表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

◆七日目

閲覧頂き、ありがとうございます。

よろしくお願いします。

 一晩経って落ち着いて考えてみたら、そもそも、幽霊相手にメモ渡すとか正気の沙汰じゃないじゃん!


 何だかものすごく恥ずかしいことをした気がして、朝起きてすぐに冷蔵庫を開けてみた。


「………うわ、無いし」


 冷蔵庫の中にはお皿も、メモも残っていなかった。

 回収していったとすれば、あのスマホの映像にあった手なのだろう。

 なんだかんだで、昨日のチーズケーキも味見気分で食べちゃったしね!失敗作っぽかったとはいえ普通に美味しかったよ!


 自分のことながら何やってるんだと頭を抱えてしまう。

 私、迂闊すぎない?


 朝から何だか打ちひしがれた気分で、朝食を食べて洗濯物を干した。良い天気だ。風も気持ちがいい。

 今日は仕事は休みだし、気分転換がてら、出かけようかな。


 今日は土曜日。

 週末にお休みできるのも久しぶりだった。

 自転車をこぎながら、いつもの近所のスーパーを通過して、駅前を目指す。たまには駅ビルの雑貨店で、色々と見てみるのも良いかもしれない。


 新商品の文具とか出てるかな。

 文具は見てるだけで面白い。

 あれもこれもと手にとって見るけれど、実際に買える訳では無い。それでも楽しいからついつい長居してたら、製菓コーナーが目についた。

 久しぶりに覗いてみれば、キャラクターのシリコン型や、デコレーション用のカラフルな砂糖菓子。色々なお菓子のミックス粉……。


 今度実家に帰った時、久しぶりに何か作ろうかな。

 実家なら電子レンジオーブンもあるし。


 スマホを取り出し、SNSでメッセージを送る。


 ーーお母さん、私のケーキの型とかハンドミキサーとか、とってある?


 すぐに既読がついて、シュポッと返事が表示される。


 ーーあるわよ。邪魔だから今度送るわね。


 ーー今度帰ったときでいいって。


 シュポッ


 ーーこういうのかさばるのよ。他にも色々製菓用品あるから全部送るわよ。


 にこやかなサムズアップのスタンプが送られてきた。

 送ってきてもらったら逆に作れないんだけど……そう思いつつも、仕方ないかとため息をつく。

 ホットケーキミックスと牛乳で、軽食になりそうなケーキを作れば冷凍して朝食代わりになるかな。

 フライパンで焼いてもいいし、何とかしてトースターで焼けば、オーブンに近い焼き上がりになるかも。


 スーパーで買う予定だった食材を、食事から少し製菓用に入れ替えて、ちょっとうきうきした気分で家に帰った。


 ※※


 うわーお、私ってば迂闊〜〜。


 何が迂闊かって、帰ってからそのまま牛乳入れようと冷蔵庫普通に開けたとこもだけど、何よりやっぱり、昨日あんなメモを冷蔵庫に入れたところだよね。


 おかげで、見事に完全再現されたスフレチーズケーキが、冷蔵庫の中に。


 この短期間で湯煎焼きをマスターしたらしく、ふんわりした綺麗な焼き目のチーズケーキに仕上がっていて……仕事早いし有能じゃないですかこの幽霊。

 ってか、今まだ昼間なんですけど時間関係ないんですか?


 もうヤケクソな気分でチーズケーキを手に取った。

 かさりと音。

 見ればお皿の下に挟んであったのだろう、折りたたまれた数枚の紙が目についた。

 それも手に取り、冷蔵庫を閉める。


 もういい。

 変に怖がるのも、警戒するのも、アホらしくなってきた。これはきっと私に食べろってことなんだ。

 お腹すいたし、甘いもの食べたいし、お昼ごはん代わりに食べてやろうじゃないの。


 お湯を沸かして、その間にケーキと紙を写真に収め、紅茶を淹れてケーキとともにテーブルに置く。

 そうして背筋を伸ばして手を合わせ、ふっと息をつく。


「いただきます」


 フォークでケーキを切れば、ふわシュワッとスフレケーキ独特の触感。

 口に入れれば濃厚で、甘酸っぱい味が口に広がり、しっかり泡立てられたメレンゲがフワァっと溶けるように消えていく。

 もう一口二口食べて。紅茶を一口。


「……美味しい」


 机に突っ伏して、ぺたりとほっぺたをテーブルにくっつけながらケーキを見る。

 わかっている。

 玉子割って、黄身と白身に分けて、砂糖と白身でメレンゲ作って、粉と砂糖を測った中に混ぜて、型に入れてオーブンで焼く幽霊なんていない。

 上手くいかなくて失敗して、試行錯誤して、完成させるなんて人間味のあること、心霊現象ではありえない。


「じゃあ、なんだって言うのよ」


 何故か、一筋涙が出てきた。

 なんだか良くわからないけど、これを作った誰かは、手間と、時間と、労力と、お金をかけてでもこのケーキを作りたい理由があったのだ。

 このケーキだけじゃない。たぶんパフェも、バームクーヘンも。

 私が気まぐれに冷蔵庫に入れたお菓子を作りたかった。

 ……わけがわからない。


 目を閉じると、またかさりと音がする。

 頭の上の方。さっきケーキと一緒においてあった紙をテーブルの上に置いたのだった。それに髪の毛が当たったらしい。


 テーブルに突っ伏したまま、折りたたまれた紙を開いてみる。

 数枚重ねられたその紙には、絵が描かれていた。

本日はありがとうございました。

よろしければ、☆やいいねをいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ