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浮遊少女が語る幻想世界の住民たち  作者: 零眠れい
第一章 『足跡』「うみってなに……?」
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10話 白衣少女は休む

 とある一室のベッドに、うつ伏せの状態でゴロゴロと寝っ転がる少女がいた。

 身長は百三五と低く、度が入ってない眼鏡をかけ、薄紫色の毒々しい髪の周りを赤い液体のようなアクセサリーがくるくると巡回している。そして薄い素材の黒い衣服の上に、前開きのカラフルに薄く彩られた白衣を着こむ少女――白衣少女だった。

 電化製品の内部にあるプリント基板を取り出したか、自作したものか、うたた寝しそうな半眼でいじっている。ただ触っているだけなのか、実は改造している最中なのか、素人の眼では判断できない。

 その部屋は外と繋がる作業部屋とは違い、私室。必要最低限の工具箱はあるものの、大型機械はおろか、発明品は並んでいなかった。隙間の多いタンス、小難しい本が入りきれていない本棚、赤い縁や太く茶色い縁などの数種類の眼鏡が並ぶドレッサー、小学生用の机と椅子。ベッドの隣にあるキャビネットには目覚まし時計と工具箱が据えられている。

 壁紙は白で統一されており、床も一般的な木目……宇宙のような作業部屋とは大違いである。


「……あ」


 プリント基板を指先で触っていた少女が、静かな部屋に呟きを漏らした。“やっちまった”という含みのある表情と声色である。

 すると急激にやる気が低下したかのように、プリント基板を後ろに放り投げた。元よりそこまで大事に扱ってるものではなかったのか、ミスしたことによる後悔や苛立ちが芽生えた様子はない。

 「ぐへー」という声が聞こえてきそうなほど息を吸って吐き、横向きの体勢に移行する。そのまま居眠りしてしまいそうに眼を閉じて、丸くなった。


(……つかれた)


 一気に集中力を使い過ぎた。結局渡したのは最低限の機能しかない劣化品だし……。

 他にも面白そうな機能はいくつも思いついていたが(靴屋限定の地図アプリ、最も見栄えよく撮影できるモードなど)、全て没にしてひたすら完成させるよう制作したのが――およそ二時間前の出来事。

 意欲が高まりすぎて、自分の靴を撮影した後もしばらく発明に明け暮れていた。抽象的な概念である人類の進歩、総合的な人類の知識を、足跡として測定できないものかと。

 一時間が過ぎた辺りで体力が限界、鈍っていた身体の感覚が戻り、悲鳴を上げた。昂っていたテンションが落ち着いてきたのは三十分ほど前だ。

 人間の身体というものはなんて儚い。精神力で解決できる構造にならないものか。いやいっそ、そういうことができる発明品を作ってしまおうかな。そう考えるとこう、内側で冷えていた芯からうずうずしてくるものが……。

 ……と、すぐに頭を振って髪をバサバサと乱す白衣少女。これでは休む意味がない。

 二人からは休みを貰うよう既に許可は得ている。逆に「お疲れ、あとはじゃんじゃん休め」「それくらいの任務ならお安い御用さ。じっくり英気を養うがいい」と言われた。マジ機械の次に大好きだよお前ら。

 眠れるものならそれが一番なのだろうが、あいにく夕方の時間帯では眠りにつけなかった。今日起きたのは真昼間である。

 だからこうして、甘いココアをついでベッドの上で特にすることもなくゴロゴロとしていた。時々白髪少女から貰った漫画を読んだり、意味もなく基板を触ったりして、通常の状態には戻りつつある。この家に集合するのはプラス二時間後――一時間経ったらなるべく軽い発明品でも改造しよう。何もしないのは性に合わない。

 私室でなければ、彼女はリラックスできなかった。作業部屋に入れば嫌でもスイッチがついてしまう――それは意欲のせいだけでなく、何というべきか、防衛反応的にも。


(黒い大岩、か……)


 そんなことより、今回の冒険の要となる謎の物体について考えてみる。現実世界の物らしいが、十中八九幻想世界の奴らの仕業だろう。

 足跡よりもそちらの方が気になっていた。そんな大きい岩が海に沈んでるなんて聞いたこともない。何か役立ちそうなヒントが得られるかもしれないし、それを生み出した犯人と交渉して貰うこともできるかもしれない。

 そうだ、一時間後にはその大岩を鑑定できる発明品を改造するとしよう。持ち運び可能な『正体不明を見通す小さきもの』を。

 冒険はまだまだ始まったばかりだ――思う存分楽しむためにも、やはり睡眠は取るべきかもしれない。夕方であろうと疲れているのだから、頑張れば……休もうという意思をしっかりと持てば、眠れるはずだ。

 眼鏡を取って、若草色の布団の上で、少女は深呼吸を繰り返す。淡々と、深く深く。

 広げ飛び回っていた羽を休めるように羽を折り畳み、布団に身体を沈めていった。また、飛び回れるようにと。

 その思いに答えるようにして、それは彼女を夢の中へと誘う。

 ――どうか、悪夢だけは見ませんように……。

 そう祈りながら、少女はギュッと眼を閉じた。



「……はよー……」

「お、起きた起きた」

「よー、よく眠れたかー」


 私室から出た白衣少女を出迎えたのは、浮遊少女と白髪少女。どうやら自分が起きるまでの間、脚折れテーブルで談話していたらしい。今は何時だろう。確認せずに来てしまった。


「写真どうだったー……?」

「いっぱい撮れたとも」

「どれどれー……」


 寝起きの白衣少女はかなりゆるゆるのマイペースである。二人はもう普通のことだとばかりに、驚くことはしなかった。眼を擦り多少ふらつきながらも、テーブルへとトコトコ歩いて白髪少女のカメラを借り、閲覧モードにする。


「おー、良い感じじゃん。十分十分」

「良かった……」


 安堵するように胸を抑える白髪少女。街を降りても靴屋はなかったが、靴も売ってる服屋を探し回り撮りまくった。

 続けて、浮遊少女のカメラを見てみる。


「……んあ?」


 すると、白衣少女は寝ぼけたような声を上げた。


「おや、草鞋や下駄ではダメだったかな? 撮ったのは子供用のサイズに限定しているが」

「ダメってわけじゃないけど……ここってあのレトロ好きの人の店?」

「知ってるのか?」


 白髪少女にそう訊かれると、白衣少女は写真を眺めながら微妙な表情で答える。


「他では売ってないような部品があったりして、時々覗いてる。一応常連みたいなものではあるけど……あの人少し苦手」

(……ほう)


 それを聞いた浮遊少女は、興味深そうに眼を細めた。自分の推測通り――両者は似ているようで、違うらしい。今度彼女が店に寄るとき付いて行きたいな。


「ってか、なんで生身の足も映ってんの? どんな手段で探した?」

「どうって――道端の子供たちに誠意をもって頼んだんだよ。そしたら撮らせてもらえた」

「あー、なるほど。その手があったか……お前頭いいな」

「君に褒められと照れるじゃないかー。えへへー」

「いやなるほどじゃねぇだろ! 大いに問題だ!」


 口元に手を添え納得する白衣少女に白髪少女は異を唱えるが、「「何が?」」と二人から大真面目に返され、口を半開きにするしかない。

 そして頑なに思う。この中で最も良識を弁えているのは自分だ。


「ま、ともかくデータは揃ったみたいだな」


 そう言って二つのカメラを抱く白衣少女の眼は――もう半眼ではない。パッチリと目が覚めているようだった。


「じゃ、これら二つを合体させて、私の準備が終わり次第、行こうか――現実世界の海に」


 白衣少女の言葉に、白髪少女と浮遊少女は迷いなく嬉々として返す。


「うん!」

「おう!」

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