木曜会14
木曜会 14
数日後 私は仁平先生のお宅を訪ねました
家には松本さんがいて 私を見ると無言で頭を下げました 『奥のお部屋で先生がお待ちです』
私は襖を開けて奥のお部屋へ入ると 戸を開け放った縁側に先生が座っておりました
先生は私に気付くと一瞬私を見ましたが また庭の方へ目を戻しました
『 今朝 鶯が鳴いたような気がしてね また 鳴くかと思って 待っているんですが なかなか鳴いてくれませんわ』
先生はそう言うと私の方に体を向き直しました
『読みましたよ 貴方の書いた小説 』
そう言うと 心の中を見通すような目でじっと私を見ました 先日下野文学賞で落選した小説の事を先生は言っているのでしょう 私は恥ずかしいような気持ちになり目を伏せてしまいました
『 なかなか 良かった 』
先生は一言 そう言うと また 庭の方を眺めました そこへ松本さんがお茶を運んできました 相変わらず体を小さく畳んで先生と私の前に置きました
『実はね ここに居る松本君が 今回の芥川賞の候補になってね』
先生は松本さんの方を見ました
『多分 取るだろうと私は思っているが そうなると松本君もいろいろ忙しくなる 彼はここでもう少し学びたいと言っているが もう 教える事はすべて教えたつもりだ それで 話というのはだね
君が松本君の後 私と一緒にここで学ぶというのはどうかね?』
突然のお誘いに私は一瞬 言葉が出ませんでした
その刹那 庭の何処かで 鶯が鳴きました
続く……