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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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31話 見習い少女は幻想について説明する

 長い髪の女の子――そのキーワードに、白髪少女と白衣少女が顔を見合わせる。ひとまず彼女から一通りの事情を聞いてみたところ、おそらくドンピシャであると何も言わずとも二人の意見は一致していた。

 場所は彼女とその女の子が出会ったという公園。平日のため閑散としている中、目立ちにくい陰に隠れた寂れたベンチに三人はいた。

 白髪少女と探し人らしき少女は座り、白衣少女は立ったままで。三毛猫少女は彼女を見つけるや否やどこかへ行ってしまった。

 二人は顔を見合わせた後、再び少女に目を向ける。

 青いつばと桃色のリボンが特徴的な白いベレー帽に白シャツ、ピンク色のスカート、茶色い髪……見た目は普通の人間だが、幻想世界の者をも視ることができる人幻と呼ばれる部類の少女だ。ただ……白髪少女は、彼女が付けている髪留めに目が行った。

 それは見覚えのない、ピンク色の小枝であった。枝に関する幻想世界の者との混血だろうか……なんて考える。

 しかしそこまで思考しなかった白衣少女は、彼女からの話で点と点を線で繋げて気さくに口を開いた。


「事情はだいたい、たぶん君以上に理解した。その長い黒髪の女の子の正体と場所なら知っている」

「っ! 本当ですか!?」


 思ってもみなかった返答に、小枝少女は声を上げる。


「ああ、だが期待は九割までにしてくれ。長い髪の小さい子、だけしか確認できてないから」

「それでも……その子はどこにいるんですか? どんな様子だったか、話してもらえませんか?」

「それは……」


 矢継ぎ早に、けれど早口にならないようまくし立てる小枝少女に、白髪少女は口ごもる。

 彼女から聞いた小さい女の子と、浮遊少女から聞いた小さい子の様子は雲泥の差だ。もし同一人物だとしたら、その女の子は二日前から岩の中に閉じこもっている……という解釈にもなりかねない。

 そもそもその女の子は、様子どころか存在自体がおかしくなっている。現実世界の海に干渉しながらも大岩には干渉できていないという現象……能力ではなく、二日前に異常が起きた故、ということにも……。

 どう話すべきかと思いあぐねていると、同じ結論に至ったであろう白衣少女の方が、公園の時計を確認してから答える。


「今から三十分後、仲間とこの辺りで合流することになってるんだ。連れて行ってやるから、まずは本当にその女の子かどうか君が見て判断してくれないか? 場所が海底っていう通常では行けない所だから、私たちはともかく君を連れて行くには仲間の能力が必要なんだ」

「……分かりました」


 半開きになっていた口を閉じ、瞼を伏せて首を縦に振る小枝少女。探し続けていたはずが、いざ会えるとなってどっと不安が胸に押し寄せる。海底……なぜ、そんなところに。なぜ、何も言わずに……。

 どれほど真剣な気持ちなのか一目で察せられるその面持ちに、白髪少女は言葉をかけようとして、やめた。

 彼女が今欲しいのは希望のある予想ではなく、気休め抜きにした予想すらいらなくて、真実なのだろう。

 それだけを求めて、きっと二日間歩き続けていたはずだ。幻想化している者に声をかけ続けたはずだ。あるかどうかもわからない答えに縋るように。

 でも、だからこそ自分たちに出会うことができた。ならばせめて、できる限りの真実を話そう。

 そう思って、白髪少女は剣呑でありながら柔らかい目つきで、告げる。


「海底にいる子がその女の子かは、会ってみてもらわないと何ともだが……その女の子の正体なら知っている。同じ種族っつーか、私たちからすれば別に奇妙でも何でもない自然現象だ」

「と、いうと、あなたたちの……私に視えて他の人には視えないモノの正体、ということですか?」

「そういうことになるな」


 腕を組んだまま肩を落として相槌を打つ白衣少女。これ以上の説明は白髪少女に丸投げして、自分は考え事に集中しよう。

 すぐには返答できずに小枝少女は間をおいて、振り払うように髪を揺らすと極めて真摯に姿勢を正した。


「教えてください。あなたたちは一体……何者なんですか?」


 ……良い子だな、と白髪少女は思った。

 散々思っていたことだけれど、改めて。彼女は普通に、ただの良い子だ。

 小さい女の子のために、これまで避けてきた『気味の悪いもの』の言葉に耳を貸すなんて、容易にできることではない。


「私たちは――幻想と呼ばれる存在だ」


 指先を絡めて、白髪少女は語った。


「幻想……? 幽霊やあやかし、ではないのですか?」

「だいぶ違うな。私たちは生きていない。生きたことがない――元々命を持ってないんだ」

「……」


 かなり謎めいた想定外の回答に、小枝少女は声が出てこない。

 白髪少女も白髪少女で、こんなことを説明したのは初めてだったため、思っていた以上の反応が返ってきて少なからず動揺したが構わず続ける。


「想像を糧とする幻想……簡単に言ってしまえば、キャラクターと呼ばれる存在だな」

「キャラクターって……あの小説に出てくる登場人物の?」

「それだけじゃない。人間が想像した架空上の生物全てを指している。伝説上の生き物、存在しないと分かりつつ認知された存在……そういう意味ではあながち幽霊や妖怪とも言えなくはないがな。私もまぁ……これでもサンタクロースの見習いだよ」

「えっ!?」


 視線を外し気味に、決まりが悪そうに頭をかく白髪少女。小枝少女はここ最近で最も大きい声量を出す。

 だが、それもそうだろう。この現実世界においてサンタクロースの見習いを知らない人間はいない。それほどまでに有名人なのだ。


「た、確かに言われてみれば聞いていた通り白い髪で、それくらい年齢ですが……じゃ、じゃあ私が小学生の頃にプレゼントを置いたのも……」

「それはどうかな。心の底からサンタの存在を信じた者のみにしか渡してないから」

「そう……ですか」


 ならば……あれは母が置いたのだろう。幽霊や妖怪の存在は疑っていなかったけれど、サンタだけは幼稚園の頃には区別がついていたから。

 いないと、理解していたから。

 瞼を下げる小枝少女に、白髪少女は慌てて訂正する。


「というより、渡してないっていうか……渡せないんだよ。渡せないのが普通だ。幻想は存在しないからな。言っただろ? 私たちは命を持ってないって。身体ですら持ってない幻想が幻想を渡したってそこにあるのは空気だけだ」

「え? 存在しないって……でも、今こうして私と……」

「そりゃあ、お前が幻想を視ることができる体質だからな。幻想と人間とのハーフの場合、そういう体質になっちまう。私たちはそいつを人幻と呼んでるんだが……」

「??」


 ますますわからなくなる小枝少女。

 彼女らが幻想、というのは、もう言葉の通りなのだろう。

 触れることができず、本来であれば視ることも声を聴くこともできない『想像物』。なぜか私には視えて聴こえているだけなのだ。

 あるはずのない形が、あるはずのない音が聴こえているだけ。

 存在しないとは、きっとそういうことだ。

 ……だが、存在しないのであれば……存在しないものと婚姻なんてできるはずないだろう。形あるものとないものとの間に、当然子供なんてできるはずもない。そして子供ができなければ、そういう体質の子は産まれてこないはずだ。

 けど、私は産まれている。人として、人幻……というものとして。

 彼女の言葉が本当だとしたら……ならば、自分の父親は……?


「……ここからは言いにくいことなんだがな」


 そう前置きして、白髪少女は彼女がショックを受けないよう、慎重にそれを口にする。


「存在しない幻想を実体化させる方法が一つだけある。お前の片親、そして長い髪の女の子は、その方法を使って実体化したはずだ」

「……その方法とは?」


 気配からして、それはとても嫌な方法なのだろう。口にするのを躊躇うほどに。

 しかしそれを承知の上で、それでも意を決して小枝少女は問いかけた。怖いけれど、見る目が変わってしまうかもしれないけれど、父とあの子の正体がわかるならば聞かざるをえなかった。

 わからないままじゃ、きっと何もできない。

 あの子の母も、自分の母も、聞いても答えてくれそうにない。

 ――そんな彼女の覚悟に頷いて、白髪少女は言う。


「存在しないそれがいると信じ込むこと、思い込むこと。そうすれば自ずと幻想は実体を持ち、想像主の前に姿を現すことができる。つまり……」


 これから発する単語に視線を落として。

 近くで聞いていた白衣少女でさえ頬を落とす。


「幻想がキャラクターならば、具現化された幻想は『幻覚と幻聴』ってことだ」


 現実世界に干渉できる幻覚と幻聴――それが君の親御さんと女の子の正体だ。

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