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◆そして、四日目、五日目

あまりにも四日目が短いので、五日目と併せてしまいました。

こんなサブタイトルですみません。

二日分をお送りします。

 シュタールベルク家の魔術師。マヌエルはとても困っていた。

 友人のヨハンから頼まれて、冷温庫を媒介に召喚魔術を行ったら、あろうことか異世界からお菓子を召喚した上に、冷温庫と異世界の接続が切れていなかったようなのだ。

 旦那様からは、事態の把握とこの現象がいつまで続くのかの調査を指示されている。

 下手に今ある場所から冷温庫を動かすと、何がどうなるかわからない。厨房が比較的バタバタしていない時間に訪れ、冷温庫を調べる。

 自分の描いた魔法陣を精査し、魔術師のツテを使って似たような事例がないか問い合わせ、召喚物に書かれていた文字と類似する言語が無いか文献をあたる。


 ドサリと自室の椅子に腰を下ろして、ため息をつく。


「つ……疲れた」


 通常業務の優先度が低いものは後回しにしているとはいえ、やることが多すぎた。追加の給金を貰わないとやっていられるかと心の中でごちる。

 召喚魔術での似たような事例は見当たらなかった。そもそも異世界と繋がった例がない。


 ーー既存の魔術の応用とはいえ、オレ、天才じゃないか。


 とも思うのだが、どうにもこうにも自分が思った通りの結果になっていないようなのは困りものだ。魔術師としては面白い事例だが、商売としては信用に関わる。


 正直、マヌエルには下心があった。

 蒸気機関とやらが外国で発明されたせいで、魔術師業界では仕事が奪われるのではないかと不安が広がっていた。

 自分もシュタールベルク家で雇われ続けるためには、自身に付加価値をつけなければならないのではと感じている。

 ヨハンに協力を頼まれたときも、これでうまいことやれば評価が上がり、お抱え魔術師としての立場が強化されるのではないかと思っていたのだ。だから真面目に対策を考え、魔術を組み立てた。


 実際、途中までは上手くいっていた。

 旦那様からの評価は上がったし、給金も上がる話が出ていた。

 だが、こんなに想定外の状態が続くようでは他に流用はできない。

 何とかしなければならなかった。


 冷温庫を調べた結果、常に異世界に繋がっているわけではないということはわかった。

 非常に不安定で、繋がったり離れたりを繰り返している。それも、いつ繋がるかはわからない。

 とにかく今は状況の把握が最優先。繋がったらわかるように、感知する為の魔導具を即席で作る。持っていた魔石に感知の魔術を埋め込み、紐をつけただけの代物だ。冷温庫が異世界と繋がったら光る。

 目の前にぶら下げてみれば、全く光らなかったり、うすぼんやりと光ったり、また消えたり。不安定さが改めて分かる。

 とりあえずはこれでいい。強く光った時が繋がった時だ。

 マヌエルは魔導具を首から下げると、繋がった時に状態を検査する器具を用意し始めた。



 ◆そして、五日目


 冷温庫にはむやみに触らないように指示されて二日目、アンネリーゼ様から、

「また今度新しいお菓子ができたら、食べたい」

 と要望を頂いたと、連絡があった。

 これは頑張らねば!と思うが新しいお菓子などパッとできたら苦労はしないのだ。だがまた小人に頼るというのは、しょっちゅう厨房に現れては冷温庫を調べているマヌエルの様子からして難しそうだ。自分でなんとかしなければならない。

 俺は仕事が終わった後、厨房で一人、新しいお菓子を考えていた。

 そこに、マヌエルが慌てた様子でやってきたのだ。


「繋がった!」


 そう言って、一目散に冷蔵庫に駆け寄り、扉を開ける。

 何やら魔導具を取り出して、検査をしているようだ。後ろから覗き込んでもこちらを見向きもしない。完全に魔術師モードで集中している。

 そして、冷温庫の中から、見覚えの無い物を取り出して、観察しだした。


 ーーそれはもしかしなくても、新しい小人のお菓子!


 俺は色めき立つが、マヌエルも仕事だ。観察が終わるまではと逸る気持ちを抑えて待つ。

 マヌエルが、手近な調理台の上にそれを置いた。今だ。


「マヌエル、それ、俺がもらってもいいか?」


「あ?あぁ、ヨハンか。中身だけならいいぞ。外側の文字が書いてある方はオレが預かる」


「わかった」


 俺はいそいそと皿を用意し、中のお菓子を移した。

 見た目からしてフワっとして、柔らかそうだ。慎重に扱わないとすぐに崩れてしまうのではないかと思うほど。

 そして、チーズの甘い香りがする。

 本当は明日の朝まで、せめて料理長が来るまで待ったほうがいいのはわかっていた。だが、だが誘惑に抗えず、ほんの一口、食べてみる。


 フワっとした食感がしたかと思うと、咀嚼するまでもなくシュッと溶けてしまった。口の中に残るのは、濃厚なチーズケーキの味。


「お、ぉぉぉ」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 スフレだ。

 この食感は絶対にメレンゲを使っている。

 でもスフレなら絶対にこんなにしっかり焼き上がらないし、こんなに長時間ふわふわとした状態が保たない。

 もっとしっかりした生地にするとしても……そうすると焼き時間が長くなる。

 それでこんな食感と焼色に仕上げられるのか?

 さすが小人、これは難題だ。

 ウズウズしてきた俺は、結局また夜を徹して色々と試作をすることとなった。

次回はまた明日、何とか更新予定です。

よろしくお願いします。

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