28話 白衣少女は種明かしする
「磁石?」
「みたいなもんだ。簡単にいうとな」
強い占い師と別れてから、白衣少女は更なるイカサマの種明かしをした。それはまだ白髪少女と浮遊少女が聞いてなかったズルだったため、機械の腕がそれ専用に開発したものだと看破された時は焦ったものだ。彼女が好戦的な性格だったから良かったものの、通常であれば認められなかっただろう。
「仕掛けたのは右腕で腕相撲に励んでる最中、私の左腕を台の下に忍ばせていたとき」
「左手……」
「そういえば入れてたね」
それどころではなく、ついぞそのことに気付かなかった白髪少女。しかし、審判として前に出ていた浮遊少女は今になって思い出す。
白衣少女はまるで掴むかのように肩に乗っけた、持っている腕の機械を指しながら続けた。
「実はこっそりこいつと引き合う性質を帯びた部品を握ってたんだ。そして占い師の右手を倒す際に着地するであろう場所で構えておいて、あと少しってところで磁石のように機械と部品が引き合い――」
「楽に勝てるってことだね!」
「言い訳の余地も許されねぇズルだな……」
「ふふん、まぁな」
「ドヤ顔すんな。褒められたことじゃねぇから」
尊敬の眼差しを向ける浮遊少女。正反対の眼差しを向ける白髪少女。どちらの視線を素直に受け止めるかは言うまでもないことだ。
…………。
……。
『まぁいいじゃないか。不可能と思われていた勝利を掴み取ったのは事実だし、科学兵器を寛容的に受け止めてくれた人だからバレても許してくれるだろう』
『そーだそーだ。そんな細かいこと気にしてないで、せっかく情報は得られたことだし有効活用しようぜ。これでも腕くっつけるの大変だったんだから』
くくくっ……そういうことだったか。水晶玉に映る少し先の未来を覗きながら、強い占い師は小刻みに肩を震わせる。それは怒りによるものではなく――外ということもあって、笑い過ぎて腹を抱えるのを抑えるためのものだった。
あぁ……完全にやられた。よもやこのような小細工に敗北するとは……私もまだまだだな。
小細工……白衣少女が二人に見せた、その部品とやらはあまりに小さい。こんなもので勝敗が決まってしまった上、負けた。それがおかしくておかしくて……たまらなかった。
別段、そう笑えるほどおかしな話でもないというのに。物事というのは、所詮そんな小さな出来事で躓いたり失敗したりしてしまうものだから。
様々な未来を予知してきた失敗の根本的な原因は――大抵がよく見てしまえばちっぽけなものだったり、形のないものですらあったりする。
弾丸だって同じこと。こうも指のように小さいものでも、拳銃という武器に差し込んで放ってしまえば相手の心臓を貫くことだってあるのだ。
数々の運命を予知してきた占い師として、数多の襲撃者から身を守ってきた修羅場を潜った者として、その程度の道理は弁えているはずだったが……いやはや、華麗に立ち回られてやられた。これが本物の戦場なら瀕死である。
そうならないために、傷をつけることなく分かりやすく相手の力量を測り競える腕相撲を所望したのだが。
やはり科学は存外馬鹿にできないものだ。武器を使って敵の攻撃を躱す度に、これがなければ危なかったと感謝した場面は数え切れないほどにある――それが、強い占い師が神秘学ではなく科学派である理由だった。
久しぶりに笑った。久しぶりに敗北した。その痛快にして愉快、理解させられた結果が強い占い師の腹を刺激する。
そして、その対戦相手である、色づいた白衣を纏ったあの少女を想起した。
「……」
言うべきでは、なかったのだろう。何も。
それが彼女たち冒険者たちの願いだ。それはあの少女とて例外ではない。
あの三人組は、そういう集まりだった。私が予言した際のあの目も、あれは未知に胸を膨らませているからこそのものだった。自分は占った結果をそのまま伝え、それ以上は下手に干渉するべきでないのだ。
――それでも少し、憂いはあった。
自分ばかりが楽しい思いをして、彼女がショックを受ける様子を見て見ぬフリをするというのは……良き好敵手として、あまり良いものではなかったから。
だが……そう、危うく言いかけてしまったが、何であろうと言うべきではなかったのだ。
なぜならそれが、彼女の本当の望み……これまでの大半の客人は、未来が不安だから教えてほしいというものだったが、彼女たちは違う。仕方なく頼っただけ。
見たところあれくらいのショックならば、きっとすぐに立ち直れるだろう。
…………。
……。
「それで人脈モンスターよ、人幻に心当たりはあるか?」
「君、私のことをそんな風に見てたのかい。ほとんどの人が知り合いってくらいで友達というほどの仲ではないのだけど……」
「正直私もそんな目でお前のこと見てた。気に障ったならすまん」
「ああいや、いいよ。別に。響き的には正義より悪役の方が好きだし」
「……そういう問題ではないと思うのだが……」
ともかく、と、白衣少女からの問いに答える浮遊少女。脳内に記憶している人物リストを検索する。
はて人幻……かなり希少で、久方ぶりに聞くワードである。そうそう容易に探せるものではない。
あやふやな記憶を頼りに、こめかみに人差し指を当て、視線を泳がせながら浮遊少女は言った。
「……この辺に住んでいるのが一人いる。しかし、聞き込み調査をしていた時に家を尋ねてみたがいなかったよ。数日間いなくなったりするからしばらく帰ってこないんじゃないかな」
「でも、もしかしたら今なら帰ってきてるかもしれないし、試しにもう一度今から行ってみるか?」
「いや、いい」
白髪少女の提案を、サクッと容易に切って捨てる白衣少女。これには白髪少女も予想外だ。
「念のため確認したくて聞いただけだ。おそらくそれで正しい」
「正しい……?」
引っかかる言い方に、二人は首を傾げる。小さい開発者は端的に説明した。
「占い師が残したヒントは『人幻を探せ』だ。探す……つまりいないのが前提で、新しい人物を発掘しろ、という意味だと私は解釈した。お前が知ってる人幻を探せという意味ともとれるが、だとしたら人幻なんて曖昧にせず名称を使うだろう」
「どれくらい曖昧にするかなんて占い師の匙加減じゃないか? あえて名称を使わない方が迷いやすく、長旅になるからとか……」
「んー、導くようなヒントだと思うんだけどな。そこまで曖昧にしないだろ」
白髪少女と白衣少女が議論する中、完全に置いてけぼりな浮遊少女。性格が関与しない事柄にはちんぷんかんぷんである。
「――よし、こうしよう」
ダラダラと続きそうな議論を打ち切るように、白衣少女はパンッと手を叩く。
「お前はその知り合いである人幻が行きそうなところはわかるか?」
「え? ど、どうかな……彼女結構な浮浪者だから」
「じゃあ、家の様子をもう一度見に行ってみてくれよ。そしてもしいたら黒い大岩と足跡について聞いてみてくれ。その間に私たちは新たな人幻を探す」
「なるほど、それなら効率いいな」
つまり、再び二グループに分かれるということだ。何も全員で行動する必要はない。場所を知っている彼女が一人で行っても何ら問題ないのである。
もしもその人幻が何か知っていたらそれで解決だし、白衣少女と白髪少女で新たな人幻を探し出せても同じ。いなかったらまた分散して探せばいいのだ。
「その家まで何分くらいかかる?」
「ここからなら……行き帰りで一時間といったところかな」
「かなり遠いな。ま、それだけ時間があればどちらの占いの解釈が正しかったのかわかるかもしれないし……これで決まりだな」
一区切りついて、そして白衣少女は高らかに宣言する。
「じゃ、再び解散! 一時間後にこの公園で集合!」
「「了解!」」




