表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ男もいい男も千切っては投げる肉食小夜子の異世界デビュー  作者: ろみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/108

なんとかやってるポート町 3

 協議の末、小夜子はCランク冒険者としてギルドに登録される事となった。

 戦闘能力はノエル以外に保証できる者がいないが、空間魔法の収納力だけでもCランク以上というギルドマスターの判断だった。有事における兵糧や天幕の運搬など、容量の上限が分からないほどの空間魔法はそれだけで多方面で有益性が高い。創造魔法とコモドドラゴンを一人で持ち上げる怪力については、冒険者スキルとしては評価判定が難しく査定外となった。

 高ランク冒険者になれば指名依頼や有事の強制依頼などの縛りも出てくるそうなのだが、国境や領境を越える時の通行料の免除、全てのギルド支所から現金を出し入れできるギルド口座を利用できるなど、冒険者になるメリットは現時点では大きい。

 小夜子はしばらくの間、冒険者として活動する事にした。

 ポートギルドは調査隊をこれから編成し、その出発は3日後。調査エリアはラガン平原というオーレイ村とポート町の間に広がる広大な平原から北部の山の麓まで。1週間ほどの調査がされる事になった。

 

 そして小夜子には調査に赴く前の重要な任務があった。

「「「お姉ちゃーん!」」」

「おはよう、みんな。今日はよろしくね」

 約束の日、ギルドで小夜子は子供達と再会していた。

 子供達は幼馴染でパーティを結成していて、パーティ名は「永遠の友情」。なかなか胸熱の名前だ。紅一点がチェルシー、男の子二人がキースとチャドと言う。冒険者パーティとは言え、採取と狩りがメインの活動を考えているとの事だった。

 オーレイ村から延々とポート町まで続く広大なラガン平原では、薬草や小型の魔獣が豊富に取れ、冒険者から買い取った物をギルドが一括して近くの城塞都市へ供給している。ポート町では冒険者という職業は危険な仕事ではなく、体が元気な限り安定した収入が得られるありふれた仕事という位置付けになっている。ポート町の冒険者達はDランク辺りを維持しながら活動するのが大半なのだそうだ。そう考えると、小夜子にちょっかいかけて来たCランクの男二人が勘違いをしてしまったのもこういう背景があったからかと納得する。

 小夜子は「永遠の友情」にポート町探索の指名依頼を出した。報酬額はパーティに対して3000ゴールド。町中の石像は3体ほどという事だったので、昼前には探索も終わるだろう。子供達の1日がかりの採取の報酬が一人当たり1000ゴールド前後と聞くと、割の良い仕事と言えよう。タダでいいよと子供達は慌てていたが、子供が遠慮するものではない。地道に依頼をこなしてDランクを目指さなければならないのだろうし。

「私一人で探したら1日じゃ終わらないわ。みんな、頼りにしてるわよ」

 小夜子の言葉に、子供達は頬を赤らめて力強く頷く。全くもって、可愛いではないか。

 早速小夜子達はポート町の探索を始めた。

 まずは一番近場のキースの家の近所に赴く。住宅街のY字路の枝分かれの部分に古ぼけた小さな祠があり、その中に確かにおかっぱ頭の石像が収められていた。

 これまでの風雨にさらされていた石像とは違い、屋根に守られているだけ石像の凹凸はくっきり残されている方だった。小夜子は祠と石像をまとめて修復した。一瞬で真っ黒に朽ちかけた祠が白木造りの真新しい祠に生まれ変わる。石像も心なしか凹凸がくっきりして、黒ずみもすっきりと取れて真っ白になっている。

 子供達からも驚きの声が上がる。

「ティティエさん、お守りください」

 チェルシーが石像に手を合わせ、ポケットから干しナツメを一粒取り出し石像の足元に置いた。

「そうやってお祈りするの?」

「そうだよ。毎朝ティティエさんに無事のお願いして、夕方は無事だったお礼を言うんだよ」

 道祖神信仰のような物だろうか。まさかこの世界中に、星の数ほどこの道祖神が散らばっているとか言わないだろうな、あの幼女・・・。

 無心にお祈りする子供達を前に、小夜子は一瞬気が遠くなった。しかし、道のりの果てがあるのか無いのか分からないが、それでも一歩ずつ前に進まなければゴールには決して辿り着けないのだ。

 小夜子はどうにか気を取り直して、残り2体の石像まで子供達に案内してもらう。

 町はずれの街道手前の道端には、風雨にさらされ凹凸も殆ど削られてしまった石像が2体並んでいた。

 小夜子が石像に修復をかけると、先ほどの石像と同様の姿を取り戻す。町中の石像と同じく、この2体にも周りを囲うように祠を作ってやると、子供達が大事なおやつだろうにポケットから干しナツメだの炒ったナッツだの出して石像の足元に置く。本当にいい子達だ。

「さて、もうティティエさんはこの町にはいないかな?」

「うーん、僕たちが知っているのはこれで終わりなんだけど・・・」

「じゃあ、大人達にも聞いてみようか。この町の一番美味しい食堂で、お昼ご飯をごちそうするわ」

 小夜子は子供達を森の小鳥亭に連れて行った。

 昼に少し早い時間で、店内はまだ込み合っていない。見知った親父達もおり、小夜子と子供達に気さくに声をかけてくる。

 ポート町の中では大人の社交場的な飲み屋兼食堂に初めて足を踏み入れ、最初はカチコチに緊張していた子供達だったが、ミートボールがゴロゴロ入ったパスタを見て目を輝かせた。頬を膨らませてパスタを食べている子供達を、小夜子と親父達は目を細めて眺める。

「ねえ、おっさん達。この町の中にティティエさんって石像があるじゃない?町はずれに2体と、すぐそこのY字路に1体。他にもあったりする?」

「この宿の裏手にあるぜ」

「ギルドの事務所の中にもあった筈だぜ」

 親父達の言葉に小夜子と子供達は顔を見合わせる。

 石像は探せばまだまだありそうだった。ギルドの事務所の中なんて言われたら、民家の中に石像があるなんて場合もあるんじゃないだろうか。全ての石像を修復するなんて、キリがないかもしれない。

 小夜子は屋外の石像のみを、とりあえず考える事にする。

「みんな、ご飯を食べたら宿の裏の石像を直して、後はギルドに依頼終了の報告をしに行こう」

「もう終わり?」

「うん、とっても助かったわ。ありがとう」

 1日かけて石像を探し回るのは正直だるい。小さな道祖神をチマチマ直していくよりも、成人サイズの女神像の修復の方がコスパは良いのではないかと小夜子は考えていた。その検証をするために、最初に森の中で発見したデカい石像をもう一度見つけ出して修復してみたい。今度の調査の時にでもついでに探してみようと小夜子は思った。

 食事を終えて、宿の裏手石像を直し、ギルドで諸々手続きを済ませて小夜子は子供達と別れた。ギルド内で石像を探すと、受付カウンターの後ろに棚があり、その上に掌に乗るサイズの小ぶりな石像が祀られていた。室内に置かれているだけに劣化は見られなかった。この石像は修復の必要は無いだろう。

 子供達との触れ合いは楽しかったが、非常にモチベーションが上がらない修復作業であった。後は自宅で日が高い内から酒でも飲んでゴロゴロしよう。

 今日の用事が済んだ小夜子はいったんコンテナハウスに向かった。

 解体倉庫の前を通ると、奥からエディが歩いて来て小夜子に片手を上げた。

「2匹出来た」

 昨日、ギルマスのジェフにコモドドラゴンを見せながら簡易の魔獣吊るし切り装置を解体倉庫横に設置したが、この装置にエディが食いついた。

 なんでも魔獣の解体は血抜きにけっこうな時間がかかるのだそうだ。小夜子のイメージではアンコウの吊るし切りだったのだが、切断面を下にして横一列に大きい獲物を吊るして血抜きが出来る装置として、非常に使い勝手が良いとの事だった。

 小夜子作の血抜き装置を譲ってほしいというエディに、小夜子は快く応じた。小夜子が持っていても何の役にも立たないからだ。血抜きがスムーズに済むので、2日で2匹解体出来るとのエディの話だったが、既に2匹の解体が済んだようだ。

 コモドドラゴンの素材の全てを買取してもらい、血抜き装置と合わせて買取価格は60万ゴールド。幼女からせしめた活動資金と合わせて手持ち金は約150万ゴールドとなる。使用人を雇って屋敷で左うちわで暮らすにはまだまだ足りない。

 2日で2匹という事だったので、調査に出発するまでにあと2匹の解体をエディに頼んでおく。

 それから調査に出発するまでの2日間を、森の小鳥亭で飲んだくれたり、永遠の友情にコンテナハウスの掃除依頼を出し、子供達が部屋の掃除をしてくれる横で飲んだくれたりして怠惰に過ごした。



 そして調査隊が出発する日を迎えた。

 ラガン平原の調査に向かう冒険者達は小夜子を除いてきっちり20名。街道を挟んで左右に調査を展開するという事だった。ギルド職員のノエルも今回の調査に同行する。

 小夜子にはジェフから個人的に頼まれた任務があった。冒険者達の野営道具、食料の運搬である。今回はギルドから冒険者への依頼で、1週間ほど身柄を拘束するので野営道具と食事は全てギルド持ちなのだそうだ。小夜子は了解して、冒険者ギルド前に積まれた荷物を次々と収納ボックスに仕舞っていく。その間ジェフはずっと眉間に皺を寄せていた。小夜子は不機嫌なんだか分からないギルマスを気にしないことにした。

 ラガン平原の中央に調査隊の基地を作るという事だったので、小夜子はノエルと共に冒険者5人を台車付きバギーに乗せて先行して出発した。同行した冒険者達は森の小鳥亭の飲み仲間の親父達だったので、常識外れの小夜子の持ち物や言動に今更驚くことも無かった。小夜子の隣には、小夜子のお目付け役のようになってしまったノエルが乗り込む。昼前には目的地に着く予定だった。

「ギルド職員も調査に参加するものなの?」

「いや、俺はまだそこそこ戦えるから例外だ。俺は、以前は冒険者だったんだ」

「ふーん」

 小夜子はノエルを鑑定する。


ノエル・グリーンウッド(38)

HP  587

MP  153


素早さ C

耐久力 B

火魔法 C


健康状態 良

 右腕  筋繊維、神経断裂 日常生活に支障は無い


 人の鑑定をする時、現れる項目は統一されておらず、特筆すべき部分が小夜子に見えるようだ。そういえば初めて会った時、ノエルは左手で剣を構えていたなと小夜子は思い出す。

ノエルのステータスは年齢的に冒険者としての全盛期からは下回りつつあるだろうが、それでも一般人とは比べられないほどの高い身体能力を示していた。

「ノエル。あなた左利きなの?」

「いや、元は右利きだが・・」

 小夜子はノエルの全身に治癒魔法をかけた。

「っ・・!!お前は、本当に・・・!」

 明らかにノエルの右手の感覚が変わった。布で二重、三重に締め付けられていたかのようなノエルの右腕の感覚の鈍さ、動き辛さが瞬時に消えて無くなってしまった。

「何かあれば、そこそこじゃなくてしっかり戦ってもらうわよ。おっさん達!今日調子悪い人いるー?」

 小夜子が後方に呼びかけると、後部の台車から、腰がだの、膝がだの、男達から年相応の不調の訴えが上がる。小夜子は後部の親父達にまとめて治癒魔法をかけた。

「ん?!」

「おお?!」

「腰が軽い!!」

 突然体の不調が消え去り、親父達が口々に騒ぎ始めた。

「言っとくけど、一時的に健康な状態になっただけなんだからね。おっさん達、飲んでばっかりいないで節制しなさいよ!」

 自分の事を棚に上げて、小夜子は偉そうに親父達に言い放った。

「お前は本当に、力を出し惜しみしないよな」

「なんで出し惜しみする必要があるの?」

 不思議そうにこちらを見る小夜子を前に、ノエルはしばし考える。

 ポート町のような、気の良い田舎者しかいないのんびりした町ならまだいいだろう。この先の城塞都市へ小夜子が飛び込んでいった場合、いったい何が起きる?

 何も起こらないわけがない。

「サヨコ、お前旅の途中なんだよな。次はどこへ行くんだ?」

「そうね。この街道を道なりに進んでいくつもりだけど」

「・・・街道を真っ直ぐ進めば、次はグレーデンという都市につく。そこで俺の兄が防衛軍の小隊長をやっている。俺からの手紙を兄に届けてくれないか?」

「別にいいけど」

 手紙を介して小夜子の取り扱い説明を兄に出来れば、最低限の注意喚起は出来るだろう。 

ひとまずの手を考えて、ノエルは一息つく。

 そうこうするうちに小夜子達先発隊は目的地に到達した。

 小夜子は預かった野営道具やら糧食を平原にすべて出し切る。先発隊のノエルを含む男達が、天幕を張ったり調理場を整えたり動き出した。小夜子は男達に構わず、空いているスペースにドンとコンテナハウスを出した。小夜子の野営準備は終わった。

「何か、手伝う事あるー?」

「いや、ない。自由にしていてくれ」

 小夜子は手伝いを申し出たが、ノエルに断られてしまった。

 小夜子が暇を持て余して、バギーの運転席で行儀悪く組んだ足をブラブラ遊ばせていると、ポート町方面の街道の先から馬に乗った後発部隊の先頭が見え始めた。馬に騎乗した15人の男達が、小夜子達が設営していた調査隊の基地に到着する。

「・・・んん?」

 小夜子は後発部隊の親父達に紛れていた、見知った顔を発見した。ポート町に小夜子がやって来た初日、森の小鳥亭で小夜子にぶっ飛ばされた男とその連れだった。

「あんた達も調査に参加するのね。あれから全然森の小鳥亭に来ないんだもの、久しぶりじゃない。元気だった?」

 小夜子が屈託なく声を掛けると、男2人は小夜子にたった今気付いた様子でザっと顔を青ざめさせた。男の内の一人は片頬が紫と黄色のまだら模様になっており、小夜子に撫でられた跡が未だ生々しい。

「あ・・・、あんた。なんで」

「なんでって、私も調査隊のメンバーだからだけど。ジェフに頼まれたのよ。あ、私も冒険者登録したの。Cランクになりたてだから、あんた達の後輩になるわね。よろしく、先輩!」

「・・・・」

 男達は顔を青ざめさせたまま黙り込む。

「サヨコ、よせ。そいつらはこのメンバーの中じゃ主力になるんだ。使えなくなったら困る」

「はいはい、わかったわよ。私、この前の事は気にしてないから、お互いキッチリ仕事をしましょうね」

小夜子がニッコリ笑って見せても恐怖刺激になるのか、男達の顔色はもはや青を通り越して白くなっている。小夜子は気が済むまで男達にちょっかいを掛けたので、後のフォローは気の良い親父達に任せてその場を離れた。


 初日は調査隊の基地の設営と明日からの打ち合わせだけで予定は終了し、翌日から基地を中心に4人一組で放射状に調査の範囲を広げていく。基地にはノエルと小夜子の他に常時4人が待機し、不測の事態に備えることになった。

 待機を続けるだけで、何事もなく数日が過ぎた。

 事態が動いたのは4日目の朝の事だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ