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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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39話 浮遊少女は今後の方針を示す

 何がどうなってるだー? あの子は結局どうなるんだー?

 どっちの言い分を信じれば……どっちの言い分であればあの子を救えるんだー。自分には人間の考えていることはわからないだー……。

 幻想の人間も。現実の人間も。陸に上がる奴らは全員わからないんだー。こんな奴らのことを信頼して……本当に良かっただー?

 もう何が何だか……人の心理とか、どうすれば説得できるとか、そういうのはさっぱりだー。不得意どころかからっきし。だから彼女らなら、何とかしてくれるかもしれないと思ったのに……。

 ――縋ったのに。拠り所だったのに。

 だから不信感を解いて、助ける気があるという力強い返事を疑わなかっただー。

 でも。

 白衣の女も、小枝とかいう人幻も、二人ともあの子を救いたいと言っただー。それでも反発し合ってるってことは、どっちかが嘘をついてるってことなのかだー?

 もう、訳が分からないだー……。

 どちらの言い分が正しいだー? どちらの言い分を通せばあの子は救われるだー?

 あの子はもう、二日間も岩の中に閉じこもってるだー。ずっと思いつめた表情をして……なのに自分にはどうすることもできない……できなかっただー。

 情けないという思いを噛み殺して、呑みこんで、仕方なく人間を頼ったというのに……裏切られた気分だー。

 ――何もできないのが、たまらなく嫌だー。

 けど、もしもあの子が人間だったとしたら、自分にできることはないんだー。

 おいらは人間じゃないから。人の外見をしているだけで、人の心までは読み取れないから。何を考えているのか、簡単なことでも察することができないから。

 なぁ。

 君は岩の中で、この会話を聞いてるのかだー?

 だとしたら教えてくれだー。君はどうしたいんだー。

 お母さんと仲直りしたいのかだー? お母さんと離れ離れになりたいのかだー?

 言ってくれないと、難しいことはおいらには判断できないだー……。

 せめて、せめて人間の心を理解していたら、こんなことにはなってなかったのかだー? 何が正しいのか、迷うことも……。

 白衣の女の言ってることも、人幻の言ってることも、おいらには難しすぎるだー……。

 何とか、したいのに……努力しなかったおいらの自業自得、だー……。




「白衣ちゃん、なぜ君はあの子の母親をそんなにも危惧するんだい?」


 両者の言葉が途切れたタイミングで、冷静な声で訊く浮遊少女。

 「そりゃあ……」と、白衣少女は弱々しく、けれどはっきりとした意思を秘めて答える。


「幻想を生み出すような奴だぞ……何されるかわかったもんじゃないよ……」

「……そうかい。君の目にはそういう風に映ったんだね」


 だけど――と、浮遊少女は白衣少女の目を見据えて言う。


「私たちにはそういう風に見えなかった」

「会ったことがないからそんなことが言えるんだよ。悩みを聞き出すなんて不可能だし、それしたらどうなることか……」

「会ったことはないよ。でも断言する。あの子のお母さんは悪い人じゃない」

「……やけに自信満々だな。なんで確信できるんだ?」


 不思議そうに問いかける白衣少女に、浮遊少女は淡々と答える。

 ――それは白髪少女も、小枝少女も理解していたこと。


「あの子が砂場で遊んでいたから。そしてあの子のお母さんが、娘さんに八つ当たりしたがらなかったからだよ」


 それだけでも、良い人だと信じるだけの根拠になる――。

 そう悠々堂々と口にする浮遊少女が、白衣少女にはひどく眩しく見えた。

 自分と同じ人間とは思えなかった。なぜそう思えるのか――信じられるのかが、理解できなかった。

 眩しすぎるほどに、眩しい――まるで別世界にいるような、隔てられたような感覚。

 彼女らは知らないんだ。何もかもを知らないんだ。

 何かが――得体の知れない何かが、欠けていると。

 白衣少女は、水滴のように呟く。


「……嘘だったら? 世間の目が気になって本音を隠しているかもしれない」

「自らの生み出した幻想に嘘はつけない。もはやこの世のルールといっていいほどにね」

「なぜそう言い切れる?」

「己の存在、幻想というものを深く考えていったらそういう答えに辿り着くのさ」

「……お前らは、そう思うのか?」


 ……と、浮遊少女の後ろへと控えていた白髪少女、小枝少女を見やる白衣少女。


「私には……そういうのはよくわかんねぇけど、鼻っからあの子の母親をそう目の敵にしなくてもいいんじゃないか?」

「……私も、そう思います」

「――お前は?」


 そして白衣少女は、少し離れていたずぶ濡れ少女に同じ質問をする。


「おいらには何もかもがさっぱりだー。誰を信用するとか、そんなの訊かれてもよくわからないだー。けど……あの子が笑える選択に賭けたいだー」

「……」


 笑える――選択。

 確かに自分が提示した方法では傷を負わずに済むけれど、あの子が笑えるかどうかと訊かれたら微妙である。

 微妙どころか、きっと笑えないだろう。

 ……。

 でも、それでも、やっぱり笑える選択があるとは思えない。

 浮遊少女が提示する選択だって――きっと――


「白衣ちゃん」


 思考を断ち切るように、彼女は言った。


「信用できないならそれでもいい。でも、元はと言えばこれは小枝ちゃんたちの問題であって、私たちは第三者に過ぎないんだ。その理屈でいえば、小枝ちゃんやあの子がやりたがってることを全力でサポートとする……そうだろう?」

「……ああ、だけどさ――!」

「私の勘が、この子なら大丈夫だと踏んでいる。そして彼女は自分が後悔することも、死ぬことですら覚悟している」

「……」


 白衣少女は頭を掻きむしって、盛大に息を吐いた。


「わかったよ……そこまで言うなら、止めない……」


 彼女らの意思を尊重するなら、そうするべきだ。

 本来は自分に止める権利など、最初からないのだから。

 その返事に浮遊少女は頷いて、白髪少女へと目線をやる。


「では見習いくん、私と小枝ちゃんで母親の家に向かっている間、君は白衣ちゃんと共に引き続き大岩と足跡の調査を頼みたい」

「あ、足跡のことなんだがな。実は――」

「あれはあの子が作ったものだー」

「……え?」


 ナチュラルに差し込まれた衝撃の事実に、浮遊少女は間抜けな声を発した。


「じゃ、じゃあ……あれかい? 彼女の能力は砂を固めるとかそういう……」

「能力じゃないだー。これはおいらが教えた技術だー。たまたま海底で知り合って、その時に一緒に作っただー」

「ああ、そうだったんですか」

「そ、そうだったのかい……それはそれは……」


 何というか……なんて肩透かしな真実だろう。

 まぁ別に、それほど凄く気になっていたわけでもないし、調査するの楽しかったからいいのだが。

 ともかく。

 白衣少女は白髪少女に任せるしかない。これ以上の言及はしない方がいいだろう。というか、できそうにない。

 いつもなら何も言わずとも順序良く、納得するような回答をするというのに、今は飛躍的な結論しか出せていないのだ。そうなってしまう事情があるのだろう。

 気にはなるが、一応まとまったのだからあえて何も言うまい。早く小枝少女を海から出してあげたいし。


「ゴーレムちゃんの居場所だが――正直にいうと私にも具体的な場所は覚えてないんだ。会ったのはかなり前だし、砂漠を彷徨っていたら偶然会っただけだから」

(……ん、砂漠?)

(あんな地獄によく行けるだー)

「ならどこの砂漠か教えてくれよ。今地図アプリ立ち上げるから」


 携帯電話を開き、浮遊少女に渡す白髪少女。


「えっと……確かこの辺りだったはずだよ」

「どれどれ……うわっ、やっぱり遠いな……。こりゃ大変そうだ」


 白髪少女に玩具の携帯電話を返し、浮遊少女は締めくくった。


「というわけで、君たちは気兼ねなく大岩を調べに行ってくれ。帰ってきたら私宛に手紙を書いてくれよ」

「わかった」


 頷く白髪少女。浮遊少女もこれでいいだろうと、小枝少女と浮遊する。


「じゃあ、行ってくるよ」

「おう。気を付けてな」

「……いってらー」


 そうして浮遊少女と白衣少女は、陸へ上がるのであった。

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