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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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24話 幻想たちは集合する

 幻想世界であろうとなかろうと、時間は流れるものだ。秒が経って時が経って、そして一日は経つ。それを夜空にポツンと浮かぶ満月は示している。

 夜が来なければ新たな朝は来ないが、夜が来ているならば新たな朝は否応なく訪れるのだ。

 故に、役割を果たした月は沈み始め、新たな朝が来る前置きとして塗りつぶしたような夜の空は薄い色になり始めていた。

 夜に活動していた者には眩しくとも、朝に活動する者にはまだ仄かに暗い。しかしやがて、人工的に照らされていたこの街は、自然光によって照らされていく。

 それは、現実世界も幻想世界も同じ。

 明け方に再度集合することを誓った少女たちは、それまでの間己に課せられた任務を遂行していた。

 ある者は幻想世界の者たちに聞き込みに。

 ある者は幻想世界の図書館で書物を漁りに。


「なぁ、こんな資料が出てきたんだがどうかな?」

「……いやー、違うんじゃないかな。それだとここが説明つかない」

「そー……なのか。よくわからんが」


「ちょっとそこの人、実は海底に黒大岩と固まった足跡があるのだが何か知ら――」

「なに!? 海底と大岩と足跡だって!? 詳しく聞かせてくれ金払うからそのネタを記事に!」

「あ、何も知らないんだね。それでは」


 彼女らは粘り強く、辛抱強く、培ってきた根性をもってして調査を行っていた。


「……おい機械マニア、大岩のエネルギーを調べるっつったよな? ボルト図鑑で読み解けることなのか?」

「……てへっ」

「その顔文字うぜぇからやめろ」


「……あ、やべ。また寝ちゃった。もういい加減集まりたいなー暇すぎる」


 粘り強く! 辛抱強く! 人一倍培ってきた根性をもってして調査を行っていた……。

 そして夜明け。短い針が六を指す頃。

 幻想世界では光源が変わるくらいで人だかりにあまり違いがなくとも、現実世界ではぽつぽつとジョギングをしたり、港には海の職を持つ者が集まる。

 その港に――白衣少女と白髪少女は来ていた。……白衣少女は約束を優先しようと悔しそうに拳を握り、噛み締める顔をして。「よし、よく我慢した」と思わず誉めたくなったほど。

 幻想化した二人は、再び携帯電話と懐中電灯を手に海の中へ潜り、黒い大岩を目指す。ほぼ一直線だったため、迷うことなくあのデカい目印を見つけることができた。


「――ん。おーい! こっちだー!」


 光を当てられ、書いていた本から目を離して腕を大きく振る浮遊少女。白衣少女も振り返して、二人は彼女の傍、砂底に着地した。

 約十時間ぶりの再会であり、日を跨いだ再会でもある。しかし……


「そっちはどうだった?」


 挨拶を交わすことなく、矢継ぎ早にそう問い質す白衣少女。その面持ちに変化はない。


「得られた情報はなし。というか、この存在を知ってる者すらほとんどいなかったよ」

「そうか……」

「こっちも似たようなもん。どの本を調べてもそれらしいものはなかった」


 気を沈める白髪少女だったが、浮遊少女と白衣少女にはまだそれらしい色は見られない。幻想世界の住民のやることは常に無茶苦茶で、予想の範囲内だから。むしろようやく冷めていたマグマが沸々とたぎってくるというものだ。


「こりゃあ能力によるものだと確定したようなもんだな。証拠があるわけじゃないが、十中八九そうだろう」

「あんだけ調べて出てこないんじゃ、そりゃあな」

「まだ見たことがない能力か、あるいは知っている能力だが新しい使い方を発見したか……ともかく、これ以上は専門家を頼るべきだと思う」

「つまり、ゴーレムちゃんに会いに行くってわけだね」

「うん。うん? うん。……いやちょっと待って」


 さすがに呑み込みきれなかった白衣少女。浮遊少女の口から出た知らない名前を確認する。


「えっと、それは現実世界の岩を生み出す能力者のことだよな?」

「そうだよ。ゴーレムを作るのが夢なんだって」

「へぇー、そりゃ面白そうだな。あのでっかい人形だろ? ……そういや大型ロボットに乗ったことねぇや」

「に、人形……ああまぁ、人形か……」


 ゴーレム――自動で動く泥人形。憧れすらあるその響きに興味をそそられ、なおのこと会いたくなる白髪少女の発言に、今度は浮遊少女が呑みこむのに時間がかかった。

 しかし、人形については呆気なく流した白衣少女だが、思わぬ提案をする。


「それくらいなら作ってやろうか? つーか作ってみたいから試し運転してくれよ。男のロマンとやらを洗い出す――のは面倒だから自己流ロマンを目一杯搭載してやる」

「やだよ。どうせ変な機能ばっか付ける気だろ? 事故るに決まってる」

「変な機能だと! 我が確固たる信念を侮辱する気か貴様!」

「まぁまぁ、白衣ちゃんのロボットは私が試し運転するから」


 パクパクくん楽しかったし、と小さい肩に手を置く浮遊少女に、白衣少女はまん丸に目を丸くする。


「おぉ……お前がそんな良い奴だったとは思わなんだ。ありがとう」


 本気で驚いた。自分以上に変人で他者の懐を土足で踏むイメージが強かったのだが、少し評価を改めなければ。


「――で、これからそのゴーレムちゃんとやらに会いに行くのか?」


 脱線していた話を戻す白髪少女。少しワクワク気味である。


「そうしようと思う。だから幻想世界に戻って――」

「あ! その前に一ついいかい?」

「「ん?」」


 白衣少女の言葉を遮る浮遊少女。交渉失敗したために今の今まで忘れていたが、そういえば一つ情報源があったんだった。上手くいかない気がするが……話してみるだけ話してみよう。もしかしたらこの二人なら打開策を思いつくかもしれない。


「実は……聞き込みしている最中に、未来予知の能力を持つ占い師に出会ってね」

「はぁ!? 未来予知? すげぇな……」

「十分すぎる収穫じゃないか。なんで先に言ってくれなかったんだ?」


 疑うことなく占い師が本物であり、占えるものだと思い込む二人。詐欺や高い対価の話は割と常識的なことなのだが、世間に疎い二人ならば仕方ないと言えよう。


「無茶……というより、できそうにない要求をされてしまってね」

「……できそうにない?」


 物資でなく、行動を要求されたということか?

 まるで見当がつかない白衣少女と白髪少女に、浮遊少女ですら予想できなかった要求を言う。


「腕相撲に勝てと言われ、やった結果瞬殺された」

「な……一瞬で勝負がついたってことか?」

「うん……」


 項垂れる浮遊少女に、白髪少女は考える。

 彼女の様子を見るに、本当に瞬殺だったらしい。数ヵ月前に誰が一番強いかで三人とやったことはあるが、浮遊少女は強くも弱くもなかったはずだ。この中で最も強い自分でも圧倒した覚えはない。

 そんな占い師に勝つ、なんて……面倒というか、おかしな要求をされたものだ。一朝一夕で強くなるものでもないし、どうしたら……。

 ――しかし、顔を暗くする中で軽い声を上げる者が、一人。


「え、なんだよ。それだけでいいのか?」


 この中で最も腕相撲に弱い白衣少女だった。


「そ、それだけって……秘策でもあるのか?」

「あるよ。楽勝。認めてくれなかったらアウトだけどな」

「その言い方は……察するにズルをするってことでいいのかい?」

「まぁな。でもそうでもしないと勝てないし……やってみる価値はある」


 白衣少女にこうも断言され、一体この少女が何をやらかすつもりなのかまるでわからず二人は呆然とする。

 だが、何でもいい。勝てるかもしれないのであれば、やってみて損はない。


「じゃあ案内するよ。現実世界に、しかもそれなりに近いんだ。だいたい同じ場所に待機してると言っていたからまだいると思う」

「オーケー。けどその前に……うちに寄らせてくれ。準備するから」


 「ちょうど試す相手が欲しかったんだよなー」と不敵な笑みで零す白衣少女。

 ――とにもかくにも、まずは彼女の家に向かおうと、幻想たち三人は陸地を目指して飛んで行った。



 …………。

 ……。


「なぁ、いつまで隠れてるんだー?」

「……」


 返事が戻らずとも、それでも少女はめげずに声をかける。


「何か嫌なことがあったなら話を聞くだー。だから何か言ってほしいだー。君の声が、聴きたいだー」

「……」


 目尻を下げて、視線を泳がせる少女。やはり返事は、戻ってこない。

 だがそれでも、頭を必死に働かせて言葉を振り絞った。


「心配なんだー。力になりたいんだー。また一緒に遊びたいだー。だから……」

「……」


 なんで、なんで何も言ってくれないだー……?

 おいらならわかってくれると思っているのかだー? でもおいらには、何が何だか……。

 ……情けない、だ……。

 人ひとり、救えないなんて……。こんなんじゃ誰かをまとめることなんてできっこないだー……。

 とうとう少女は諦めたように、けれど決して諦めぬようにと、俯きながらも拳を握った。


「……手伝ってほしいことがあったら何でも言ってほしいだー。魚たちももちろん君の味方だー。……また、来るだー」


 砂の上を歩き、離れようとして……もう一度振り返って、今度こそずぶ濡れ少女はこの場を後にした。

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