店長登場
「あ? なんだって……」
「だから、おばけを助けて!」
「……嬢ちゃん、本気で言ってるのか?」
「本気だよ! わたし、嘘つかないもん!」
柑吉は溜息をついた。この女の子は、あらかた幽霊がどうのとかいうアニメかマンガにハマっているのだろう。子供は純粋だから、自分の思い込みでできた世界を、本当の世界だと思っていることがある。
──お金を受け取った以上、てきとうに遊びに付き合ってやるべきだろうか。
「なになに、何の騒ぎ? おやおや、これは可愛いお客さんだねぇ」
柑吉がそう迷っていると、店の奥から一人の男が姿を表した。
「店長……」
男の名は福楼詩京──ふくろうしきょう──。ふくろう堂の店主たる男である。
茶色い髪の毛を七三分けにした、爽やかな雰囲気の男。人当たりの良さそうな笑顔が印象的だが、まるでふくろうのように目がぎょろりと大きいため、見つめられると少し怖くさえ感じる。
年齢がよく分からない男で、角度によっては十代にも三十代にも見える。どこか掴みどころのない、ひょうひょうとした男だった。
「店長さん! おねがいします、わたしの依頼を受けてください!」
「うちは法に触れなければどんな依頼も受け付けているけれど……。そこのお兄さんに断られたのかい?」
「そこのお兄さんは、わたしの言うこと本気にしてないの。嘘だと思ってるの」
「柑吉くん、子供の言うことだからって頭ごなしに信じないのは良くないよ? 年齢なんて関係ない、大事なお客さんなんだから」
「だ、だってよ……」
中部柑吉には子供の他にもう一つ苦手なものがあった。それがこの男、福楼詩京その人だ。
二十歳の頃、勤めていた工場をクビになり途方に暮れていた柑吉に、うちで働かないかと声をかけたのが詩京だった。
当時から厳つい見た目で、道行く人々すら避けて通るような男を、詩京はあろうことか接客業、しかも古書店などという柑吉のイメージには程遠い職場に誘ったのだ。
変な奴だ、柑吉はそう思った。それと同時に、このどこか掴みどころのない男のことを知りたいと思った。だから柑吉は詩京の話に乗ったのだ。
それからはや五年。詩京のことは何も分からないまま月日だけが過ぎた。詩京のことを知るどころか、むしろ詩京に懐柔されているような気すらする。この男には不思議と逆らえないのだ。拾われた恩があるからだと柑吉はずっと思ってきたが、最近どうもそれだけではないような気がしてきていた。
「言い訳しないの。それで、その依頼っていうのは?」
「あのね、おばけを助けてほしいの」
「ふむ、なるほどね」
さすがの店長も困るだろうと柑吉は踏んでいたのだが、店長はまるで動じる様子もなくそう言った。顎に手を当て、何やら考える仕草をしている。少女のごっこ遊びに付き合ってあげているのか、それとも本気で解決策を考えているのか。それすら、柑吉には分からなかった。
「僕たちはまず何をすればいいのかな。それは分かる?」
詩京が少女と目線を合わせて訊ねた。少女はこくりと頷く。
「一緒に来てほしいところがあるの。それで、おばけのお願いを一緒に聞いて」
「それくらいならお安い御用さ。ねえ、柑吉くん?」
「は? お、俺も行くのかよ」
「当然だろう? 店は今日はもう閉めよう。どうせ、柑吉が店番の日は客は来ないんだし」
「おまっ、分かってんなら……」
「それじゃあ、案内してくれるかい?」
「おい、無視すんな!」
詩京に突っかかる柑吉だが、詩京は動じない。これもいつものことだった。
「うん、着いてきて! お兄さんたち」
「了解。ほら行くよ、柑吉くん~」
柑吉は舌打ちしながらも、二人について黙って店の外に出た。




