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◆そして、二日目

昨日は更新できず、申し訳ありませんでした。

 翌日、夜を徹して作った俺の試作品を見た料理長は、とても驚いていた。

 斬新な発想だと褒められ、改善点もいくつか指摘された。

 そうして昼食の支度の後、料理長を含めた同僚数人で、もう一度作ったベリーとチョコレートのお菓子は、なんと今日のお茶の時間に伯爵夫妻とアンネリーゼ様に供されることになった。

 伯爵夫妻にも褒められ、アンネリーゼ様も久しぶりにはしゃいだ姿を見せていたという。感無量だった。


 だからこそ俺は、予備に作っていた分を一つもらえるように料理長に掛け合った。このお菓子を作ることができたお礼に、マヌエルにも食べてもらいたかったのだ。

 料理長にもこのお菓子ができた経緯を説明し、許可をもらうことができた。


「だが、ヨハン。マヌエルに勝手に魔術を使わせたのは良くない」


「勝手に……ですか?」


「マヌエルは旦那様が魔術師として雇っている。この屋敷で魔術を使うなら、許可をもらうのが筋だろう」


 言われて初めて気がついて、血の気が引いた。軽い気持ちで、友人に少し手伝ってもらったくらいのつもりだったのだ。


「このことは、旦那様に報告をしておく。まあ、そこまで心配せずとも大丈夫だろう。アンネリーゼ様が喜ばれたことを、旦那様も喜んでいたからな」




 その夜、仕事の後にマヌエルが旦那様に呼び出されたと聞いた。

 終わったら礼がしたいからと部屋で待っていることを伝え、お菓子を持ってマヌエルの部屋に上がり込んだ。

 だが、なかなかマヌエルが帰って来ない。まさか相当ヤバい事態になっているのではないかと不安になってきた。

 マヌエルにも、俺にも何か罰があるかもしれない。

 嫌な方向に向かう思考を、頭を振って追い出す。

 結構時間が経ってしまった。このままでは用意していたお菓子が溶けてしまう。

 俺は一旦冷温庫にお菓子を入れようと、厨房に向かった。


 火を落とした暗い厨房の中。

 ランプの明かりを頼りに、冷温庫の扉を開ける。


「……あれ?」


 何も入っていないはずの冷温庫に、何か入っていた。

 取り出してみると、何か透明なパリパリとした紙のようなものに包まれた。見た感じはバウムクーヘンのような物だった。


「なんだこれは」


 誰がこんな所に入れたのか。

 まさか入れたまま忘れたわけでもないだろう。

 この包んでいる物……透明で薄くて軽い所が、昨夜冷温庫から出てきたお菓子の器と似たようなものな気がする。


 ……ヤバい予感がする。


 それを取り出し、代わりにお菓子を入れると、俺は急いでマヌエルの部屋に戻った。

 部屋には既にマヌエルが戻ってきていた。どうやら入れ違いだったらしい。


「こんな遅くにどうした?ヨハン」


「礼がしたいから待ってるって言っただろう?」


「いや、思ったより遅くなったから、もう戻って寝たのかと思った。オレも今日はもう」


 くぁ……とあくび混じりに言うマヌエル。

 旦那様からお叱りを受けたんじゃなかったのか?


「いや、今回呼び出されたのは俺のせいだろう?さっきまで待ってたんだが、お菓子が溶けそうで一旦厨房に行っていたんだ」


 マヌエルが呆れたように、ヨハンは人が良いよなあと呟いた。


「それで、旦那様は何だって?」


「昨日の召喚魔術は、これまでの魔術の応用とはいえ画期的だと。それで他にも活用方法がないか聞かれてた」


「お叱りを受けてたわけじゃなかったのか!?」


 驚く俺に、マヌエルはダルそうに頷く。


「結論だけ言えば、ヨハンのお陰でオレの給金が上がりそうだ」


 心配して損した……!!!

 ガックリと肩を落とした。ぶらんと垂れた腕をマヌエルが指さす。


「それで、それは何だ?」


「ああ、さっき厨房に行った時、冷温庫を開けたら入っていた。あまり見たことのないものだったから気になって持ってきたんだ。何だかわかるか?」


 俺はマヌエルに、手にした物を見せる。

 マヌエルはそれを手に取ると、つぶさに観察しだす。そして、信じられないと呟いた。

 普段のダルそうな動きからは考えられないほど機敏に、厨房の方へ向かう。


「おい!」


 呼び止めても止まらない。

 仕方なく俺は、厨房に逆戻りした。


※※


 厨房に着くと、マヌエルが冷温庫を開けたところだった。


「ヨハン、この中、何か入れていたか?」


「入ってるだろ?マヌエルの分のベリーとチョコレートのお菓子だよ」


「……見てみろ」


 マヌエルがランプで冷温庫の中を照らす。揺れる灯りに照らされた中には、何もない。


「まさか。ついさっき、確かに入れたはずだ」


 こんな夜中に他に誰かが来て持っていったとは考えにくい。


「あー、完全に想定外だな」


 マヌエルが天を仰ぐと片手で顔を覆っていた。


「……どうなってるんだ?」


「たぶん、異世界とこの冷温庫が繋がったままになってる」


「………は?」


 マヌエルは無言で持っていたバウムクーヘンのような物を差し出した。


「昨日のやつもなんだが、見たことのない文字が書かれてるだろう?」


 昨夜は全くそこまで気にしていなかったが、確かに目の前の透明な紙には文字のようなものが書かれている。全く読めないが。


「魔術師として、古今東西の書物は人より多く読んでるが、オレもこんな文字見たことがない。あと、この包んでる物。こんな材質のものをオレは知らない」


 ヨハンは?と訊かれて、首を横に振る。


「多分あれだな、この世界の誰も食べたことのないものって条件付。あれで異世界に繋がったみたいだ」


 頭が全くついていかず、口をパクパクとさせるだけの俺にマヌエルがダルそうに続ける。


「それに何がどうなったのかは、オレも検証が必要だが……接続が切れてないようだし」


「……切れてない?」


「しばらくはここに何も入れないほうがいいぞ。向こうに持っていかれる」


「ど、どうするんだそれーーー!!」


 思わず叫んだ俺が、慌ててとんできた夜番に怒られた。

 世の中ってのは、理不尽だ。

次回更新はあさっての予定です。

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