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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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25話 見習い少女は人の話をよく聞く

 白衣少女の少し奇抜な家に来たものの、入るのを拒まれて外で待機させられた浮遊少女と白髪少女。熱い陽の光を浴び、白髪少女は羽織っていた上着を持って肩にかける。バックに出し入れするのは億劫になった。

 本でも読もうかと考えたが、待つこと数分も経たず浮遊少女が口を開く。


「彼女何するつもりなんだろう。筋力が向上する薬でも作ってるのかな」


 秘策があると聞いた時から、ずっと気になっていた浮遊少女。来る途中に白衣少女に訊いてみたが、誤魔化された。

 順当に考えれば薬に頼るという発想になる。白衣を纏う研究者の思考は科学で何とかするというものだ。……そう、順当に考えれば。

 順当とか至当とか正当などの言葉がことごとく当てはまらない彼女ならば、そんな安直な打開策を打ってこないだろう。もっとこう斜め上から切り込んでくるはずだ。しかし自分では彼女の天才的な頭をトレースできず……そんなことを口にした。自分にできるのは自分と同じ性格や思想だけだ。

 当然、反論が返ってくる。


「でもあいつが作るのは機械だろ? 薬の製法なんて知ってんのかな」


 あ、そっちの話ね。


「さぁ……製造してるなんて聞いたことはないが、知っていても驚きはしないよ。何せ彼女の知識欲は物凄いからね。ひょっとしたら作ったことがあるかもしれないよ。彼女の心を燃やすに至らなかったから続かなかったとか」

「ああ……そうだな。あいつ興味ないことにはとことん興味ないからな」

「別に白衣ちゃんに限ったことではないけどね。みんなそういうものだと思うよ?」

「……そうかな」


 ここでいうみんなとは、浮遊少女の場合実際のみんなを指しているのだろう。何十人……下手したら何百人、何千人と話してみて、その大半を指しているはずだ。

 そんな大勢と話すことができるなんて、白髪少女には到底想像することすらできないけれど、彼女のことだ。訊いたことはないがたぶんやってる。今回の『ゴーレムちゃん』なる人物のみならず、事件に関わり、人手が欲しくなる度に自分たちの知らない人を連れて来るからな……。

 つくづく彼女のネットワークは凄いと思う。真似できないし、したいとも思わない。

 そんな浮遊少女が『誰もが興味ないことにはとことん興味がない』と言うならば、確かにそうかもしれないけれど、近くに例外者がいるために白髪少女は納得できなかった。


「でもお前やじいさんは何事にも興味持って話聞くだろ。話してるこっち側でも「え、こんなに語っていいの?」って驚くぐらい」


 しかしその言葉に、浮遊少女はびくりともしなかった。


「そりゃ君たちの個性が感じられて楽しいからね。自分にはなかった視点や体験だったりで聞いてていいものだよ。サンタのご老人についてはあまり会ったことがないから何ともだが……」

「そういう……ことか」


 結局は人間観察の一環。物理には興味がないが、物理に対する熱量や、物理に詳しいからこそ出てくる発想には興味がある、ということか。それなら自分にもそういう一面はある。だからこそ白衣少女の発明品や浮遊少女の外での経験話を聞いているわけで、そういう意味であれば、彼女も例外なく興味ないことにはとことん興味がない、ということになる。

 しかしそうなると、じいさんも人間観察に似た趣味を持っているということだろうか。そんな面見たことも聞いたこともないが……。

 兄なら何か知っているかもしれない。白髪少女と老人の間柄は……あくまでも師弟のようなものだから。玩具に関する技術は教えてもらっても、あまり世間話はしない。悪い人ではないのだが、何を話せばいいのかわからなくなるのだ。遠慮しないということが、できなくなる。

 あの人のことは、自分にもよくわからない。

 思い返すと、自然とそんな言葉が出てきてしまった。共に暮らしてもう何年もなるというのに。

 付き合いが上手くいっていない、の内に入るのかな。


「でも、あのご老人も同じじゃないかな」


 そう、浮遊少女は憶測を付けた足した。


「だって――興味ない話なんて退屈で、内容は耳からすっぽり抜けていくだろう? 睡魔も襲ってくる。そんなのは聞いてるとはいえないよ」


 呆れるほどよくある自然な心理状態に、白髪少女は苦笑した。


「それもそうだ。まぁ、実際にそうなることは滅多にないけどな。そんな長い間聞かされることなんてないし、されそうなら切りの良いところで避ける」

「聞いた話だと、現実世界の学校じゃあ逃げることができないから、退屈すぎてよく授業中に居眠りしてしまう生徒がいるらしいよ。一クラスに一人はいるだとかなんとか」

「いやいや、学校って学び舎なんだろ? ダメじゃん」


 学校というものに通ったことがない白髪少女。だが、現実世界の教室を覗いたことのある浮遊少女は生徒の方に味方する。


「勉強が苦手とか、そんなところだよ。気持ちはよくわかる。本気で二人の話に付いていけなくなった時の私、寝てるもん」

「……それは、すまん」

「あ、いや、顔を上げてくれ見習いくん。私は気にしてないから」


 全くといっていいほどに気にしていない少女は、というか気付かれてないと思わなかった少女は、謝罪する白髪少女に顔を上げるように言う。

 「そうか?」と、それでも申し訳なさそうな面持ちが取れない白髪少女。


「見習いくんは真面目というか、優しいというか……そうそう、先ほど他人の話をよく聞く例として、私とご老人の名を挙げたが、私からしたら君の方がよっぽど話を聞いているよ」

「いやいや、あんまり聞かないって」

「――と見せかけて、何だかんだ聞くのが君の癖だ」


 「何だかんだの見習いくんだ」――言い渡すように、きっぱりと言い放つ浮遊少女。


「……」


 そんなことは……と否定しようとして、やめた。後になって彼女の言い分が当たっていることに気付いたからだ。

 何だかんだの見習いくん――これほど合っている二つ名はないじゃないか。あまり良いものではないが。


「……傷つけてしまったのなら謝るよ。語呂が良くて、つい。君はそういうことには敏感だったね」

「いや、語呂は良いし、めっちゃ良いし、事実だから良いよ――あいつは、なんて答えるのかな」

「……何をだい?」


 露骨に逸れた話題に、謝礼として何も言わずに合わせる浮遊少女。白髪少女は白衣少女の家を見上げる。


「誰もが興味がないことにはとことん興味がないのか、って訊いたら、なんて答えが返ってくるのかって」


 浮遊少女が言うには――みんなそんなものであると。なぜなら興味がない話なんて、聞けなくなるから。

 白髪少女も最終的には同意したが、自分の場合興味がない話でも聞いてしまうかもしれない。

 ならば、白衣少女はどうなのだろう。

 ……浮遊少女もこんな風に、誰かに興味を持っているのだろうか。

 ――白髪少女が呟くと、ちょうどドアノブを捻る音がした。どうやら終わったようだ。


「待たせたな! 調整に時間がかかってしまった」


 そして玄関から梯子を用い、地面に降りる白衣少女。ぱっと見変わっているところはなさそうだが……調整? 何を調整していたのだろう。

 だが、今はそれより先に訊きたいことがある――浮遊少女が、その問いを口にした。


「ねぇ白衣ちゃん、君が来る前まで二人で議論していたんだ。ズバリ、みんな興味ないことにはとことん興味がないのかって話を――君はどう思う?」


 さぁ――答えは幾らでもあるぞ?

 自分はできてないと自責するか、そういう人もいるよねと羨望を向けるか、そもそもそんな人はいないと回答するか――。

 彼女にしかできない、彼女の考えに、浮遊少女と白髪少女は無駄にドキドキしながら返答を待つ。

 ――答えは、すぐに返ってきた。

 白衣少女は眼を変えず、態度を変えず、平静とそれを言う。


「そりゃそうだろ。んじゃ行こうぜ」

「……えっ!? それだけ!?」

「は、白衣ちゃん……何か独自の考え方とか、そういうものはないのかい?」


 予想通りといえば予想通りだが、何もないともとれる答えにオロオロと尋ねる浮遊少女。しかし白衣少女は眉を上げる。


「はぁ? 知らないよそんなもん。それより占い師の所に行こ」

「――っ! 知らなって……最高……っ! ――っっ!」


 「知らないよそんなもん」と一言でばっさり切り捨てられ、必死に笑いを堪える浮遊少女。白髪少女も度肝を抜かずにはいられなかった。

 全く――白衣はカラフルに汚れているといのに、こいつは白黒はっきりしてやがる。


「それよりお前ら、私を見て何か気付かないか?」

「ん? 特に何も……」

「……えっ? あ、ああ……よく見たら腕辺りが少し……違和感あるかな」


 笑いが止まった浮遊少女は、よくよく白衣少女を観察してみる。言われてみれば心なしか腕辺りが膨らんでいるような気がした。

 「そう……かな?」しかし言われても違和感を感じない白髪少女。


「……まぁ、執拗に私のこと見てくるお前が気付くレベルなら、いっか」

「「?」」


 何のことかさっぱりわからずはてなマークを浮かべたような顔をする二人に、白衣少女は白衣を翻しながら種明かしをした。


「実はだな――」

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