表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪のかけら集め 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こーちゃんは、何かしらのコレクションに力を入れたりしてないかい?

 ものを集めるって、どうしてこうも心を惹きつけるんだろうね。誰かが集めているなら、それに負けじと思うし、自分一人だったとしても、穴がある部分をなんとしても埋めようと考えるだろう。

 独占欲というか、完璧主義というか。目に見える形で自分の運と努力の成果がかいま見えるからこそ、そこに自分の価値と満足を感じられる。自分が「すごいやつだ」と味わえれば自信にもなる。

 集めることに関する自負。そいつは褒められることばかりじゃなく、本当に危ないものを含んでいるケースもあるかもしれない。

 私も以前に、友達がらみで妙な経験をしてね。そのときの話、聞いてみないか?



 その子はよく、外で走り回る子だった。

 運動するときはもちろん、登下校にせよ、どこかへ移動するにせよ、全力疾走だ。

 みんなが自転車をこぐときにも、頑なに徒歩。それでもって、えっちらおっちらペダルを回して動く自転車に、手足を大きく振りつつ、ついていくものだから、ターミネーターのあだ名がつけられるのに時間はかからなかった。

 彼は確かに群を抜いた、スタミナを持っていたよ。

 自転車勢が、足にだるさを覚えかねない10キロ近い道のりも、息を弾ませながらではあるが、目立つ減速もなく追従してきたことは驚嘆に値する。


 めいめいが休憩するかたわら、彼は近くをうろつき回っていた。

 はじめは、クールダウンの一環かと思ったよ。でも、ときどき足を止めてはまた歩き出し、また止まってはとんとんとつま先で土を叩いたり、あぐらをかいて足のあちこちをにらんだり……はために、その挙動は不審だったよ。

 どこかケガでもしたのか、と心配した私は彼の元へ寄っていく。


 見ると彼は、靴や身体についた砂利の粒のようなものを、落としているところだった。

「ような」というのは、それらの粒があまりに色とりどりな光を放っていたからだ。そこらの川べりに横たわっている小石たちとは、また違う。

 彼はそれをいったんは地面に転がしたあと、ポケットから小さなポチ袋を取り出して、中へ拾い集めていく。

 なんともおかしな行動に、私がわけを尋ねてみると、これは「悪のかけら」を集めているのだと、彼は話してくれた。


 私たちは、こうして場所を移動するだけで悪行を犯していると、彼は語る。

 地面にいる石たち、そこに住まう生き物たち、彼らを無数に踏みつぶして命を奪ってしまっている。それらはやがて集まって、大きな悪事、凶事のきっかけとなってしまうのだと。

 そのあがないとどこかでやらないといけない。自分がやっているのは、そのあがないなのだと。


 ――あー、あるある。なまじ知識がついてくると、なんでもかんでも極端に考えたくなるやつ。


 自分の身体には100兆個くらいの微生物が存在していると聞いて、気持ち悪さを覚えてしまうパターンだ。

 いかに身体に害がないと説明されても、自分の好き嫌いや想像力が手伝ってしまうと、それを寄せ付ける気はしなくなってしまう。

 今回の彼のケースもそれだろうと思ったさ。

「悪のかけら」うんぬんも、細々とした世界の実態を知ってしまったがためのナイーブさが、彼を突き動かしてしまっているがための、表現だと感じた。

 

 しかし、思い込みでは腑に落ちない点もある。

 彼の足には足裏に至るまでこびりつく、あのカラフルな石粒の件だ。自分の言い分を通すための自演にしては手が込んでいるし、いまひとつ正体がつかめない。


「……なあ、その悪のかけらとやらって、まじなのか?」


 仮にも、興味のある素振りをしてしまったのが、運の尽きといえよう。

 彼は目を輝かせると、「なら一緒に、善行積もうよ」とのたまうや、悪のかけらを集めていたものとは、違うポチ袋を別のポケットから取り出すや、中身をこちらへぶちまけてきたんだ。


 容赦ない不意打ちに、身をかわすひまなどなかった。

 苔を思わせる、緑色をした可視の胞子らしきものが、私に向かってばらまかれる。もともとの微細さのためか、身体についたかと思った時には、もう目で確かめられなくなっていたよ。

 溶け込んだのか、染みついたのか? いずれにせよ、自己中きわまる所業に私も抗議したんだけど、彼はまったく意に介したことがないかのような笑顔。


「悪のかけらを吸着する限り、君の身の回りで不幸なことは起こらないよ。全部、君に集中するんだから。でも、そのぶん気合を入れてそいつらを落としていかないと全部、君に集まっていくよ」


「てめ、それもはや呪いかなにか……」


 唐突に、両足へ走るしびれ。

 見ると、もう友達の足にまとわりついたのと同じ、色とりどりな粒たちがこびりついてきているではないか。

 はっきりとした区切りをもって足全体に張り付くそれらは、当時の私にとっては、丁寧にひびを入れられたゆで卵の表面のごとき模様。

 あわててそれらをはたき落とすも、彼はそれらのかけらも「駄目だよ〜、ちゃんと回収しなきゃ」と、せっせとあのポチ袋の中へ放り込んでいく。


「はがしたかけらはほうっておくと、元の場所へ戻っちゃうんだ。こうして隔離しておかないと、もとのもくあみ? てやつ?

 なあに、一回限りなら数日も経てばおさまるって。まずはお試しってことで」


 ――ぜってえにやらねえ。ついでにお前とも数か月くらい絶交してえ。

 

 そう思いつつ、私は数日間を悪のかけら集めに気を配ることになる。

 これまでの彼がそうだったように、かけらは足に集まりやすいようだった。足裏にまず集まるから、足裏のむずがゆさで、すぐに集まってきたと分かる。

 でも人前だったりして、容易に足裏をかけないときもあって、放置もままあった。

 そうなると、どんどんかけらは足をせり上がり、しびれを放ってくるんだ。さらに時間を置くとはっきりとした痛みに代わり、じょじょに耐えられない強さとなってくる。

 血さえもにじんでくるのだから、ただごとじゃないと思ったよ。



 それでも、私はかけらの存在を信じたくなかった。

 悪を集めて、そのあがないをしていれば、不幸なことは起こらないなどとは。

 だから、このかけら集めの効果が切れた直後に、親戚の一家が大事故に遭って大変な思いをしたことだって、このかけらを集めなかったためだなんて、信じない。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ