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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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18話 見習い少女はリーダーについて考える

「……あー、私たちは書物を探しに図書館へ向かうんだよな?」

「そうだな。図書館は図書館でも、この街で最も知恵が蓄えられた図書館。そこで大岩に含まれていたエネルギーの正体や、足跡関連の書物を手分けして漁る。現実世界の岩を生成する能力ってのが事実なら、未知なる岩に対しての知識は私たちと同じくらいかもしれないからな。最後に見たのは数ヵ月前らしいし、もう別の場所に移ってるかもしれない。調べておいて損はないだろ」

「そうか……じゃあ、なんで海に向かってんの?」


 幻想世界に戻ってきた白衣少女と白髪少女は、再び海に向かっていた。今度はバイクに乗って、である。

 ごつい胴体とは裏腹に、天使のような白い羽(段ボール)が後ろについたバイク。アクセサリーとして付けた羽は可愛いというよりバイクと釣り合ってない感じで、彼女の前では言わないが少し微妙。だが、これでも初期の頃に開発しただけあって、まだそこまでユニークなデザインの発明品ではない。

 空を翔るバイクは、その名の通り空を翔ることができる。ちょうど今、空を翔けてる最中だ。白衣少女が愛用しているものであり、便利品でありながら大事にしている貴重な品である。

 いつか異空間を翔るバイクが完成したらそっちに切り替えるなどとほざいていたが、どうやらまだ完成していないらしい。良かった……異空間なんて恐ろしい響きの空間を飛び回るのは御免だ。その時は自分が空を翔るバイクに乗ればいいという話ではあるが、あいにく普通のバイクの操縦はできても空を翔る操縦はできない。

 ……なに、バイクの免許はどうしただと? そう焦ることはない。方や小学生方や中学生だが、ちゃんと二人とも取っている。幻想世界では外見年齢が変わらないため年齢制限がないのだ。

 バイクでは二人までしか乗れないので、現実世界の海に向かう時は使えなかった。

 ……そう、さっき海に向かったばかりだというのに、なぜ再び海に向かっているのだろう。うっかり道を間違えたわけでもあるまい。


「不思議がることでもないだろ。単に歩みし道を測りしものを実地したいんだよ。二人分の足跡を」

「……図書館より優先してか?」

「あんなのいつでもできる」


 ヘルメット越しで即答する白衣少女は、エンジン音を止めない。


「……あ、それに偽物かどうか判明したら、その分調べる範囲を絞れるだろ? だから先にやっておきたいんだ」


 こちらが何も言わずとも、まるで言い訳するみたいに遅れて根拠を持ってきた。


「別にいいよ。発明品に不備があるか早く確認したいんだろ。その気持ちはよくわかる」

「さんきゅー」


 そう言って更に加速させる白衣少女。その様子に、諦めたように白髪少女は苦笑した。

 ――結局誰も、事件の真相を追う気があまりないんだな。

 浮遊少女は自ら事件を探し、自分たちを容赦なく巻き込むが――それは感情の動きを見たいからであって。

 白衣少女は大っぴらに自らの欲求に忠実で、事件にも興味はあるが――それも自分の興味の方向だけで。

 リーダーになるための必要な要素として、浮遊少女が挙げたのは『わかりやすく好奇心に全力であること』と『真相を追う気概があること』だったが、きっと後者は意識があるだけでいいのだ。チームの目的が失わない程度にでもあれば。

 浮遊少女の目論見としては、きっと、ただ喋ってるだけでは何も起きない。それだと私たちの新しい一面を見ることは難しい。何かを起こすには行動するしかない。行動するには目的が欲しい……だから目的が不可欠なのだ。

 課せられたノルマが。

 目新しいミッションが。

 学がない……と言いつつ、自らの趣味のためによく考えている。砂漠までわざわざ赴いたのも、そのためだろう。

 白衣少女ならいざ知らず、私のどこにそんな価値があるのか甚だ疑問だが――とにかく本人は楽しそうだ。楽しそうに私たちを観ているし、関わっている。

 それでいい、それでいいのだと、白髪少女は無理やり思うことにした。

 実際不満があるわけではないのだ。自分だって楽しいし、何だかんだやめてほしいだなんて思わない。彼女らに振り回されるのが……心地よい。

 こうやって空を翔るのも。足跡や大岩なんて謎に出会えるのも。

 だから。

 これでいい……はずなんだ。

 欠けているものなんてない。変わらなくていい。

 ――それでも、どこか、心の隅で。

 『これでいいのか』なんて思ってしまうから、私はリーダーになれないのだろう。

 好奇心に全力になりきれず、真相を追う気概が半端どころか中途半端にしかないから。

 ……迷い。

 リーダーが迷えばチームも迷う。

 ……灰色。

 リーダーが灰色であれば、チームも白なのか黒なのか判断できない。

 だから私は推されなかったのだろう。趣味にしているだけあってよく見てるな、あいつ。ちょっと脱帽もんだよ。

 別にリーダーになりたいわけじゃない。でも、資格がないのとあるのとでは決定的な差があった――少なくとも、自分には決定的な差が。

 目の前でバイクを操縦する小さいリーダーが、えらく大きな壁に見える。もしも自分が操縦していたら、間違ってもこんな風に突っ走ることはできないだろう。

 この子供にあって、自分にはないもの――何がこうも、格付けられるのだろう。

 ……少し、羨ましいとさえ、思ってしまった。

 二人が――遠くにいるように、感じてしまう……。


「――着いた! 砂食いたくなかったら口閉じろ!」

「え……?」


 白衣少女からあまりに突拍子に言われ、すぐにはその言葉を呑みこめなかったが、ただならぬ嫌な予感から直ちに唇と瞼を瞑りに瞑り、身を固くした。

 激しい音が耳を震わせる。エンジン音と、タイヤの回転音、噴射音……そして、何かが爆散するような音。砂が散ってきたのか、頬に当たった。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い――ッ!!

 何!? 今何が起きてるの!? 大丈夫なのこれ!? 私の鼓膜は無事!?

 スリルに慣れてきたとはいえ、身の危険に慣れているわけではない。慣れたくない。浮遊少女と白衣少女であればヒャッハー! 言ってるところなのだろうが、白髪少女は前にいる憎き操縦者にしがみついた。

 ジェットコースターなら彼女も叫ぶ余裕くらいはあるが、今、ベルト、ない。

 恐怖に縛り付けられている中、何やら足元からザザザザァァァ……と擦るような大きい音がして――止まった。

 白衣少女がヘルメットを外し「ふぅ……」と開放感に包まれた息を吐く。


「着地成功。もういいぞ」

「殴っていいか?」


 無意識に、気付いたらそういう返しをしていた。


「え、やめて。痛いのは嫌いだから」

「よし、殴らせろ」


 今度は明確な意思を持って故意で返す。


「だからやめてってば。ちゃんとやる前に注意したろ?」

「注意する前にまず私の許可を得ろ! はぁ……」


 既にクタクタになりかけている白髪少女は、先ほどまでの恐怖心を吐き出すようにため息をついて、ヘルメットを外した。バイクを見てみると、倒れかけているのを白衣少女が支えている。

 砂浜に着いたのは本当のようで、背中から匂う潮風と波の音。前方の砂浜は何かが滑った跡のように荒れていた。


「ああ……ようやく理解したよ。スライドしたのか」

「夜で人はいないし、平べったいし、やってみたくなってさー」

「こういうのには巻き込まないでくれよ……すっげー怖かった……」

「ごめん、善処できない」

「素直なのは良いことだがそこはするって言ってくれ……」


 心なしか申し訳なさそうな仕草をする白衣少女に、もはや泣きそうな白髪少女。

 ……と、そこで二人が同時に後ろを振り向いたのは、


「こんな静かな夜になんて騒音だー。おかげで魚たちが怯えちまっただー」


 背後から、幼くてのんびりとした女の子の声が聴こえてきたからである。足は波に隠れている、ずぶりと濡れた見覚えのない女の子だった。

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