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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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12話 白衣少女は駄々をこねる

「一生のお願いだぁーッ! 美術館に潜ったり銀行の金庫調べたり改装工事や工場を見学したりスーパーの仕組みを露わにしたりスマホとパソコンを開いた瞬間を目撃しに行かせてくれぇーッ!」

「一生のお願い多いな。あとそれ前回も聞いた」


 ――現実世界に来てから約一時間後。

 迷子にならないよう引っ張っていた白衣少女の手が――いつしか首根っこに変わっていた。白髪少女が掴んだ先の背の低い少女は、引きずられながら両手両足をバタバタとばたつかせている。このまま離したら駄々をこねてこの場に居続けそうだ。そのときは何もせず離れたら付いてきそうだが――あまりそういう手は使いたくない。

 今現在、自分たちの身は幻想……不可視となっているため、周囲の眼は気にしなくていいのだが……それでもかなり気になった。視えないとわかっていても、人の眼があれば視られている感覚はする。全くこいつにはそういう感覚がないのだろうか……早くやめてほしい。

 白髪少女にも浮遊少女にも、こうなってしまった白衣少女を宥め、説得する技術など持ち合わせていなかった。さっさと海底に行って本来の目的と想いを思い出させてやるくらいがせいぜいだ。おおかたすぐに静まるだろう。

 大人になれよ。そんななりでも私たちより年上なんだから。


「すっかりあらぶってるねぇー白衣ちゃん。そしてそんな彼女をクールに止める見習いくんマジカッコいい」

「お、おう……ありがと……」


 前方でこちらを向きながら後ろ浮遊する少女に表情を変えることなく言われる。クールに見えるだろうか……? 考えてることは全然カッコよくないが。

 それでも褒められて嬉しかったは嬉しかったので素直に貰う。

 すると、掴んでいた白衣少女が冷徹なる者たちの心に呼びかけるように必死に叫んだ。


「貴様らは行きたいと思わないのか!? 現実世界の天才たちがどんな発明をしたのか……もう動き回りたくなるくらいに気にはならないのか!?」

「いやー……私は門外漢だから別に……」

「気にはなるけど、それより今は足跡だろ? そのために靴探してこっちの世界に来たんだし」

「この分からず屋共め! 地獄に落ちろ!」

「これくらいで地獄に落ちねーよ……」


 落ちるものか。

 こいつの一生のお願い(駄々)に付き合わなくて地獄に来たとか閻魔様もびっくりだよ。

 本当に地獄があるかは知らねぇが。

 白衣少女が口走る喚き声を聞き流す白髪少女。……と、思っていたら、浮遊少女のぽつりとした呟き。


「……地獄かぁ……行ってみたいなぁ……」

「……………………」


 絶句した。

 好奇心は身を滅ぼすって、こういうことを言うのだろうか。


「ちょっと! ちょっとだけ! あのカメラと正体不明を見通す小さきものの使い方教えてやるからお前らだけで行って来いよ!」

「お前の機械細かすぎて使いずらいんだよ。もし壊したら弁償のしようがないし、何か異常があっても対処できるのはお前だけだ。大岩も気になるんだろ?」

「でも、でも……!」

「というか、解決した後にでも白衣ちゃんが現実世界に来ればいいだけの話だろう。なんで誘った時にしか来ないんだい? 回数制限があるわけでもないし」

「幻想世界に居る時は発明したくなってそれどころじゃないんだよ!」

「話にならねぇな」


 「はぁ……」と嘆息を漏らす白髪少女。白衣少女が駄々をこねるのは毎度のことだが、そろそろ本当に治してほしい。靴を探し回った気疲れも相まって、普段はどうせ一時的なものと見過ごせるところを見過ごせなかった。

 彼女の嘆息が耳に入ってきた浮遊少女は、これは少しまずいと思考する。こういう時に子供を宥めるスキルがある者がいれば楽なのだが、未だに巡り会ったことがない。いや、スキルを持った者自体は知り合いにいるのだが、その誰もがあいにく冒険に心惹かれないのだ。

 自分は大して気にしない……というより、今の白衣少女の癇癪は本気なものでなく、偽物といえば偽物。一時興奮して欲求が高まっているに過ぎないので、さほど気にも留めず放っておける。泣いてるわけでもないし。

 ただ、見習い少女が疲れを見せ始めている――これはまずい。空気的にまずい。何よりせっかくの冒険で拝める彼女の反応が薄くなる。何とか自分の低いスキルで何とかならないものか……そう思い、ポケットに手を突っ込んでみる。

 ……ああ、そういえば、こんなものを持っていた。通用するかどうかは賭けだが。


「――白衣ちゃん白衣ちゃん、少し私の話を聞いておくれよ」

「え、なに? 私の欲求を抑えるほどの価値ある話?」

「さぁ、それはわからないが……」


 止まったり遅くなることなく一定のテンポで引きずられる白衣少女に浮遊少女が近寄り、ポケットから出したものは――


「……なにこれ、レトロ店長からでも貰ったの?」

「スマートフォンの一部だと」

「ホワイ!?」


 ――傷だらけの白い板だった。実物のスマートフォンほどの大きさはないので、欠けた部分だろう。

 数時間前、レトロ店長の語りを聞きながら的確に応答し、靴を撮っていた際に「なんだ話わかるじゃないか同志よ! 疑ってすまなかった。記念にこれをあげよう――最新ものの癖して錆びれていてな。珍しかったんで商品として並べず取っといておいたんだ」「だから同志じゃないってば」――そんなやり取りの末に貰ったのである。

 幻想世界にある物で現実世界と同じ物は少ないが、ないわけではない。誰かが創り出すことはある。

 受け取りながらも尻と白衣を地面に擦らせ引きずられる少女は、喚きを止めて白い板に夢中になった。どうやらこんなものでも良かったようだ。

 浮遊少女は表情をやや和らげて、再び先頭に戻る。


「……悪いな」

「この程度気にしない気にしない。そんな君たちも大好きだしね。それよりほら――海が見えてきたよ」


 ――そこは、半日前に見たときと変わらない港。

 人は少なく、船が何隻もあって、さざ波を立てる音が聴こえてくる――変わっていたのは、澄んでいた空と海が夜色に染められていること。変わらないのは――ありふれた光景であること。

 とても摩訶不思議な黒い大岩と足跡が眠っているとは思えない、静かで普通の港。

 ザザザァ……という音すら立てながら白衣少女を引きずる白髪少女は疑問を抱く。


「本当にあそこなのか? 騒ぎになってもいいと思うんだが……」

「あそこだよ。まだ気付いてないだけなんじゃないかい?」

「あの……もう引きずるのやめてもらってもいいですか……尻痛いっす……」

「ああ? 浮けばいいだけの話だろ? 今幻想状態になってんだから」

「あ、それもそっか」

「あーもう、白衣ちゃんは昂ったらすぐ視野が狭くなる……よしっ、『あ』から始まる五行達成っ」

「なんのことだ……」


 ――そんな談話を交わしながら、三人の少女は躊躇いなく海の中へと飛び込んだ。

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