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怪異犯罪取締局特別捜査官  作者: 赤魂緋鯉
『怪取局』捜査一課研修期間騒動
11/22

前編

怪異等級Sクラスの使役霊を持ちながらそれを出せないでいる新人の事情とは


 新しく『怪取局』捜査一課に配属された生真面目な性格の新人・狐二宮静(こにみやしず)は、水卜(みうら)たちの班で新人研修を受ける事となり、案の定、水卜が非常に面倒くさがるもなんとか初日が始まるも、怪異事件が発生して水卜班とともに現場へと向かった。

 事件自体は大した事は無かったがその後始末に手間がかかり、やっと終わったと思われたそのとき、狐二宮に思わぬ災難が降りかかってしまう。


「はあ? なんで俺達が新人研修係なんだよ」


 水卜は到底上司に向けるようなものではない、ギロリと鋭いにらみを見せた。


 課の机でまんじゅうを食べながら休憩中の水卜みうら、ユウリ、流音るねの3人は、マグカップを手に給湯室から帰ってきた課長から、指示書と新人の履歴書とプロフィールを渡された。


「持ち回りであるからだよ。ではよろしく頼む」


 何度目か分からないやりとりを課長は早々に切り上げ、異論は聞かないとばかりにパソコンに向き合った。


「そんなに嫌? 新入りに頼られるの気持ち良いじゃない?」

「一瞬で済む事がちょろちょろされたら終わらねえんだよ」

「ひなっちー、お茶冷めたよー」

「ん」


 新人研修を毎度喜び勇んで引き受ける流音は、嫌がる水卜に対して変な物を見る目で首を捻りつつそう言う。


「どれだけこらえ性が無いのよ。大した手間じゃないでしょうに」

「面倒くさいんだよ。興味本位で根掘り葉掘りユウリについて訊かれる俺の身にもなれ」

「ユウリはユウリなのにねー。はい、あーん」

「あー」


 ユウリがわざわざ切り分けたものを口に運んでもらいつつ、水卜はやる気なさげにとりあえず書類を見る。


「ふーん、使役霊型怪異持ちか。しかも結構な怪異等級だ」

「どのくらい?」


 流音が向かいの席からやって来て書類を覗き込むと、Sクラスとは書いてあるものの、能力は不明という但し書きが付けられていた。


「不明なのにSクラス?」

「課長ー。これ資料間違ってんじゃねえのー」

「怪異等級の事なら訂正不要であるよ」

「分かんねえのにこれか?」

「そこから先は私からは教えられぬよ」


 本人から直接聞くように、と言って課長は会話をそこで打ち切った。


「なんか事情があるんでしょ。汲んであげなさいよ」

「得体の知れない怪異に暴走されたら面倒くさいだろ」

「アンタがそれ言う? 同じ事思われたんじゃないの?」

「ああ? ユウリはやるなっつったらやらねえよ」

「でもやれって言ったら全部やるよー」

「同じ意味じゃねーか」

「あーそーう?」

「大概の相手ならなんとでも出来るんだから、むしろもってこいじゃない」

「チッ。で、この……なんて読むんだこれ」

狐二宮こにみやね。江戸時代ぐらいに一大勢力だった狐宮一族の分家筋よ」

「じゃあ管狐じゃねえか。SはねえだろSは」

「管狐を使うのは本家の当代・狐宮舞姫こみやまいひめさんだけよ。本来剣術と傀儡くぐつ術の一族だから」

「ふーん」

「……」


 流音は狐宮一族の伝承まで語ろうとしたが、水卜が余りにも興味なさそうだったので止めた。


「で、いつ来るんだよ」

「着任式とかいろいろあるし、お昼過ぎてからじゃない?」


 悠長なもんだな、と言いつつ水卜はユウリにまんじゅうを食べさせてもらう。


「どうせ暇だからいいじゃない」

「とかいってると忙しくなるんだよ」

「あるあるー」

「そうやって縁起でも無い事を言うー……」


 額にしわの寄った渋い顔をしてため息混じりに言う水卜に、流音は半笑いを浮かべて返した。


 ややあって。


「――よろしくお願いします」


 黒の短髪で、かなり生真面目そうな面持ちをする、若い女性・狐二宮こにみやしずはそう挨拶して頭を下げると、スポーティーなスクエア型メガネをクイッと直した。


「研修担当の方はどなたでしょうか」


 狐二宮が視線を左右にやると、流音が素早く、水卜が渋々手を挙げてアピールした。


「1週間ほどお世話になります。ご指導ご鞭撻べんたつの方、よろしくお願いいたし――」

「あーもう、堅えんだよ。もうちょい気楽にやれ気楽に」


 やりにくいんだよ、とキッチリカッチリ挨拶をした狐二宮へ、水卜は実にうざったそうに顔をしかめる。


「ええっと……」

「肩の力を抜けって意味よ。――アンタももうちょっと優しく言いなさい」

「んなこと言ってねえ。挨拶が長えんだよ」

「せっかくフォローしたのに台無しじゃないの」

「頼んだ覚えなんかねえっての」

「萎縮させたら研修もなにもないでしょ!」

「あー? 俺ぐらいでしぼむ様なら怪異に遭遇したら即死だぞ」

「あの……」

「こら。研修の意味が無いではないか」


 狐二宮そっちのけで言い合いを始めてしまった水卜と流音に、見かねた課長が口を挟んでそれを止めた。


「この羊羹でやる気出してくれまいか」

「へいへい。仕方ねえな」


 彼女はすかさず羊羹という〝飴〟を机の上に置き、いまいちやる気のない水卜を前向きにはさせた。


 いつもの言い合いを観客気分で見ていた他の課員は、それを見て仕事に戻った。


「じゃあまず自己紹介でも――」


 渋々新人研修の第一歩を踏み出そうとしたタイミングで、


「水卜捜査官、すまないが緊急で捜査の仕事が入った」


 課長席に内線がかかってきて、課長が水卜の言葉を遮って指示を出した。


「なんで俺指名なんだよ」

「結界術絡みであるからだ。君というより三田村みたむら特捜官へのご指名であるよ」

「そーきたかー。忙しくなっちゃったねー」

「チッ、仕方がねえな」

「やっぱりフラグになったじゃない……」

「この新人も連れてくのか?」

「1番の経験であるな。許可しよう」

「あっ」


 余計な事を言ったと悟った水卜は、ムスッとした顔になって狐二宮に付いてくるよう言った。





「慌ただしくてごめんなさいね。私は宇佐美うさみ流音。そこのちっちゃい方が水卜陽菜(ひな)で、でっかい方か三田村ユウリね」

「宇佐美さんが身体能力強化、水卜さんが使役能力でその使役霊が三田村さん、で合っていますか?」

「間違いないわ」


 事前に調べていた事に、流音は少し感心した様子で少し目を見開く。


「あ? どこで見たんだよ」

「捜査官以上ならデータベースで見られるわよ」

「マジかよ」


 気味悪そうに顔をしかめる水卜に、流音はミラー越しに呆れた目線を送って突っこんだ。


「じゃあこれ以上説明はいらねえな」

「よろしくねーにこにこみー」

「に、にこにこみー……?」

「狐二宮ね。コイツこんな感じだから適当に流していいわよ」

「結構な物言いだねー。アルミンー」

「誰が面構えが違う調査兵団の一員よ。宇佐美ね」


 いつもの様にあめ玉を転がす様な声で適当な事を言うユウリに、狐二宮は面くらい、流音はもう何も思ってない様子で冷静にツッコむ。


「で、現場はどこだ」

「沿岸部の工場ね。結界に人が閉じ込められて行方不明らしいわ」

「チッ、調査課と機動隊の仕事じゃねーか。まったく……」

「早く終わらせて羊羹たべよーねー」

「……。おう」


 まだぶつくさ言っていた水卜だが、ゆるふわな顔のユウリに抱き寄せられて下がっていた口角がちょっと戻った。


「……水卜さんは、使役霊の方と仲がよいのですね」


 助手席の狐二宮は、イチャイチャする2人を羨ましそうに見ながら言う。


「コイツは()()()()()()だから知らねえけど、そんなもんじゃねえの?」

「かもしれませんが、私の使役霊は発現してくれなくて……」

「お前のSクラスのがか?」

「はい」

「ああ、不明ってそういうことなのね」

「はい。霊力だけは漏れ出るもので判別出来るんですけど……」

「本体がいなくても口寄せとかすりゃいいだろ」

「遺伝的に口寄せ術は相性が悪いんです」

「んなことあんのか」

「あるのよ。宇佐美は宗家も分家も射出術使えないし。アンタも核透視以外使えないでしょ」

「ほーん。道理で火炎系射出術を練習しても上手く行かねえ訳だ」

「その辺もう少し勉強したら?」

「その言い方はなんだよコラ」


 ちょっと小馬鹿にした物言いをされ、流音につっかかる水卜をユウリが、まーまー、といって抱きついて抑える。


「とりあえず似たようなものだし、アンタなんか原因とか分からない?」

「わかんない。霊がなんかで拗ねちゃったとかかなー」

「拗ねるねえ……。なんか心当たりある?」

「……。思いつかないですね。最初から存在は感じるときがあるんですけど、話しかけてこないというか……」

「それじゃあお手上げね」

「じゃー、意外ともっと前から拗ねてるのかもかもー」

「かもかも……」

「じっくり考えて良いわ。どうせたっぷり時間あるし」

「……は? うげ、片道2時間の方かよ……」


 聞き流し掛けた水卜がカーナビを確認すると、到着時間は現時刻より丁度2時間後が表示されていた。


 乗っている間中、狐二宮は考えを巡らせたが、結局思い当たる節は見付からなかった。

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