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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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17話 白衣少女は今後の方針を示す

「ちゃんとは聞いてなかったけど、二人ともこの足跡や大岩、中にいるという人間に心当たりはないんだよな? ちなみに私はない」


 浮遊少女からの報告を聞き終えた白衣少女は、改まってそんなことを訊いてきた。


「私もないかな……そっちは?」


 すぐにはそれらしい人物は思い浮かばず、白髪少女は浮遊少女に目配せした。

 白衣少女も白髪少女も、普段から山籠もりで他者との接点を持たず、噂にも事件にも浮遊少女以外から聞くことがないため、こういうことは彼女が最も詳しい。

 人差し指を口に当て、「うーんー」と膨大にいる知り合いの中からそれらしい人物を検索してみる。


「……足跡については何ともだが、岩を生み出す能力者は知ってるよ。けど現実世界に既に存在する岩だけだ。全く未知の物質を生み出すことはできない、と言っていた。関係ないんじゃないかな」

「他に能力は持っているか?」

「訊いてみたけどないって」

「現在、そいつは現実世界に干渉することは可能か?」

「数ヵ月前なら限定的な範囲の場所でできたみたいだけど、すぐには幻想化しないんじゃないかな。でもやっぱり違うと思うよ?」

「その場所って?」


 問われた浮遊少女は、「えっとねー」と南を指しながら平坦な声で答える。


「ここから一万キロ先の砂漠」

「……お、おう」

「……ま、まぁ、何事にも例外というものはある。テレポート能力を隠し持ってるとかな。候補には入れておこう」


 幻想世界の住民は現実世界に干渉することができない。これは絶対のルールである。

 ただし、幻想化していない場合はこの限りではなかった。そして更に――ある条件が満たされている場合、能力を使うことができる。テレポートなどの能力を用いて大岩をここに出現させたなど、考えられることは色々ある。

 それでも――浮遊少女が関係ないと否定した理由に得心がいき、二人は放心したように、打ちのめされたように双眸を閉じた。


「つ、つーかお前……うちの雪山まで来るに飽き足らずそんな所にまで行ってたのか」

「どこに事件が転がっているかわからないものだからね。できる限りの場所は潰しておきたいのだよ」

「で、何もなかったと」


 白衣少女のはっきりとした言葉に、浮遊少女は思い出したようにポリポリと頬をかく。


「あー……ないといえばなかったが……そういえば一人の少女が餓死しかけていたな」

「大事じゃねぇか! 忘れてんじゃねぇよ!」

「別にいいだろ空腹ぐらい。幻想化してようがしてまいが死なないし」

「そういう問題じゃなくてだな……」


 幻想世界の住民は常に健康状態であるため、そういう能力を持っているか、精神的なものでしかダメージを受けることがない。つまり空腹を感じるだけで食べていなくても不健康にならないのである。

 白髪少女の家では『健康であろうという気持ちを持つ』という信条の下、基本的に朝昼晩に食事を取るが、浮遊少女と白衣少女は娯楽でしか食べることはない。空腹は意外と慣れるだとかなんとか。全く趣味に没頭したいがためになんて精神と身体してるんだ。


「彼女としても杖に縋りながら大丈夫としわれた声で言っていたし、大丈夫なのだろう。水筒に入ってるお茶渡したし」

「そ、そうなのか……な、ならいいのかな。そいつも空腹気にしない質か」

「一杯のつもりが水筒ごと奪われて全部飲み干されたけどね」

「飢えてるよ! きっと心の中では助け求めてるって!」

「とにかくだ」


 とても平静とした態度の浮遊少女に、心配になって叫ぶ白髪少女とのやり取りの中。

 白衣少女は、ぴしゃりと言った。


「助けを求めてる求めてないに関わらず、私たちはその岩を生み出す能力者に話を聞きださなければいけない。ただ……そっちは後回しだな。何しろ距離が遠すぎる」

「お前が持ってるバイクは? あれ結構早かったろ?」

「スピードはかなりあるが、乗りこなすのが大変なんだよ。時速四〇キロがせいぜいだ。それで一万キロだろ? 休憩も加算すれば二週間くらいはかかる。お前徒歩でなんつー場所に行ってんだよ」

「そんなに言わることだろうか……」


 今度は白衣少女が突っ込む番だった。とはいえ、浮遊少女は大したことでもないように頭部に手を添える。


「そんなに言うことだ。お前の方が好奇心旺盛じゃないか」

「でも君だってたった一ヶ月で家を作っただろう。どっこいどっこいだ」

「んー……言われてみればどっこいどっこい……なのかな」

「騙されるな! どっちもおかしい!」


 珍しくまともなことを言う白衣少女を、白髪少女はこのまま正常な側へと引き留めようとするが……


「そうだな……そんなにおかしいことじゃないな!」


 眩しいほどの笑顔で裏切られ、その努力も空しく散った……。

 ……そうそうできるものではないか。


「それで司令官殿、私たちはこれからどうすればいい?」


 そんな白髪少女のことなど知ったことではないとばかりに、話を進める浮遊少女。


「その司令官っていうのやめてくれないか……ちょっと、恥ずいから」

「なんだ、お前にもそんな感情があったのか」


 がっくししていた白髪少女が、気付いたように反応した。その声には驚きの念が混じっているが、眼は見張っていない。


「自分でも結構驚いてる。こんな感情とっくの昔に丸ごとごっそりゴミ箱に捨てたつもりだったのだが」

「へぇー……君にとって羞恥心とはその程度でしかないのか。まぁ丸ごとごっそりとはいかずともそこそこ捨てた方が気が楽だよねー」

「そんなこと言うなよ。ほらどこのゴミ箱に捨てたんだ? 拾ってきてやるから教えろ」

「「燃やしちゃったから無理」」

「燃やすな。もっと大事にしろ」

「大事にしてたら何もできないよ。――それで、今後の方針だが」


 再度切り替えて、白衣少女はこれからの方針を示した。お前は切り替えが早いな。早すぎる。


「大岩は最後にする。現実世界に空を翔るバイクを持ってきて移動せずとも、幻想世界で手段を尽くして近くまで移動して、そこからワープゲートをくぐってその砂漠に行けばいい。しかしその方法だと、恐らく数日もかからないが時間はかかる。先にこっちで調べられることを調べてから大岩に取り掛かりたい」

「賛成」

「同じく賛成だが、そっちに一人人員を回しておくってのは?」

「なるべく割きたくないな。何しろ今回は調べることが多すぎる」

「じゃあ、足跡とこの中にいる子供についての聞き込みに専念するんだね」


 大岩の方を向きながら話す浮遊少女に、白衣少女は頷いた。


「お前はこの辺にいる幻想世界の連中に聞き込み。人脈広いし、書物漁るの苦手だろ?」

「苦手だね……文字にまみれるのは……」


 弱々しく言うが、お前本書いてるだろと白衣少女と白髪少女は呆れた視線になる。


「そんなわけで、書物漁りはこっちでやっとく。いいか?」

「私は構わねぇよ。聞き込みよりそっちの方が得意だし」

「よし」


 一言区切って、白衣少女はかけている眼鏡をキラリと光らせて宣言する。


「じゃ、一時二手に分かれ、朝日が昇り始めた頃にここで集合だ。いいな?」

「「了解」」


 ――その言葉をきっかけに、本格的な調査が開始された。

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