木曜会9
木曜会 9
喫茶店入ると 既に平野女史は来ていました
薄いピンクのワンピースを着てこちらに手を振っています 私は小走りで席に近づくと恐る恐る頭をペコリと下げました その付近は甘く強い香水の匂いが漂っています
『 お座んなさいよ 何? 君 緊張してるの?
何お飲みになる?それとも何か?召し上がるかしら?』
私は多少空腹ではありましたが とても食物が喉を通る状態ではありませんでしたので コーヒーをお願いしました
『突然お呼び出ししてごめんなさいね 朝 高野さんに偶然お会いしたものですからね』
私は向かい合った喫茶店のあまりにも近い席からの眼圧に負けて ひたすらテーブルの上の水が入ったコップを見つめ続けておりました
しばらく沈黙の続いた後 平野女史が口を開きました
『君 私の事 綺麗な人だと言ってるらしいわね』
一瞬私は何のことかわかりませんでした
『 トボけたってムダよ わたくしちゃんと知ってるんですから 高野さんにすっかり聞いてしまったわ この間も わたくしの濡れたブラウス越しに下着を見てたでしょう あの時 ピンときたのよ』
私が弁解しようと口を開きかけた時 それを押し込むように
『でもよくってよ だってそうじゃありません
殿方から好意を持たれて嫌な気持ちになる女なんていませんもの 実を言うとね わたくし
そういうの慣れっこよ』
私はテーブルの上のコーヒーに手を伸ばしましたが手が震えて上手く飲めませんでした
『 君 そんなに緊張しなくても大丈夫よ わたくしね けして怒っているわけじゃなくてよ
君の気持ちは嬉しいわ ほんとよ でもね 君には残念だけど お付き合いはできないわ だって そうじゃなくて わたくし達まだ 知り合ったばかりだわ
それにわたくしは なんども口説かれて仕方なく受け入れるタイプの女だから 一度や二度では無理よ でも 不可能じゃけしてなくてよ
チャンスはあるわ』
そうまくし立てると平野女史は上目づかいでも私を見ました 私は話の流れが掴めないまま
唖然としてしまっていました
『 多分 君 わたくしの電話番号とか知りたいんでしょう? でも 答えはNOよ 電話でシツコク口説かれるのなんて興醒めだわ
でも チャンスだけは差し上げるわ』
そう言うと平野女史はバックから一枚の紙をテーブルに出しました
『これわたくしのマンションの地図よ でも 勘違いしてもらったら嫌よ 君に来て欲しい訳じゃないんですからね
もしも 文学の事なんかでアドバイスして欲しかったら訪ねて来てもいいわ あくまでも
もしもの場合よ それとわたくし火曜と水曜の夜は不在なの 実家に帰っているから でも
その他の夜は いると思うわ 』
このまま黙っていたら面倒な事になりそうな予感がしてきましたから 何か否定 もしくは拒否する事を言わなければと焦っていると平野女史が
『ところで君 歳はいくつ?』
『26歳です』
私が即答すると平野女史は宙を見つめならが微かに指を動かして何か計算しているようでしたが いきなり伝票を取ると
『 気にしなくてもいいわ 男と女って年齢はあってないようなものだものね 聞かなかった事にするから安心して では 御機嫌よう』
平野女史は自分の言いたい事だけを言って席を立ちました
あとには 派手な口紅がベットリと付いたコーヒーカップがポツンとテーブルの上にありました
続く……