ステンバーイ
そして、時は2028年3月6日16:30、つまり、今日まで巻き戻る。
大学の講義を早く切り上げるために教授に来週分の課題範囲までをこなしたレポートと、近江屋の人気菓子、ほろりととろける雪溶けチョコ税込み890円をわいろとして先生に進呈…ゲフンゲフン。いやお土産として進呈し、高速で講堂から出た。そのまま急いで駐輪場に向かう。周りの学生が一瞬こちらを見ているが、そんなことは気にもならない。はやる気持ちを抑えられない。顔がにやつくのを止められない。なぜなら、今日、ついに、「Liberte」と対面するからだ!
お気に入りのFUJIのロードバイクにまたがる。東京郊外にほど近いキャンパスから、我が家まで15分。緑が多く休日にはランナーやサイクラーが足繫く通う並木道を、全力で駆け降りる。いつもは安心安全を心掛けている俺だが、今日くらいは許してほしい。曲がり角以外を全力で漕ぐとすぐに汗をかいてしまう。肌寒い期間も終わり、徐々に春の陽気が顔をだしている。しかし!今日の俺の気持ちはそんな気分も吹き飛ばす!待ってろぉぉぉぉ!「Liberte」!!!
家に着くや否や速攻で宅配便の受け取り可能の連絡を行う。と同時に、部屋の片づけ。なんというか、本気で楽しいことをやろうと思ったとき、それを最高の気分でやりたくなってしまう性分なのだ。料理を作る際に、皿とか盛り付けまでこだわっちゃう感じかな。
そんなこんなで、待つこと30分。「ぴんぽーん」と我が家のベルが鳴る。そして配達のお兄さんから受け取ったものが、言わずもがな、「Liberte」である!!
おお、この新しいゲームを開けるときの緊張感!興奮と期待が最高のバランスで混じりあった関係の上にいつまでもいたいが、そうも言ってはいられない。というか、俺のメンタルが持たない。
「さぁ、御開帳と行きましょうね~」
段ボールを開くとそこには!!…一枚の紙と…段ボール。あぁ、二重構造なのね。わかります。俺は 紙に目を通す。こういう説明書とかの書類はすべて確認してからゲームを始めたいタイプなのだ。しかし、ネタバレは、ダメ絶対。最初の感動はやっぱり自分自身で得ていくべきだよな。
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拝啓
この度は、「Liberte」をご購入いただき誠にありがとうございました。
私は、本製品の開発リーダーを務めておりました、須藤と申します。本製品を手に取っていただいた皆様に僭越ながら、わたくしから、御礼の言葉を申し伝えたいと、一筆取らせていただいた次第でございます。
さて、こちらの「Liberte」を通じて皆様にご提供できるものは、率直に申し上げて「世界」でございます。「Liberte」の中では、実際に私たちが暮らす世界と同じように、日光が降り注ぎ、風が吹き、生命が芽吹く「世界」が創造されております。この世界に一本の共通したストーリーはなく、皆様一人ひとりが主人公となり、世界を駆け巡ることで、その結果如何によって変化するよう作られております。つまり世界とどのように変えてゆくかどうかは皆様次第ということです。もちろん、「世界」が面白くするように社員一同邁進してまいりますが、もし可能でしたら、皆様にもそのお力添えを賜れば幸いです。願わくば、この「世界」があなたにとって、かけがえのないものになりますことを。
最後に、ささやかながら「Liberte」の初回販売をご購入いただいた皆様にプレゼントをご用意させていただきました。なお、こちらのコードは最初にフィールドに降り立ってしまうと入力権利を失ってしまいますので、ご留意ください。それでは、あちらの「世界」で皆様にお会いできることを楽しみにしております。
敬具
須藤 豊
うわー、絶対こいつ性格悪いわー。こんなん、ゲーム届いたら、さっそく開けてプレイしてみたくなるじゃんね。その心理を逆手にとって、ここにこのコードを忍ばせておくあたり、にじみ出てるな。こう、「してやったりぃぃ!」って言う感じの何かが。
しかぁし!俺にとっちゃぁ僥倖。これを読んだことでさらに「Liberte」への熱も高まったし、コードも入力できるし、一石二鳥よ!
俺は紙を机に置いて、段ボールを解体していく。
んー、なんだこれ?強いて言うなら、P〇4と、ヘッドセットとドライヤーっぽいの?ふむふむ。説明書を読むにP〇4っぽいのがゲーム本体で、ヘッドセットが、自分がゲーム内に入るために必要な機器。ドライヤーっぽいのが、自分の体形をスキャンしてゲーム内に取り込むための機械らしい。
まぁ、さっそくやってみるとしますかね。俺は、ドライヤーっぽいものを体に当てて、自身の情報を機械に読み込ませていく。こうすることで本人の生態情報を機械に記憶させて、他人にこのゲームを使われることがなくなるようだ。価格もばかにならないし、オークションも禁止するよう、販売会社から出ていたもんなぁ。購入の際に身分証明書も併せて、送るよう書いてあったけど、そういうのが、後々聞いてくるのかもしれない。
さて、いよいよだ。ヘッドセットをかぶって、ベッドへGO!ウィーンという駆動音とともに俺の意識も徐々に遠くなっていく。いざ行かん「Liberte」!