◆二日目
閲覧頂き、ありがとうございます。
よろしくお願いします。
昨日は散々だった。
あまりにも悲しかったので、今日もコンビニでまたスイーツを買ってしまった。
2日も続けて買うなんて、贅沢だけれど、今度は170円の小さなバームクーヘン一個なので許してほしい。きれいな層を描いた生地に砂糖がコーティングしてある。安いけど食べると幸せな気分になれる、コスパ最強の私の癒しだ。
また今度は慎重に、冷蔵庫の一番下の段の真ん中にバームクーヘンを置いた。お風呂に入ってご飯にして。……冷蔵庫の扉に手をかけふと嫌な予感を覚える。
……まさかね。
今度はちゃんと入れたし、2回目は無いでしょう。
自分の思考に笑って、冷蔵庫を開けた瞬間……私の目が点になる。
一度そっと冷蔵庫を閉めて、もう一度覗いてみる。
無い……のではない。ある。
だけど無い。
そこに、小さなバームクーヘンが消えて、苺とチョコのパフェが入っていた。
どういうこと?
ごめんちょっと状況について行けない。
冷蔵庫がピピッと鳴って、早く閉めろと急かす。ちょっと今、黙っててほしい。
じーーっと目の前のパフェを睨みつけてみるが、チョコの茶色の層と白いクリーム。上に乗った苺。どこからどう見てもパフェだ。
いや、よく見れば上にのっているのは苺じゃない。赤い……ベリーみたいなの。
器もプラスチックじゃなくてガラスだ。
昨日のパフェじゃない。
でもこんなパフェを今日買った覚えもない。
そもそもここにあったバームクーヘンはどこにいった?
ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ
あーもう、うるさい。
わかったわよ閉めればいいんでしょう?
私は少し迷って、けれど結局そのパフェを取り出して、冷蔵庫の扉を閉めた。
テーブルの上に乗せて、よくよく観察してみる。
スマホでコンビニの商品紹介の写真と比較してみるけど、よく似ている。
一番上にのった苺っぽい赤い実。
その下はしっかりと泡立てられたクリームの層、さらにピンクのムースと茶色のムース、赤いソースの下にチョコクランチ。一番下は濃厚そうなチョコクリームだろうか。とろりとした茶色のクリームが入っていた。
コンビニのものと全く同じように層が重なってるけど、こちらの方が本格的な感じがする。
正直に言えば美味しそう。
知らず口の中によだれがあふれる。
だけど、こんな怪しいもの、食べて大丈夫なのかな?
知らないうちに冷蔵庫に入ってた、見たことのない実ののってるパフェ。
私が入れたんじゃなければ、一体誰が冷蔵庫に入れた?
はっとして思わず辺りを見回す。
特に誰かが侵入したとか、部屋の中に何か違和感があるとかはない。
お風呂に入ったと言っても、シャワーを浴びただけだ。短時間だし、部屋に誰かが入ってきたら流石にわかると思う。
でも、だとしたらどうして……
最初の疑問に戻ってきてしまって、途方にくれてパフェを見る。
得体のしれないパフェ。
少しもったいないが、ここはポイするべき。
でも……。
美味しそう。
すごく、すごく美味しそう。
冷蔵庫から出して少し温まってきたのか、鼻孔をくすぐる甘い匂い。
チョコレートの香りと、少し甘酸っぱいベリーの香り。
ゴクリとつばを飲み込む。
ち、ちょっと、一口だけ。
スプーンを持ってきて、少しだけクリームをすくい取ってみる。
何の変哲もない、白い生クリーム。
パクッ。
うまっ!なにこれ、おいしー!
牛乳の生クリームじゃないのか、クセがなくてさっぱりとした口当たりの生クリーム。
甘すぎないけど、甘味料じゃなくてちゃんとした砂糖の甘み。
すっと口の中で広がって溶けるけど、後にふわっと香りが残る。少し香り付けにお酒を使ってるのかも。
苺っぽい実を食べてみる。
すっと苺より強い酸味。じゅわっと果汁が溢れてくると、甘みもあって。
きっとベリーの一種だろうけど、食べたことがない。でも美味しい。
パクリ、パクリ。
チョコのムースの層も、赤いムースの層も、一度食べ始めたら止まらない。
酸味と甘みと、チョコの苦味。交互に味わうとそのバランスが最高!パフェってパーフェクトって意味らしいけど、まさにそれ。パーフェクト!
一気に最後の一口まで食べ終わって、私は満足のため息をついた。
「おいしかった〜」
すごい、幸せな気分だ。
頭の中がまだベリーとチョコで一杯で素敵。
今日の一日の悪かったことなんて、帳消しにできるくらいの威力があった。
もう少し食べたかったな。
食べる前はあんなに心配してたけど、現金なもので、美味しいと分かればもっと食べて見たいと思ってしまう。
とはいえ。
また食べる方法なんて、ないし。
私は冷蔵庫の方を見た。
ブーンといつもの駆動音を立てる冷蔵庫は、見た目いつもと変わりない。
そして目の前に残された器を見る。
どうしようかな、これ。
プラスチックとは違う、ちゃんとしたガラスの器。
美味しかった。思わず完食してしまうほど、とても美味しかったけども。
「やっぱり得体はしれないよねえ」
ツンとスプーンで器をつつけば、チンと涼やかな音がした。
本日はありがとうございました。
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