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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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15話 白衣少女は足跡を推測する

「こほん」


 わざとらしく、白衣少女は咳払いする。


「では改めて解説しよう――足跡の正体について」


 仕切り直して、その顔つきは先ほどよりも凛々しかった。本人は司令官として振舞ってるつもりかもしれないが……それほどいつもと変わらない。

 これまでずっとこれらを素でやっていたとしたら、やはり自分たちの司令官に相応しいのは白衣少女だろう――白髪少女と浮遊少女は、講義を受ける用の正座になりながら、そう思った。

 海の中、砂底の上で、である。浮遊少女は少し浮いていた。

 白衣少女は足跡に指さしながら、言う。


「先も述べた通り、この足跡は大きく分けて『本物』か『偽物』かの二通りだ」

「本物だった場合、ならばどうして足跡は認識されなかったんだい? そもそも認識されないとはどういうことなんだい? 教えてくれ先生」

「あ、今私先生なの?」

「お前の役職はなんだっていいから早く説明しろ」

「むー、他人事だと思って」


 これ以上引き延ばされたくない白髪少女は早々に流れを断ち切る。些か冷たい対応に、両手を腰に当て前屈みになり、頬を膨らませる白衣少女。おい貫禄どこいった。

 「……ま、いいや」と、白衣少女は別段嫌がることなく先生という役職を受け入れる。いいのかいとツッコみそうになったが、やめておいた。

 白衣少女は合成したカメラ、足跡測定器を前に出しながら、表情を切り替えて続ける。


「まず認識されないという話だが、これはそのまま“この足跡を足跡として認識しなかった”というだけだ。この歩みし道を測りしものを向けても何も表示されないし、情報を読み取るためのプログラムも発動しない」

「そりゃおかしな話だな……えっと、これで六十二号だっけ?」

「なるほどそんなことが……待って今名前考えてるから!」

「ああ。おかしいだろ? 念のため設定を見直して、動作確認として写真を撮ってからもう一度向けてみたが、反応なし。写真は問題なく撮れた」


 片腕をバッと振って「待って!」ポーズをする浮遊少女をスルーし、カメラの画面を見せつける白衣少女。


「その原因としてありえるのが、この足跡が“本当に足跡”か“足跡に見える何か”のどちらか……本当に足跡だった場合、ありえるのは機械の故障かバグのせいで反応しなかった……短時間ではあるが寝不足を解消したタイミングで細かく見たし、信じ難いけどな。試し撮りまではしてないからありえなくはない」

「あとは魔術か能力によって認識できないようになっている……とかか」

「ああ、自分の素性を隠すような能力であれば、確かに反応しないだろうね……ケイソクくん」

「あれ? 二文字続きじゃないんだ」

「ミルミルくんにしようかと思ったが、それは正体不明を見通す小さきものの名前だからね」

「それで足跡に見える何かの場合は?」


 名前の議論に関与する気がない白髪少女がそう問いかけると、白衣少女は困ったように顎を引いて腕を組む。


「崩れない足跡、なんておかしな現象が起きてるし、そっちの方が可能性があると私は踏んでいるのだが……もしそうなら候補が多すぎる。こんなんでも魚の巣かもしれないし、何かの目印かもしれないし……」

「本物の足跡だったら、一発で色々と分かったんだけどな……」

「ということは――まだまだ冒険は続くってことだね。いいじゃないか、容易に追及できても面白くない」

「お前はもうちょい真相を追おうとする姿勢を持とうな?」


 残念な報告に肩を落とす白髪少女は、浮遊少女の楽観的で事件を追う者としてはあるまじき発言に、間抜けな効果音と共に更に肩を落とす。

 ……と、考え込んでいた白衣少女が、不意に足跡へ視線を移す。ひとしきり見つめた後、口を開いた。


「……崩れるのを覚悟で、触ってみていいか? この足跡」


 注意深く二人に判断を仰ぐ白衣少女。言われた二人は揃って顔を合わせ、頷く。


「ああ、お前がその必要があるって言うことは、そうする必要があるんだろ?」

「私は念のため触らなかったよ。ぜひとも現実世界のものか、幻想世界のものか確認したい」


 それを聞いた白衣少女は、迷いなく手を動かす。

 ――荒ぶった性格をしているとは思えないほど繊細に、きめ細かに、指先を足跡の砂に触れた。

 だが……指はすり抜けて空振る。


「……これで幻想世界のものという線は消えたな。ますます怪しくなったわけだが……」

「砂は海に流されるものだしなー……まぁだからこそ幻想世界の奴らの仕業なのは間違いないんだろうが」

「ワクワクしてきたねー」

「……」


 のほほんとした表情で嘯く浮遊少女。事件持ちだしてきた奴が一番解決する気がないってのはどうなんだろう。

 持ち出してきた目的が目的なために、むしろそういう態度が当然かもしれないが。あまり自分では考えず専門家(白衣少女)に投げるのが彼女のやり方だし。

 その彼女といえば、しばらく思考に耽た後に切り上げるように嘆息をついて「考えていても仕方ない。歩みし道を測りしものが故障してないか他の足跡を撮ってみるなり、この辺にいる幻想世界の奴らに聞き込みしてみるなりしよう」と言って、黒い大岩を見上げた。それに倣って、浮遊少女と白髪少女も見上げる。


「こっちもこいつで調べたいところだが、上手く反応するかどうか……」


 白衣の内側から取り出すのは、リンゴ一つ分の大きさしかない機械。正体不明を見通す小さきもの、別名ミルミルくんである。白髪少女はそれを見て、電動ドリルを連想した。


「この大岩に関しても張りぼてかどうか、ってことか……」

「それもあるが、この機械のシステム上、上手く機能するか未知数なんだよ。現実世界のものに使うのは何気に初めてだから」

「あー、そういえば使ったことなかったね」

「あ? 未知数ってどういうことだよ」


 考えなしに納得する浮遊少女。白髪少女から苛立った声でもなく訊かれた白衣少女は、またポチポチと片手で操作しながら涼し気に答える。


「さっきのカメラは平面的に、画像として認識させて検索するから問題ないが、この子は対象を立体的に読み取ることで形状、大きさ、色からなんの物質が含まれているか検索してくれるんだ。読み取るのに可視できるだけじゃダメってこと。奥行まで読み取れずにエラーが出るかもしれない」

「はー、そういう仕組みだったのか。凄いな」

「??」


 感心したように白衣少女が握る機械を覗く白髪少女に比べ、チンプンカンプンな様子の浮遊少女。

 だが白衣少女はつまらなそうに口を尖らせる。


「別に。これくらいの発明は平凡だ。結構古いやつだしな……今だったらもっと簡易化して、面白い機能を搭載するのに」

「なら改造すりゃいいだろ?」

「こんなものに時間を割く余裕があれば、全てを食らいし花びらを改造していた方がまだ有意義だよ」

「こ、こんなものって……」

「白衣ちゃんらしいねー」


 何の物質が含まれてるかわかるってかなり凄いと思うのだが……不要な物ほど優遇するとはいえ、まさかここまで扱いの差があるとは……この子とかさり気なく言ってたのに。

 慣れた手つきで幾つものボタンを押すこと数十秒。


「あーしてこーしてはいポチっとな」


 謎の効果音を口にして、さらっと白衣少女は正体不明を見通す小さきものを起動した。

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