決めしたのだそうだ。
「だから2、3人が途切れなく泊っていく状況なのね」
「そうなんだよなあ」
切なそうにため息を付く親父は、小夜子達と最初に来たあと1ヶ月経ってやっと2回目の温泉の順番が巡って来たのだそうだ。
「俺は初めての順番がやっと回ってきたんだ。やっぱりもう1泊させてもらうぞ」
「居続け2泊までだからな!」
冒険者達は自分達でルールを考え、爺婆達の負担になり過ぎぬように温泉施設を利用してくれているらしい。
「これはまた、なんて心根の優しい冒険者達なんだろうね!」
イーサンは目を丸くして驚いている。
「似た者同士が集まるとはよく言うけど、サヨコみたいに底抜けに人が好い冒険者が他にもいるんだね」
「よせよ、姉ちゃんには負けるぜ!」
そう言って、イーサンと親父達はワハハと笑い合う。
「悪口かしら」
半眼になる小夜子には、違う違うと親父達とイーサンが慌てて否定する。
「サヨコみたいに、相手の事を、それからお互いの事を思いやれる優しいオジサン達だって話だよ。自分の利益を守るために人を平気で蹴落とす都会の冒険者達を思い返すと、ここは優しいおとぎ話の世界のように思えるよ。オーレイ村は本当に良い所だねえ」
万感籠るようなイーサンの言葉に、親父達と小夜子は顔を見合わせる。
「・・・まあ、兄ちゃん飲めよ。若いのにSランクに上り詰めるなんて、どれほどの事をしたのか想像もつかねぇが、簡単な訳ねえよな」
もう一人の親父がテーブルにドンと小さい樽を置いた。
「それロッドのエール?!」
「わはは!口も開けてねえのに何で分かるんだよ」
小夜子が食いついたそれは、まさしく森の小鳥亭のエールだった。
「今夜の温泉の後の楽しみだったが、休みの日に真昼間から酒を飲むのもまたいいもんだぜ」
4人分の木のカップをテーブルに出し、冒険者はたっぷりと樽のエールを注いだ。
「素晴らしいオーレイ村に乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
程よく温んだコクのあるエールが体に染みわたり、鼻から芳醇な香りが抜けていく。飲んだ後の余韻もいい。変わらぬ美味さに小夜子の頬も緩む。
「これはまた、物凄く美味しいエールだね!」
「でしょう?!ポート町で一番のエールだと思うわ。明日飲みに行きましょうよ!」
「兄ちゃん、是非ポート町に来てくれよ。Sランカーが来るなんて、ポートギルド始まって以来じゃねえか?」
「ポート町には駆け出しの頃、一回寄った事があったかなあ・・・」
そんな調子で、ほろ酔いの4人の話はどんどん逸れていったのだが、冒険者自らが人数制限をして爺婆達に遠慮をしていた問題である。
その日の夜、食事も終わり、冒険者達も宿に戻った。レインはもう休むと言って部屋に下がった。
食堂に残った爺婆トーリと小夜子とイーサンは、日中に冒険者達から聞いた事を話し合った。




