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双子の王子は私が見分けます  作者: M.K
第1章
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人の心を読む公爵令嬢






「また招待状ですか!?」


専属メイドのヘレンが気まずそうに差し出した手紙には、王家の押印がついた厳かな招待状だった。


エヴァ・ノーマン

ノーマン公爵家唯一の令嬢であり金髪のロングヘアに青い瞳を持つ所謂美を纏った少女である。

しかし"性格はお転婆で、傷が絶えず舞踏会ではいつもひとりで中庭を散歩する可哀想な令嬢"と貴族の中では有名であった。

そんなエヴァ……つまり私はこの国の宝であるロイ王子かアレク王子どちらかの婚約者にさせられそうになっていた。


事の発端は私がまだ8歳の頃。

お父様に連れてこられた宮殿で出会った二人の少年を見て、瞬時にどちらがどちらなのか当ててしまった事から始まった。

正直、見た目は本当にそっくりでどちらも黒髪にサラッとした短髪。少し襟足があって舞踏会では前髪をあげていてとてつもなくかっこいい。

赤い瞳をしていて、アレク王子にだけ右目に泣きぼくろがある事が唯一の特徴だった。


ロイ王子は赤の装いが多く、アレク王子は青の装いをして主に貴族達は見分けている。

性格はロイ王子が明るくよく人に囲まれていて、アレク王子は物静かだが愛想は良い。

二人がずっと一緒に居るわけでもなく、アレク王子は姿を消す事が多くあまり彼の私情を知る者はいないという。


「本当に行かなきゃだめ?

どうせ挨拶だけして後は海藻みたいに踊るだけじゃない」

「エヴァお嬢様…もう16歳になられたのですから、他のご令嬢ともお話されるのはいかがですか?」

「……お父様と同じこと言わないで。」


困った表情で頭を下げるヘレンに、ため息をつくと手紙を開ける。


「分かったわ。

今回は王子様達の18歳の誕生パーティーですもの。嫌でも参加するわよ」


どうせ、いつもの様に中庭へ避難して終わるのを待てばいいだけ。

──そう思っていた私は詰めが甘かった。




【パーティー当日】



「エヴァ嬢は今日もお綺麗ですね」

「この後御一緒に散歩にでも行きませんか?」

「私とどうか一曲……」


「結構です。」


バッサリと令息達の誘いを断った私は、下を向いて足早に目的の場所へ向かう。

さっさと挨拶だけしてこの場から去りたい。

どうしても貴族達と目を合わせると気分が悪くなる。


──ドンッ


「あっ…」

「失礼しました。大丈夫ですか?」


足元ばかりを見ていたせいで、人とぶつかってしまった。

お父様からはあれほど姿勢には気をつけろと言われていたのに、また私は俯いてしまっていた。

謝ろうと勇気をだして顔を上げると、そこには……


「ア……アレク王子」

「エヴァ公爵令嬢……」


正装姿のアレク王子は、とてつもなくかっこよかった。

白を基調としたスーツに青のデザインをさりげなく取り入れた王家に相応しい華やかさ。

さすが王子様ね……。おっと、いけない。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。

お久しぶりですアレク王子。

この度は素晴らしいパーティーにご紹介頂きありがとうございます。」

「……そう畏まらなくて良い。丁度君を探していたところだった。」

「え…?」

「アレク……ようやくご令嬢は見つかった?」

「ロイ王子…!」


アレクが振り返った先にはロイ王子が手を挙げてこちらに歩んでいた。

いきなり出会うなんて、しかも国王抜きで話す事なんて何年も無かったから緊張する……!


「お久しぶりです、ロイ王子。

アレク王子も…お誕生日おめでとうございます。」


ドレスの裾を上げて再度頭を下げると、ロイはアレクと同じセリフを私に告げる。


「父上が貴女を探してこいとうるさくてね。あまりこういった場で話す機会がないから、今回こそは私共と少しお話して頂けないでしょうか?」


そう言って微笑んだロイは少し屈んで、手を差し出す。

周りの令嬢からは黄色い声が飛び交う。

なんなら双子の王子を見れるこの時間すら、令嬢達はざわめいているのに。

私はこの場から早く去りたいと思ってるなんて、絶対にバレてはいけない…。


「えっ…と、ここでは人目が気になります。どこか場所を移しませんか?」


私がそう提案すると、ロイとアレクは目を合わせ頷いた。

三人でテラスに向かう最中もヒソヒソと嫌な声が聞こえてくるが気にしないフリをする。


「寒くはないですか?」

「あ…はい、お気遣いありがとうございます…」

「…エヴァ嬢とこうやってお話するのは何年ぶりだろうか?なぁアレク?」

「…"あの日"以来じゃないか?」


意味深な笑みを浮かべる双子に、身体が固まるのが分かる。 ──そう、この二人はずっと気になっているのだ。

私が、そっくりな二人を見分ける理由を。


今までずっと避けていた舞踏会やパーティーも詮索されるのが嫌だったからで、決して二人の事が嫌いな訳ではない。

寧ろ顔がいい双子を眺めるのは眼福だと思う。


けど、私には、人には言えない秘密がある。

今もこうやって笑みを浮かべる双子の心中が、痛いほど私の頭を流れ込んでくる。



『父上がさぞ気に入るから話し掛けたものの、普通の令嬢にしか見えないな。本当に何かあるのか?』

『ロイに仕方なく着いてきたが、この女からは何も感じない。時間の無駄になりそうだが。』



──ああ、聞こえてくる。彼らの心の声が。

ぐらりと、視界が歪む。

こんなに優しそうな表情の裏にはリアルな程に人間味を感じる。

これだから、嫌なんだ。こんな不思議な力……。


「貴女だけなんですよ。私達を見分ける事が出来たのが。母上ですらまだ間違える時があるというのに、貴女は初対面から今も、間違えませんね」

「あ……はは。私も当てずっぽうですよ。アレク王子には泣きぼくろがある事と…赤と青の服装でしか」

「……実は言うと、貴女と初めてお会いした日、私達は入れ替わっていたのですよ」

「……へ?」


こっそり耳打ちしてきたロイに、思わず後退る。

顔を真っ青にする私にロイは続ける。


「私は青、アレクは赤のネクタイをして、泣きぼくろは化粧で隠していました。

昔から父上が意地悪な人でね。紹介した令嬢にどちらか当てさせて、間違えたらいつも婚約者候補から外していたんです。

……でもあの日貴女は見事に私達を当てる事が出来た。

服の色、性格、特徴全て噂で耳にしているであろうに、入れ替わっていた事を見抜いたんですよ。」


ギクリ。


「あ……の時は本当に、当てずっぽう…だったんです!

幼な故に適当に言っただけで〜…」

「適当…」

「あっ、わー!すみません、適当というか、その!」

「……ッアハハ!

聞いたか、アレク。彼女は本当に"適当"だったって。」


声を上げて笑うロイに、アレクは呆れた表情で溜息をつく。

私、そんな面白い事言ったか?

睨みつける私にロイはすまないと軽く謝ると、ようやく心の嫌な声も消えた。


「いやぁ、君が普通の令嬢ではないのは確かだよ。

今までこうして目を合わせて話す事が無かったからね。僕達もずっと嫌われているんじゃないかと思っていたんだ。」


先程とは打って変わって口調がフランクになったロイに、瞬きをする。

一体何が起きてるの?失言したのに、怒っていないみたいだし、不敬罪にはならなさそう……?

それとも何、おもしれー女って事?

どちらにしろさっきからアレクは黙ったまんまなんだけど、心の声も聞こえないし、怖いんですが。


「君が嫌じゃなければ今度から、うちでたまにお話しませんか?父上もきっと喜びます」

「……わ、私はお話があまり上手ではないので、面白くないかと……。」


もー!さりげなく嫌そうなオーラ出してるのになんでまた誘ってくるの!


「そんな事ないよね、アレク?」

「俺はどちらでもいい。……ただ、ノーマン家とは長い付き合いですから、これを機に対談しておくのも宜しいかと。」


そう言って冷ややかな目でこちらを見るアレクに、思わず目を逸らしてしまった。

そんな事、分かっている。公爵家でも一番付き合いが長い王家とノーマン家。いつもはお父様と、私の兄であるスリザン・ノーマンが主に彼らと対談している。

嫁にいく立場の私は今までお茶会ですら参加する事を避けていた。

本当はお父様に何度もお願いされたんだけど…このおぞましい力を言える訳もなく、私は今までたったひとりで隠し続けていた。

人の心を読むととてつもなく具合が悪くなるから嫌だ、なんて言えるわけがない。

だから私、エヴァ・ノーマンに友人など、今までひとりもいないのだ。


「対談だなんて堅いなぁアレクは。

……どうですか?お茶を飲むだけで構いません。貴女の好きな洋菓子も御用意致しますが」

「洋菓子……」


じゅるり。とよだれが垂れる。

洋菓子に弱いなんて情報、どこで手に入れたのか。

私の反応に、肯定と受け取ったのかロイは笑顔で会釈をした。


「では、また後日手紙を送りますね」

「えっあっちょっと!」

「失礼」


次いで軽く会釈をしたアレクも、颯爽とその場を去ってしまった。

……一体何だったんだ。

台風のように過ぎていったけど、私まだ何も返事してないんだけど!


ああ…頭が痛い。







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