旅は道連れ王都まで 4
部屋の鍵をフロントに返却し、早朝小夜子はホテルを出た。
貴族街はグランシールの高台にあり、庶民街を見下ろすように高地から扇のように広がっている。
馬車で向かうほどの距離を、小夜子は健脚でどんどん突き進んでいく。貴族街の大通りを真っ直ぐ突き進んだ突き当りには、一際大きい屋敷が聳え立っていた。
鉄の門扉は閉ざされており、衛兵が両脇に立っている。
大通りを真っ直ぐに歩いてくる小夜子を衛兵達はだいぶ前から認識しており、とうとう領主屋敷の正門前に至った小夜子をじろりと両側から睨みつけてくる。
「ここは領主の屋敷?」
「何の用だ。怪我をする前に帰れ」
小夜子を衛兵の一人が追い返そうとする。
「イーサン・バトラーを迎えに来たわ。取り次いで頂戴」
「馬鹿か。お前などが来る場所ではない」
もう一人の衛兵は言うなり長剣を小夜子に振り下ろした。
アレンに比べれば酷く遅い一振りを小夜子は難なく避ける。
「今のは警告?それとも殺す気だったのかしら?」
衛兵は無言で再び小夜子に剣を振り下ろす。明確な殺意が乗った斬撃を小夜子はするりと躱す。
「人を殺そうとするなら、殺される覚悟もあるのよね」
お返しとばかりに小夜子は風の刃を作りだし、衛兵に向かって放った。
「ぐっ・・!」
衛兵は辛うじて攻撃を避けたが、自分の後方の門扉か爆音とともに斜めに切断され、上部が屋敷の敷地内に倒れていくのが見えた。再び門扉の落下と共に轟音がとどろく。
門扉の向こうからは騒ぎを聞きつけ、衛兵数名がこちらに駆けてくる。
「手加減できなくても恨まないでね。先に手を出したのはそっちよ」
ニヤリと口角を上げる小夜子を前に、辛くも攻撃を避けた衛兵は本能的な恐怖に全身を粟立たせた。厚さ10センチもある鉄製の扉を易々と切り裂いてしまう魔術士相手に、剣しか持たない兵士が応戦する術はない。動きを止めた衛兵の横を悠々と小夜子は通り過ぎる。
小夜子は門扉の残った下半分をバキバキと片手で毟り取り、こちらに向かってくる兵達に投げつけた。4、5名ほどが飛んできた門扉に巻き込まれて後方に飛ばされていく。
別方向から駆けてきた兵士達がそれを見て、驚いて足を止めた。
「イーサン・バトラーを連れてきて」
十分に間合いをとって小夜子に剣を向ける兵達に小夜子は要求する。
決定権を持つ者が居ないのか、衛兵達は戸惑いながらもこの場から動けないでいる。
「あんまり待たせないでくれる?気は短い方なの」
動かない兵達に焦れて小夜子が屋敷に一歩足を踏み出した時、正面玄関の扉が開いた。
白髪を後ろに撫でつけた、黒服の老年の男が屋敷から出てきた。
白髪の男は鉄門の惨状と、それに圧し潰されて呻く兵士達。兵士達に取り囲まれて立つ小夜子を順に見る。
「その無礼者を取り押さえろ!」
攻めあぐねていた兵士達が、男の指示で小夜子に殺到する。
しかし、羽虫でも払うように小夜子が右腕を振れば兵士の剣は折れ、小夜子の腕に引っ掛かるように兵士達が遠くに弾き飛ばされていく。手入れされた美しい生垣に兵士が次々と突っ込んで行き、老年の男の眉が思い切り上がる。
「何という事だ!小娘1人に何を手こずっている!」
「人の話を聞きもしないで、乱暴な爺ね」
男と小夜子の前に身を挺して割り込んだ兵士を、小夜子は払うように張り飛ばす。小夜子に払われた兵士は、放物線を描いて屋敷の一階の屋根に落下し動かなくなった。
小夜子との間に遮るものが無くなり、老年の男にもさすがに緊張が走る。
「イーサン・バトラーを連れてこいって言ってるの。そうしたら帰るわよ」
「お前のような狼藉者にイーサン様を渡してなるものか!私の命に代えてもイーサン様をお守りする!」
「うん?」
老年の男は丸腰ながら、一歩も引かぬとばかりに小夜子と対峙する。
男の覚悟を決めた言葉に小夜子は首を傾げた。
一応小夜子はイーサンを救い出しに来たつもりだったが、イーサンはこの屋敷でどういう立場になっているのか。
小夜子に張り倒された兵達も、満身創痍ながら震える体を叱咤して小夜子に剣を再び構える。
「マシュー、命に代えなくてもいいから。皆も、剣を下ろしてね」
その緊迫感を壊す様に屋敷の中から声がした。
「ごめんね、サヨコ。予定通り戻れなくて」
老年の男の後ろからイーサンが顔を出した。
「あはは、暴れたねえサヨコ。この庭、直せたりする?」
一週間ぶりに顔を合わせるイーサンは変わった様子もなく、朗らかに小夜子に笑いかけてくる。
「イーサン、捕まってたんじゃないの?」
「ある意味、捕まっていたんだけど。ここ、俺の伯父さんの家で、俺の父の実家。あれ、俺の手紙届かなかった?」
「・・・・届いてないけど!」
早合点して更に暴れまくる気でいた小夜子の頬が熱くなる。
小夜子は満身創痍の兵士達に治癒魔法をかけまくり、鉄の門扉と庭園の生垣を瞬く間に元に戻した。屋敷に乗りあがっている意識のない兵士も下におろす。兵士達は一様に驚き、自分の体を確かめている。剣や防具まで破損部分が直り、何なら新品のように真新しくなっていた。
「勘違いして馬鹿みたいだわ!」
「サヨコ、助けに来てくれたの?嬉しいなあ」
イーサンは満面の笑みで小夜子に抱き着いてくる。小夜子は結構な強さでイーサンの腕を叩き、腹に拳をいれたりしているのだが、イーサンは笑顔で小夜子をあしらっている。
兵士達は恐るべき小夜子の力を目の当りにしており、小夜子と親し気にじゃれ合うイーサンに驚愕している。
「イーサン、その愉快なお嬢さんを紹介してもらえるかな」
なんとなく場の雰囲気の緩んだ時、屋敷の正面玄関に壮年の男が姿を現した。
兵士達はそろって敬礼を取り、老年の男も恭しく首を垂れる。
この事態を引き起こしたであろう屋敷の主がとうとう姿を現した。
この国の貴族と小夜子はどうにも相性が悪いらしい。
「私はトマス・ウォリック。この辺り一帯を治めているよ。お嬢さんの名前を教えてもらえるかい」
「小夜子よ」
小夜子へ笑みを浮かべるトマス・ウォリックのアイコンは、鮮やかな黄色に点滅していた。
「こんな早朝に賑やかな訪問を受ける事はまず無いのでね、朝食もまだなんだ。君も良かったら一緒にどうだい?」
「いただくわ」
小夜子はトマス・ウォリックに招かれ、何故か屋敷の食堂に通されている。
上座にトマスが座り、その隣にイーサン、さらにその隣に小夜子という並びだ。3人の前にはシンプルに見えて贅が尽くされているであろう朝食が並べられている。
小夜子は遠慮なく全てに手を付けていく。
「伯父上、4日程前に宿泊中のホテルへ手紙を頼んだはずですが」
「そうか、マシューも高齢だから頭から抜けてしまったかな。不手際があったようで悪かったね」
そんな訳あるか。
トマスの取り繕う気もない言い訳を小夜子は聞きながら、黙々と目の前の皿を片付けていく。
「しかし、イーサンが見慣れぬ女性を連れ歩いていると聞いて驚いたよ。私の依頼を蹴ってクイーンリリーを商業ギルドに売ってしまったりするし、悪い子だ。私の可愛いイーサンはどこに行ってしまったのかな。遊びにしても付き合う相手は選ばなければいけないよ」
「気色悪い!いい年した男に対してこの猫かわいがりぶりは何なの!」
小夜子はとうとう我慢できず叫んだ。
「え、サヨコ、待って、待って。伯父上!変な事を言わないで下さい!可愛いイーサンなんて生まれて初めて言われましたが!」
「弟の忘れ形見だ。目に入れても痛くないほど昔から可愛いさ。イーサンには一日も早くキャロラインと婚姻を結んでもらい、ウォリック家の領政を学び始めて欲しいのだが」
「キャロラインとの婚約は3年前にお断りしました!」
イーサンが慌てるのを尻目に、トマスは涼しい顔をして食事を続けている。
「いやいや、そちらのお嬢さんもなかなかに我慢強い。イーサンを引き離してから色々手を伸ばしてみたが、ギルドでもホテルでも警備兵が呼ばれる程の騒ぎは起こさないのだからがっかりしたよ。しかし今朝の狂犬のような様子を見ると、グレーデンで大暴れしたのは本当のようだがね」
「このタヌキ爺が。私が受けた嫌がらせはあんたの差し金だったって訳?この街の全てにあんたの息がかかっているのかしら?」
「私の領地なのだからね。当然だ、と言いたい所だが、残念ながら全てではないよ。今回商業ギルドには出し抜かれてしまった。おかげで王族に恩を売る好機を逃してしまったよ」
「日頃の行いが悪いのよ。イーサンとあんたの関係が良好なら、最初から素直にギルドに素材を引き渡していたわ」
「ふむ。素直と言えば、お嬢さんは冒険者ギルドに腹を立てながらも、疑いもせずにギルドにいた情報屋を頼っていたねえ。私の子飼いの者に小遣いをくれてありがとう」
思わず小夜子は握りこぶしで食堂のテーブルを叩いた。
食堂を震わす音が鳴り響き、テーブルクロスの下からビキビキと天板が割れる音がする。あわや長大な食堂のテーブルが真っ二つという手前で小夜子はテーブルのひび割れを追いかけるように修復を施す。
「失礼。食事中にマナー違反だったわね。つい堪えきれない位に腹が立ってしまったわ」
「ははは、構わないよ。貴族の屋敷は初めてだろうし、楽にしてくれたまえ」
壁際に整列している使用人達は無表情を保っているが、小夜子の能力の一端に触れて、顔は皆一様に青ざめている。
トマスと小夜子の応酬を聞いていたイーサンは、真顔で小夜子に尋ねる。
「サヨコ、何があった?」
「別に大したことは無いわ。ホテルでは料金の前払いを要求されて、ルームサービスは物凄く遅いか無視される位ね。レストランもオーダー無視は当たり前。最近は、食事は外で食べるか自分で用意していたわね。冒険者ギルドでは素材を買い叩かれそうになって、この狸の子飼いの男に金を巻き上げられて、男二人に絡まれたくらいね。グランシールの冒険者ギルドでは二度と素材を売らないわ」
「伯父上!いったい何をしているのですか!」
イーサンは小夜子が受けたトマスからの嫌がらせに憤慨しているが、対して伯父は動じる様子もない。
「ははは、ちょっとした腹いせだよ。イーサン、君は我が娘との婚約を断っておきながら、私の足元で娘以外の恋人と楽しそうにしているのだからなあ」
伯父の言葉にイーサンは呻きながら両手で顔を覆った。
いざこざのある伯父の拠点に足を踏み入れた時点で自分の行動が全て伯父に筒抜けになると思い至らないとは、イーサンも何とも用心が足りない。
それなりに注意深い面もあると思っていたが、身内に対しては警戒が緩むタイプなのかもしれない。
「伯父上!金輪際サヨコに手を出すのはやめてください!文句があれば俺に言えばいいでしょう!」
精神的ダメージを受けながらもイーサンがトマスに抗議する。
しかし、いくら伯父の所業に怒って見せたとて、当の伯父は痛みも痒みも覚えずに目を細めてイーサンを眺めている。完全にトマスの方が役者は上だ。
世慣れたSランク冒険者というイーサンのイメージが、小夜子の中で崩れていく。
普通であれば恋人への気持ちも冷める場面なのかもしれないが。
「イーサン」
「え?んうっ・・?!」
小夜子はイーサンの顔を引き寄せて思い切り深く口付けた。気が済むまでイーサンを貪ってから、小夜子は良い音をさせてイーサンから離れる。
「サ、サヨコ」
「イーサン、可愛い」
蕩けるような笑みを浮かべた小夜子を見て、イーサンは口元を押さえて赤面する。
場数を相応に踏んでいるトマスも、突然の可愛い甥のラブシーンを前にさすがにカトラリーを持つ手が止まった。
そこに鈴を転がすような笑い声が響いた。
「お父様、降参なさいませ。逆効果でしたわね」
輝くような豊かな金髪の美少女が食堂に姿を現した。深い青の瞳が理知的に輝いており、キリリとした目元は美しくも凛々しい。髪と瞳の色は違うが、顔立ちはトマスとそっくりだった。
少女は給仕の者に案内され、トマスの隣、イーサンの正面の席に着いた。
「お初にお目にかかります。キャロライン・ウォリックと申しますわ。イーサン様とは幼馴染ですの」
「小夜子よ」
小夜子は簡潔に名乗る。
まだ頬に赤みが残るイーサンと小夜子を見比べて、キャロラインは再び楽しそうに笑みを零した。
「朝から情熱的なお二人に当てられてしまいましたわ。イーサン様、ご安心くださいませ。イーサン様に拘っているのは父だけですの。私は自力で子爵家次男辺りの、適当な入り婿を探しますわ」
「そ、そう」
キャロラインの美しい笑みにイーサンはたじろぎながらも相槌を打つ。
「お父様。もうイーサン様にちょっかいをかけるのはお止めくださいませ。イーサン様は当家にも私にも全く興味はないのです。いい加減にしないと本当に嫌われますわよ」
「わかったよ、キャロライン。・・・残念だな」
トマスはため息一つ付くと、再び朝食を口に運び始める。
「イーサン様。今後は父がご迷惑をお掛けしないように、私が責任をもって父を見張りますわ。此度の事、本当に申し訳ございませんでした」
「あの・・。キャロライン、なんというか・・・」
「謝らないで下さいませ。婚約の打診はあくまでも政略的な物です。ご迷惑をお掛けしましたが、まるで私がイーサン様に振られたような形になるのは業腹ですわ」
「あ、うん」
ぴしゃりとキャロラインに言われて、イーサンは口を閉じた。
「少し抜けている殿方はお可愛らしいですわよね。サヨコ様とは趣味が合いそうですわ」
「ふふ、そうね。じゃあ、イーサンは私が貰っていくわね」
「どうぞご遠慮なく。お帰りはあちらですわ」
キャロラインは笑顔で小夜子に出口を示すと、あっさり意識を切り替えて自分の朝食の指示を給仕の者にし始める。
小夜子はイーサンの手を取り席を立つ。
イーサンがトマスを見れば、トマスは皿から目を上げずにイーサンにもう行けとばかりに手を払う。
使用人が食堂の扉を開けて、小夜子とイーサンに礼を取った。
退去を促された小夜子とイーサンはウォリック邸を後にした。
「・・・お父様」
「悪かったよ、キャロライン。もうしない」
低い声音で呼ばれて、トマスは素直に娘に謝罪した。
「いやいや、まいったな。気性の荒いヤマネコ程度かと思っていたら、天災級の大虎だったとは。今後報告は真摯に受け止める事にするよ」
「当たり前です!」
娘に叱られてトマスは首をすくめる。
娘の前でいつもの様子を取り繕っているトマスだが、ジャケットの下は噴き出した冷や汗に湿っている。テーブルを叩いた時の、あの女冒険者の怒気は凄まじかった。
魔術による攻撃力と腕力による破壊力。これだけでも常軌を逸しているというのに、たった今、目の前で見た壊れた物を元通りに修復する力はいったいなんだ。怪我をした兵達に治癒魔法もかけていなかったか。あの冒険者はいったいどこまでの事を出来るというのだ。
恐るべき能力を持つ冒険者だったが、トマスに苛烈な報復をするでもなくイーサンを回収するとさっさと帰っていってしまった。
「最終的には何事もなくお帰り頂けましたけれど、色々と幸運が重なっただけですわ。イーサン様を差し出して事なきを得ただけです。サヨコ様ご本人も思いの外温厚なお人柄で、本当に我々は命拾いいたしましたわ・・・。当家としては、今後サヨコ様には触らぬようにくれぐれも気を付けると致しましょう。お父様のお陰で、我がウォリック家はサヨコ様に嫌われてしまったでしょうから!」
「そんなに怒らないでおくれ、キャロライン。もうイーサンをかまう事は止めるよ」
「約束してくださいませ!お父様の若者を揶揄う悪癖は、お年を召した証拠でしてよ!」
「酷いなあ。まあこれに懲りて余計な事は控える事にするよ」
反省した様子の父親を前にキャロラインはそれ以上言わず、ふうと息を吐きだす。
「約束ですわよ」
「わかったよ」
ひとしきり父親を叱り、一応の言質をとったキャロラインは準備の整った朝食を取り始める。
ゆったりと食後のお茶を飲みながら、トマスは2人の仲睦まじく帰って行く姿を思い出した。
余計な事はもちろんしない。
しかし、天災級の大虎の接近を王都に知らせるのは忠実なる臣下の責務であろう。
隣で食事をするキャロラインを眺めながら、トマスは紅茶のカップで口元の笑みを隠したのだった。
とりあえずはグランシールの繁華街に向かって2人は歩いている。
「もうグランシールに居る気はしないわね。次の街に進んでもいい?」
「あ、うん。それはいいんだけど、サヨコ。あの」
「なに?」
いやに口が重いイーサンを不思議に思い、小夜子は隣を見上げる。
イーサンは小夜子に目線を合わせず前を見たままだ。
「・・・・俺は、サヨコを嫌な目に遭わせて、それにも気付かずに伯父の手の上で転がされていて・・自分が情けないよ。幻滅した?」
「イーサン」
小夜子はイーサンの顔を引き寄せてもう一度キスをする。
「サヨコ?」
混乱しながら赤面しているイーサンに小夜子は笑いかける。
「それを言うなら、私もあなたの伯父さんに一杯食わされたしね。イーサン、私ね、ちょっと情けない所がある男がどうしようもなく可愛く思えるの。頼りがいのあるSランク冒険者もかっこいいけど、今のイーサンも好きだわ」
もともと小夜子は庇護欲が高い質なのだろう。何度も痛い目に遭っている筈なのに、少し情けないダメな男を前にすると、懐に抱き込んで愛でずにはいられない。結局この嗜好というか病は、死んでも治らなかったようだ。
一枚も二枚も上手の年上の男に気付かぬ内に転がされて、キャンキャンと抗議の声を上げるも全く相手にされていないイーサンに小夜子の胸はギュッと苦しくなった。
理屈ではない。イーサンのなんともポンコツな一面は小夜子のツボにはまった。
イーサンは小夜子の性癖を、この度見事射抜いたのだった。
「サヨコ!」
イーサンはそんな小夜子を、膝裏を掬って抱き上げる。
次の瞬間には小夜子とイーサンはグランシール郊外の街道から逸れた林の中に立っていた。
「あなた、転移も出来たのね」
「サヨコ、コンテナハウス出して。今すぐ」
「え、うん」
小夜子はイーサンに言われるままに、林の中の少し拓けた草むらにコンテナハウスを出した。
イーサンは小夜子を抱き上げたまま、性急にコンテナハウスに入っていく。
「イーサン?どう・・ん!」
イーサンは噛みつくように小夜子の口を塞ぐ。
普段の穏やかな態度とは一変したイーサンの余裕のない荒々しさに、小夜子の胸もどうしようもなくときめくのだから、もうつける薬も無い。
イーサンはSランク冒険者の無尽蔵の体力を小夜子に存分に思い知らせた。
その日から小夜子はグランシール郊外で、イーサンにより一週間の足止めを食らったのだった。




